魔法は妄想力、そして夢
正午、召喚者全員が玉座の間に集められた。各々自らの決断を国王と、傍らにいる真琴に伝えていく。
47名中12名は戦う事を選ばなかった。勇気や自信の無い者もいたが、単純に適正が生産職の者も当然いた。召喚者47名が全員戦闘職など都合の良い話だろう。
実の所、ここでも美空が派手にやらかしていたのだが、物語の主役が美空になってしまいそうなので、割愛し別の機会に語ることにする。
残る12名に対し、真琴が言葉を贈る。
「先も言ったが、誰もお前達を責めたり、笑ったりしない。自分の出来ることを理解し、時には引くことも勇気なのだと私は思っている。」
残る12名は目に涙を滲ませながら聞き入っている。
「だからお前達はしっかりとこの国に貢献するように、それがお前達の戦いだ。私の生徒に不埒者は居ないと思うが、国の保護があるからといって、寄生するような事はするなよ?もし、この国の都合で勝手に召喚されたんだから、養われて当然だなどと、国税を食い潰す者が居るならば、私が性根から叩き直すのでそのつもりでいるように。」
戦闘職でありながら居残りを選んだ内の三人が、目を泳がせ、脂汗を滲ませた。きっとこの国の国税は大丈夫だろう。
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午後、魔法についての講習が行われた。既に魔法を使いこなしている美空は、現在料理改革中だ。宣言通り、夜には美味しいものが食べられるだろう。
和人達は魔法の使い方の簡単すぎる内容に唖然とした。
一言でいえば想像力。
確かに詠唱や魔法名はあるが、それはイメージを強固にするための物であり、自分の中に確固たるイメージがあれば、その形で発動できるのだ。
「これって思ったより私達向きかもねー。」
そう言いながら、遥は手裏剣を飛ばす様な動きをすると、易々と風の刃を作り出し、的として立てられた丸太を切り裂いた。
「うん、思ってたのと違うけどこれならいけるね。」
そう言いながら、和人は指笛と共に火球を作り出し、丸太を燃やす。
そう、オタクの生活の少なくとも三割は妄想なのだ。想像力、もとい妄想力は誰よりもある。しかし、日々を部活に打ち込んでいたスポーツマンはそうはいかない。
「お前ら何でそんな簡単にできんだよ…」
慎太郎は上手く魔法を発動させる事が出来ないでいた。なので和人は簡単なアドバイスをする。
「ほら、僕らはゲームやアニメなんかで魔法を見てるでしょ?それをそのまま出せば良いんだよ。僕達は特撮を真似てるけどね。」
慎太郎は、解るような解らないようなといった顔をする。そこに遥が付け足す。
「要は出来るって思い込めば勝ちってこと。」
「そうは言ってもなー…」
慎太郎が頭を掻きながらいった。そこで和人に名案が浮かんだ。
「出来るって思い込むんじゃなくて、やってみたいって強烈に思い込むのはどうかな?」
慎太郎が何言ってんだ?という顔をする。
「魔法がイメージなら、僕らがゲームやアニメで見た技なんかも、魔法として発動できるかもしれないってことだよ?例えば【波】とか…」
それを聞いた慎太郎の表情が驚きと喜びに染まる。
「マジで!?俺【波】撃てるかも知れねーってコト!?」
何【波】かは敢えて言わない、皆が知ってるあの【波】だ。誰もが一度は憧れるあの【波】が撃てるかもしれない!慎太郎の心の中に居る男の子に火が着いた!それを感じた和人は更に煽る。
「それに見た目も大事だよ!光魔法が使えるのは慎太郎だけだから、完全な【波】を撃てるのは慎太郎だけだよ!僕らの中で日本中、ううん、世界中の男の子の夢をその手で実現出来るのは慎太郎だけなんだよ!」
「うおぉぉぉッ!めっちゃやる気出てきた!やってやるぜェェェッ!!!」
そう言って慎太郎は腰を落とし身構えた。
ただならぬ雰囲気に辺りがシンと静まり、慎太郎に注目する。
イメージは出来てる筈だ、誰もが子供の頃に、一度はやってる筈だから。
腰に構えた慎太郎の両手の平に光が収束されてゆく、充填完了とばかりに慎太郎は目を見開くと、気合いと共にその両手の平を突き出した!
「【波】ァァァァァァァッ!!!」
慎太郎の手から極太の光の帯が放たれる!数秒の後、光の帯が消えた後には、抉れた地面と蒸発した練兵場の壁が残った。
慎太郎は感動に震えるその両手の平をしばし見つめると、固く握りしめ天高くガッツポーズをした。
「うおぉぉぉッ!【波】が撃てたあぁぁぁぁッ!!!!」
クラスメイトからの大歓声が慎太郎を包み込む。
「マジか!【波】だ!」
「すげぇ!勇者すげぇ!」
「チキショー!羨ましいな!」
拍手喝采が冷め遣らぬ中、和人と慎太郎はハイタッチする。
「やったね慎太郎!誰がどう見ても立派な【波】だったよ!」
「サンキュー、和人!この感じなんだな!これならいけるぜ!」
その後、他の者達も、和人発案による『出来ると思うより、やりたいことをやってみよう大作戦』で、全員が魔法を使える様になった。
しかし、その内容は幼い頃からの憧れが基になっているため、いささか厨二染みた仕上がりの物が多く、調子に乗ってはしゃぎすぎた一同は、ほぼ全員が魔力切れでぶっ倒れたのだった。
そんな中、自分のペースを保って練習していた遥は気付いてしまう。
練兵場の隅の柱の陰に隠れながら。友達の持ってる新しいオモチャを見る子供の様な顔で、羨ましそうに慎太郎を見詰める真琴の姿に。
「先生も【波】撃ちたかったんだ…」
遥は、今までに誰も見たことの無いであろう可愛すぎる真琴の顔を、心の引き出しにそっとしまい込んだ。
オタクの生活の三割は妄想と書きましたが、決してオタクに偏見がある訳ではありません。今読んで頂いた駄文が、オタクの妄想の産物なのですから。