港町サーク 学校の怪談・後
「ここが件の女子トイレですね♪」
「一番それっぽいとこ選んだからね、楽しみだわ~♪」
怪現象の現場を前に喜色満面の美空と理亜。
怖がる様子など一つも無くこれからの検証を楽しむ気満々である。
「じゃ、いこか♪」
理亜はウキウキ気分でトイレのドアノブに手をかけた。
ギィィィィィィィ……
まるで警告するかの様に扉は重く軋んだ音を上げる………
のだが妙齢女子二人は臆すること無くずけずけと3番目の扉の前まで普通に歩いた。
「先ずは開けます?」
「と~ぜん♪」
美空と理亜は先ずノックせずに扉を開けてみた。
「うんうん、普通のトイレです。」
「むしろ和式なのが気になるわね…… 」
条件を満たして無いことで何も起こらないトイレに美空は満足するが、理亜はこの世界で初めて見た和式便器に興味を引かれた。
感性は人それぞれだ。
「それでは理亜、やってみましょうか?」
「やらいでか♪」
ぱたりと扉を閉めた美空は、とん、とん、とん、と3回扉叩いた。
キィィィィィィ………
不気味な音と共に一人でに扉が開くと、そこには尻を丸出しにして座り込む尊徳がいた。
そして尊徳は肩越しに振り返り、真っ直ぐ美空に向かって手を差し出した。
「紙……紙ヲクダサイ……」
「あ、はい。」
美空はその突き出された手に数枚の紙を乗せた。
「アリガトウ……」
キィィィィィィ………パタン……
………………………………………
「え!?終わりですか!?」
「あーあれよ。紙を渡せないと引きずり込まれるみたいなヤツよ。」
「あーきっとそうですね。それではテイク2いきましょう。」
とん、とん、とん、再び美空は扉を叩く。
キィィィィィィ………
そしてまったく同じ体制の丸出し尊徳が現れる。
「紙……紙ヲクダサイ……」
「すみません、もう無いです。」
「紙ィ…紙ィィィ…紙クレヨオォォォォォッ!」
猛然と尊徳が美空に襲いかかり、その細い首筋に両手を伸ばした!
「ほいっと。」
美空がその両手に軽く手を添えると一瞬で砂塵と化した。
「エ………?」
無に帰した己の両手を見て尊徳は呆然とした。石像と錬金術師、尊徳にとって相性は最悪に決まっている。
「キャアアァァァァァァァァァァァッ!?」
大きな叫び声を上げると尊徳は美空と理亜を押し退けて逃げ出した。
「あんたが逃げんのかよっ!?」
「待って下さい!とりあえず何か穿いて下さい!!」
美空は一応トイレの水を流すと、理亜と共に尊徳を追いかけた。
──────────
和人と遥は理科室の扉を前に尻込みを続けていた。
「ほら遥、いい加減行くよ?」
「うう……でもぉ……」
がっちりと和人の腕にしがみつく遥。
「僕がついてるから大丈夫だよ。」何て事は和人は言わない。古い付き合いの中で和人も遥と同じくらいオバケが苦手なのは遥も知っているからである。
しかし和人は凪晴の言葉を思い出し、腕に当たる遥のおっぱいの感触に集中することで恐怖を紛らわしていた。
―おっぱいって凄い……本当に心が平和になる……―
そう思いながら和人は静かに扉を開けた。
…フフ……フフフ…………
真っ暗で何も見えない室内に静かな笑い声が微かに響く。
和人は小さな火球を作り出し室内を照らした。
少し勇気がいったが和人は意識をおっぱいに集中する事で乗り切った!
ゆらゆらと揺らめく光に照らし出された白い骨格標本とその傍らに佇む背を向けた尊徳。控えめに言っても普通に怖い。
「フフフ…フフフフ……」
「ひッ……!」
尊徳の笑い声に遥が思わず漏らした小さな悲鳴に気付くかのように、尊徳はゆっくりと仰け反り逆さまにその能面の様な笑顔を向けた。
和人は怖いけどおっぱいに集中している!
そして尊徳はそのまま手を突きブリッジの体制で和人達に向かってゆっくりと歩き始めた。
「フフ…フフフ…アハ…アハハハハハ!!」
突如狂った様に笑い始め尊徳は歩く速度を上げた!!
「いやああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
遥は我慢できなくなりしがみついていた和人の手を引いて逃げ出した!!
そしておっぱいの加護が失われた事で和人の心も恐怖に支配される!
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
理科室を飛び出し脱兎の如く駆ける二人を猛然と追いかけて来るディレクターズカット版尊徳!!
音楽室の前に差し掛かった時、突然部屋の中から頼雅が飛び出してきた!!
「ウゼえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
いきなりの出来事にパニック中の二人は再び叫び声をあげた!
「うわっ!?脅かすなよおま……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
一瞬和人達に驚いた頼雅だが、迫り来るディレクターズカット版尊徳にさすがに驚き和人達と共に逃げ出した!
そして音楽室からスキップしながら歌う尊徳が現れ、ディレクターズカット版尊徳と共に和人達を追いかけ始めた。
三人は尊徳から逃れるために階段を駆け上がる!そして踊り場に広がる光景。
エイミの放った聖なる光の中で、サタデーナイトがフィーバーな感じに天高く指を掲げやりきった表情で汗を流すゆかりと尊徳!
「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
三人は訳が解らず悲鳴をあげて駆け抜ける!
「え!?ちょっとまっ……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「え!?どうしたんデス……ギャアアアァァァァァァァッ!?」
階段をスキップで駆け上がって来る尊徳とディレクターズカット版尊徳を目の当たりにしてゆかりとエイミも逃げ出した!
そして踊り場の尊徳もM・Jばりのムーンウォークで追走してくる!
「待ちなさいっての!!」
「そうです!せめて何か穿いて下さい!!」
後ろから聞こえてきた美空と理亜の声に五人が振り向くと、いつの間にか両腕の無い下半身丸出しの尊徳が尊徳ズに加わっていた!
その丸出しの下半身からぶら下がった尊徳Jr.は、石像の筈なのにその走りに合わせて縦横無尽に生々しい動きで暴れまわる!!
「「「ギャアアアァァァァァァァッ!?!?!?」」」
女子達三人が今までとは毛色の違う悲鳴を上げた!!
一段と速度を上げた一同は校舎を飛び出し校庭に向かうと、何故か軽装になって走っていた慎太郎に並んだ!
「何だ!?みんなどうし……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
背後を見た慎太郎も悲鳴を上げた!
美しいフォームで走る尊徳!
ムーンウォークで追いかけてくる尊徳!
歌いながらスキップで迫って来る尊徳!
下半身丸出しの暴れん棒・尊徳!
そしてディレクターズカット版嗤う尊徳!
背後から迫り来る五体の二宮尊徳像!!
石像戦隊:ソントクファイブ
この非常時にも関わらず、和人は爆炎を背に華麗なポーズで立ち並ぶ五体の尊徳を想像して少し笑ってしまった。
ふと和人が隣を見ると、同じ様な表情で泣きながらニヤついている遥と目がばっちり合った。
どうやら和人と全く同じ事を考えていたらしい。
五人集まれば戦隊を組んでしまうのは特オタの抗いようの無い習性なのである。
『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
土煙と叫び声を上げながらソントクファイブから逃げ続ける和人達の行く先で、美空と理亜が準備運動をしていた。
和人達が校庭を回り始めたのを見て、追いかけるより待っていた方が楽だと判断したためである。
「いや~~はっはっは、残念だったわね頼雅。尊徳一人じゃなかったわ~~超ウケるマジワロス大草原www」
合流した理亜は開口一番、頼雅を茶化す様に笑った。
「やかましい!!なんで楽しそうなんだよ!?草生やしてねぇでとっととあの尊徳ズどうすんのか考えろ!!」
イラついて怒鳴り返す頼雅の手に握られた物に美空は気が付いた。
「頼雅君、それ何ですか?」
「ああ!?音楽室でピアノ弾いてたのはこれなんだよ!!」
全力疾走中のため言葉の荒い頼雅はそう言って木製の手首を美空に放り投げた。
美空はそれをキャッチすると、いまだにうねうねと動くそれを確かめている。
「エイミ、聖光は使ってみましたか?」
「はい!デモ効果はありまセンでシタ!!」
その言葉を聞いた美空と理亜の顔が明らかに不満そうな表情へと変わってゆく。
「決まりですね……」
「あ~~、つまんねえの……美空、さっさと終わらせるわよ……」
「合点承知です。」
美空は一人立ち止まると、向かってきたソントクファイブをすれ違い様に一瞬で砂塵に返した。
肩で息をしながら呆然とする和人達に理亜は簡潔に解答する。
「ゴーレムよ。何処かに術者がいる筈だわ。探すわよ。」
理亜は学校の見取図を取り出すと、それを見ながら思案を巡らせた。
「まず自分はこそこそ隠れてゴーレム使っていたずらしてるから小心者よね……そんでこんなことするのは悪い噂流して土地安くしようって魂胆でしょう……小物ね、そんなヤツは分不相応な権力に憧れてる筈よ……校長室に行きましょう。走るわよ、ゴーレム壊したのに気付いたら逃げ出すかもしれないわ。」
まるで偏見と変わりの無い推理を並べ立て、理亜は美空を伴い走り出した。
いまだに呼吸が調わない和人達だったが、仕方なくその背中を追いかけた。
そして向かった校長室の前で、丁度こそこそと部屋から出てきた、いかにも魔術師の格好をした貧相な顔の男を発見する。
その姿を見た途端に和人達の中にえも云われぬ怒りが込み上げ、気付けば全員全力で駆け出していた。
「ひッ!?何だきさ……」
「「うおらぁッ!!」」
男の顔面にオカダカズチカのような美しく打点の高いゆかりと頼雅のツープラトンドロップキックが襲いかかる!
「ぴぎゃあっ!?」
顔面に激しい衝撃を受け、男の体がエビ反りに折れ曲がる。
「お父様のしか見たコト無いのに何てモノ見せるんデスかッ!!!」
その突き出された男の腹にエイミの聖拳が突き刺さる!
「ぐぇぽっ!?」
正しくくの字に折れ曲がった男の突き出た顎に向かって和人の音○棒が思い切り振り抜かれる!
「本気で怖かったんだぞ!夢に見たらどうするんだよ!!」
「ふげぇっ!?」
男はカンフー映画の様にその場で錐揉み回転して床に倒れる!
「何であんな汚いモノ 無駄に作り込んでんのよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
ゴブリンに犯されかけた経験のある遥の怒りはこの場にいる誰よりも深い。
既に気を失っている男の脳天に音○弦の背中を思い切り叩き付けた!!
「人形使いガイラス、小型ゴーレムを使って女子更衣室を荒らして帝立魔法学院をクビになり、その後数多くの性犯罪を繰り返している賞金金貨一枚の変態賞金首です。人形使いってゴーレム使いの事らしいんですけど、犯罪歴を聞く限りだと変態趣味にしか聞こえませんね。」
「………殺すなよー………」
慎太郎は尊徳と競走していただけなので特に怒りは無かった。
美空の説明を聞きながらただタコ殴りにされるガイラス眺めている。
「ところで慎太郎、あんた鎧どうしたの?」
慎太郎は理亜に言われて校庭に鎧を脱いできた事を思い出した。
「悪い、取って来るからあいつらが殺さないように見ててくれ。」
「あいよー。」
校庭に向かう慎太郎の背中に理亜はひらひらと手を振った。
───────────
「ああ、良かった。ちゃんと残ってた。」
このご時世少し目を離した隙に物が盗まれる事はざらである。真っ暗だから大丈夫だろうとたかを括っていた慎太郎だがやはり目で確認すると安心できた。
その場で鎧をつけ始めた慎太郎の視界の端に何かが過った。
何気無しにそちらを向いた慎太郎の表情が一瞬で凍りつく。
―俺が尊徳と走っている時あそこには何も無かった筈だ……それにこの事件の犯人らしいザイラスは捕まえたのにあれは何なんだ!?―
慎太郎の視線のその先にあったモノ───
校庭の片隅にはまるで慎太郎を見詰めるかの様に佇む二宮尊徳像……
──────────
ようやく怒りがそこそこ治まり、辛うじて生きているザイラスを縛り上げている和人達の耳に誰かの悲鳴が聞こえた気がした………
絶対と言っても過言ではありません。
特オタは同じようなのが五人、または五つ集まれば戦隊を組みます。
まちカ○まぞくの映画館のシーンで貼ってあったポスター、お米戦隊炊飯ジャー、すげぇ気になる!!