港街サーク 学校の怪談・前
CGは便利だし安全でしょうけど、火薬でしか出ない味ってあると思うんですよね……
「ふふふ……鬼でも蛇でも悪魔でもいいから出て欲しいわ~。」
上機嫌で依頼【廃校の怪現象の調査】を受け、受付嬢に紹介状を書いて貰っている理亜。
その後ろに並ぶ和人、遥、慎太郎、美空のいつもの顔ぶれに面白そうだと付いてきた頼雅。
そして酒場スペースのテーブルに座り和人と慎太郎を眺めるエイミとゆかり。
これが今回のメンバーなのだが……
「お願いだから二人とも、そういう目で僕と慎太郎を見ないで……」
ねっとりと絡みつく様な視線を感じ、和人は胃を押さえながら懇願するが二人は何食わぬ顔だ。
「いいじゃない、妄想はオタクの嗜みよ?それに私はせつな系だから妄想もキスまでだし安心して?」
「そう言う問題じゃねえよ……」
笑顔のゆかりに慎太郎は心底嫌そうな表情を返す。
「私ハばっちりズッポリ絡みアリデスけどね。和人君のヤオイ穴ハいつでもヌチョヌチョデス。」
「そんな穴無いよ……」
「え……?ナラバ慎太郎君は何処にプラグインするんデスか?ハッ!?もしやアナ……」
「そもそもしねえよ!真顔で言うな!!」
オープンになってからというもの、エイミの変態性が自重することを知らず、それに対して慎太郎がキレ気味になる事が多い。
「やっぱりお前らも鉛筆と消しゴムでもごはん三杯いけるとか言うのか?」
何気無しに言った頼雅の言葉に二人はテーブルを叩いて立ち上がる。
「バカにしないで!!」
「私達は変態であっテモ変人デハありまセン!!」
「変態は認めんだな……」
声を荒げる二人に頼雅は呆れた目を向ける。
「いい?そんな事言ってるヤツはBLをバカにしてるか本物の変人よ!?ただの物に萌えるわけ無いじゃない!!」
「私達ニモ矜持があり絶対条件がありマス。イケメン男子である事は絶対なんデス!!」
「そんなの妄想力でどうとでもなるんじゃないの?」
そうこぼした和人をゆかりはギッと睨み付ける。
「毎日自分だけが食べるもの料理してたら同じような物になるでしょ?妄想で擬人化しても似た感じになっちゃうのよ。」
「二人にも解りやすく喩えマス。レッドのいない戦隊ヲ認められマスか?」
和人と遥の瞳からすっと光が消える。
「ははは……なに言ってるのエイミ……」
「そんな事あり得るわけ無いじゃない……」
「解ったかしら頼雅、絶対条件ってこういう事なの。」
「すまない……俺が悪かった……」
頼雅は素直に謝った。
「バカなことやってないでさっさと行くわよ~。」
そう言いながら理亜は紹介状をヒラヒラさせながら和人達の隣を通りすぎて行った。
友人とは言え所詮他人事である。
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「依頼を受けて戴いてありがとうございます。土地を管理しているハイネと申します。」
年の頃三十代前半だろうか、テンパ気味の癖の強いカールのかかった赤毛の美人である。
しかし全体から滲み出るくだびれた感が、異世界だというのに和人達にどこと無い昭和感を感じさせた。
「代表のリアです、ひとまず詳細を聞かせて貰えますか?」
今回、理亜の受けた依頼をみんなが手伝う形なので代表は理亜である。しかし異世界人とか勇者とかの説明が面倒な理亜は、この世界にもいそうなその名前だけをさらに外人ぽく発音した。
「はい、その学校は私の曾祖父がこのような辺境でも子供達には教育が必要だと、私財をなげうって創立したのです。」
「立派な方だったのですね。」
訥々と語り始めたハイネに対し、理亜は当たり障りの無い相槌を打つ。
「しかし私に経営能力が足りなかった事と出生率の低下、更には魔王の顕現や海賊、魔物の影響で子供達は減り、学費を戴くことも儘ならなくなり閉校することとなったのです……」
ハイネは悲しげに俯いた。曾祖父に申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
「そして校舎を解体をするにあたり頼んだ業者さん達が、次々と怪現象に遭遇したのです。」
話が本題に向かう。理亜は一見大人しく話を聞いているが、その目には喜色が見て取れる。
「何処にでもある学校の七不思議……歴史の浅い我が校にもあったのですが、それが現実として起き始めたんです……」
ハイネは俯いたまま目だけを理亜達に向けた。
癖の強い前髪の間から覗く左目が普通に怖い。
「まずは魔の13階段……校舎西の二階に上がる階段を何気なく数えながら上がると、12しか無い筈の階段が13あり、その13段目を踏むと階段から転げ落ちる……」
「随分とド定番ですね……」
ハイネの語る雰囲気に対し出てきた言葉に、理亜は少し拍子抜けする。
「次に、深夜の校庭を徘徊する二宮尊徳像……」
「この世界にもいらっしゃるんですね、尊徳さん……」
「昔、異世界からきた方に話を聞いた曾祖父が感銘を受けて作ったそうです……」
ド定番な上にこの世界で聞くとは思わなかったその名に美空が微妙な表情を浮かべる。
「次に、深夜一人でに鳴り出す音楽室のピアノ……」
「ありきたりデスね……」
「そのピアノ伴奏に合わせて歌う二宮尊徳像……」
「何故二尊徳デスか!?」
気を抜いた相槌を打ったエイミだか、再び出てきたその名前に意表を突かれ驚いた。
「そして女子トイレの手前から3番目の扉を3回ノックすると現れ、トイレの中に引きずり込むと言われている……」
―花子さんか……またド定番ね……―
―花子さん……?―
―花子さんもいるんだ……―
―花子さんですよね……―
―花子さんだよな?―
―花子さんかー……―
―花子さんデスね?―
―花子さんねぇ……―
「二宮尊徳像……」
「ちょっと!?尊徳多すぎない!?」
みんな思ったがゆかりが早かった。
「更に理科室の骨格標本……」
「やっと違うのが……」
「……に静かに微笑みかけ続ける二宮尊徳像……」
「結局尊徳かよ!?てかちょっと怖えよ!?」
安心しかけた慎太郎がそのサイコな尊徳に違う意味で恐怖を覚える。
「最後に階段の踊り場で踊る二宮尊徳像……この7つです。」
「「ほぼ尊徳ぅぅぅぅぅっ!?」」
あまりにも高すぎる尊徳率に和人と遥が頭を抱えて悶えた。無理もない、13階段以外は皆尊徳である。
「ちなみに最後の二宮尊徳像が踊っているのは13階段の踊り場です。」
「結局全部尊徳じゃねえかぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
全ての場所が尊徳絡みな事に頼雅が遂にキレた。
「七不思議じゃねえよ!五大不思議尊徳じゃねえか!!多分その尊徳全部同じ尊徳だろ!?もうぶっ壊しちまえよ!!」
捲し立てる様に言い放つ頼雅にハイネは前髪の間から左目だけを向けた。
「はい……そう思って今まで何度も壊したのですが……次の日には必ずまた同じ様に校庭の片隅に佇んでいるのです……」
和人達の目が点になり暫しの間沈黙が場を支配する……
『それが一番怖いよ!!!』
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街の明かりも消え始めてきた頃、一同は件の廃校の前に立っていた。どこの世界でも明かりの無い学校は不気味である。
校舎東側に校門と乗降口があり、南側にある真っ暗な校庭の様子は伺い知ることは出来ない。
今のところ尊徳一人説が有力だが、理亜はチームを分けてそれぞれを調査することにした。
「あんた達は一人でも平気よね?慎太郎は校庭、頼雅は音楽室に行って。ゆかりとエイミは踊り場、和人と遥は理科室、私と美空はトイレを調べるわ。」
『了解!』
理亜はハイネから渡された学校の見取図を見ながらそう言って、各自指示に従い散っていったのだが、実は和人と遥は怪談が苦手だった……
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地球の様に電気が無く、王都の様に魔石燈も無い夜の校庭は漆黒の闇その物だった。
慎太郎は光魔法で光の玉を作り空に放り投げた。薄ぼんやりと照らし出された校庭の奥の方で何かが動いている。
「あれか……」
慎太郎はその動くものに近付き確認するが、目を疑うと同時に理解に苦しんだ。
そこに居たのは確かに動く二宮尊徳像、それが空の台座の前で何故かクラウチングからスタートダッシュの反復練習を行っていたからである。
クラウチング、ダッシュ、10m走っては歩いてスタート位地に戻る……
慎太郎は理解が追い付かない頭で暫くそれを見ていた。
「綺麗なフォームだな……」
スポーツマンの血が騒いだのだろうか、何故そういう思考に収まったのかは解らないが、慎太郎は重く動きづらい鎧を全て脱ぐとストレッチを始めた。
十分に体を温めたところでスタート位置に着いた尊徳に並び、共にクラウチングの体制に入る。
「位地に着いて…用意…」
慎太郎と尊徳の腰が同時に上がる。
「スタート!!」
スタートダッシュは慎太郎に軍配が上がった。しかし尊徳は勝負を挑まれた事を理解しているのか、10mを超えても走り続ける。そして20mを超えた辺りからその速度に伸びが出てきた。
―速い……!!―
慎太郎は背後に尊徳の気配を感じながら全力で走り続けた。
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音楽室、扉を開ける前から既に騒がしい音が漏れ出している。
頼雅は少しも臆すること無く勢いよく扉を開け放った。
「レディィィィスエェェェンドジェントルメェェェェェェェェェンッ!!!サア本日オキカセスルノハ私ノ華麗ナル半生!!!マズシイオイタチデマクヲ……」
「ウゼえっ!!」
いきなりミュージカル調で詰め寄ってきた尊徳の顔面を頼雅は殴り飛ばした。
豪快にすっ飛んで壁に叩きつけられた尊徳はそのまま動かなくなる。
頼雅は改めて音楽室を見渡した。確かに誰もいないピアノが一人でに派手な曲を奏でている。
「普通こういうのってもっと静かな曲弾くもんじゃねえのか?」
頼雅は近付いて鍵盤を覗いてみると、木でできた手首が踊るように曲を奏でていた。
「何だコレ?」
不思議に思った頼雅がその手首に手を伸ばしたその時、
「オォォォォ友ヨ!!幸ウスキ隣人ヨ!!ワレラハコノセカイトイウ……」
「ウゼえっつってんだろ!!」
復活した尊徳の顔面を頼雅は再び殴り飛ばした。
壁に叩きつけられた尊徳は操り人形の様な不自然な動きで立ち上がる。
「残念ダッタネ……」
そう言って尊徳は頼雅の回りをスキップで回り始めた。
「残念ダッタネ?ハッハァッ!残念ダッタネ?ハッハァッ!残念ダッタネ?何ガ!?残念ダッタネ?何ガァ!?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁッ!?超ウゼえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
頼雅はたまらず木製の手首を手に取り逃げ出した。
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「大丈夫デスかね?13階段の呪いデ落ちまセンデスかね?」
おっかなびっくりと階段を上がるエイミ、そんなエイミの手を引きなからゆっくりと階段を上がるゆかり。
「大丈夫よ。多分それ13階段がどうとかよりも、階段上りきったところに尊徳がいてびっくりして転げ落ちたんだと思うわ。」
「あ、それもそうカモ知れませんデスね。」
そんな会話をしていた二人の耳に何やらステップを踏むような音が聞こえてきた。
エイミとゆかりは目を合わせて頷き合うと、ゆっくりと忍び足で階段を上がった。そして踊り場を見て呆然とする。
二宮尊徳像が軽快なステップでパラパラを踊っていたからだ。
二人は暫しの間そのキレッキレなパラパラを傍観する。そしてゆかりが何となくナイトオブファイヤーを口ずさんでいた時、尊徳は目を奪われる様な三回転ターンを決めるとビシッとゆかりを指差した!
ゆかりは再び呆気にとられたが、すぐにダンスバトルを挑まれたと理解すると、不敵な笑みを浮かべながら動的ストレッチを開始した。
「良い度胸ね……義務教育の必須科目にダンスがある日本人で、新体操部でダンサーの私に勝負を挑もうなんて……」
「え!?チョットゆかりサン!?」
戸惑いながらもゆかりを止めようと詰め寄ったエイミに、ゆかりは耳元でそっと言伝てる。
「私がダンスでバトってる間に聖光の準備して、あれが霊的な物なら消滅する筈よ。」
ゆかりは自分のフィールドであるダンスで勝負を挑まれ心は燃えたぎっていたが、頭は冷静その物だった。
「解りマシタ……頑張って下サイ」
尊徳と向かい合いヒップホップを踊り始めたゆかりを見届けると、エイミは静かに祈りを捧げ始めた。
歴代の○影達に………