港街サーク 幼き兄妹と黒騎士の怒り
今更ながらイオについて大事な事を書き忘れてました。
イオのマントは騎士風ではなく旅人風、首元が襟巻き状になっているものです。
そしてレーヴァテインを放つ時の蹴りの姿勢は弓矢型、全身を思い切り伸ばし、腕は弓を引き絞る形です。
あまりにもナチュラルにイメージしていたので逆に書き忘れてました。
へ~~、そうなんだ~~。くらいに思う人もいるかも知れませんが、特に蹴りの姿勢は特オタにとって餃子を食べる時のビールor白米、または天ぷらを食べる時のビールor白米くらいに重要な事です。
それを踏まえて今回の話を読んで下さい。
和人は暗闇の中を駆けていた。
何かよく覚えていないが背後からとてつもなく恐ろしい物が迫っている。
自分の行く先に何があるのかは解らない。
それでも自分を追って来る何かから逃げなければならなかった。
何処からか笑い声が響いて来る。
おぞましい何かが和人に向かって手を伸ばす。
和人は暗闇の中に一つの光を見つけそれに向かって必死に走り手を伸ばした。
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「……ちょっと待ってー 口笛にぃなるぅー♪」
「う……あ………」
「あ、気がついた?」
どうやら遥は和人の傍らでずっと精神回復の歌を歌っていたらしい。
和人は悪夢の内容を覚えていないが、遥の顔を見てとても安心した。
「僕はどれくらい寝てたの?」
「多頭蛇の触手と戦ってから次の日の朝。まあ疲れたんだと思うよ?」
遥は何処か座りの悪い感じで答えた。
「慎太郎は?」
「男子達は他に脅威は無いかって船で海に出てるよ。まあそれは口実で、海釣りだと思う。」
「美空は?」
「葵と歌鈴と一緒に料理教室だよ。えっと……そんで私と理亜はゆかりとエイミと一緒に街を見てまわる約束なんだけど……」
遥とゆかりが和解した事を嬉しく思いながら和人はエイミの事を考えようとしたが、その顔はまるで鉛筆で塗り潰したかの様に思い出せない。
「何でだろう……今はエイミに会ってはいけない気がする……」
「だよね……まあ今日はゆっくり休んでなよ。じゃね。」
そう言って遥は部屋を出ていった。
一人残された和人はこれからどうするか考えたが、実質選択肢は二つだった。
美空達と一緒に胃袋の限界に挑戦するか、一人でのんびり過ごすか。
申し訳無い、選択肢は一つだった。
一人でのんびり過ごすにしても、とりあえず腹ごしらえをしなければならない。
和人は美空&葵VS歌鈴の戦いが行われている食堂へ向かった。
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「ん~~~~♪おいひぃ~~~~♪」
「くっ…葵さん!敵はまだまだ余裕ですよ!!あ、湯引きしただけではダメです、固まったぬめりを丁寧に洗わないと臭みは残りますからね。」
「ねぇ美空?これって勝負事ではなかった筈だと思うんだけど……衣を作る時は小麦粉をエールで溶いて下さい。そうすると揚げ上がった時に口当たりが軽くなるんですよ。」
「なあ嬢ちゃん……体ん中に別空間でも広がってんのか?肉屋のバングでもこんなに食わねえぞ?」
美空と葵はプロが裸足で逃げ出す早さで料理を作りながらも、宿屋の主人に丁寧に教えていた。
そして出来上がった料理を次々と無に還してゆく歌鈴。
「おはよう、僕にも少しくれる?」
「あ、おはよう和人君。もう大丈夫なの?」
歌鈴はほっぺをパンパンにしてもちゃもちゃしながら器用に喋った。
しかし和人はその言葉に首を傾げる。
「大丈夫だけど……え?僕は疲れて倒れたんだって遥が言ってたけど違うの?」
美空と葵の手が止まり、歌鈴はごくりと口の中の物を一気に飲み干して和人を見詰める。
「どうやらあまりの衝撃に脳が記憶を封印した様ですね……」
「いたたまれないわ……すぐに向き合う事になるのに……」
「とりあえずこれ食べよう!お腹一杯になれば何とかなるよ!」
訳が解らないまま食事を始めた和人に宿屋の主人が声をかけてきた。
「兄ちゃん、悪いんだが飯食ったらワラジーの家に行ってくれないか?いつも休む時はどっちかが来て断りいれるんだが何も無しで休んでるから心配でな。」
「良いですよ、家は何処ですか?」
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和人は教えられた家の前にいた。
「こんにちはー、ワラジー君、クックちゃん居るかなー?」
「だりぇ?」
扉の向こうから怯えるような幼女の声が聞こえる。
「宿屋のおじさんに様子を見てくる様に頼まれたんだ、開けてくれるかな?」
ゆっくりと扉が開き、おずおずと顔に大きな青痣をつけたクックが姿を現した。和人は驚きクックの両肩を掴む。
「どうしたのその痣!?いったい何が……」
和人は部屋の中を見て愕然とした。
血塗れで苦しそうに息をするワラジーが横たわっていたからだ。
「ごめん!あがるよ!!」
和人は急いでワラジーの傍らに座り回復魔法をかけ始めた。ゆっくりと傷が治りその呼吸が安らかになってゆく。
「うん、お兄ちゃんはもう大丈夫だよ。それで何があったのかな?」
和人はクックの頬に手を当て、回復魔法をかけながら優しく尋ねた。
「あたちがわりゅいの……」
クックはうつ向きながらぽつりぽつりと話始めた。
「あたちがちゃんとまえみてありゅかなかったかりゃ、めがかたっぽのこわいおじちゃんにぶちゅかって、そしたらきたないがきだってあたちけらりぇて、またけらりぇそうになったのをにーちゃがたすけてくりぇて……それからにーちゃ……あたちがいたくないようにいっぱいけらりぇて……ひぐっ…あたちこわくて……ひぐっ…やどやのおじちゃのとこ……いことしたけど……ひぐっ…こわくておしょとでらりぇなくて……」
怖かったのを思い出したのか、クックは話ながらぽろぽろと泣きじゃくった。
和人は全身の血が沸騰し、逆流するような錯覚を覚えた。
剰りにも激しい怒りで目眩を感じつつもその怒りを隠し、和人はクックの頭を優しく撫でる。
「クックちゃんは何も悪くないよ、おじさんには僕が伝えておくから今日は休むといいよ。それと怖いおじさん達はすぐにいなくなるから安心して?」
そう言って和人は立ち上がった。
「おにーちゃがこわいひとやっちゅけるの?」
家を出ようとした和人にクックはそう尋ねた。
和人は振り返り笑顔を浮かべた。
「ごめん僕じゃないよ、やっつけてくれるのはヒーローさ。」
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サークから南にある入江、ぽっかりと空いた巨大な洞窟には海が内部まで侵食しており、そこに大きな船が停泊していた。
五十人程のむさ苦しい男達の中、眼帯の男、海賊モーガンは忌々しそうに干し肉を食い千切り、酒を呑み干した。
沖の魔物のせいで稼ぎが出来ず、先日は部下が15人捕まり、気まぐれに酒を買いに行った街で汚いガキがぶつかって来た。
庇いに入って来た兄らしきガキを血塗れになるまで散々蹴り倒して来たが彼の気は晴れなかった。
「カシラァ!船が出てますぜ!化け物が出てくる様子もありやせん!!」
部下の一人が大騒ぎしながら走ってきた。
それを聞いたモーガンはにやりと笑った。
「そうか…あの化け物やっと殺されやがったか…遂に俺の海が戻って来たぜぇ!ククククク…アーハッハッハッハァーー!!!」
モーガンが高笑いを上げる洞内に聞き慣れぬ男の声が響いた。
「海は全ての命の母、誰の物でもあり、誰の物でも無い…ましてや幼子を足蹴にし、それを庇う優しき兄を蹂躙する様な外道の物では断じて無い!!」
何者かがゆっくりと歩いて来る。
コツン…コツン…
静かに潮騒が響く洞内に甲高い足音を鳴らしながら現れたのは、紅蓮のマントに身を包んだ仮面の黒騎士。
そのかなりの上質な鎧とマントの男を見て、モーガンは良いカモが来たとしか思わなかった。
―賞金稼ぎか?まあいい、身ぐるみ剥いで中身はあいつに食わせちまうか。―
そんなモーガンに対し、男は言葉を続ける。
「私の知る海賊は、強く、誇り高く、勇気のある者達だった。決してお前達の様に、恐ろしい魔物がいれば鳴りを潜め、退治されたと知れば我が物顔をする臆病な卑怯者達に、海賊を名乗る資格などは無い!!」
男─和人は海○戦隊ゴー○イジャーを思い浮かべていた。
男の言葉にモーガンは額に青筋を浮かばせ目を吊り上げる。
「てめえに資格を問われるいわれはねえよ……墓石に刻む名を聞いてやる…名乗れ!!」
「貴様等に名乗る名など無い!!」
「そうかよ…ぶっ殺せぇ!!!!」
その言葉で海賊達が一斉に……
「があっ!?」
「ギャアァァァァッ!?」
「ヒギィッ!?」
取り囲む前に一人が膝を横から蹴り砕かれ、一人が両鎖骨を手刀で折られ、一人が腰椎を膝蹴りで砕かれた。
いつもならテンプレ通り囲まれるのを待っている和人だが今回はそのつもりは無かった。
大激怒している和人は変身した時点でボルテージがマックスになっている。
クラリスを助けた時はほとんどの相手を意識を飛ばしたり、少し歩けなくなる程度で済ませたが、今回は全員一月は動けない程の大怪我させるつもりでいた。
「なっ!?」
目の前で起きた事が信じられず、狼狽えるモーガンを余所に、男は次々と取り巻き達の関節を砕いてゆく。
関節が砕かれると治りにくい上に、治ってもほぼ障害が残る。悪事で身を立てる事は困難になるからだ。
「ハァッ!せいッ!テヤァッ!!」
右からの突きを避け膝蹴りで肘をへし折り、後ろから羽交い締めにしようとした男の膝を踵蹴りで砕き、正面から飛かかって来た男の足の甲を踏み潰しながら掌底で肋骨を折る。
そこに慈悲など微塵も無い様に見えるが、和人の日本人の理性が殺す事をしないでいた。
「何だよ!?何なんだよお前は!!ブーバ!!出てこいブーバ!!!」
五分もしない内に部下を4分の1まで無力化した男の鬼神の様な戦いを見て、モーガンは泣きそうな顔で叫んだ。
三度目の偶然チェン○マン、しかしそれは和人の怒りを更に激しく燃え上がらせる物でしかなかった。
―ブーバ?ブーバだって!?―
電○戦隊チェン○マンに登場するライバルキャラ、元宇宙海賊ブーバ。
幾度となくチェン○マン達と戦い、最後までチェン○マンを苦しめた正に宿敵と言うべき相手であったが……
―ブーバには誇りがあった…信念があった…何より愛する者の為に命を賭けて戦う覚悟と優しさがあった!!そんな彼の名を……こんな……こんな奴が……―
「クエェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」
海賊船の下から海を割って巨大な首長竜が現れた!
海竜の名はヴァーミリオン、深紅の鱗に身を包み鰭のような4つの足には猛毒の爪を持つ。首を持ち上げた高さは6m全長18mにもなる。
最大の特徴は水の中でも消えずに燃え盛る火炎を吐く事である。
おそらく何らかの方法で手なづけ、風が無い時に船を引かせていたのだろう。
「ブーバ!あいつを殺せぇ!!」
ブーバが激しく燃える火炎を吐いた!!
男は避けることなくその体は炎に包み込まれる!!
男が炎に包まれるのを見て、モーガンは高笑いを上げた。
「ふひははははははははっ!!俺様に楯突くからこうなるんだよぉ!!」
しかしモーガンは知らない。
目の前の男が炎の災厄、スルトの化身であり、炎は無意味に等しいということを。
激しく燃える炎は男の体に吸い込まれる様に消え去っていった。
「へ?嘘…だろ……!?」
「お前なんかがその名前を口にするなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
自身の特撮愛を傷つけられ遂にその怒りは臨界点を超え大爆発した!
間抜けな声を上げたモーガンに対し、 激昂して思わず素の口調で叫んでいた和人の視界の中で、魂のボルテージのゲージが激しい光を放ち砕け散る!
―な、何!?―
魂のボルテージ限界突破!!
幼き兄妹と己の誇りを傷つけられた激しい怒りが、戦士の内に秘められた新たな力を呼び覚ます!!
特殊技 根喰らいの牙解放!!
根喰らいの牙:振るった手から邪龍の顎が如き炎の牙を放つ、威力は然程高くないが、狙った的を追尾し必ず喰らい付く。
―こうゆうシステムなんだ……―
―面白いであろう…?―
どこか得意気な相変わらずのノリノリ魔王クオリティを目の当たりにし、和人は少しだけ冷静さを取り戻した。しかしせっかくの新技、試さないという選択肢は和人には無い。両手を開き爪を立て、仮○ライダーア○ゾンの様な構えをとる。
「よく見ておくがいい!炎とはこうして使うものだ!!ハアァァァッ!!!」
左、右と男が振るった手から炎の牙が放たれた!!
男の手から放たれた邪龍の牙は真っ直ぐにモーガンを目指して飛びかかる!
「くっ!?あぶねえ!!」
モーガンは紙一重でそれをかわすと男に向かい不適な笑みを浮かべた。
「どうした?炎の使い方を教えてくれるんじゃなかったのか?」
余裕を見せるモーガンだが、悪食の邪龍は一度見定めた獲物を決して逃がす事は無い!
向き直った双頭の邪龍の牙が再びモーガンに襲いかかる!!
「ひっ!?」
異変を察知しモーガンが振り返った時には既に遅く、邪龍の顎はその右肩と左足を食い千切った!!
「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!??」
肩を押さえて崩れ落ちるモーガンを見て和人は驚いていた。
―然程では無いでこの威力なの!?結構えげつないよ!?―
―何を云う…本来の我が同じ技を放てば…こんな洞窟跡形も無く消し飛ぶぞ…?―
魔王的然程では無い威力に、和人は仮面の下で引き吊りながらも再びヴァーミリオンと対峙する。
「クエェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」
モーガンが傷つけられた事に荒れ狂うヴァーミリオンは、凪ぎ払う様に何度も炎を吐いた。
燃え盛る炎の中、男は主人を傷つけられ怒り狂う姿をその見て悲し気に呟いた。
「ブーバ……例え主が外道でも、主を思うお前の心は誇り高きその名にふさわしい……せめてもの手向けだ、苦しみ少なく、一撃で送ってあげよう……」
男はヴァーミリオンに向け手を振りかざした。
「獄炎の剣!!!」
ヴァーミリオンの前に炎の極大魔法陣が現れる。
「ハアッ!!!」
男は前方に一度回転すると魔法陣に向かい蹴りを放った。
振り下ろされた獄炎の剣は、己よりも小さき炎を飲み込むかのように、ヴァーミリオンの体を貫きその命の炎を消し去った。
「キュオォォォォォォォォォォォォッ!!!」
ヴァーミリオンは天に向かって一鳴きすると、ゆっくりと力無く項垂れ爆炎を上げた。
男は爆風になびくマントを振り払うと、振り返り、誇り高き名を与えられた海獣の最後の姿を見送った………
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和人はイオの姿のまま、サークの街を縛り上げたモーガンを担いで歩いていた。探知スキルを駆使して仲間達に見つから無いように細心の注意を払っている。
何故こんな事をしているかというと……
「にーちゃ!ありぇっ!ありぇみてっ!」
そこには目をキラキラさせてワラジーの袖を引くクックの姿があった。
真面目なワラジーは動けるようにったので、休むにも自分で断りを入れようと歌う人魚亭に向かうところだった。
「あのおにーちゃのいったことほんとうだった!!こわいひとはひーろーがやっちゅけてくりぇたんだ!!」
「本当だ……ありがとう黒い騎士様!ありがとう!!」
和人は振り返り、はしゃぎ回るクックとキラキラした目で自分を見詰めるワラジーに手を振ると、冒険者ギルドへ向かって歩いていった。
ゼロワンとりあえず第一話はとても良い感じでした。
このまま真っ直ぐ行って欲しいですね。
話は代わりますが、日曜朝九時から十時にこの駄文を読んでくれた方々、嬉しいですけどその時間はテレ朝系見ようよ!?