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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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港街サーク 沖の魔物を倒そう!!

「さぁーて、これにて準備万端です!早速多頭蛇の触手(ヒュドラテンタクル)を倒しに行きましょう!!」


 冒険者ギルドでシーサーペントの討伐から多頭蛇の触手(ヒュドラテンタクル)の指名手配とする手続きを終え、建物を出た所で美空が気合いを入れた。

 しかし、この謎の手続きにいったい何の意味があるのか誰も理解していないので、さすがに頼雅が美空に尋ねた。


「なぁ、これで何が変わるんだ?依頼報酬の時と賞金かわんねえし……」

「賞金首であることが大事なんです、その他はどうでもいいんですよ。理由は現場に着いてからのお楽しみです。」


 美空は人差し指を立てながら勿体付けて言った。

 そんなこんなで港に到着した一同、広大な港には大小様々な船が並び、穏やかな波に揺れキラキラと光る水面からは、この海に恐ろしい化け物が潜んでいるとは全く想像出来ない。

 港から少し離れた所には広々とした砂浜が広がっている。


「うん、あっちがいいですね。あの砂浜で戦う事にしましょう。」


 そう言って歩き出した美空にみんな訳も解らず付いていった。


「では説明します。こちらから行けないのなら、あちらから来ていただけば良いのです!!」


 美空は左手を腰に、右手を胸の前でグッと握り締め「どうよ、名案だろ?」見たいな顔をした。


『は?』

「「あぁそれか!そのための賞金首か!」」


 ほとんどの者が「何バカ言ってんだコイツ」という目で美空を見る中、和人と慎太郎だけが納得していた。


「では遥、一曲お願いします。」

「へ!?私!?」


 急にバトンを渡された遥は何の事か解らずきょとんとする。


「ほら遥、例の賞金首戦の音楽弾いて。」

「でもあれは偶然だって。」

「いいからいいから、弾いてみればそれも解るじゃないですか。一発お願いしますよぉ~~。」

「もう……何も起こらなくても私のせいにしないでよ?」


 和人と美空に促され、遥はしぶしぶあの音楽を弾き始めた。しかし何も起こらない。


「ほら、何も起こらないじゃない。」

「沖から少し距離があるからです、もう少し弾いてて下さい。」


 それから更に弾き続け、いい加減遥は面倒臭くなってきた。


「ねえ美空、これ以上やっても……」


 遥がそう言いかけた時、突如として波が強くなり始めた。


「え!?嘘でしょ!?」


 海の中から巨大な何かの気配が近付いて来る!

 波が激しく暴れだす!水面が大きく膨れ上がる!!


『クエェェァォォォォォォォォォォォォォッ!!!』


 海を引き裂き激しい水飛沫をあげなから、八体の大海蛇(シーサーペント)が遂にその姿を現した!!


「何でだよっ!!!」


 納得がいかず何かに向かってキレている遥に、メンバーから奇異な物を見る目が集まる。


「全員、戦闘準備!!盾持ちは前へ!!防御をメインに牽制!!」


 慎太郎の言葉で皆が我に返り戦闘陣形を取り始めた。

 慎太郎と悟をフォワードに祐司と正洋が両翼を担う。


「他前衛、魔法攻撃で牽制しつつ盾組の合間を縫って物理攻撃!!」


 その時、二本の首が慎太郎と祐司に襲いかかり、一本の首が正洋側から薙ぎ払われた!


「「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 悟と正洋は薙ぎ払われた首を盾で受け止めその激しい衝撃を耐えきる。

 慎太郎と祐司は盾を使ってパーリングし、上手くその二本の首を衝突させた。

 その二本の首に頼雅とゆかりが飛びかかる!


「うらぁっ!!」

「てやぁっ!!」


 頼雅の日本刀の重い一撃とゆかりの双剣の四連撃がシーサーペントを斬りつける!

 しかし硬い鱗とぬめつく粘液によって阻まれ、あまり効果的なダメージとはなっていない。


「鑑定結果出ました!!物理なら貫通!魔法なら火と土!魔法攻撃の方が効果的です!前衛の皆さんは防御をメインに突きで戦って下さい!!」


 美空の声で全員の戦闘スタイルが決まった。

 ここまでが準備期間、慎太郎からの最後の指示が飛ぶ。


「遥!支援を頼む!!」

「あいよっ!!」


 遥はギターを構え、ピックを握り直した。

 数あるレパートリーの中から1つの曲を選曲すると、ギターに魔力を流し歌い始めた。


「ガガガッ!ガガガッ!ガガガッガァァァッ!いーえーなーいぃぃぃぃぃぃッ!!!」


 ほとんどのメンバーの魔法攻撃力と防御力が上がった!

 この曲はある意味特ソンであり、特ソンでない。二十代隠れ特オタ女子の日常を描いたドラマの、特ソン風に作られた主題歌である。

 その効果は前記の通り魔法攻撃力と防御力の上昇。しかしこの歌にはある特性がある。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 和人と美空と理亜が叫んだ!!

 そのある特性とは【オタ特効】何かに対して異常なまでの時間と金と情熱を注ぐ人間が聞くと全てのステータスが1.8倍になるという謎の効果があるのだ。

 そして……


「数々のヒーロー達の魂をこの身に宿し僕は戦うッ!駿河和人、俺!参上!!!」

「宵闇より生まれ出で、地獄の怨嗟は子守唄!我は深淵からの呼び声に応えよう!!さあ、この神戸理亜の前にひれ伏しなさいッ!!!」

「一番優秀な刑事は誰だッ!?それはこの私!!渡辺美空がお相手しましょうッ!!!」


 溢れ出した情熱は、この様に謎の名乗りを上げずにはいられなくなるのだ。

 遥はゆかりを見た、ゆかりは必死に耐えるように歯を食い縛りながら戦っている。


 ―素直になって秋山さん!あなたの仲間は必ずいる!!―


 遥にはすでに目星がついていた。遥は思いを込めて更に力強く歌う!!


「鬼○術!烈火弾!!!」

「タワーリングインフェルノ!!!」

「焦熱の地獄火!!!」


 オタ三人が放った火魔法が混じりあい、相乗効果を生み、1つの首を一撃で吹き飛ばした!!


 前衛組はちくちくと地味な攻撃を続けやっとのことで首を1つ落とす。


 ―さあ、素直になって秋山さん!あなたの同類(なかま)はきっとすぐそこにいるから!!―

「この!世界中で!二人ぃくらい!仲間ーはいるーけれどぉぉぉぉぉッ!!」

「う……くっ………!」


 ゆかりは必死に己の情熱を漏らさぬ様に耐えている!

 三体のシーサーペントが口から水の散弾を吐いた!!


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 慎太郎がそれを魔力障壁で受け流す!


「おい!慎太郎!それ何だよ!?」

「魔力障壁だ!!魔力その物でダメージを受け流す壁を作り出す技だ!!」

「何でそんな事できんだよ!?」

「愛の力さ!!」

「リア充が!!爆発しろ!!」


 前衛の会話を聞いていたブーストアップ中のオタ三人が瞬時に完璧な魔力障壁を展開する。


「なるほど!!」

「つまり!!」

「こういうことですね!!」


 あまりにもあっさりと魔力障壁を作り出した三人を見て、物理的に血を滲ませながら体得した慎太郎は愕然とした。


「俺が死ぬ思いで出来るようになったのに、何でそんな簡単にできんだよッ!?」

「これもつまりは妄想力!!」

「妄想はオタクの嗜みよ!!」

「はっきり言って()()()()()です!!」


 その言葉で慎太郎は崩れ落ちそうになったが、なんとか持ち直しその行き場の無い怒りを八つ当たりのようにシーサーペントに向けた。


「波あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 慎太郎の放った極太の光の帯が三本目の首を吹き飛ばした!


「いつもぉ!悲しい時ぃ!苦しい時ぃ!支えてぇくれぇぇぇぇたのはぁぁぁぁぁッ!おーやにーはりーかいーされーないご趣味で!でも!その全てがー愛しいぃぃ!!勝手に!捨てなぁぁぁいで!しまわなぁぁぁいで!勉強はぁぁ頑張っでるから!!」


 遥は2番の歌詞を自分流に変えていた。

 その歌詞はゆかりの心を貫き、遂にその時が訪れた!


「「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」」


 涙を流した二人の女子の雄叫びが響き渡る!!


「せつな系BL乙女秋山ゆかりッ!!慶次×兼続を推して参るッ!!!!」


 推して参るの使い方が少しおかしい。


「サス×ナルこそワタシの心の聖域(サンクチュアリ)!!兵藤・エクランド・詠美!!全力で行かセテ頂きマスッ!!!!」


 ナ○トが好きの意味が和人の理解と違っていた。

 二人はお互いの言葉に気付き、一瞬だけ見詰め合う。それは永遠に等しいとても長い一瞬。この広い世界でやっと出会えた同類(なかま)

 無限に広がる宇宙空間で出会ったア○ロとラ○ァのように二人は見詰め合う。

 永遠の一瞬の中で二人はお互いを理解しあうと、微笑みながら力強く頷き合いゆかりはシーサーペントに向かって駆け出した。


「そう!!いつダッテBLハワタシを支えてくれまシタ!!」


 ゆかりが水の散弾の中を掻い潜り駆け抜ける中、エイミの土魔法が1つの首を石化させた!


「いつだって私に勇気をくれたッ!!!!」


 石化した首をゆかりは飛び回し蹴りで砕き距離を取るように着地する!


「例エ変態でモ構わナイッ!!」

「好きな物を好きって言えないなんて間違ってる!!」


 二人の火魔法が重なり生まれた巨大な火球がまた1つ首を吹き飛ばす!

 そしてゆかりは再び駆け出すと、シーサーペントの頭を踏み台にして、空高く飛び上がった。


「私は!!」


 エイミは高く振り上げられたゆかりの双剣に炎を纏わせた。


「ワタシ達は!!」


 ゆかりが横回転を始めた。それは完全なるリ○ァイの動き!!


「「BLが大好きだァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」」


 ゆかりの斬撃が六本目のの首を切り落とした!!


 ―よかったね…秋山さん…―


 遥は仲間に巡り会えたゆかりに聖母のような微笑みを向けると、リクエストに応えるために次の曲を弾き始めた。

 その前奏を聞いた頼雅が振り向き嬉しそうに親指を立てる。


「きぃーみは きっこぉーえる?ぼぉーくの このっこえーがぁ」

「しゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!!来たぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」


 頼雅が激しい気合いと共にグラサンをかけ直した。


 ―あれ?何だこれ!?―


 主を釣った時は必死だったが故に気付かなかった新たなスキルが芽生える感覚が遥を包む。


 スキル 特効:歌唱が心に響いた時、対象者の全ステータスを2.5倍にする。


「「キョエェェァァァァァァァァァァァァッ!!!」」


 残り2本になり水弾をばらまきながら激しく暴れるシーサーペントに、盾組を押し退けて頼雅が飛び出した。


「おい頼雅!待て!!」


 慎太郎の抑止も聞かず走る頼雅に水弾が集中し、一本の首が喰らいかかる。


「うらぁっ!!」


 頼雅はその頭を刀で串刺しにすると、柄を両手で握り背負い投げの体制になった。


「ぬおりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 激しい水飛沫と共に海から投げ出されたタコの体が轟音をあげて砂浜に叩きつけられた。


『あり得ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

「よぉし和人!合体だぁっ!!」


 驚愕する前衛達を余所に頼雅は天高く拳を突き上げドリルを纏わせた!


「解った!後は気合いだね!!」


 和人は頼雅のドリルに更にドリルを重ねる!

 頼雅のドリルが回転力を増し一回り大きくなる!


「面白そうね!私のも受け取りなさい!!」


 理亜が更にドリルを重ねる!

 頼雅のドリルが更に回転力を上げ巨大化する!


「私達も!!」

「受け取って下サイ!!」


 ゆかりが火と風を、エイミが火と土を重ねる!

 更にドリルは巨大化する!!


「だめ押しです!!」


 美空が火、土、雷を重ねる!

 遂に頼雅の体よりも巨大化した灼熱のドリルが電撃を纏う!!


「いくぜタコ野郎!これでも食らえやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「「クエェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」」


 遥の歌がサビに入った。

 突き出された頼雅のドリルを止めるべく2本のシーサーペントが襲いかかるが、ドリルに接触した瞬間に弾け飛ぶ!!

 そしてドリルは抗う術を失ったタコ本体に突き刺さる!!


「キョエェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」


 タコはその体を貫かれ断末魔の叫びを上げた!!

 タコに空いた大穴の向こうで頼雅は空に向かって指を掲げた。


「俺を誰だと思ってやがる!!!」


 半年もの間人々を苦しめて来た海の悪魔から、遂に街は解放された………


 戦いが終わった砂浜でゆかりとエイミが見詰め合う。


「エイミ…これから仲良くしてくれるかな?」


 差し出されたゆかりの手をエイミは少し悲し気に見詰める。


「ワタシはせつな系でハありマセン……BLゲーをクローゼットの中カラ覗き見プレイしたり、ベッドの下から鏡越しニプレイする事デ更なる高み(オーバードライブ)を求メルようナ腐っタレベルデスよ?それデモ良いんデスか?」


 エイミの言葉にゆかり以外が一斉にドン引きする。


「でもBLを愛する心は同じよ。日本に戻ったら一緒に乙女ロードに行きましょう?」

「ハイ…必ず行きまショウ!!」


 エイミは差し出されたゆかりの手を両手で握り締め涙ながらに微笑んだ。

 そしてゆかりは遥に向き直ると、ゆっくりと歩き遥の目の前に立つ。


「ごめんなさい。」


 ゆかりは深々と頭を下げた。


「私は胸を張って特撮が好きと言っているあなたが眩しかった。いつも楽しそうに和人君と特撮の話をしているあなたが羨ましかった。あの夜あなたに向かって言った事は全部私の事、でもあなたの歌のお陰で解ったの。やっぱり好きな物を好きって言えないなんて間違ってる!それにこうして素敵な仲間に出会えた!今更赦して何て言わないけど…これだけは言わせて…ありがとう、それとごめんなさい……」


 頭を下げるゆかりに遥は優しい顔で手を差し伸べた。


「例えジャンルが違くても、オタクはみんな仲間だよ……」


 ゆかりは差し出された手を驚いた様に見詰めると、力強く握り締めてぼろぼろと泣き崩れた。


「我、終生の友を得たり……!!」


 どうやらゆかりの推しはBA○RAとかではなく雲のかなたのヤツらしい。かなりの上級者だ。

 みんなそんな二人を優しく見守っていたが、エイミの言葉で状況がおかしくなる。


「デモゆかりサン、いくら和人君のお相手ガ慎太郎君ダカラとイッテも遥を睨んでハいけマセン。ムシロそれヲ味ニするんデス。」

「「え"?」」


 和人と慎太郎が青冷める。


「幼イ頃からノ幼なジミへの想いト、ある日気付イテしまっタ親友へノ恋心の間デ揺れ動ク少年の気持チ…そう考エルと遥の存在ハとても良いスパイスになりまセンカ?」

「良い!それ素晴らしいわ!!」

「クラスメイトでヤオッてんじゃねえ!!」


 ゆかりの言っていた和人はアリだけど遥はナシの意味、それは妄想のネタとしてだった。

 盛り上がる二人にキレる慎太郎、しかし和人は固まったまま動かなかった。

 旅の間エイミが幾度となく口にしていた味の意味を知った事で、和人の中のエイミのイメージが変わってゆき、そしてあの夜を思い出す。


 ―美味しいデスか?和人君。―

 ―ええ、とてモ美味しくイタダいてマスよ?―

 ―ああ…本当にとてモ美味しいデスねェ……ゴハンが欲しいデス。―


 そう、あの時のエイミの本当のオカズは和人と慎太郎がお互いに料理を食べさせ合っている姿だったのだ。


「うあ…ああ……」


 和人の記憶の中のエイミの顔が粘着質なねっとりとした笑顔に変わってゆく。

 そして目の前のエイミの顔が、藤田和日郎先生が魂を込めて書いた歪な笑顔に変わったように見えた。


「いやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!」


 和人は壊れてしまった。

 そんな和人を見て、理亜が頬を染めて身震いしていた。

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