港街サーク 冒険者ギルドに行こう
「迂闊だった………」
温泉を堪能し、久しぶりのベッドで泥のように眠り、心身共にリフレッシュした一同だったが、朝食を摂るため食堂の扉を開け愕然とした。
和人達を迎えたのは圧倒的なじゃがいもの山。
陸の孤島状態だったサークは、和人達が転移した直後と変わらぬ食事状況だったのである。
「作り直しましょう……でも時間も惜しいので葵さん、手伝って下さい。」
「良いわよ、腕がなるわ。」
そう言って美空と葵がテーブルの上にあった料理と、宿屋の主人と共に調理場にこもって30分、生まれ変わった朝食をテーブルに並べた。
ポタージュにガレット、ポテトサラダといも団子の塩キャラメルソースがけ。そしてトマトソースのニョッキとサモサ。
「本当はいも団子はみたらしにしたかったんだけど醤油が無いからね。」
こんな時でもデザートを忘れないさすがの女子力(口からは出ない)、葵がエプロンを外しながら言うが、30分のじゃがいも縛りでよくやった物だ。
和人が調理場を覗いてみると、いも団子を手にした宿屋の主人が至福の表情を浮かべ、涙を流して固まっていた。料理文化レベルのカルチャーショックを受けたのだろう。
「ほっときゃそのうち戻りますよ、では皆さんいただきましょう。」
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「いやぁ~~!お嬢ちゃん達料理上手いねぇ!!この街に何日か居るんだろ?宿代半額にするからうちに泊まって料理教えてくれないかい?」
宿屋主人は美空と葵を口説いていた。
「慎太郎君、どう思いますか?」
美空の問いかけに対し、慎太郎は任せるの指示を出す。
慎太郎としても金は困って無いとはいえ、安くなるなら喜ばしい。温泉だって魅力が高い。
断る理由が無いとは言え、これは慎太郎が決を執るものではない。
銀貨20枚で料理を教えてくれという二人に対する依頼なのだ。
「葵さんはどう思います?」
「良いんじゃないかな?勿論私達の目的が優先になるけど。」
「わかりました。ご主人、それで良いならその依頼受けさせていただきます。」
契約成立と、主人と握手する美空に並ぶ葵の肩に歌鈴が手を置いた。
「なら、味見役がいた方が仕事ははかどるよね?」
ニョッキのトマトソースで口元を真っ赤に染めたちびっこクリーチャーは、朝食の最中にもかかわらず、次の食事を食う気満々だ。
何か生き物を食い殺したかの様に見える歌鈴を見て、少し怯える葵を余所に和人は主人に尋ねた。
「でも歌う人魚亭って面白い名前ですよね、何か由来があるんですか?」
「ああ、それかい?ここいらには聖獣である人魚が住んでいてね、人魚が歌うと大漁か約束されるって言う言い伝えからうちのじいさんがこの名前にしたんだ。まあ魔王が現れてからはあまり姿を表さなくなってね。沖の魔物が住み着いてからは全く見なくなっちまったよ。」
―人魚が聖獣?ならば………―
「もしかして聖獣って他にもいたりしますか?」
「ああ、五大聖獣ってのがいてね、マーメイド、グリフォン……」
「ペガサス、フェニックス、ドラゴン?」
「なんだ、知ってるんじゃないか。」
―何でチェン○マン???―
なぜかこの世界の聖獣は、電撃○隊チェン○マンと一緒だった。
見れば遥も同じ感想を抱いた様で、端から見ても頭の上に?を3つくらい並べている。
?から離れることの出来ない和人を余所に、主人は話を続ける。
「聖獣に愛されると聖獣は加護として自分の羽根や鱗をくれるらしいんだ、歴代の勇者も聖獣の加護を受けたって話だよ。」
みんなが興味深く主人の話を聞く中、和人と遥は聖獣の羽根や鱗が合体してバズーカになるイメージが頭から離れなかった。
和人と遥がバカな妄想をしていたその時、勝手口がノックされた。
「おはようございます、おじさん!」
「ござましゅ!」
8歳くらいの日に焼けた快活そうな少年と、よく似た顔立ちで癖っ毛の5歳くらいの女の子が入ってきた。
その子供達を見た主人が笑顔で挨拶を返した。
「おう、おはよう!ワラジー、クック、今日もよろしく頼むぞ!」
「「ブボォォォォォォォッ!!?」」
和人と遥が思い切り吹き出した。
―またチェ○ジマン!?何この偶然!?―
慎太郎は和人にナプキンを差し出しながら子供達を目で追っていた。
「おじさん、今の子供達は?」
「うちで下働きしてくれてんのさ。何年か前に母親が海賊に殺されて父親と三人で暮らしてたんだが、その父親も数ヶ月前にシーサーペントに殺されてね……うちに住んで働けって勧めたんだけどよ、家族の思い出がある家を離れたくないっつって通いで働いてくれてんだ……」
子供達の背中を目で追っていた主人が慎太郎達に目を戻すと、洩れなく全員泣いていた。
「みんな!!必ず絶対に沖の魔物を倒すぞ!!」
慎太郎が立ち上がり、拳を握り締めながら叫んだ。
「当たり前よ!!あんな小さな子供達が悲しい思いをするなんて、絶対に許せない!!」
ゆかりがテーブルを叩きながら叫んだ。
「ああ!必ずブチのめす!!その海賊もだ!!絶対にぶっ潰す!!」
頼雅の漢気が大炎上し、怒髪天を突く勢いでガチギレしている。
「皆さん落ち着いて下さい。その二つは決定事項としても、まずは情報収集です。この街の冒険者ギルドに行きましょう。」
冷静な言葉で皆を嗜め、静かに美空が立ち上がった。しかしみんな解っていた。こういう時の美空は冷静に見えて、実は誰よりもキレていることを。
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「見つけたぞっ!!」
宿を出て冒険者ギルドに向かう途中、少し遠くからでかい声がした。
一同が振り向くと、顔を包帯でぐるぐる巻きにした昨日のチンピラが頼雅を指差していた。
報復に来たのか、今日は15人ほど連れている。
「てめえ!!昨日はよくも……」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
肩を怒らせながらこちらに向かって来ようとしたチンピラ共を、美空は問答無用で膝を撃ち抜いた。
美空は悲鳴をあげてのたうち回るチンピラ共に歩み寄ると、その眉間に銃を押し当てた。
「報復に来たのが解っているのに大人しく待つ訳が無いでしょう?イエスかノーで答えて下さい。あなたは沖の魔物のせいで海に出られない腰抜け海賊の仲間ですか?」
「てめえ!俺達をば……」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
美空は石畳の上の男の指の間を撃ち抜き、もう一度眉間に銃を押し当てた。
「あなたに認められた発言はイエスかノーだけです。次はここを撃ち抜きます。あなたは腰抜け海賊ですか?」
美空の虚無の瞳に見詰められたチンピラは、涙を流し失禁していた。
「い……いえす……ぺごっ!?」
チンピラが答えた瞬間、美空はしなるような蹴りでその頭を思い切り蹴り飛ばした。
そして美空は、倒れたチンピラの撃ち抜いた膝を踵で思い切り踏みつける。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」
「全員ふん縛って連れて行きましょう。冒険者ギルドには罪人収容所が併設されている筈です。」
チンピラを冷徹な目で見下ろしながら、美空はまいるーむから鉄塊を取り出すと、人数分の手枷を作り出した。
普通ならドン引きする美空の行いだが、チンピラが海賊の仲間だと言った時点で、和人達は情け容赦の欠片も無くなっていた。
チンピラ全員に手枷を嵌め、何か抵抗しようとする度に殴り付け、痛がる足を無理矢理引き摺らせながら冒険者ギルドに向かう慎太郎達の姿は、すれ違う街の人々を震撼させた。
慎太郎は勢い良く冒険者ギルドの扉を開けた。
一瞬でギルド内の人々の視線が慎太郎達に集まり、そして一瞬でその全員が目を反らした。
慎太郎達が連れていたチンピラ共が原因である。
半数の者が顔が判らなくなるほどボコボコにされ、四人程どう見ても精神が壊れていたからだ。数名見た目は無事ではあるが、ただひたすらむせび泣いている。
慎太郎は真っ直ぐカウンターに向かうと、受付嬢に爽やかな笑顔を向けた。
「すみません、ここに来る途中で海賊を拾って来たんですけど回収お願い出来ますか?」
「はい、ゴミの回収でしたらそちらを奥に進んで頂いたところに牢屋が在りますので、そこにいる係の者にお願いします♪」
意外な程に受付嬢は笑顔でスマートな対応をした。徹底されたプロ意識である。
慎太郎達は指定された場所にゴミを捨てると、改めて依頼掲示板の前に集まった。
よくある採取依頼や討伐依頼の中で目を引く物が3つ。
1つ目は[モーガン海賊団の討伐]
南の入江を根城にしているモーガン海賊団を退治して欲しい。詳細はギルドマスターまで。
依頼書と共に手配所が貼り付けてあり、いかにも海賊な風体の眼帯を付けた凶悪な面構えのおっさんの絵が書いてある。
賞金は金貨80枚、海賊団討伐と合わせて120枚と、なかなか高額な設定がされている。
二つ目は[廃校の怪現象の調査]
「これ面白そうね、色々とカタが付いたら受けてみない?」
オカ研の理亜が当然のように食いつき依頼書を楽し気に見ている。
街の最南端にある廃校で夜な夜な起こる怪現象を調査し、可能であれば解決して下さい。詳細はギルドを通し土地管理人ハイネまで。
「まあ何日かは滞在するし、機会があれば受けてもいいな。」
慎太郎は理亜の言葉に返しながら、 一枚の依頼書を見る。
3つ目[シーサーペント8体の討伐]
沖に住み着いたシーサーペントの群れを退治して欲しい。一体につき金貨5枚、殲滅で50枚。詳細はギルドを通して町長マルベスまで。
やはりシーサーペントの群れと認識されているようで、何処にもタコの魔物の記述は無い。
「困りましたね……」
「何か問題があったのか?」
顎に手を当てて考え込む美空に慎太郎は不思議そうな顔を向けた。
「いえ……昨日言った私に考えがあるというのは沖の魔物が賞金首であることが絶対条件だったので……これでは使えません。」
「それなら賞金首に直してもらえばいいんじゃない?」
がっくりと肩を落とす美空に、和人は笑顔で依頼書の一部を指差しながら言った。
《詳細はギルドを通して町長マルベスまで。》
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「はじめまして、儂が町長のマルベスです。」
「幾島慎太郎です。」
「渡辺美空です。」
受付嬢に紹介状を書いて貰った慎太郎達は村長の家の応接室にいた。
慎太郎の目の前には、風が吹いたら飛んでしまいそうなひょろひょろの老人が座っている。少し耳が尖っているのでエルフが混ざっているのかもしれない。
長い年月を生きたその顔には深い皺が刻まれ、頭には毛が一本も無いが眉毛と髭は長く伸びている。その長く垂れ下がった眉の奥にある瞳は、疲れと悲しみに満ちていた。
「何でも儂の依頼を受けて下さるそうで…あれが住み着いてからというものの、若い者達は食い殺され、漁師達は海に出れず、聖獣様もすっかり姿を表さなくなってしまいました……儂はもう一度活気のあるこの街が見たいのです…勇ましく漁に出る男達が見たいのです…聖獣様の歌が聞きたいのです……どうか…どうかお願いします……」
町長はそう言いながらぽろぽろと涙を溢した。
その姿を見た慎太郎はもらい泣きしそうになるのをぐっと堪え、町長の手を取り力強く誓った。
「大丈夫です、俺達が必ず沖の魔物を倒します!!」
「つきましては町長さんにお願いがあるのです。」
美空が本題を切り出した。
「何ですじゃ?儂に出来ることなら何でもしましょう。」
「難しい事ではありません。沖の魔物実はシーサーペントの触手を持った巨大なタコなんですが、仮に名前を多頭蛇の触手として依頼ではなく指名手配にして貰えませんか?」
それを聞いた町長は首を傾げた。
「構いませんが…それをして何になるのです?それに何でそんな事が解るのですか?」
「とても重要な事なんです。それが解ったのは仲間に人外と話せる者がいて、その子がクレイグキャニオンの川の主から聞いたからです。」
町長は髭を撫でながら美空の話を聞くと、ゆっくりと頷いて立ち上がった。
「解りました。ずいぶんとレアなスキルをお持ちなのですなぁ。では共に冒険者ギルドへ参りましょう。」
慎太郎達は町長と共に再び冒険者ギルドへ向かった。
炎炎ノ○防隊での一言。
「ヒーローといえば飛び蹴りだろ!!」
作者も大いにそう思います。