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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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ご注文は?

 食堂では簡単な食事が貰えた。パンとスープに温野菜、ハムが2切れに大量の茹でたじゃがいも。


「「おぉ、テンプレだぁー。」」


 異世界の食事と言えば大量の茹でたじゃがいも、そんな勝手なイメージのあった二人はじゃがいもの山に謎の感動を示していた。


「「いただきます。」」


 二人そろって食べ始める、パサパサなパン、ささやかに肉と野菜の入った薄いスープ、申し訳程度に塩が振られた温野菜、そんな中、保存優先のためやたらとしょっぱいハム、芋、芋、芋…

 異世界テンションで食べられるのは今回だけだろう。しかし、お腹が空いているので食べ続ける。

 早急に何とかしないと…などと考えていると、やたらご機嫌な顔をした美空かやって来た。


「お早うございます!いやー、ミリタリーケイデンスが聞こえてきたおかげで爽やかなめざめですよ♪」


 と、言いながら遥の隣に座る。


 ―13~14時間も寝てればそりゃ爽やかだろうよ。―


 二人は思ったが口に出さない。


「ミリタリーケイデンスって何?」


 和人が尋ねた。


「軍人さんが走る時の歌です。」

「あんたあれで爽やかに起きれるの?」


 遥が本気で呆れていると、ジャージ姿の慎太郎が汗を拭きながらやって来た。


「おはよう、みんな遅いお目覚めだな。」

「え?まさか慎太郎、先生の訓練に参加してたの!?」


 和人が信じられないといった顔で尋ねた。しかし慎太郎は、


「んなわけねーって、あれに付き合ったら旅でる前に死んじまうよ。俺は隣で走ってただけ。」


 と、言いながら和人の隣に腰掛けた。


「そっか…やっぱり戦う方を選んだんだね。」

「あぁ…」


 旅にでる前に、慎太郎はそう言った。勇者として、魔王討伐の旅に出るということに他ならない。


「そっか、なら一緒だね。」


 和人は芋の皮を剥きながら言った。


「和人!?」


 和人が戦う方を選ぶと思っていなかった慎太郎は心底驚いた。


「大丈夫だよ、慎太郎。僕がやりたいのはアフターケア、もちろん後衛として頑張るつもりだけど、魔王軍のせいで気力を失った人達が、もう一度立ち上がるための手助けをしたいんだ。」


 和人は心からそう思っていた。自分に戦う力は無いが、ここで背中を向けては愛して止まぬヒーロー達に顔向けが出来ない。


「なら、私も和人と一緒かなー。この世界を見て回りたい気持ちもあるし。」


 遥が同調する。特オタ脳故に同じ思いなのだろう。そして美空がそれに続く、


「当然私もお供しますよ!日本の常識が適用されない世界なら、日本じゃ出来ないアレやコレをやっても許されるはずですッ!」


 ………………


 三人の目が点になる。


「お前、何やらかすつもりだっ!?」

「常識に捕らわれないのと非常識は別だよ!?」

「あんた何かの映画のシーン再現するつもりね!?」

「この国の法は全て覚えました!抵触しなければOKです!」

「「「【天才】を無駄使いすんなッ!」」」


 椅子から立ち上がって突っ込む三人、そして目線が高くなったことで、美空の隣の床に置かれた異物に気付く。


「え?美空、それ何?」


 再び目を点にした遥が尋ねる。


「扇風機です。」


 総金属製の扇風機(静音タイプ)が心地好い風を振り撒いている。


「何で?」

「慎太郎君が暑そうでしたので。」

「じゃ無くて。」

「あぁ、昨日寝苦しくなったので錬金術で作ったんですよ。材料は修復不可能な剣等を貰いました。」


 早速天才はやらかしていた、地球でいえば中世位の文化レベルの世界に、現代技術を持ち込んできたのだ。


「おーすげー、電気も無しにどう動いてんだ?」


 慎太郎が素直に感心している。


「自前です、充電式にしました。」


 美空は手を差し出し電気をバチバチさせた、昨日の今日で習いもしない魔法を無駄に使いこなしている。


「じゃあ、この扇風機をしまってた場所も?」


 和人が尋ねる。


「空間魔法です。ちなみに錬金術は、構造を理解し、素材があれば作成可能です。」


 美空は何も無い空間に手を入れると、そこからいくつかの金属塊を取り出した。


「先ずは料理改革から始めましょう、美味しいものは心を豊かにし、意欲を高めます。と言うかぶっちゃけ、夜には美味しいもの食べたいです。」


 ホイッパー、おろし金、ミンサー、蒸し器etc…と色々作り出す。

 こうなると誰も彼女を止められない。止める気もない。三人も美味しいものが食べたかった。


「たのもー!!!」


 美空が今作った道具持って調理場に押し掛け、道具の使い方や、料理のレクチャーをはじめた。

 和人達は扇風機の風にあたりながら、ハーブとレモンの入った水を飲んでまったりし始めた。穏やかな時間が流れる。慎太郎がポツリと呟いた。


「ここ異世界で、俺達これから魔王退治に行くんだよなぁ…」


 緊張感の欠片も無かった、しかし、緊張感の塊が団体で押し掛けてきた。


「各自食事を取り、三十分の休憩を取るように!その後持ち場へ戻れ!任の無い者はしっかりと体を休め、万全を保て!常在戦場、半端な心構えで国家が護れると思うな!!」

『Ma'am!yes,ma'am!』


 暑苦しい、扇風機があって本当に良かった。三人は調理場の美空に心の中で感謝した。

 その暑苦しさの熱源である犬飼真琴は、何故か兜以外の金属鎧を装備している。その顔は汗だくではあるが、表情はまだまだ余裕がありそうだ。

 一方兵士達は訓練用の革鎧を付け、チアノーゼ寸前の顔色で膝を震わせている。慎太郎が説明をした。


「二人一組で要救助者運搬訓練、一人が背負って走る、背負われた者は腕の力だけでその体を支える、そして歌いながら500メートル走り交代。そんなの参加したら死ぬだろ?その間先生はあの格好で必ず誰か背負ってんだぜ?そんで他の人らが交代してる間腕立てしてんだよ。超人かよ。」


 和人と遥は化物を見る目で真琴を眺めた。

 刹那、真琴が振り返り三人に視線を定めた。

 和人と遥が神の速さで目を反らす。

 真琴が三人に近付いてきた、嫌な汗が滲み始める二人。


「おはよう、良い朝だな。しかし意外だな、この世界にも扇風機があるのか。私もいいか?」


 和人達でなく扇風機を見ていたらしい。鎧を外し汗を拭きながら真琴は扇風機の前に座った。その姿はスポーツ飲料のCMの様に絵になっている。


「あー、気持ちいい…」


 普段より少し気の抜けた真琴は、いつもと違う雰囲気がして色っぽかった。そう思った事を振り払うかの様に、慎太郎が説明する。


「これ美空が錬金術で作ったんですよ。他にも色々作って、料理改革するって調理場に突撃しました。」

「へぇ、錬金術とは便利なのだな。」


 真琴は素直に感心した、そこに遥が何気に付け加えた言葉が爆弾になるとは誰も思わなかった。


「構造を理解して素材があれば何でも作れるそうですよ。」

「何?ふむ……」


 真琴はいつも付けているウエストポーチから、メモ帳(防水)と鉛筆を取りだし、何やら書き始めた。9㎜拳銃、89式自動小銃、そしてラ○ボーが使っている様なエグいナイフだ。その構造を事細かに書き、破り取ると、調理場に面したカウンターに向かい、美空を呼びつける。


「渡辺、済まないがこれを頼めるか?」


 美空はメモ書きを見つめ少し考えると、左手の親指と人差し指で○を作り笑顔を向ける。

 傍目には食堂で働くお姉ちゃんに食券を渡した様にしか見えない。しかし、注文されたものはこの世界の戦闘の常識を覆すものだ。遥は泣きそうな顔で頭を抱えた。

ミリタリーケイデンスの歌詞の内容は、真琴なりに替えています。教育者が、さのばびっちとか言うわけにはいかないので。

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