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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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突発性クエスト 野口葵を守れ!!

「嫌だ………」

「そんな事言わないで頑張ろ?のぐっちゃん。」


 涙目で体育座りする葵を優しく励ます歌鈴だが、葵は頑として動かなかった。


「頼むよ野口、俺達が順調に来れたのも、お前がみんなを繋いでくれたからなんだ。」

「行きたくない………」


 慎太郎の説得の言葉に悟と英一が激しく頷く。

 しかし葵は動こうとしない。


「大丈夫ですよ葵さん、この荒野然程広くありません。頑張れば今日中に抜けられます……多分……」


 美空は双眼鏡を覗きながら言った。


「絶対無理いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!!!」


 葵はとうとう泣き出してしまった。

 彼女が体育座りをした背中の向こう、つまりは目的地のサークに向かう方向には、その体を幾等分に刻まれながらも、いまだにピクピクと蠢く50㎝程のクモの魔物と1m程のムカデの魔物の骸があった。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!お家帰りたいよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!」


 ついには幼児退行してしまった葵。

 彼女は虫、取り分けいかにもな気持ちの悪い虫が生理的にダメだった。


 生理的に無理


 今時わりと簡単に使われる言葉だが、その意味は皆が思っているよりもずっと重い。

 例えば「なぜゴキブリが嫌いなの?」と極限まで突き詰められると、結局答えはゴキブリだからになる。

 何がダメ、どうしてダメでは無く、その存在その物がダメなのだ。

 決して軽々しく言って良い言葉では無い。

 慎太郎、悟、英一は、唯一普通の女の子らしい反応をする葵を見て安心する部分もあるが、葵無しでこの先の道中を行く自信が全く無い。主に精神的に。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


 慎太郎達でなくても、皆が葵の重要度を理解していた。


「すまないみんな、野口が落ち着くまで休憩にしよう………」


 誰からも反論は無かった………



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



「大丈夫?本当に大丈夫なんだよね?」


 三十分かけて葵を説得しなんとか落ち着かせ、再び荒野を進み始めた。

 葵はエイミにぴったりと貼り付き、肩の後ろから涙を滲ませた目を覗かせている。


「ああ、お前は戦わなくて良い。虫も寄せ付けないからしっかり付いてきてくれ。」

「うん…がんばる……」


 慎太郎は葵とエイミを中心に置き、三点で守るような陣形をとっている。

 戦闘時に前衛が接敵するまでに敵を間引くのが葵の仕事だが、相手が虫の間は期待できそうに無い。


 そんな一同の前に60㎝程の巨大なゲジゲジが現れた!


「にぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 一瞬で全身に鳥肌を立ててエイミに強く抱きつく葵。

 ゲジゲジは素早く動いた!


 カサカサカサカサカサカサカサカサ


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「おい!早く殺せ!!殺すんだ!!」

「燃やせ!!跡形も残すな!!野口にそんな物見せるな!!!」

「鬼○術 烈火弾!!」


 和人の音○棒から放たれた火球か着弾し、跡形も無く燃え尽きるゲジゲジ。


「ひぐっ…ひぐっ…」

「虫の素材なんか要らないし、見つけたら即焼却処分でいこう……」

『了解……』


 泣きじゃくる葵を見て、慎太郎達は戦闘方針を固定した。


 そこにクモ、ムカデ、ゲジゲジの群れが現れた!!


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」


 葵は泣きながらエイミのワールドカップなおっぱいに顔を埋めた!!

 祐司と凪晴が羨ましそうに見ている!!


「美空!理亜!ナパーム許可!!」

「ウフフフフフフ!さあ、私好みに踊りなさい!!!」

「ハハハハハァ!虫ケラごときにゃあ勿体ねぇですが葵さんのために燃え尽きやがれですよぉ!!!」


 ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォンッ


 炎の中で蠢きながら、やがて身を反らせ燃え尽き崩れてゆく虫共を見て満足そうな笑みを浮かべる美空と理亜。

 この上なく非常識な奴等だが、こんな時はとても頼もしい!


「葵サン、もう大丈夫デス。虫ハいなくなりマシタよ?」


 おっぱいに挟まる葵をエイミが優しく撫でる。


「本当に?本当に大丈夫?」


 葵の言葉と共に揺れ動く山脈。

 祐司と凪晴が仲間に入りたそうに見ている!!

 ゆかりがその視線の間に割って入り、祐司と凪晴を睨み付けた!!


「時間が惜しい、進むぞ。野口もこの荒野で野営したくないだろ?」

「絶対に嫌あぁぁぁぁ……」


 両手で涙を拭いながらよたよたと歩き出す葵を支えるように、エイミとゆかりが寄り添って歩き出した。


 次第に慣れてきたのか、それともよっぽど野営が嫌なのか、葵は大きく叫んだり歩きを止めたりしなくなってきた。


 ―このまま行けば今日中には荒野を抜けられそうだな。―


 慎太郎がそう思った矢先の事だった。


 カサ…ゴキ…グチョ…ペチャ…ズリュ……


 どう考えてもRー15指定な音が慎太郎の耳を掠めた。慎太郎は恐る恐るその音が聞こえた岩山の陰を覗き込む。


「ォォォォ……」

「ァァ……オアァァァ……」


 ゴソ…ヌチャ…バリ…ガリ…ベチャ……


 数体のゾンビとクモ、ムカデ、ゲジゲジ、ゴキブリが絡み合い、お互いを喰らい合っていた。


「【波】アァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


 慎太郎は反射的に最大攻撃力を誇る【波】を打ち出していた。

 しかし、慎太郎の【波】を持ってしても、全てを無に返す事は出来なかった。


「燃やせ!燃やせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!」


 ―これは絶対に野口には見せられない!―


 そう思った慎太郎は気が狂った様に叫んだ!

 しかし慎太郎の努力虚しく、葵はその最悪な絡み合いを目の当たりにしてしまった。


「ウブェロロロロロロロロロロ…………」


 葵から光輝く女子力が溢れ出した!!!


「葵サァァァァァァァァァァァン!しっかりしテ下サァァァァァァァァァァァァイッ!!!!」

「見るなあぁぁぁぁっ!!今こっち見たら殺すわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」


 エイミとゆかりが葵の尊厳を守るために涙を流しながら必死にその姿を隠す。

 ゆかりと葵は普通に話す程度の仲だが、こういう時の女子はやたらと結束力が硬い。


「みんなごめん……わたしもう…むり………」


 葵は涙と女子力の後が残る顔に儚げな笑みを浮かべると、まるで砂で作った城が波に浚われて崩れるように静かに倒れ、その意識を手放してしまった。


「野口いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」

「葵いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」


 荒野に慎太郎達の声が響き渡った………



 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓



 気を失った葵は、エイミの膝枕の上でその顔に残る汗と涙と女子力を丁寧に拭き取られている。

 大地に振り撒かれた葵の女子力はゆかりが丁寧に埋めていた。

 その傍らで慎太郎達は緊急会議を始める。


「んでどーするよ?進むにも野口があれじゃあよ?」


 頼雅がエイミの膝の上の葵を指差す。


「悟、おぶれるか?」

「出来ない事もないが、いくら野口の体重が軽くても丸1日は大分キツいな。」

「それに見るのもダメなんだよ?そっちもどうにかしないと…」

「いっそ目隠しでもしてもらうか?」

「目隠しか……いいな……」

「ナギ!?お前!?」


 男子がどこかアホっぽい会話をしているのを見た女子は深く溜め息をついた。


「おい貴様ら、いい加減にしやがれ……」


 いつもデスマス口調の美空が普通にドスを効かせている。

「あ、これやばい……」そう思った一同は黙って美空の言葉を聞く。


「今葵は倒れてる、貴様等を含め私達に気を使いながらも、生理的に受け付けない虫を我慢して進んだ結果だ…解るか……?」

『Yes ma'am!!』


 思わず全員軍人口調になり、美空に従う。


「貴様等に出来ることは葵の速やかなる運搬。異論は?」

『ありません!!』

「解ったらさっさとこのクソみてぇな荒野を抜けるぞ!!このチ○カス共がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

『Yes ma'am!!!』


 そう言って美空は、金属の箱に長い丸太のような棒が2本付いた神輿のような物を造り出した。それはまるで海外の葬式で見る棺桶のようだ。

 そこに気を失った葵を納棺……もとい納めて美空は蓋をした。


「そこの脳筋とモブ共!担げェェェェッ!!」

『Yes ma'am!!』


 悟、頼雅、英一、龍馬が納得いかない表情で葵を納めた箱を持ち上げる。


「これ以上葵の女子力を無駄にはできない!戦闘は無視し邪魔する物だけ払いのけ、この荒野を一気に駆け抜けるぞォォォォォォォッ!!」

『Yes ma'am!!』

「遥!トッ○ュウジャー!!」

「あいよっ!Go for it!Go!Go!Go!Go!」


 遥の歌声と共に一同は一斉に走り出した。

 風のように進む一同の前にムカデとクモが現れた!!


「邪魔だ!!」


 一同は何の躊躇もなく踏み潰す!

 更に一同は速度を上げる!

 数体のゾンビが目の前に立ち塞がる!!


「「どけぇッ!!」」


 慎太郎と正洋のシールドバッシュで撥ね飛ばす!


「かーぜを!きぃーって!すぅすむぅーーーーっ!!どこまでっもぉーーーーーーーーー!!!」


 遥の歌声が響く!!

 一同は更に加速する!!

 ゲジゲジとゴキブリが並走してきた!!


「「鬱陶しい!!」」


 和人と理亜の魔法がゲジゲジとゴキブリを焼き払った!!


「トンネル抜けたらーーーっ!明日に向けてノンずどっぶぇほ…ヴェボッ!ゲホッゲホッ!!」


 遥はむせてしまった!!

 一同の速度が元にもどる。


「遥!?大丈夫!?」


 むせてうずくまる遥に和人が駆け寄るが、他の面々の「何やってんだよ……」と言った視線がとても痛ましい。


「ごめ……すこ…ヴェホッ!ヴェボッ!少し待って………」


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「仕切り直しも済みましたし、再度いきますよ!!!」

『おおォォォォォォォォォォォッ!!!』


 口調が元に戻った美空と共に、一同は進行を再開する。


「ありがとう、みんなごめんね?」


 意識を取り戻した葵が蓋の隙間から目を覗かせる。すっかり弱り切っているようでいつものキレが全く無い。


「気にすんな野口、俺達はお前にもっと大事な物貰ってんだ。」

「ああ、俺達はお前無しじゃぁ魔王討伐なんて出来ないと思ってるよ。」


 悟と英一が葵に向かって笑いかけた。

 そんな二人に葵は涙を浮かべて微笑んだ。


「ありがとう…二人共、頼りにしてるからね……」


 そう言って葵は蓋をパタリと閉めた。


 ……………………………………


「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!!!」」


 悟と英一に人知を超えた力が宿る!!


 葵は飛び抜けた美少女ではないが普通に可愛い。

 一緒にいて、ほっとするような可愛いさだ。

 何もしなけりゃ百合の花の美空や、美しいが浮世離れしたエイミと比べてよっぽど現実味がある。そんな女子が自分達を頼ったのだ。

 これで奮い立たないヤツは男じゃ無い。


「慎太郎!一分一秒時間が惜しい!!」

「ああ!俺達は野口を無事に送り届けたいんだ!!!」

「お…おう……」


 二人の異常な気迫に慎太郎はたじろいだ。


「それじゃみんな、行くぞ!!」

「GO forit!! Go!Go!Go!Go!」


 再び遥が歌い始める。


「「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッ!!」」


 悟と英一が葵を納めた棺を担ぎ、異常な早さで走る!!


「ちょ?ま?落ち着け!早ぇよ!」

「お前等!少しみんなに合わせろ!!」


 対になっている頼雅と龍馬が体勢を崩しながら抗議の声を上げる。


「うるせぇ!!俺達は野口を無事に運ばなきゃならねぇんだ!!」

「もういい!!俺と悟で野口を運ぶ!!お前等は露払いに回れ!!!」


 そう言って英一は龍馬から担ぎ棒を奪い取り両肩に担いだ。

 目の前では悟が同じように頼雅からが棒を奪い取っている。


「行くぞ悟!!」

「おう!!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」」


 二人はとんでもない勢いで走る!!


「落ち着け!!せめて前列に合わせろ!?」


 あまりの速度に慎太郎達前衛に押し迫る二人を慎太郎は宥めようとするが、二人は聞く耳を持たない。


「うるせぇ!!お前等が早く走れ!!!」

「俺達は野口を無事に運ぶんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 二人の勢いに飲まれ一同はあり得ない速度で走り続け、一気に荒野を駆け抜けた。


 全員が四つん這いになり肩で息をする中、悟と英一は静かに葵の入った箱を下ろし蓋を開けた。


「野口、荒野をぬけたぞ。」


 悟の声に真っ青な顔をした葵がふらふらと立ち上がる。口元を押さえながら虚ろな目でみんなから離れてゆく。

 それに気が付いたゆかりが既に限界まで達している体力を振り絞り、葵の元へ駆け出した。


「ヴボェロロロロロロロロロロロロロロロロ…………」


 葵から再び女子力が溢れ出した!!!


「見るなッ!見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 涙を流しながら必死にその姿を庇うゆかりの声が大空に響き渡った。

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