個性強めな乙女達
戦闘を終え、凪晴の手斧を修理すると、一同は進行を再開した。
「美空、ありがとうよ!この刀まるでずっと使ってたみたいに俺の手になじむぜ!」
幾分の暑苦しさを振り撒きながら、頼雅は高々と刀を掲げ上げた。
「そうですか、獅子王をモデルに作ったのですが、気に入って貰えて何よりです。」
「獅子王?よく解らねえがイカした名前じゃねえか!」
「妖怪 鵺は知ってますか?」
「ああ、うろ覚えたけど、日本版のキマイラみたいのだろ?」
「それで合ってます。それを退治した武士が褒美として賜ったと云われる刀です。」
「くうぅぅぅぅぅぅッ!名前も由来も最高じゃねえか!!!」
美空の話を聞いて、頼雅はよりその刀を気に入ったようだ。
そこで和人がずっと気になっていた質問をする。
「ねえ美空、その銃って何なの?」
「何って、バイ○ソードですよ?」
何を言ってるんだという表情で返す美空に、和人は言葉を続けた。
「そうじゃなくて、この世界に銃っていう概念は無いよね?魔法の触媒なら、それは杖になるの?それとも美空の概念で銃に分類されてるの?」
それを聞いた美空が、やっと合点がいった顔をする。
「そういう事ですか。分類で言えば剣です。ただ、これそのもので斬るつもりは無いので刀身は捨てました。なので切れ味を捨てて、強度と軽さに全振りしてます。そう簡単には壊れませんよ?」
「そのやり方が通るなら、剣を切れ味捨てて最強の鈍器に出来るんじゃないの?」
「それが出来ないんですよ。」
和人のもっともな意見に、美空は残念な顔で返す。
「祐司君、これを思い切り棍棒で殴って貰えますか?」
そう言って美空は地面から石柱を伸ばした。
「わかった、そんじゃ全力で……うらぁっ!」
祐司の棍棒が石柱を粉砕する。
「お見事です、次はこれで殴って下さい。石柱の硬さは同じです。」
美空はバイ○ソードを抜き、ソードモードのグリップを向けて祐司に渡した。
そして地面から再び石柱を伸ばす。
「おりゃあっ!って、いってえぇぇぇぇっ!?」
振り抜こうとしたバイ○ソードは石柱に弾かれ、祐司の手に痛みと痺れを残した。
「このように、何故か硬いだけで打撃力は無いんですよ。不思議ですよね?」
「俺で試すな!!」
「適任でしたので。」
祐司の抗議を美空はさらりと流した。
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「悟!右からバルーンボアが来る!頼めるか!?」
「おう!任せろ!!」
中学時代、バスケ部キャプテンだった慎太郎は、状況把握に長けている。
バルーンボアは通常よりも二回りデカく、威嚇行動としてフグのように膨らむ猪の魔物だ。
主な攻撃方法は突進。
悟は槍を前に構え、正面からその衝撃を耐え抜けばいいだけだ。
そうすれば勝手に串刺しになって死ぬ。
しかし、これは慎太郎や祐司には出来ない戦法だ。
適材適所、慎太郎は次々と指示を出して行く。
「美空!上空のアイアンクロウ5匹!頼む!」
「本当に嫌な名前ですね……」
アイアンクロウ、鋼鉄の嘴と爪を持つ体長80cm、翼長2mのカラスの魔物。
日本にいた頃、毎日のように真琴のアイアンクローで締め上げられていた美空は、その名前に深い嫌悪感を示す。
「とは言うものの、初めての鳥肉!逃しませんよ!」
美空の狙撃がアイアンクロウの翼の根元を撃ち抜く。
「祐司達は右、英一達は左、俺達は正面だ!後衛は全体を見て各自動いてくれ、行くぞ!!」
『おう!!!』
慎太郎達はハイオークを中心とした中隊規模の群に立ち向かう。
慎太郎達が接敵する前に、葵の放った矢がオークと豚野郎の眉間を射抜く。
「はあぁぁぁッ!」
接敵と同時に慎太郎はホブゴブリン二匹の首を斬り飛ばす。
「サァッ!」
食らい付こうと飛び掛かって来たビッグスケイルリザードの弱点であるその口に、歌鈴の短槍が突き刺さる。
その貫かれたビッグスケイルリザードを、頼雅が左手で尻尾をつかみ引っこ抜く。
「うらぁっ!!」
そのビッグスケイルリザードを振り回し、手近なゴブリンを殴り飛ばす。
スキル:悪逆非道 手に持てる物なら全て武器に出来る。
手に持てれば魔物の骸でも良いのだ。
右手に日本刀、左手にトカゲの骸の二刀流。
こんな戦い方が出来るのは頼雅だけである。
「ちょっと頼雅、あんまり殴ったらお肉痛むじゃない!!」
歌鈴が戦闘中にも関わらず、食欲全開な文句を言う。
「振り回してれば血も抜けるし、殴ってりゃ肉も柔らかくなんだろ!!」
「あ、それもそうだね。」
オークの攻撃を受け止めながら、納得する歌鈴。
身長150cm、体重40kg、小柄な歌鈴だが彼女は陰で【ちびっこブラックホール】と呼ばれている。
先日の豚野郎も15kgは歌鈴が食べているのだ。
実の所、美空よりも食い意地は張っている。
日本に居るときも、休み時間は常に何かを食べていた。
しかし全く太らない。
単純に見た目が良いエイミよりも、多くの女子の羨望を集めていた。
「トカゲって美味しいらしいから楽しみだよね~~。」
爬虫類や両生類は女子が嫌がりそうだが、既に彼女達には抵抗が無かった。
戦闘中だというのにどこか気の抜けた一同、それもこれも真琴という指導者が居たからである。
この世界の冒険者にランクは無いが、仮にランクを当て嵌めると、彼らのレベルで言えばDランクである。
しかし、実力で言えば既にBランクなのだ。
戦闘のプロである真琴の指導を受けた彼らは、実力以上の力を発揮するエリート集団なのである。
しかし、その事に彼らは気付いていない。
「慎太郎!五秒前!」
「全員後退!!」
和人の言葉で全員が後衛に並ぶ。
詠唱を終え前に出た理亜が、空に向かって魔術付与を施した粉末を振り撒く。
撒かれた物は肥料。
それを和人が風魔法で敵全体に撒き散らす。
「ソーンバインド」
理亜の声と共に草や根が一斉に伸び、魔物達を拘束した。
「さてと美空、選別頼んだぞ。」
「はいは~~い♪」
動けなくなった魔物達を美空が鑑定して回る。
「ハイオークは魔石持ちですね、あと生意気にもそこの豚野郎もです。豚野郎のお肉は足りてますから、今回はトカゲと鳥を血抜きしてゆきましょう。」
美空は次々と魔物の選別をしてゆく。
もはや狩りですら無い、仕入れだ。
「では精肉する物は意識を飛ばし、他はなるべく苦しまないように………」
「うごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」
みんなが振り替えると、涙を撒き散らしながら身悶えするハイオークと、その傍らに立つ理亜の姿。
「………理亜、何をしてるんですか?」
「ん~別に?ハイオークを初めて見たから観察してただけよ?」
振り返った理亜は頬を赤らめ、湿っぽい瞳で微笑んでいた。
地味な顔立ちの理亜だが、この状態の理亜は異常に艶っぽい。
悟と頼雅は青ざめているが、祐司や英一は見蕩れてしまっている。
「ふふ…ふふふふふふ……」
理亜は静かに笑いながら、ハイオークの顎を撫でる。
「うごッ!?うごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
泣き喚くハイオークの耳元で、理亜は何かぼそぼそと呟いた。
「ふご…ふご………」
その瞬間、ハイオークは瞳孔を開いて痙攣しだした。
悟と頼雅が震え出す。
「やべぇ……あいつレベル上がってやがる!!!」
「何てこった!?この短期間で…スキルかアビリティにサディストが在るのか!?」
「怖えぇよ!?あいつ魔物なんかよりよっぽど危ねぇよ!!!」
「ああ、魔王よりもあいつを倒すのがよっぽど人類の為かも知れん!!」
青い顔で話し合う二人に、理亜は肩越しに振り向いて微笑んだ。
「なぁに?どうしたの?」
とてつも無い圧力が二人を襲う。
「ぬ…ぐあ……」
「耐えろ悟!この圧力に負けたら人として色々何かを失うぞ!!」
圧力に押され、膝を折りそうになる悟を、頼雅は必死に励ます。
「よーし、作業にはいるぞー。」
慎太郎の声と共に理亜の放っていた圧力が消え去った。
圧力から解放された二人の全身から、一気に汗が噴き出す。
「あいつ……本当に仲間でいいのか?」
「はっきり敵じゃ無いって解ってるだけマシだ……」
戦闘を終えた時よりも疲れた顔で、二人は作業に加わっていった。
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「とっりにくぅ~♪とっりにくぅ~~♪今日のごはんはこっじきっどり~~♪」
初めての鳥型魔物肉を手にいれ、ご機嫌の美空が妙な歌を歌う。
「頼む美空、そんな平気で5・6時間かかる料理はもっと暇な時にしよう。唐揚げぐらいにしてくれ。」
たまたま乞食鳥を知っていた慎太郎が、美空にメニューの変更を願っている。
「私は唐揚げは醤油派です!自分が食べたくない物を……」
「多数決!みんな!夕飯は乞食鳥と唐揚げ、どっちがいい!?」
美空の主張を切り捨て、慎太郎は強引に多数決を取る。
「乞食鳥ってどんな料理?」
歌鈴がよだれを垂らしながら首を傾げる。
「丸鳥に米とか色々詰め込んで地面に埋めて、その上で焚き火を焚いて、少なくとも5時間以上焼く料理だ。」
歌鈴が目を輝かせ勢い良く手をシュバッと挙げて宣言する。
「乞食鳥!!!」
『唐揚げ。』
2対13
「なんで!?絶対に美味しいよ!?」
涙目で抗議する歌鈴に対し、葵が代表してみんなの総意を伝える。
「待ち時間長いよ。」
相変わらず簡潔。
「「そんなぁ~~……」」
絶望の表情で涙する美空と歌鈴。
「歌鈴ちゃん、遠征終わったら二人で食べましょうね……」
「うん…一人一羽ずつね……」
「待って。」
泣きながら慰め合う二人に、葵が再び声をかける。
「誰一人、食べたくないとは言ってないでしょう?」
そう言って葵は二人に歩み寄り、肩に手を置き優しく微笑んだ。
「そういう特別な料理は特別な時に食べましょう?楽しみは後に取っといて、遠征が終わった時みんなで食べた方が美味しいと思わない?」
その言葉は美空と歌鈴の心を貫いた。
「そうですね!旅の片手間で作る料理ではありませんでしたね!」
「そうだね!早く遠征終わらせて、みんなで一人一羽ずつ食べよう!!」
二人は涙を浮かべ考えを正した。
「うん…でも一人一羽食べるのはあなた達だけでいいわ。私達は一羽を4・5人でシェアするから大丈夫よ?」
あくまで葵は優しげな笑顔で言った。
「そんな!?遠慮なんてしないでいいんですよ!?」
「そうだよ!!もも肉取り合いになっちゃうよ!?」
そんな二人に、葵は優しげな笑顔を崩さぬまま言った。
「大丈夫、多分ほとんどの人は、詰め物のごはんでお腹一杯になるわ。とりあえず、今日は唐揚げにしましょう?だって美空の作る唐揚げなら、絶対に美味しいから。」
その言葉に、美空は涙を溢れさせながら胸を叩いた。
「はい!!絶対に満足させてみせますよ!!」
慎太郎はそんな葵を見て感動していた。
「あぁ…常識的だ……野口、お前がこのパーティーに居てくれて、本当に良かったよ……」
幾島慎太郎
5月18日生まれのA型 178㎝65㎏
バスケ部レギュラー 趣味はルアーに限らず釣りとロードバイクでオタク性は一切無い。
面倒身がよくナチュラルにリーダーになるタイプ。
誕生日は作者が慎太郎のイメージとしている仮面ラ○ダーキバの俳優、瀬○康史のもの。
渡辺美空
12月21日生まれのAB型 163㎝50㎏
立てば爆薬 座れば毒物 何もしなけりゃ百合の花のTHE自由人。ですます口調だが育ちが言い訳では無く、皮肉は丁寧に言った方が相手に与えるダメージが高いためと、いざというとき口調を崩す事で言葉を強くするため。かなりの腹黒。
誕生日はラス○ボーイ○カウトの日本公開日。