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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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燃える男の赤いヤツ

「そんじゃ、後たのまぁ~な。」


 そう言ってでかいあくびをしながら、凪晴は横になった。

 美空が朝食の準備をするため、慎太郎達は見張り番が最後だった。

 慎太郎小隊はいつもの四人に頼雅を加えた五人である。


「お~い、美空~、いい加減おきろ~。」

「くぴゃぁ~~……」


 相変わらず半目で眠り、なかなか覚醒しない美空を揺さぶり続ける遥の肩に手が置かれた。


「山崎、昨日のお前最高にカッコ良かったぜ!」


 頼雅が力強く親指を立てて言った。


「へ?」


 戸惑う遥をよそに慎太郎が続く。


「ああ、オタク魂もあそこまで貫かれると、尊敬すら感じるな。」

「ふえ!?」


 和人が涙を浮かべながら拳を力強く握り締めた。


「遥、僕も同じだよ!そうだよね!僕達はヒーローに生き方を教わったんだ!特オタは僕らの誇りなんだ!!」

「全部聞かれてた……?」

「そりゃあな?」

「あれだけ大声で話してたらな。」


 当たり前だ、ヒートアップした二人は全力でお互いをぶつけあったのだ。

 起きていた見張りメンバー所か、美空以外はみんな起きてしまい、その会話を聞いていたのだ。


「ぬおぉぉぉぉぉ……」

「ぷごぉぉぉぉぉ????」


 赤面して思わず美空の首を締め付けた遥を、顔を真っ赤にした美空が全力でタップした。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「なるほど、私が寝てる間にそんな事があったのですか。」

「むしろよく起きなかったなお前。」


 顔を洗い、身支度を整えながら美空は昨晩の話を聞いた。

 あの中で一人爆睡し続けた美空に、頼雅が呆れを通り越して感心すら感じている。


「しかし腑に落ちませんね。」

「え?何が?」


 髪をすいている美空に、顔を洗った後、あの漫才師のようにメガネを探す遥に、メガネを渡した和人が聞き返した。


「特オタだから遥が嫌いと言うなら、同レベルの特オタである和人君も嫌いなはずです。なのに彼女は、和人君は好きなほうだと言いました。矛盾してませんか?」

「そういえばそうね。」


 メガネをかけた遥が返したところでみんなが頭を捻る。


「もしかして、秋山って隠れオタなんじゃないか?」


 少し考えたところで、慎太郎がピンと来た表情で顔を上げた。


「「「あ~~。」」」


 和人と遥と頼雅が揃って手の平に拳をポンと乗せた。


「あ~、自分が隠れオタだからオープンオタの遥が許せない、あり得ますね。」

「そんなら睨んでないでオープンになっちゃえばいいのに。」

「ジャンルにもよりますし、そう簡単に割り切れる物では無いですよ。」


 膨れっ面の遥を美空がなだめる。


「しかしあり得る話だけどよ、結局和人がアリな理由にはならなくねえか?」


 頼雅の言葉で、見えかけた出口が再び遠退いてしまった。

 しかし、遥は何となくゆかりのジャンルに見当が付いてしまった。

 そしてそれは特殊性が高い故に、容易にオープンに出来る物では無く、それ故に彼女が孤独であることも。


 ―秋山さんにもきっといい仲間が見つかるはずだ、今度炙り出してみよう。―


 情熱をぶつけ合える仲間がいないオタクは、本当に寂しいものだ。

 遥はずっと隣にいてくれた和人に、改めて感謝の気持ちを抱いた。


「でも以外だよね、三田君が料理出来るって。」


 和人が野菜を洗いながら言った。


「うちは親父がいないからな。その分母ちゃんを助けるのは当然だろ?」


 頼雅の母はシングルマザーだ。

 結婚せず自力で頼雅を産み、たった一人で彼を育てた。

 だからこそ頼雅は、妊婦に対する尊敬が大きい。


「三田君は真っ直ぐだよね。ヒーローの素質あるよ。」


 遥は和人と一緒に野菜を洗いながら言う。


「ははは!昨日のお前の言葉聞いた後なら光栄だ!なんならこのままヒーロー目指すか!」


 照れているのか、頼雅は少し顔を赤くして笑った。


 頼雅は元ヤンと表記したが、彼は決して悪い人間では無い。

 自分を通すために喧嘩っ早かっただけである。

 しかし、ヤクザの事務所沙汰になった時、真琴に諭されたのだ。


「お前の考えは尊敬に値する。しかし、担任の私がこれだけ心配するんだ。お前の母親の心配は、私の及ぶ所ではないと思うぞ?」


 そう言って真琴は頼雅を優しく抱き締めた。

 中学時代の教師達は皆、彼を厄介者扱いし、問題事が起これば真っ先に彼を疑う者ばかりだった。


 ―この人は今までの奴等と違う…本気で俺の事を考えてくれてる…―


 そう思った頼雅は涙を流し、これからは無闇に喧嘩を売らないと真琴に誓った。

 以来頼雅は真琴を信頼し、尊敬を込めて先生と呼んでいる。


「ところで山崎って、特ソン以外歌えねぇの?別にそれが悪いって訳じゃねぇけど。」


 頼雅の問いに遥は少し考える。


「アニソンとジャ○プロならいくらかは…」


 遥の答えに和人と慎太郎が苦笑いを浮かべるが、頼雅は意外な言葉を返した。


「空色○イズはいけるか?」


 遥は一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに男前な顔で親指を立てた。


「余裕!!」

「なら今度歌ってみてくれ。あれ好きなんだ。」


 スープの鍋をかき混ぜながら、頼雅は笑顔で言った。


「いいけど、どんな効果あるか解らないよ?私が歌ってる曲は、一応一度歌って効果確かめてるんだから。」


 遥はいつも適当に選曲してる訳では無い。

 和人達といるときに全て試してあるのだ。

 付与効果はステータスで確認出来るのだが、戦隊系や仮面系は大体モチーフのイメージ通りの効果が出る。

 仮○ラ○ダーブ○イドは剣術アップとアンデッド特効付与、ハ○ケ○ジャーは風属性攻撃強化と敏捷アップといった具合だ。

 しかし、メタル系やウルトラ系等は歌ってみないと解らない。

 結果、メタル系は総じて防御アップの傾向がある中で、剣術と敏捷アップのジ○イヤは印象的だった。


「いいじゃねぇか!ぶつけ本番成り行き任せ!俺はただ、好きな曲聴きながら戦いてぇだけだ。効果はどうでもいいんだよ。」


 頼雅は豪快に笑い飛ばした。


「三田君らしいわ。」


 遥がそう言って笑うと、みんなもつられて笑った。


「でもよく知ってたよね?そこそこ古いアニソンなのに。」


 和人の何気無い疑問に頼雅は微笑みながら答える。


「母ちゃんが好きでDVD全部あんだよ、俺の子守唄みたいなもんだ。ちなみにカ○ナは俺の心の師匠だ。」

「「解る気がする。」」


 和人と遥は納得の笑みを浮かべた。


「そういう事ならこれあげますよ。」


 そう言って美空はまいるーむからあのサングラスを取り出した。

 それを見た頼雅は目を見開き、歓喜の声をあげた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?マジか!?何でこんなの持ってんだ!?」

「錬成の練習中に作ったんです。何となく持ってたんですよね。」


 頼雅は聞いておきながら、興奮の余り聞こえて無いようだ。


「どうよ!?」


 早速頼雅はサングラスを装着し、近場にあった石に片足をかけ、美空の渡した日本刀を肩に担ぐ。


「「「おぉ~~~~!!!」」」


 和人と遥と美空が拍手する。

 慎太郎だけがついて行けていない。


「やべぇ……テンションブチ上がりだわ……」


 わなわなと震えながら頼雅は拳を強く握る。


「三田君、魔法適正何だっけ?」


 和人が期待を含んだ目で尋ねる。


「風と土だ。あ、主釣った時なぜか火もついたな。」

「ウーパールーパー等のサンショウウオ系って、英名ではサラマンダーと呼ぶんです。だからじゃないですか?」

「美空って変なこと知ってんな。で、それがどうかしたか?」


 本気で不思議そうな頼雅に、和人は我に秘策ありといった表情を向ける。


「出来るよ…ドリル!!」

「マジかあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 複合魔法を日々研究している和人が不敵な笑みを浮かべる。


「まず風魔法で、マンガみたいな小さい竜巻をイメージして。」

「おう。」


 頼雅の前に小さなつむじ風が出来る。


「イメージをそのまま、手に纏わせて。」


 つむじ風が頼雅の手を囲む。すでにドリルっぽい。


「その中に土魔法でたっぷりと砂を混ぜる!」

「ぬ…ぐ…!!」


 複合魔法は魔力消費が大きい。

 頼雅は歯を食い縛って耐える!


 シュィィィィィィィィィィィィィィッ!!!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 頼雅の右手がドリルと化す!


「ついでだ!火も追加しちゃおう!!」

「おうよ!!」


  頼雅がドリルに火の魔力を与えると、赤熱した真っ赤なドリルに変わった!

 まさに男の意地を貫き通すに相応しい造形だ!!


「すげえ…すげえぞ!!これこそ俺の必殺技だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 そう言って頼雅は高らかとドリルを天に向かって掲げた!!


『うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』


 熱くなりすぎた和人達は、睡眠中のメンバーに怒られてしまった。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 朝食を終えた一同は進行を再開する中、皆の視線がずいぶんと上機嫌な頼雅に集まる。

 やたらと尖ったサングラスをかけ、日本刀を肩に担ぎ、堂々と胸を張って歩く姿は、彼を知らない人間ならまず近付かないだろう。

 これからカチコミに行く鉄砲玉にしか見えない。


「なあ頼雅、それ何かのコスプレか?」


 恐れを知らぬマイペース、凪晴が興味無さげに聞いた。

「おう!俺の心の師匠、この世で一番最高の漢の姿よ!!」

「しかし今度はグラサンと日本刀か……」


 凪晴は聞いておきながら頼雅の言葉を流し、自分達の装備を見る。

 そのほとんどが美空の作ったジュラルミンやダマスカス製の装備だ。


「錬金術って何でも出来るんだな。」

「何でもは出来ませんよ。」


 凪晴の言葉を美空は否定した。


「鉱物ごとに錬成ポイントみたいなものがあるんですよ。それを超える書き換えは出来ないんです。そうでなければ合金なんて作らず、ただの鉄をこの世に有らざる硬くて軽い金属にしてますよ。」

「へえ……」


 凪晴の目が珍しく興味ありげになっている。


「皆さんの装備に使っているのは実際は超々ジュラルミンと呼ばれる物でして、アルミに対して、銅を1.6%マグネシウム2.5%亜鉛5.5%配合したものです。元のアルミの錬成ポイントを10、銅を20、マグネシウム8、亜鉛5とするならば合計43ですが、この配合で120まで増えるんです。単純に他の金属の錬成ポイントを足した数ではないんですよ。」

「難しいもんだな。」


 二人の会話をみんなが興味深く聞いている。


「そしてそれを武器等に加工した時に、まず武器の種類にもよりますが、大きくポイントが減ります。残ったポイントでその武器の基本値が決まるのですが…少し手斧を貸して貰えますか?」


 言われるがままに、凪晴は美空に手斧を渡す。


「……切れ味を最大にしました。ちょうど魔物が来ましたね。ナギ君、あのビッグスケイルリザードを攻撃してください。」


 ビッグスケイルリザードは、鱗の一枚一枚がやたらとデカくて硬いトカゲ型モンスターだ。

 体長は1m程なので然程スケールはデカくない。

 凪晴は他の魔物は仲間に任せ、一直線にビッグスケイルリザードに斬りかかった。


「よっと!」


 まるでトコロテンでも切るように、ビッグスケイルリザードは真っ二つになった。


「おお、凄え……って、あれ?」


 丈夫なはずのジュラルミンの手斧が、たった一撃で刃こぼれしてぼろぼろになっていた。


「こんな風に、切れ味上げると強度が落ちちゃったりするんですよねぇ……」

「そう言う事は先に言ってくれ~~。」


 動きこそ慌てて曲刀に持ち代えた凪晴が、緊張感の無い間延びした声で言った。


「聞かれなかったので。」

キャラ紹介


駿河和人

4月12日生まれのB型 身長158㎝ 体重48㎏

髪を頭の後ろで縛っているがお洒落では無く、床屋に行くお金をグッズに使うため、適当に伸びたら自分で切っている。

誕生日は円谷プロの創立日。

名前の由来は作者が物語シリーズの神原駿河が好きなため。略してスルトになったのは全くの偶然。


山崎遥

6月8日生まれのO型 身長156㎝ 体重44㎏

作中でも三つ編みについて触れているが、こちらの理由も和人と同じ。

誕生日は東映の創立日。

名前の由来は特に無し。

基本的に登場人物にはいそうな名前を付けている。

同名の声優さんがいたのは全くの偶然。

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