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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
32/71

対決

 男は絶望の底にいた。

 突如として襲いかかって来た集団に、自分達は為す術もなく敗れ、自由を奪われた。

 一人は魔法で眠らされ手足を縛られている。

 あと二人は鈍器で殴られ気を失い、同じく手足を縛られている。


 ―こいつらはまだいい、これを見ないで済むのだから。なのに何故、俺は意識を失って無いんだ!?―


 一人は首の血の管を切られ、逆さ吊りにされている。

 一人はすでには殺され、腹を裂かれ、その身をバラバラに切り裂かれている。

 目の前で行われている悪魔の所業を目にし、恐怖の余り男の目から涙が溢れる。

 凶悪な面構えの男に的確に四肢の健を切られ、意識を保ったまま身動き一つ出来ない男は、発狂しそうな精神で願った。


 ―頼む!次は俺にしてくれ!!もう沢山だ!!早く俺を殺してくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!―


 その時、全身黒ずくめの女が目の前に立ちはだかり、邪悪な笑みを浮かべて男を見下ろした。

 その笑みは、間違い無く男の絶望する様を見て楽しんでいた。

 あまりの恐怖に男の精神がついに限界を超え崩壊し、悲痛な叫びが辺りに響き渡った………


「プギイィィィィィィィィィィッ!!!」



 ごすっ



 理亜は豪快なゴルフスイングで、鳴き喚く豚野郎の頭を殴り飛ばし失神させた。


「理亜、どうしました?」

「別に?喧しい豚野郎を殴って黙らせただけよ?」


 理亜はとても満足そうな笑みを浮かべて振り返った。

 しかし手にした杖の先は、魔法で眠っている豚野郎をツンツンしている。

 まるで起こそうとしてるかの様に。


「???はあ…そうですか。」


 美空はそれに気付く事も無く、精肉作業に戻る。


「それ水に沈めたら次お願いしますねー!解体は一匹ずつ丁寧に、迅速にですよー!苦労した分美味しいお肉になりますからねー!!」

『あいよぉッ!!』


 料理出来ない組が解体作業に徹し、料理出来る組が精肉作業に徹している。

 少し早いが野営の準備をして、思う存分豚野郎を味わう事になったのだ。


「はぁ~~……楽しみですねぇ~~。」


 美空が精肉するすぐそばでは、あのハンティングゲームよろしく、悟が焚き火の上で豚野郎の太腿の肉を回転させている。

 彼は別に料理が出来るわけでは無いが、何となく似合っているのでこの作業を任された。

 その隣では、以外にも料理出来る組の頼雅が、スペアリブに切り込みを入れ、塩、胡椒、ハーブを揉み混んでいる。


「これで不味かったら絶滅させてやりますよ。」


 美空はその味に期待を膨らませ、よだれを垂らしながら一人呟く。

 その言葉を聞いた理亜は、哀れにも目覚めてしまった豚野郎の耳元で、ぼそぼそと何か囁いた。


「ぶきいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 ごすっ


 その目に涙を浮かべて騒ぎ出した豚野郎の頭を理亜は再び全力で殴り飛ばした。


「理亜、さっきから何をしてるんですか?」

「ん?いくら魔物でも、目の前で仲間が解体されるこの状況は可哀想じゃない?だから不幸にも意識を取り戻した豚野郎を殴って意識を飛ばしてあげているのよ。」


 振り返った理亜は息が荒く、頬を赤く染め、恍惚とした笑みを浮かべていた。


「そうなのですか、理亜は優しいですねぇ。」

「けどその豚、魔法で眠らせたの貴女よね?何で殴ってるの?」


 理亜を全く疑わない美空の隣で、葵が顔を引き吊らせている。


「これから野営だといっても魔物が休む訳じゃないわ、魔力は温存するべきよ。」


 そう言って理亜は、豚野郎を殴り飛ばした杖を抱き、うっとりとした顔で頬擦りした。


「やべえよ……コイツ真性だ……」

「ああ……ぶん殴るのはただのついでだ、精神を完全に破壊することを心から楽しんでいる。」


 頼雅と悟が顔を青くしながら小声で話している。


「美空、ハツとレバーの血抜き終わったよ。」

「ありがとうございます、ああ….あの見てくれからは想像出来ない綺麗な内臓…絶対塩だけでも美味しいですよぉぉぉぉぉ……」


 和人が持ってきた内臓を見て、よだれを垂らしながらうっとりする美空。


「こっちも大分ぶっ飛んでるけどな。」

「ああ、そもそも魔物食おうって言い出したの美空だもんな。」


 頼雅と悟が疲れた目で美空を見た。


「プギイィィィィィィィィィィッ!!!」


 ごすっ


 響き渡る豚野郎の鳴き声と、その後に続く鈍い打撃音、二人はもう振り返りもしなかった。


「全部やる気だな……」

「ああ……」


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 太陽が落ちかけた頃、辺りに香ばしい匂いが立ち込める中、慎太郎達は焚き火を囲んでいた。

 並べられた2.5mの豚野郎一匹を全て使った肉料理の数々を前に、今か今かとデカいスペアリブを片手に待つ一同。

 慎太郎がいただきますの音頭をとる前に話始めた。


「みんな!おっさんオークにがっかりさせられて一度諦めた肉が今やっと食える!この豚野郎…?あれ?美空、この魔物何て名前だ?」

「ポオークです。」

「何の捻りも無いわね…」

「鑑定さんに言って下さい…」


 相変わらず簡潔な葵の突っ込みに、美空が遠い目をして答えた。


「では!ポオークに感謝を込めて、いただきます!!」

『いただきます!!』


 全員一斉にデカいスペアリブにかぶり付いた。


 ほとばしる肉汁と脂、柔らかいが確かな噛み堪え、いかにも肉食ってるという充実感!!


『うめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』


 一同が狂喜乱舞する中、頬をいっぱいに膨らませ、感動の涙を流す美空。


「ああ……この圧倒的なお肉感、想像以上です。早くお味噌や醤油が欲しいですねぇ、生姜焼き、豚汁、味噌焼き、もつ煮込み…」


 ぶつぶつと美空が念仏のように夢想するその隣で、遥も涙を流していた。


「ハツが…ハツが…」


 それしか言わないが、その表情は幸せそのものだ。

 全身に脂の乗った豚野郎の体の中で、絶えず運動を続け、唯一脂がほとんど無い部位。

 ぷりぷりざくざくの歯応えの先にある、圧倒的濃縮感の旨味の爆弾!

 美空もハツを噛み締めしばし悦に浸る。


「おい和人!このレバ刺凄いぞ!?お前も食ってみろよ!!」


 興奮した慎太郎が、思わずレバーを摘まんだ箸を和人に差し出す。


「んっふうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」


 和人はそれを躊躇無く口にすると、一瞬で恍惚の表情を浮かべた。

 美空の鑑定によって寄生虫、感染症の心配が無い事が確認されたレバーは刺身でも提供された。

 一瞬のサクッとした食感、次の瞬間には溶けて口の中にまんべんなく広がり、旨味だけを残し、臭み一つ残さず喉の奥へと消えて行く。


「美味しいデスか?和人君。」


 涙を浮かべて悶絶する和人に、エイミが微笑みかける。


「うん!凄く美味しいよ!エイミはどう?」

「ええ、とてモ美味しくイタダいてマスよ?」


 同じデカいスペアリブを手づかみで食べているというのに、何故かとても優雅で上品に見える。


 ―同じ人間なのにこの差は何だろう?―


 と、本気で和人が思いながらホルモン炒めを口にした。

 ぷるぷると口の中を暴れながら、サラサラとした甘い脂を撒き散らす。

 コリコリとした皮を噛み締めると、口の中は脂と旨味で支配されるが、クドさは全く感じない。

 再び悶絶する和人。


「慎太郎これ!これ!!」


 語彙力が低下した和人が慎太郎に箸を差し出す。


「もがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


 それを食べた慎太郎が奇声と共に仰け反る。


「ああ…本当にとてモ美味しいデスねェ……ゴハンが欲しいデス。」


 そんな二人を見ながら、エイミがハツを噛み締めていた。


 ―こいつらは本当に仲良いな―


 遥はそう思いながら何となく辺りを見回した。

 ゆかりが見た事も無い穏やかな表情で和人を見詰めている。

 しかし、遥の視線に気付くといつも通りの表情に戻り、黙々と肉を食い始めた。


 ―今のどう見ても和人が好きって目してたけど、でも美空は違うって言ってたし…解らん!もう直接聞こう!―


 遥は決意と共にスペアリブを噛み締めた。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 その夜、三隊交代で見張りを立て、皆が休む中、見張り中のゆかりは火の番をしていた。


「秋山さん、少しいいかな?」


 遥はにこやかにゆかりに声をかけた。

 ゆかりは遥を面倒臭そうに一瞥すると、すぐに焚き火に目を戻した。


「休める時に休まないと、みんなに迷惑かかるわよ。」


 にべもない言葉にたじろぎそうになる遥だが、何とか踏みとどまる。


 ―諦めるな!諦めるは特オタとして一番恥ずべき行為だ!―


 ヒーローにとって一番あってはならない言葉。

 それは諦める。

 遥は幼い頃に和人と語り合ったヒーロー三原則を思い出す。


 逃げない、見捨てない、諦めない!

 ヒーローは決して逃げない!目の前の強敵から、自分の弱さから!

 ヒーローは決して見捨てない!護るべき者達を、共に戦う仲間達を!

 ヒーローは決して諦めない!明るい未来を、自分の勝利を!


 尚、負けないが入らないのは、敗北を知ったヒーローは、諦めない限り更なる強さを手にいれるという、二人の熱い思いからだ。


「解ってる…だから少しだけ…ね?」

「………好きにするといいわ。」


 許可を得た遥は、火を挟んでゆかりの向かいに腰を降ろした。


「秋山さんは和人が好きなの?」


 聞くと決めた以上、遥は正面からぶつかることにした。

 心の中の遥が音○弦を振りかぶり、ゆかりに斬りかかる。


「ずいぶん直球ね、好きか嫌いかなら好きな方よ。でも特別な好きではないわ。」


 顔色も表情も変えず、ゆかりは淡々と答えた。

 心の中の遥の攻撃は、ゆかりに難なくかわされた。


「なら特撮が嫌いなの?」

「別に…特撮そのものを気にしたこと無いわ…」


 特撮なんか気にしたことも無い。

 ゆかりの言葉は刃となって、心の遥を切り刻む。

 心の中の遥は、音○弦を盾にゆかりの双剣に耐える。


「じゃあ何で私を睨んでくるのかな?私、あなたに何か悪い事でもした?」


 心の遥が再び音○弦を手にゆかりに立ち向かう。

 その時ゆかりの目付きが変わった。

 時折遥を睨み付けるあの目に……


「したんじゃない、してるのよ……」


 心の遥とゆかりが激しく鍔競り合う。


「私はあなたが嫌いなの。解らないの?」


 ゆかりの目が憎々しい者を見る目に変わる。

 遥はその視線を真っ向から受け止めた。


「心当たりが無いわ。ただ睨まれても気分が悪いから、理由を聞かせてくれない?」


 心の中で激しい剣撃が打ち合わされる!


「あなたがオタクだからよ!」


 心の遥がゆかりの剣撃で打ち飛ばされた!


「気分が悪いのはこっちよ!目障りなのよ!なんなのよ!?高校生にもなって、小さい男の子が視るようなものにキャーキャー騒いで!みっともないと思わないの!?恥ずかしいと思わないの!?オタクならオタクらしくコソコソしてなさいよ!!」


 ゆかりはいつの間にか立ち上がり、一気に捲し立てると、肩で息をしながら遥を憎悪の目で見下ろした。


「………しないよ。」


 心の遥は音○弦を杖に立ち上がる!


「みっともないなんて思わないし、恥ずかしいとも思わない。だから私はコソコソなんてしない!好きなものを好きと言って何が悪いの!?」


 遥は凛とした表情でゆかりの憎悪の視線を正面から受け止める!

 心の中で再び二人が剣撃を合わせる!


「何で…何でそんな目をすることができるのよ!!?オタクのクセにふざけんなよ!!」

「オタクにだって矜持がある!!」


 遥が立ち上がり叫んだ!

 心の遥がついにゆかりを打ち飛ばした!


「特撮は何時でも私を支えてくれた!何時でも私に勇気をくれた!私の大好きなヒーロー達は、どんな時でも諦めず、前を向いて戦って来たんだ!私はヒーロー達に生き方を教えて貰ったんだ!私が恥ずかしいと思ったり、コソコソするということは、何時でも全力で戦ってきたヒーロー達を否定することだ!私自身を否定することだ!そんな事ができる訳が無い!!だから私は胸を張って、特撮が大好きだと言うんだ!特オタであることを誇りに思うんだ!!」


 遥は凛とした表情を崩さず、ゆかりから目を反らす事無く言い切った。

 しばしの間、二人は睨みあう。


「そんな所が…本当に嫌いなのよ……」


 ゆかりは一瞬悲しそうな目になり、遥から視線を外すと、再び腰を降ろした。


「もう話す事なんか無いわ…やっぱりあなたとは仲良く出来そうに無いから、さっさと寝て……」


 どこか悲しそうな声で、ゆかりは会話を打ち切った。


「……おやすみなさい。」


 遥はゆかりに背を向けた。

 当然返事は返って来ず、ただ焚き火のはぜる音だけが響いていた。

本筋に関係の設定


聖女の番剣 ケルベライガー


和人と遥の激推し深夜特撮。全25話


魔界の最強騎士、ケルベロス。

騎士団長として順風満帆の生活をを送っていたが、ある日冤罪により全てを剥奪される。

しかし、それまでの功績を考慮された結果、死刑は免れ人間界に追放される事となる。

やさぐれた彼が人間界を彷徨っていた際に偶然出会った盲目の少女、十文字聖歌と成り行きで行動する事になるが、彼女は唯一魔王を封印する事が出来る聖女だった。

彼女を始末するために差し向けられた弟、オルトロスに向かい刃を向けるケルベロス。

「これはどういう事ですか兄上、裏切るのですか?」

「俺はとっくに裏切った事になってんだろ?だから邪魔してやるのさ。てめえらのやる事成す事全てをな!!」

切欠は自分を棄てた魔界への嫌がらせだった。

しかし、聖歌との絆を深め、彼女への愛を自覚した時、彼は神に選ばれし戦士、ケルベライガーへと生まれ変わる!

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