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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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この豚野郎!!

「さて、出発しよう。」


 食休みを終えた一同は進行を再開する。

 美空によって補強された吊り橋は、もはや全員で乗ってもびくともしない。

 まず壁の向こうに溜まった魔物を、和人がノーコストで放つ、本日大活躍中の鮫の群れが噛み砕く。残った魔物を、理亜があらかじめ作っておいた、魔術付与された巻物で焼き払う。


「ゲスい……」


 思わずゆかりがこぼしたが、理亜は何処吹く風といった表情だ。


「別に私達は自分のスキルを有効に活用しているだけよ。ねえ和人?」

「あ、うん…そうだね……」


 さっきから幾度と無く、鮫に魔物を食わせ続けてきた和人の瞳から光が消え、精神的にかなり落ちていた。

 ぼんやりとした和人を見て、苦笑いを浮かべた慎太郎がストーンウォールを解除する。

 対岸も同じ様な平地になっており、鏡写しのような坂道がある。

 坂の手前がそこそこの範囲でぬかるんでいるが、それ以外問題はない。

 慎太郎が足を踏み出そうとした時、美空がそれを止めた。


「ちょっと待って下さい。エイミ、あの泥溜まりを浄化して貰えますか?」

「解りまシタ。少し待っテ下さいネ。」


 目を閉じて祈り始めたエイミは、神々しいまでに美しく見える。

 数名の男子が見蕩れる中、エイミがスキルを発動した。


「聖光!」


 泥溜まりが光に包まれ、一瞬で干からびる。


「【泥悪魔(マッドデーモン)】。泥に擬態し、触れた者から生命力と魔力を掠め取る、セコい低級悪魔です。」


 美空の説明に、葵が微妙な顔をする。


「その名前、大丈夫なの?」

「私は鑑定さんをを読んだだけです。文句は鑑定さんに言って下さい。」


 葵の問いに、美空も微妙な顔をして答えた。


「和人君、やりまシタ!チャンと発動しまシタヨ!」


 エイミが嬉しそうに和人に駆け寄る。


「良かったねエイミ。ところで、何に祈ったの?」

「ホ○ゲ様デス!」


 エイミの口から出た意外な言葉に、和人は耳を疑った。


「へ?今何て言ったの?」

「ホ○ゲ様デス、好きなんデスヨ【ナ○ト】」

 ―神様どころか仏様ですらない!?そんなんでいいのこの世界!?―


 嬉しそうなエイミに微笑み返す和人だったが、その目は何処か遠くを見ていた。


 慎太郎達は隊列を組んで坂道を登り始めた。

 そして坂の中腹辺りに来た時、先程美空が示唆した事が早くも現実となった。

 坂の上から数匹のオークが顔を見せたかと思うと、巨大な岩が転がって来たのである。


『のわあぁぁぁぁぁッ!?』

「あ、大丈夫ですよ。」


 みんなが叫びを上げる中、美空が前に出て地面に手を置くと、目の前に岩よりも巨大な穴が空いた。

 岩はその穴にすっぽりと収まり、次の瞬間には元の坂道に戻る。

 そして美空は愛用の二挺バイ○ソードを抜くと、二つを連結させた。

 新機能、狙撃(スナイプ)モード!

 特オタ二人の目がキラッキラだ!!


「Blessed be the Lord my strength, which teaches my hands to the war, and my fingers to fight.」


 美空はそう呟くと、はるか坂の上のオーク達の眉間を全て撃ち抜いた。


「では行きましょうか。」


 立ち上がり笑顔で振り返る美空に、みんなが何とも言えない視線を注ぐ。


「うん、誤差も無さそうね。これなら完成と言ってもいいかしら。」


 そう言って理亜が美空に歩み寄った。


「はい、全て理亜のおかげですよ。」

「私はあんたのアイディアを手伝っただけよ。」


 そう言って二人はハイタッチする。

 どうやら美空の妙な発明は、理亜が一枚噛んでいたらしい。

 美空はバイ○ソードを魔力回路と言っていた。

 錬金術だけではそこまで出来ないので、細かい所は理亜に頼んでいたらしい。

 美空と理亜が特オタの友人を喜ばせるためだけに造った技術、この世界の新しい学問、魔術工学はこうして誕生した。


 閑話休題


 進行を再開した中、慎太郎が美空に話しかける。


「さっき狙撃する前に英語で何か言ってたみたいだけど、何て言ってたんだ?」


「主よ、どうか我が手と我が指に戦う力を与え給え。プラ○ベートラ○アンです。」

「そういうのいつも日本語でやってたろ。何で急に英語?」

「なんだ慎太郎、俺は英語はさっぱり解らねえけど、その理由くらいなら解るぜ?」


 頼雅が会話に割って入ってきた。


「何故なら、その方がカッコいいからだ!!」


 そう言って頼雅は力強く親指を立てた!


「ブラボーです!」


 美空も力強く親指を立てる!

 この二人は妙なところで気が合う節がある。


「聞いて損した……」


 その下らない理由に慎太郎が溜め息を吐いた時、今度は下からオークの小隊が駆け上がって来た。


「美空たの…」

「大丈夫よ。」


 慎太郎の言葉を遮って理亜が殿に出る。

 しかし、出ただけで何もしようとしない。

 一同が痺れを切らし、武器を構えようとした時、突如オーク達の横の崖に魔法陣が浮かび上がった!

 突然現れた巨大なゲンコツがオーク達を襲う!!


 どごっ


 殴り飛ばされたオーク達は、はるか下の崖底に落ち、川の流れに飲み込まれて行った。


「さ、行きましょう。」


 振り返り進行を促す理亜に、皆が唖然とした表情を向けている。


「いや…あんな危険な物放置しちゃ駄目だろ?」


 殿を任されていた悟が引き吊った顔で理亜に言う。


「問題ないわ、私に対する敵意や悪意に反応して発動するようにしてあるから、だから見える位置に出たのよ。そういった意思があれば、貴方達でも発動するわよ?気を付けてとは言わないけどね。ちなみに向かいの崖にも設置してきたわ。」

「……ところであれって何の手なんだ?」


 引き吊った顔で慎太郎が理亜に尋ねる。


「世の中には知らない方が幸せな事もあるわよ。」

「………そうか、じゃあ行こうか。」

 ―何かこのチームの女子ってクセが強い気がする……―


 そう思いながら、慎太郎は進行を促した。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 途中何度か魔物が現れたが、美空の狙撃と理亜の魔法陣で近づく事すらなく終わる。

 坂道を登り終えた一同の前には緩やかな傾斜の草原が広がっていて、遠くに行く程緑は減り、その遠く先には小高い岩山が点在する荒野がぼんやりと見えた。

 草原は所々岩や背の高い木が生えているが、かなり見通しが良く、魔物がうろうろしているのが丸見えだ。

 そしてこちらから丸見えという事は、魔物からも丸見えという事である。

 早速こちらに気付いたゴブリンと一回り大きいホブゴブリンが向かって来たが、やはり美空に狙撃されて終わった。


「草原の先もどう見ても厄介な感じがするよな、街が孤立するワケだ。」


 慎太郎が辺りを見渡して頷いた。


「しかしよ、何でそんな辺鄙な場所に街なんて作ったんだろうな?」

「多分これのせいですよ。」


 英一の疑問に、美空は今自分達が越えて来た大地の裂け目を指差した。


「この渓谷が土の魔王の影響で出来たというなら、ある日突然出来た筈です。それで街が切り離された、もしくは取り残された人達が集まって街を作ったんでしょう。そして海に面して街を作れば、魔物の襲撃は陸だけ気にしてれば済みますし、海産物を手にする事も出来ます。」


 美空の説明にみんなが納得し歩き出した。


「美空、狙撃は控えてくれ。戦闘経験はどんどん積んだ方がいい。この見通しなら敵が来てもすぐ解るだろうしな。」

「解りました……ん?」


 慎太郎に言われバイ○ソードを仕舞った美空が

 遠くを細目で見詰め、まいるーむから双眼鏡を取り出し覗き込む。


「そんなまさか……双眼鏡越しでも鑑定出来ますかね……おおおおおぉぉぉ!?」


 何やら一人で盛り上がる美空を、みんなが不思議そうに見る。

 双眼鏡をおろし振り返った美空は、興奮した表情で見ていた方向を指差した。


「豚野郎!皆さん豚野郎です!!」

「「喧嘩売ってんのか!?」」


 がっちり太めな悟と、全くそんな事無いのに気にしすぎな葵がちょいギレする。

 そんな二人の視線を受け流し、美空は嬉しさと興奮を交えた顔で、両拳を胸の前でぶんぶん振りながら声を上げる。


「違いますよ!オークです!!私達がよく知る方のオークがいたんですよ!!ばっちり食用可能です!!」

『何いィィィィィィィィ!?』


 一度はがっかりさせられたオークの存在だが、おっさんオークとは違う豚野郎が発見された!

 一同のテンションがブチ上がる!!


「いくぞみんな!!今夜はスペアリブだ!!」

『シャァァァァァァァッ!』


 慎太郎の号令でみんなが駆け出した。


「山崎!何か速く走れる歌とかねえのか!?」

 結構な距離にもどかしさを感じた頼雅が遥にリクエストする。


「あいよ!!Go for it!go!go!go!go!」


 遥が歌い出した曲を聞いた一同は首を傾げた。

 かなりポップでノリが良く、歌詞も特ソンらしくない。

 全員の移動速度と持久力がアップする。


『特ソン以外も歌えたんだ…』


 走るスピードがどんどん上がる中、みんなそう思った。

 遥の歌がサビに入る。

 鉄道のキャンペーンソングだろうか?

 風のような速さで走る中、みんな普通の良い歌と認識し、気持ち良さまで感じている。

 豚野郎はもうすぐそこだ!


「烈○戦隊発車オーライ!トォッ○ュウゥジャーーー!!」

『そうだよね!?やっぱりそれも特ソンだよね!!??』


 前衛が豚野郎に斬りかかるのと、遥への突っ込みは同時だった。

 当然だ!40タイトル以上もあれば、こういった曲も存在する!

 ましてや戦隊モノはその時代に合わせ、流行りを取り入れ進化して行くのだ!!

 烈○戦隊トッ○ュウジャーの歌には、平和や勝利等といった特ソンキーワードが最後まで入っていない、極めて稀な曲だ!


「「ブゴオォォォォォォォッ!!!」」


 豚野郎は総勢六匹、斬られた二匹の豚野郎が怒りを露にする。

 軽く出血しているが、ダメージは然程では無いらしい。


「くそ!脂肪が厚いな!」


 吐き捨てる様に言う慎太郎に、祐司が生唾を飲み込む。


「脂が乗ってる?結構じゃないか。むしろウェルカムだぜ!!」


 みんな目がギラついている。

 一度は諦めてしまった異世界代表の肉だ。

 是非も無し!!


「冷静になって下さい。血抜きがあるんですから、即死はダメです。半殺しですよ?欲を言えば一撃で意識を飛ばすのがマーベラスです。」


 冷静どころか冷徹な声が響き渡る。

 声の主、美空は声とは裏腹に、誰よりもギラついていた。

 まるで死ぬ直前の雷○のようだ。

 メシ食わせろォォォォォォォォォッ!!!

 と、言わんばかりである。

 その表情は、敵味方問わず怯えさせるには十分だった。


「遥…ガオ○ンジャーお願いします……」


 今にも食らい付きそうな目で、美空は遥にリクエストした。


「ひぃ………ガオォォッ!飛び掛かれぇぇっ!ガオォォッ!食らい付けぇぇっ!」


 遥が涙目で歌い出した。

 みんなの野性が呼び覚まされる!!心臓が力強く脈打つ!!

 攻撃力が爆発的に上がる!敵を威圧する気合いを放つ!!

 もはや目の前の豚野郎共が旨そうな肉の塊にしか見えない!


『狩りじゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』


 皆が目の色を変え、怯え戸惑う豚野郎共に飛び掛かって行った………

本筋に関係の無い設定


幻想戦隊 セイレイジャー


和人の住んでいた日本で放送されていた戦隊モノで、シリーズ史上初の女性レッドが話題を呼んだ作品。


ソロ登山ガール、萬田沙羅が訪れた休火山で出会った火の精霊に、人間界と精霊界を救って欲しいと願われる事から始まった物語。


セイレイレッド サラマンダー、セイレイブルー ウンディーネ、セイレイブラウン ノーム、セイレイホワイト シルフ、セイレイグリーン ドリアードの五人で構成される。


オモチャの都合上、ロボのモチーフは二足歩行型ドラゴン、マーメイド、イノシシ、ハヤブサ、オランウータンとなっている。

ノームとドリアードの意匠がどうしても精霊寄りに出来なかったらしい。


和人が異世界に召還された週、丁度追加戦士であるセイレイゴールド ルナ(月)のロボが初登場する予定だった。

ちなみにモチーフはウサギ。


尚、一部では萬田沙羅という名前が先でセイレイジャーに決まったのではいかと言われている。

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