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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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無制限一本勝負!

 坂道を下りきり、まず目に入ったのは、崖の壁面にめり込んだ、青紫に染まった血生臭い石柱。

 それを見た一同はなんとも言えない気持ちになる。


「美空…今後ここを通る人達のためにも、それを処分してくれ。」

「わかりました。」


 慎太郎にお願いされた美空は、まるで引き出しでもしまうかの様に、石柱を崖の中へ押し込んだ。

 改めて辺りを見渡す。

 幅8m、奥行き20m程の平地になっている。昔の冒険者達は、ここで休みながら橋を架けたのだろう。

 川幅はおよそ15mで高さはおよそ3m、そこそこ流れは早い。

 その上には、幅はそれなりにあるものの、古めかしくて頼り無さ気な吊り橋が架けられている。

 さりげなく慎太郎が遥を見ると、案の定、顔色を白くして涙目になっていた。

 慎太郎はそのまま流れる様に美空を見る。

 目が合った美空は、慎太郎の意思を汲み取り、軽く頷く。


「橋を渡れば次は登りだ。ここで少し休憩しよう。」


 慎太郎の言葉で皆が腰を下ろしたり、足をほぐし始める。

 そんな中、美空が吊り橋に近寄りその強度を確かめ始めた。


「みんなで渡るには強度が気になりますね。休憩と言う話ですが、私はこの橋の補強に当てさせて貰います。」


 そう言って、鋼糸とジュラルミンで補強を始めた。


「なあ遥、せっかく川があるんだし、勝負しないか?」


 そう言って慎太郎は、釣竿を振るジェスチャーをする。

 少し考え、気分転換になるかも知れないと思った遥は、勝負を受ける事にした。


「慎太郎…勇気と無謀は違うのよ?釣りスキルを持ち、称号:アングラーを持つ私に勝負を挑むなんてね……」


 左手で帽子を押さえ、右手でビシッと慎太郎を指差して遥は言い放った。

 その遥に、慎太郎は不敵な笑みを返す。


「残念だが遥…俺も釣りスキルは持ってるんだよ。後はどう見ても主が居るであろうこの川で、主を釣れば完璧だ!!」


 釣りが趣味の慎太郎に釣りスキルが付くのは至極当然の事だ。

 二人の間で火花がバチバチと散る。


「釣りか…主は釣って無ぇがスキルは俺もある。楽しそうだから俺も混ぜてくれよ?」


 そう言って、お祭り騒ぎと勝負事が大好きな頼雅が立ち上がり、手の平に拳を打ち付けた。


「勝負に興味は無いけど、さっきから河の主が語りかけてくる。私もやるよ。」


 神戸理亜も立ち上がる。

 オカルト研究会の彼女は、しばしば不思議な事を言う。

 ひょろ長い体に地味目の顔立ち、腰まで無造作に伸びた真っ黒な髪に、つばの広いとんがり帽子に漆黒のローブ、いかにも過ぎて逆に胡散臭い程に魔術師姿が似合っている。

 ちなみに愛想は割と良い。

 ほとんどの人間が魔法使えるのに魔術師って?

 と思うかも知れないが、魔法と魔術は別物だ。


 スキル:魔術 魔法陣や生け贄、魔石といった触媒を使うことで、人ならざる者の力を借りる事が出来る。


 これが魔術であり、特定の場所に設置したり、巻物や魔石に効果を付与して、他人が発動することが可能である。

 対して魔法は、本人の魔力や周囲の魔素を利用して、直接効果を発現するものだ。

 ついでに言うと魔法陣その物に魔術的効果は無い。それを仲介して別の存在の力を借りるのである。

 イオが獄炎の剣(レーヴァテイン)を放つ時に魔法陣が浮かび上がるのは、和人が内包したスルトの力を、より強力に発現させるためだ。

 決してサービス精神旺盛でノリのいい魔王が、演出のためだけに作り出している訳では無い。


「神戸さん、主はなんて言ってるの?」


 歌鈴が真顔で尋ねる。

 彼女は元々オカルトを信じないタイプだったが、自分自身が異世界に召還され、魔法も使ってしまっているので、180度考えを変えた人間だ。

 今だって本気で聞いている。


「海とかタコとか言ってるけど、よく聞き取れない。だから釣り上げて直接聞くのよ。」


 その言葉に周囲は驚愕した。

 みんな、また中二病が何か言ってるよwww

 くらいで聞いていたのだが、具体的な上に、現時点て関係の無い、予言めいた単語を口走ったからだ。


「ねえ理亜、あんた何か特別なスキルとか持ってるの?」


 仲が良い遥が理亜に尋ねる。

 何も特撮はヒーローばかりでは無い。

 ゴジラにガメラ、ウルトラ怪獣だって特撮だ。

 ちなみに和人の好みはゴモラとアンギラス、遥はべムスターとギロンである。その派生で遥と和人はUMAも大好きだ。

 美空も交え、モケーレ・ム・ベンベについて小一時間語った事もあり、三人は理亜と仲が良い。


「これ、意志疎通。人間以外の生物と言葉を交わすことが出来る。」


 理亜は遥にステータスを見せた。ユニークスキルでは無い、誰でも取得出来るらしい。

 あれば便利かも知れないと思った遥は、取得条件を知るため、美空を呼んだ。


「みそえも~ん、ちょっと鑑定お願~い。」

「どうせならそらえもんでお願いします。人を味噌ラーメン専門店みたいに呼ばないで下さい。どれどれ……」


 理亜のステータスを鑑定した美空は、一瞬大きく目を見開くと、すぐさま後ろを向いて歩きだしてしまった。


「え!?ちょっと待ってよ?」


 遥が慌てて美空に追い付きその顔を覗き込むと、美空は今にも溢れそうな程に涙を溜めていた。


「何!?どうしたのよ!?」

「取得条件がキツすぎます…」

「え!?そんなに難しいの?」

「いえ、簡単と言えば簡単です。危険もありません。でもひたすらキツいんです……」


 美空はそこで涙を拭い、その条件を口にした。


「人ならざる物に、五万回語りかける事です……」


 遥の両目から涙が溢れた。

 犬でも猫でもサボテンでもいい、言葉を返さぬ相手にひたすら声をかけ続ける……

 それを五万回……1日に20回声をかけたとしても、6~7年かかる取得条件を、理亜はクリアしていた……

 切なすぎる…寂しすぎる…悲しすぎる……

 遥は涙を拭い、理亜を抱き締めた。


「大丈夫…私達は友達だよ……」

「……私を戦災孤児でも保護したかの様な目で見ないでくれる?」


 理亜の光の無い目が虚空を見詰めた。


「さあ、遊ぼう!いっぱい楽しもう!!釣りをしよう!!」

「………まあいいけどね。」


 ぐいぐい引っ張る遥に、理亜はおとなしく従った。


「美空、私には普通の釣り針くれる?」


 釣りスキル持ちの三人がルアーを投げ始める中、理亜は美空から普通の釣り針を受け取った。

 その釣り針を自分の指に刺し、血を塗って何やらぼそぼそと唱え始めると、釣り針が青白く光り始めた。魔術付与である。

 理亜はその釣り針を糸に結び付け、餌も付けずに川へ投げた。

 一発ヒット!!

 驚く三人を尻目に、理亜は水魔法で流れを操り、魚とのファイトを楽しみもせず、淡々とリールを巻く。

 釣り上がった40cm程の魚を、土魔法と水魔法で造った生け簀に放り込むと、再び針を投げ瞬時に魚をヒットさせる。


「汚ねぇぞ!!何だよそのチート全開の釣りは!?」


 頼雅が堪らず抗議の声を上げる。


「勝負に興味は無いって言ったでしょう?私は効率重視でやらせて貰うから、三人で勝負してるといいわ。」


 そう言って理亜は二匹目の魚を生け簀に放り込み、再度針を投げた。


「くそ!あんなの釣りじゃ無い!!風情の無い作業に負けて堪るか!!」


 慎太郎が燃える。


「当たり前よ!称号持ちの私を嘗めるな!!」


 遥が意地になる。


「へっ!勝負事は不利な方がおもしれぇってもんだぜ!!」


 頼雅のエンジンがフルスロットルになる。

 爆釣モードに入った四人をみんなが応援する中、美空は橋の補強作業をしながら、新鮮な魚を使った昼ごはんのメニューを考えていた。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「ぬおぉぉぉっ!?来やがったぜぇぇぇぇッ!!!」


 生け簀が拡張され、川の生態系が心配になってきた頃、頼雅のロッドが折れそうな程にしなった。

 異常な早さで糸を吐き出すドラグ、引き摺られる足、間違い無く主の引きだ。


「くっそ~、先を越されたか~。」

「まあ、釣り上げるまで解らないけどね。」

「私は話を聞きたいだけだからいいけど。」


 慎太郎、遥、理亜は、頼雅の戦いの邪魔にならないよう、釣りを止めて下がった。


「これが主の引きか…上等だ!ガチンコ勝負といこうじゃねぇか!!」


 額に血管を浮かべ、顔を真っ赤にしながら頼雅が叫ぶ。

 縦横無尽に泳ぎ回る主に合わせ、頼雅自身も走り回り、お互いの体力を奪い合う。


「三田君、支援魔法かけようか?」

「要らねえ!!タイマンこそ男の勝負の醍醐味ってもんだ!!」


 和人の進言を頼雅は拒否する。


「別に主が雄って決まった訳じゃ無いと思うけど……」


 葵が呆れた声を出したが、熱くなっている頼雅には届かなかった。


「昼ごはん作りますね~。暇な人は魚の血抜きお願いしま~す。」


 美空が生け簀から魚を選び始めた。熱い男の勝負には全く興味が無いらしい。

 けっこうな量の魚を持って、いつの間にが設置された調理台へ向かって行った。


 頼雅が死闘を繰り広げ、美空が昼ごはんを作る中、料理の匂いに誘われたらしいオークやゴブリンが襲って来たが、慎太郎達は危なげ無くそれらを退治する。

 後々面倒だと思った慎太郎は、自分達が下りてきた坂道と、橋の対岸をストーンウォールで封鎖した。

 和人は今、壁の向こうに溜まった魔物を、ノーコストで放つ鮫の群れに食わせている。


「中々ゲスいわね和人、この落とし穴に落ちた相手に煮えた油をかける様な行為。嫌いじゃ無いわ、少し見直したわよ?」


 理亜は和人の傍らで、その行いをにこやかに頷きながら見ていた。


「そんな事で見直されたく無いし、ゲスいとか言わないでよ。僕はただ、空いた時間と自分のスキルを有効に使ってるだけだから。」


 出発する時には壁を撤去しなければいけない、その時には溜まった魔物も倒さないとならない。

 その時に大群にならないよう、間引いているのだ。

 ノーコストで安全圏から攻撃できる和人にうってつけの作業なのである。


「そんな事より、そろそろ主が上がりそうだよ?話聞くんでしょ?」


 見ると頼雅と主の戦いは終局を迎え、高さのある川岸に主の巨体を引き上げる作業が難航している所だった。


「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 手に厚く布を巻き付け、その上から主に繋がる糸を巻き付けた頼雅が、気合いだけで引っこ抜く。

 激しい水飛沫と共に現れた主の姿。

 黄金に輝く3m近い……


『は……?』

「なんだこれ……???」



 ウーパールーパー



 地面に叩き付けられぐねぐねともがく主。

 みんなが目を点にして固まる中、理亜が主に近づき語り掛ける。


「あなたが主で間違い無いわね?それで、海とかタコとかって何なの?」


 理亜の問いに対し、主はんぱんぱと口を動かす。


「そう……ありがとう。お礼にあなたは川へ帰してあげるわ。」


 そう言って理亜は土魔法で傾斜を作り、主を川へ戻した。


「あぁ!?てめえ何してんだ!?」


 苦労して釣り上げた頼雅は当然怒る。


「別にわざわざ主を食べないでも、魚は沢山釣ったからいいじゃない。て言うか食べる気だったの?それに身重な体で釣り上げられながらも、ちゃんと問いに答えてくれた彼女を殺そうというの?」


 それを聞いた頼雅の目が点になる。


「彼女?身重?」

「あの主は雌で産卵直前よ。」


 頼雅はあぐらを掻き、天を仰ぐ。


「……なら仕方ねぇか!!」


 一本気な硬派ヤンキーだった頼雅は、女子供、老人に対し、とても親切なのだ。

 特に妊婦や老人を電車で見かければ、必ず席を開ける。

 譲るでは無く開ける。

 疲れた顔して気付かないふりしてるサラリーマンにメンチ切って開ける。

 大股開いて我が物顔で席を数人分占領しているヤンキーをぶん殴って開ける。

 一度それでチンピラヤクザをタコ殴りにし、事務所沙汰になったが、大勢の組員に囲まれながらも物怖じせず、


「俺は何も間違っちゃいねえ!目の前の妊婦に席も譲れねえ若いのを育ててる、あんたの躾がなっちゃいねえんだ!」


 と組長に言い放った事で、逆に組長に気に入られた程の気骨の持ち主である。


「で、主は何て言ってたんだ?」


 晴れやかな顔で頼雅は立ち上がった。


「この先の町に行くなら気を付けなさい。八本足全てが大海蛇(シーサーペント)の、巨大なタコの魔物が住み着いている。船を出せば船ごと食われるだろう。陸に上げる手段が無いなら、手を出さない方がいい。よ。」


 理亜の言葉にみんなが青ざめた。


「何だよそれ…ほぼヤマタノオロチじゃねえか……」


 豪胆な頼雅も動揺を隠せないでいる。


「おかしいですね…そんな魔物が住み着いていれば、賞金首になっていてもおかしく無いはずです。私の記憶にありません。」


 美空が両手の人差し指を頭に当てる、どっかで見たポーズで記憶を掘り返している。


「サークは陸の孤島みたいな場所だからな。海路を絶たれて情報が届かなくなったんじやないか?」


 慎太郎の推測に、美空は納得する。


「そうかも知れませんね。ならば、今私達が出来ることは一つです。」


 皆が美空に注目し、次の言葉を待つ。


「ご飯にしましょう。」


 けろりとした美空の笑顔にみんなが呆れた目を向ける。


『本当にブレねえなコイツ。』


 次の瞬間には呆れは苦笑に変わり、落ち着きを取り戻した一同は、フィレオフィッシュサンドと、塩バター鍋に群がっていった。

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