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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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御令嬢のお悩み相談

頭の中でできてる話を正確に文章にするのって、本当に難しいです…複数の話を同時に書いてる人達って凄いですね。

―クレイグキャニオン―


 北東の大陸にある大渓谷。渓谷(キャニオン)と名付けられているが実際はクレバスに近い。

 河の流れによる侵食によって出来たものでは無く、その昔、土の魔王ティアマトの影響により出来たと言われる。

 別名、【大地の傷痕】

 深さ60m、幅80mにも及ぶ大渓谷が大陸をすっぱりと分断しているので、実質これから和人達が向かうサークは別の大陸と言っても過言ではない。

 ここを越えるには、一度谷底へ降りる道しか確立されておらず、幾度と無く、橋の建設も試みられたが、魔物による妨害や、資金、労働力等の理由で一向に進捗が無い。

 クレイグとは、数十年かけて崖を削り、その道を完成させた冒険者一団のリーダーの名前だと言われている。



 慎太郎中隊は、今その大渓谷の上に立ち、谷底を見下ろしていた。


「話には聞いていたけど、とんでも無いな……」


 慎太郎が誰にとも無く呟く。


「落ちたら間違いな…」

「余計な事言うな、フラグになるぞ。」


 言わなくても良いことを言いかけた津村正洋を、玉置龍馬が止める。

 怖いもの見たさで崖下を覗く一同の後ろで、顔色を悪くした遥に、和人と美空が寄り添っている。

 遥は幼い頃、和人とヒーローごっこをしていた際に、ジャングルジムから落ちて以来、高所恐怖症になってしまった。

 和人は、そんな遥を見る度に責任を感じてしまっている。

 美空はそんな二人を見ているのが悲しく、遥は二人にそんな思いをさせていることを、申し訳無く思っていた。

 完全なる負の連鎖が出来上がっている。


「まあ、見ててもしょうがない、行こうか。」


 そんな三人に気付いた慎太郎が、進行の指示を出す。


 道幅はおよそ4m、なかなかゆったりと造られている。

 慎太郎は小隊を編成し、三列に並べ、前後に前衛、又は中衛を配置し進む事にした。

 さりげなく遥が壁際の真ん中になるように。


「しカし、凄いデスね。コレを今ホドの技術を持た無イ人達が造ッタなんテ。」


 兵藤・エクランド・詠美が改めて感心している。

 彼女は名前の通り金髪碧眼のハーフだ。

 元華族の家柄の父に、貴族の流れを組む母を持つ生粋のお嬢様で、どう見ても庭園の東屋辺りで、アフタヌーンティーを嗜んでいそうなビジュアルなのだが、和の心を重んじ、茶道部に在籍しているため【茶道部の御令嬢】と呼ばれている、和人達の高校の三大美少女の一人である。

 ちなみに三大残念美少女の筆頭が美空だ。


「冒険者って、魔物討伐を主とした何でも屋みたいな節があるけど、その人達は本物の冒険者だったんだろうな。」


 慎太郎の言葉に皆が感慨深く頷く。


 その時、下から向かって来る8体程の残念オークが見えた。


「戦闘準備!」


 慎太郎が真剣な面持ちで指示を出す。


「あ、必要ありませんよ。」


 美空が軽く答え前に出る。


「よっこいしょと。」


 美空は崖の壁面から、身の丈と同じ程の幅のある円柱を横向きに引っこ抜いた。


『は!?』


 細っこい腕で何tかありそうな石柱を引っこ抜いた事に、びっくりしている一同に美空は説明する。


「錬金術の本質は、鉱物の在り方を書き替えるです。便利な物がお手軽に造れるのは、その一端でしかありません。こう見えてこの石柱はとても軽くしてあります。」


 そう言いながら美空は道幅まで伸ばし終えた柱を、壁から切り離し押し出した。


「今、質量を元に戻しました。では行ってらっしゃいませ。」


 手を振って石柱を送り出した美空。

 勢い良く転がっていった石柱の向こうで上がる野太い悲鳴。骨が砕け肉が潰れる生々しい音。青紫色の血に染まり速度を上げる石柱。轢殺されたオークだった物達…


「では行きましょうか。」


 げんなりとして口元を押さえる者もいる中、美空は涼しい顔で進行を促した。


「お前…よくこんなエグい事思い付くな……」


 ヤンキー時代、相手の顔が解らなくなるほど殴り倒した事がある頼雅がドン引きしている。


「何言ってんです、アドベンチャー映画でよく見るじゃないですか。それにこれから私達にも起こることかも知れませんよ?ダンジョンとか魔王軍の拠点とかで。」


 美空はしれっと言ったが、その可能性は割と高めにあるのだ。皆が改めて気を引き締め、歩を進めようとしたが、満遍なく広がる残念オークだった物を見て躊躇する。


「ビ○チシ○ーク!」


 和人の放った土魔法の鮫の群れが、残念オークだった物を飲み込み、地中へ潜っていった。


「和人、有り難いけど魔力の浪費は避けないと…」

 慎太郎が和人に注意をするが、和人は溜め息で返す。


「みんな僕のスキル忘れてるよね?時間さえかければ、ノーコストで四属性魔法は使えるんだよ?」


 皆に衝撃が走る。

 初期設定がうやむやになることもある特撮の信者の癖に、律儀に初期設定を守っていたことに。


「でも何で美空のトンデモ魔法?」


 遥の問いに和人は笑顔で応える。


「出所はともかく、魔法として優れているからね。これ、地面から5m位の高さなら飛び付くんだよ。範囲効果として、凄く良くできた魔法なんだ。」


 ビー○シャ○クは直径5mの円柱型を範囲とする、物理性を備えた土魔法だ。範囲内に複数の対象がいれば満遍なく攻撃し、単体であれば、五~六匹が一斉に襲いかかる。


「そんなのいつ調べたんよ?あたしらずっと一緒だったじゃん?」


 遥の問いに対し和人が気まずそうな顔をしたので、美空がそっと耳打ちする。


「遥が三日目の時です。」

「あー…一緒じゃ無い日もあったねー…」


 遠い目をした遥を、クラスメイト達が『そんな日もあるんだ。』と、意外そうに見る。

 それ程二人はワンセットのイメージが強い。


「今くらいの魔法だと、3~4分の溜めが必要かな。美空が壁引っ張り出した辺りから、こうなるだろうと思って溜めてたんだ。」


 和人に自覚は無いが、自分の世界に籠り勝ちなオタクの割りに、和人は人に合わせるのが自然に出来る。

 女の子の様な可愛らしい顔立ちに、細やかな気遣いの出来る和人は、実は結構女子に人気があるのだ。

 しかし、本人は遥にしか興味が無く、その特殊な趣味と、いつも隣に遥がいるため、告白をした女子は誰もいない。

 その上で、傍らに爽やかイケメンの慎太郎がいるので、お腐れ気味女子の人気をかき集めているのだが、もちろん本人の知る所では無い。


「和人君、スキルの祈祷って感覚的にドンな感じなのデスか?」


 再び歩き始めた中、エイミが和人に尋ねる。

 神官と祈祷師は似ている所があるため気になるらしい。


「う~ん、精霊にお願いしてる感じかな。使いたい魔法を決めて、その属性の精霊にお願いします~ってやってると、少しずつ魔力が溜まるんだよ。」

「なるホド、ヤはり私と似てマスね。私の聖光も多分そんナ感じデス。」


 神官のスキル:聖光は、スキル:祈祷の四属性魔法を広範囲の不浄なる者(アンデットの他、動く鎧(リビングメイル)悪魔の石像(ガーゴイル)等がこれにあたる。ゴーレムは別枠)の浄化、悪魔族に大ダメージ、に置き換えた物で、その他は同じである。


「デモ使ったコト無いんデスよネ、その手の魔物マダ出なくテ。それに、女神様封印サレているのに、一体誰にお願いシタらいいんでショ?」


 彼女も中々大変の様だ。せっかくの対アンデット等必殺のスキルが、魔王討伐後でないと使えないとなると、完全な死にスキルになってしまう。

 返す言葉が見つからず、和人は適当に話をすり替えることにした。


「まあ、自分の信じる何かにでも祈ればいいんじゃないかな。ところでエイミ、何か遥が秋山さんに嫌われてる気がするって悩んでるんだけど、何か心当たりとか無い?」


 エイミはにんまりとした笑みで和人を見詰め、耳元に顔を近付けた。


「和人君は本当に遥が大好きなのデスね?」

「ふぇ!?何を急に!?」


 すぐ前を歩く遥に聞こえない様に囁かれた言葉に、和人は心臓が飛び出そうになる。


「隠してもバレバレデスよ?ソレに、真実がどうでアレ、みんなそう思ってるはずデス。」

「そ…そうなの?」

「そうデス。」


 顔を真っ赤にして俯く和人に、エイミはそう言い切ると、にんまりとした笑みに、何か薄ら暗い物を漂わせ、和人に聞こえるか聞こえないかの声で、ぼそりと呟いた。


「ソレもまた、()デス………」

「え?何?」

「いえ?何デモありまセンヨ?」


 聞き返した和人がエイミを見ると、いつも通りの美しく優しい笑みを浮かべていた。


「私モ遥は大好きデスし、とても良い子ダト思いマス。嫌う理由が解りまセン。デスが……」


 そう言ってエイミは、ゆかりに目を向ける。


「私もゆかりサンと余り話したコトは無いのデ、はっきりと解りまセンガ、時おり彼女ガ遥に向ケル目は、jealousy…嫉妬な気ガしマス。」

「嫉妬………?」


 和人はエイミの言葉を繰り返し、ゆかりを見た。

 ゆかりは良くも悪くも平均より上である。顔もそこそこ良く、スタイルもまあまあだ。成績は上の下、運動は中々で、部活動にはかなり真剣に打ち込んでいる。

 それに対して遥は、見た目こそ美空のおかげで、そのポテンシャルを余すこと無く発揮することか出来たが、成績は下の中、運動はからっきし、胸は大きめだが、太っては無いもののお腹はぷにぷに。そして特撮(しゅみ)に命を捧げる帰宅部である。


 嫉妬されるとしたらおっぱいしかない。

 しかし、外国産のエイミは、遥よりおっぱいがでかいのだ。おっぱいで嫉妬されるなら、エイミが睨まれるはずである。

 和人はエイミのおっぱいをしげしげと見詰めながら、ますます解らないと迷宮に迷い込んだ。


「和人君……?」


 エイミはそんな和人の視線を感じ、冷ややかな視線を返す。


「うあぁぁぁ!?ごめん!!嫉妬されるとしたらそこかなって思ってたらつい。変なつもりじゃ無いから許して!?」


 狼狽える和人にエイミは優しい笑みを向ける。


「解ってマスよ?和人君がそういう目を向ケルのは、遥ダケで良いのデス。そうで無けレバ困りマスからネ。」


 その謎の語尾に、和人は首を傾げる。


「へ?何が困るの?」

「いえいえ、言葉のアヤと言うものデス。気にしないで下サイ。」


 エイミは何かをはぐらかす様に微笑んだ。

 そして正面に向き直り、またぼそりと、


「ソレも()という物デス……」


 と呟いた。

 ところどころ引っかかるエイミの謎の含みに首を傾げながらも、和人も正面に向き直る。

 河の流れる音が聞こえてきた。谷底は近いようだ。

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