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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
25/71

姫と黒騎士

 この世界で銃声を鳴らすのは二人しかいない。

 悲鳴と喧騒と共に人波が割れ、和人達へ向かって行く。

 和人が振り返ると、突如として現れた凶悪な顔の男に突き飛ばされた。


「痛ッ!何を…」


 尻餅を付いた和人が男を見上げると、男はクラリスを羽交い締めにし、その白い首筋に大振りのナイフを当てていた。


「あ…ああ…」


 さっきまで紅潮していたクラリスの顔が、今は真っ青になり、小刻みに震えている。


「それ以上近付くんじゃねえ!その妙な道具も捨てやがれ!この女ぶっ殺すぞ!!」


 安いセリフを吐き、男は追っ手を恫喝する。

 追っ手…真琴は苦い顔をすると、男の要求に従い銃を捨てた。

 男はそれを確認すると、クラリスを羽交い締めにしたまま再び逃げ出した。


「和人さぁぁぁぁぁん!!」


 手を伸ばすクラリスの悲痛な叫びが響き渡る。


「クララさん!!」


 起き上がり走り出そうとした所を、真琴に襟首を掴まれ止められた。


「先生!何で!?」

「それはこちらのセリフだ、何故王女殿下とお前が一緒にいる?」


 真琴の手には既に回収した銃が再び握られている。


「偶然としか言えません。それより何で止めるんですか!!」


 真琴は鋭い目で男の去った方向を見据えている。


「相手から確認できる内に追いかけても、居立ちごっこを続けるだけだ。一度相手の視界を外れてから再び追跡する。見失ってもこれだけ人が居れば必ず目撃者がいる。よし、行くぞ!」


 真琴と和人は同時に駆け出した。


「先生!あいつは一体何なの!?」

「賞金首だ!切り裂き魔、通りすがりのナイフガイ!」

「ださッ!何その名前!?何でナイスガイみたいな言い回しなの!?」

「私が知るか!!」


 人混みを掻き分け必死にナイフガイを追う。

 遂にその背中を捕らえた!


「クソッタレが!」


 ナイフガイが和人に向かってナイフを投げつけた!

 真琴は難無くそれを素手でキャッチする。


「化け物かよ!」


 ナイフガイが吐き捨てる様に叫んだ。

 その時、和人達の前に握り拳程の黒い塊が三つ転がった。


「ストーンウォール!」


 危険を感じた和人が咄嗟に魔法でそれを囲う!

 刹那、轟音と共に火柱が上がる!


「サンキュー!兄貴!」

「いいからさっさと行け…」


 和人達の前に違う男が立ち塞がる。

 真琴が顔をしかめて吐き捨てる。


「お仲間だ、爆弾魔、燃える男のマイトガイ!」

「だから何なのその名前!?この世界に赤いトラクターでもあるの!?」

「私が知るかと言ってるだろう!!何でお前もそんな事知ってるんだ!?」


 そんな二人に、マイトガイは更に三つ、爆弾を投げつける!

 真琴はその全てを上空高く蹴りあげた!

 屋根より遥かに高い位置で轟音と爆炎が起こる。


「化け物め…」


 マイトガイはナイフガイと別方向へ逃げ出した。


「駿河!お前は王女を追え!私はマイトガイを追う!」

「解りました!」


 対人一対一なら真琴はステータス一万超えだ。心配する必要は無い。

 和人はナイフガイが逃げた先、貧民街の奥へと走りだした。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 貧民街の最奥、打ち捨てられた教会。

 ここは王都の闇、人拐い、人身売買組織の根城だった。

 朽ち果てた聖堂には、据えた臭いと酒の臭いが立ち込めている。

 柄の悪い男達が酒を飲み、博打に興じている中、ステンドグラスの女神像が、もはや誰も祈ることの無い祭壇を、悲しげに見下ろしていた。

 その祭壇に座った一際柄の悪い男が、ナイフガイの拐って来た獲物を品定めしていた。


「こりゃあとんでもねぇ上玉じゃねえか、こいつは高く売れるぜ?よくやった!ほれ、小遣いだ!」


 男は金の詰まった袋をナイフガイに放り投げた。


「放しなさい!私はクラリス・エル・ステラ・シーロブルト!この国の王女です!こんな事をして許されると思っているのですか!!」


 手首を縛られたクラリスは、毅然とした態度で言い放つが、無法者には逆効果でしかない。


「おうおう、この国の姫様たぁ嬉しいねぇ!益々高く売れるなぁ!」


 男達が一斉に汚い笑い声を上げた。


 その様子を和人はひび割れた窓から覗いていた。

 敵の数はおよそ三十人、対するは後衛職一人。

 普通であれば一度引いて増援を呼ぶだろう。

 しかし、和人にはこの状況を打破する手段があった。


「まさか遥より先に王女様に名乗る事になるとはね…」


 和人は懐から魔笛を取り出した。


「カシラぁ、売り物にする前にちっと味見しませんか?」


 ナイフガイが下卑た笑いをうかべる。


「そうだな、王女殿下を抱く機会なんざぁこの先無えだろうしなぁ?」


 そう言ってカシラは下卑た笑みを浮かべながら、クラリスに近付いた。

 後退ったクラリスは、壁際まで追い込まれた時、思わず小さく呟いた。


「助けて…和人さん…!」


 その時、朽ち果てた聖堂に美しい笛の音が響き渡った。

 何処か寂しげで、神秘的なその音色は、その場にいる者達の心を強烈に惹き付けた。

 もし、一人でも日本人がいたのなら気付いただろう、その曲は【炎のたからもの】だった。


「何だ!この音は!?」

「追っ手に嗅ぎ付けられたか!?」


 男達が騒ぎだし、一斉に聖堂の入口に注意を向けた。


 刹那、祭壇の上のステンドグラスを突き破り、何者かが侵入してきた!


 キラキラと舞い散るステンドグラスの破片が放つ七色の輝きの中、焔の様な紅蓮のマントをたなびかせ、舞い降りてきた漆黒の騎士。

 その姿はまるで、幼い頃に読んだおとぎ話に登場する英雄の様で、クラリスの目にはその光景が、幻想的でゆっくりと流れる様に映った。


 騎士は空中でステンドグラスの破片を一つ掴むと、クラリスに向かって投げ放った。

 その破片はクラリスの手首を掠め、蝕んでいた縄がはらりと落ちる。

 そして騎士はクラリスを護る様に着地し、男達の前に立ちはだかった。


「何者だてめぇ!邪魔すんじゃ無ぇ!」

「たった一人で何しに来やがった!」


 男達が次々と叫ぶ。

 そんな男達に騎士は静かに言った。


「貴様等に名乗る名など無い。何をしに来たと言えば、悪党に囚われた姫君を救い出すのは騎士の務め、その務めを果たす為に来たまでだ。」


 騎士の言い放ったキザなセリフに男達は一気に逆上する。


「ふざけた事言ってんじゃねえ!相手は一人だ!フクロにしちまえ!!」

「死ねやぁぁぁッ!」


 先手必勝とばかりに、ナイフガイが両手に五本ずつナイフを手に取り投げつけた!

 騎士はナイフガイの動きをなぞる様に動くと、その両手には五本ずつ、ナイフが収まっていた。


「ひぃっ!」

「ば、化け物だ!」


 早々に逃げ出そうとした者達に向かって、騎士はナイフを投げつける。


「ギャア!」

「痛ぇ!」

「ぐおっ!」


 十本ほぼ同時に放たれたナイフは、全てアキレス腱や膝裏の腱を切り裂き、十人の動きを奪った。

 騎士が男達に向かってゆっくりと歩き出した。


「畜生がぁぁぁぁッ!」


 次々と襲い掛かる男達を、騎士は枯れ枝でも手折るかの様にいなして行く。

 大振りに下ろして来た剣を、腕を掴み投げ飛ばし、同時に斬り掛かって来た三人の攻撃を、すれ違いに一人の鳩尾に拳を入れ、抜け様に二人の首裏に手刀を当てる。まるで力を入れていないかの一撃に、屈強な男達が次々と意識を飛ばされて行く。

 気が付けば、立っているのはカシラとナイフガイだけだった。


「この距離ならさっきのも出来ねえだろ!死ね!」


 ナイフガイが再び十本のナイフを投げる!

 騎士は確かに今度はナイフを受け止めなかった。しかし、その拳で全てのナイフを打ち返した!


「ぐえあぁぁぁぁぁッ!?」


 ナイフガイは両肩、両腕、両手首、両膝を撃ち抜かれ崩れ落ちた。

 残る二本のナイフがカシラに向かう。

 カシラは片手でナイフを掴み、握り潰した。


「やってくれたな…てめぇ、八つ裂きじゃあ済まさねえぞ!」


 カシラの体がみるみる内に灰色の毛に覆われ、筋肉が盛り上がり、顔が獣の様になって行く。


人狼(ワーウルフ)か…」

「シニヤガレェェェェェェッ!」


 飛び掛かった人狼の刃物の様な爪が騎士を襲う!

 騎士はその腕に軽く手を添え外に受け流すが、人狼は逆にそれを勢いに変え、鋭い後ろ回し蹴りを騎士に放つ!

 騎士はその踵を左手で受け止め、ねじ切る様に体ごと回転する!いわゆるドラコンスクリューだ!


「グッ!!!」

 人狼は一拍遅れて回転を合わせ難を逃れるが、その膝には確実にダメージが残った。

 ほぼ同時に着地した両者だが、先に動いたのは人狼だ。

 鋭いアッパーが騎士を急襲するが騎士はそれを紙一重で見切る!


「コレデオワリニシテヤル!!」


 人狼が両拳で怒濤のラッシュを放つ!

 しかし、騎士はその一瞬で数十発放ったラッシュを全て両手で受け流した!


「ナ…ナンダト!?」


 人狼の声に困惑が混じる。


「こちらの番だ!」


 そのラッシュをはるかに上回る、騎士の放った拳の弾幕が、人狼の全身に降り注ぐ!


「ウボォオォオォウアァアァァァァァァァッ!?」


 更に騎士は左のフックで人狼の顎を打ち抜き、溝尾を掌底で突き上げる!


「ゲブファッ!?」


 肺の空気を全て吐き出し、宙に浮いた人狼を、騎士は後ろ回し蹴りで吹き飛ばした!


「コォアァァァァァァァッ!?」


 肺に空気が無いために、声に成らない叫びを上げながら、長椅子や燭台を巻き込みながら吹き飛ぶ人狼。瓦礫の中から立ち上がろうとするが、片膝立ちから動く事が出来ない様だ。

 騎士が人狼に向かって手を振り翳す!


獄炎の剣(レーヴァテイン)!!」


 騎士の前に炎の極大魔法陣が浮かび上がる!


「タアッ!」


 飛び上がった騎士が、宙で一回転しながら蹴りの姿勢を取り魔法陣に飛び込むと、その体は紅蓮の炎に包まれ一振りの大剣となり、人狼の体を貫いた!


「ガアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」


 人狼は断末魔の叫びを上げ大きく仰け反ると、ゆっくりと後ろへ倒れ、爆炎を上げた。


 ゆっくりと騎士は立ち上がり、爆風にたなびくマントを振り払うと、クラリスへ向き直り歩き出した。

 そしてクラリスの五歩手前程で跪いた。


「お怪我は御座いませんか?王女殿下。」


 その姿は、騎士物語の英雄その物だった。


「はい…ありがとうございます。」


 クラリスはその美しい所作に見惚れながらも騎士の言葉に応えた。


「勿体なきお言葉…申し遅れました。私はイオと申します身分無き者、この顔には、人には見せられぬ大きな傷があります故、仮面を外さぬ事、御容赦願います。」

「解りました、許しましょう。」

「では王女殿下、本来殿下に手を差し伸べる事など叶わぬ身分ではありますが、よろしければ、王城迄の道程をエスコートさせては頂けませんか?」


 そう言って、イオと名乗った男はクラリスに手を差し伸べた。


「はい…宜しくお願いします。」


 クラリスは差し伸べられた手に、その手を重ねた。


 教会を出た所で和人は探知スキルを拡げる。

 真琴が増援を連れて来るのが感じられた。後は真琴が処理してくれるだろう。しかしこのまま行けば鉢合わせする事になる。


「王女殿下、少し散歩をしましょう。しっかり掴まって下さい。」


 イオはクラリスを横抱きに抱え上げた。クラリスは、肩に回されたイオの手の温かさに覚えがあった。


『あれ?この感じは…』


 その瞬間、イオは空高く飛び上がった。


「きゃあっ!?」


 思わず目を瞑るが、頬を撫でる風を受けゆっくりと目を開く。




 空を飛んでいた




 イオは超人的な跳躍力で屋根伝いに跳躍していたのだが、その動きは重さなど全く無いかの様に、ふわりふわりとして、まるで空を飛んでいる様な錯覚をしたのだ。


「きれい……」


 流れて行く屋根の色、町の外に広がる草原と森、遠くに輝く湖、空を飛ぶ様な感覚の中で眺める景色は、一度見たことがある筈なのに、全く別の世界に見えた………



 イオはクラリスを抱いたまま、王城の一番高い塔の上に立った。


「ご覧下さい、王女殿下。貴女の国が治める町を…」

「はい…」


 クラリスはイオの首をしっかりと抱き締め、眼下の町を見る。


「あの屋根の数だけ家族があり、家族の数だけ生活があるのです。」


 イオは少しだけ哀しそうな声になった。


「残念ながら、私には目の前の者しか護ることが出来ません、手の届く物しか支えられません。」


 イオはクラリスを見て続けた。


「しかし、貴女はこれだけの人達を護ることが出来る、支えることが出来る。」

「…はい!」


 クラリスの瞳に強い光が宿る。


「悲しい事ですが、どれだけ善政を敷いても、先程の様な輩は現れます。貴女はそんな悪から、弱き民を、正しく生きる者達を護り、より良き方向へ導くと、この私めと約束して頂けますか?」


 クラリスに向けられた表情の解らぬ仮面に、あの人の優しい笑顔が重なる。

 クラリスは力強く頷いた。


「約束しましょう、誇り高き騎士イオ。私はこの国の未来を護ります。貴方はその手の届く物を溢さぬ様、護り続けて下さい。」


 イオも力強く頷く。


「有り難きお言葉、しかとこの胸に刻みましょう。それでは、名残惜しいですが空の散歩もここまでと致しましょうか。」


 そう言うと、イオはふわりと飛び、王城のテラスへ舞い降りた。

 クラリスを優しく降ろすと、イオは再び跪く。


「では王女殿下、貴女とこの国の善き未来をお祈り致しております。」


 そう言うとイオは立ち上がり、背を向けて歩き出した。

 その背中をクラリスが呼び止める。


「騎士イオ!約束して下さい、この国の有事の際は必ず駆けつけると!」


 イオは肩越しに振り返る。


「約束はしましょう。しかし、その様な事が起こらない事を祈っております。」


 そう言い残し、イオは城下へと飛び去って行った。

 クラリスはその背中を見送ると、和人が貸してくれたハンカチを胸に強く抱きしめた。



「ありがとうございます…和人さん…」

スルトにバレなきゃOKです。

ちなみにカシラの賞金首名は当然、ウルフガイ。

誘拐魔、暁に吠えるウルフガイです。

ナイフガイ 賞金金貨10枚

マイトガイ 賞金金貨15枚

ウルフガイ 賞金金貨30枚

です。

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