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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
24/71

王都の休日

 いつものように和人と慎太郎は一緒に朝食を取っていた。

 ふわふわなパン、じゃがいものポタージュ、シーザーサラダの温玉乗せ、茹でたグレイハウンドの塩レモンソース。

 最初の朝食とは比べるまでもない。

 ただ、大量の粉吹き芋が名残を残している。


「慎太郎はこの辺の魔物なら一人で平気だよね?」


 和人が唐突に言った。


「まあそうだけど、何だ急に?」


 慎太郎はポタージュにパンを浸しながら答える。


「昨日美空の話聞いてさ、僕達この国の事何も知らないなと思って。僕と遥は今日は王都を見て回るよ。美空は魚の生食を普及させるって。」


 その言葉に慎太郎はジト目を向ける。


「まさか変な気を回してそんな事言ってんじゃ無いよな?」

「正直ゼロでは無いよ。でも、僕と遥は本当に昨日初めて、王族の名前を知ったんだよね。」


 そう答える和人を見て、慎太郎は、興味の無い事にはとことん興味を示さないオタクの生体を思い出す。

 常識は通用しないのだ。


「わかった、お前も少しは幼なじみから進展しろ。」

「それは異世界のハーフエルフでハーフ魔族の女の子を恋人にするより難しいよ?」

「俺もそう思う。」


 慎太郎は意地の悪い笑みを浮かべた。


 朝食を取り食休みをした後、和人は遥の部屋の前にいた。


「遥ぁー、起きてるー?」


 ノックしながら呼ぶと、真っ青な顔をした遥がドアを開けた。


「うわ!?どうしたの?真っ青だよ!?」

「……察してよ……」


 遥は下腹を押さえて言う。


「????お腹壊したの?」

「生理だよ!全部言わすな!!」

「あ…ごめん…」


 遥は扉を乱暴に閉めた。


「………暇になっちゃったな………」


 今更慎太郎の邪魔をする気は無い。美空はまだ寝ているだろう。


「とりあえずぶらついてみよう…」


 和人は柄にも無く町へ繰り出した。


 一人で歩く町は新鮮そのものだった。

 誰かといれば見落としてしまうあれやこれが溢れ返っている。


「ふあぁぁぁ、こんなだったんだぁ~。」


 活気で溢れる商店街、露出多目なお姉さん達が客を呼び込む酒臭い通り、見るからにヤバい裏路地、生活感の感じられない富裕街に、ギラ付いた貧民街。

 危なそうな所には近付かなかったが、それなりに王都を見て歩いた。

 朝から歩きお腹が空いた。

 井○頭さんの様に頷き、店を探そうと踏み出したその時。


「あの、そこの神官様?」


 辺りを見ても神官はいない。パッと見、神官と祈祷師の服は似ているので自分だと思った。

 和人が振り返るとそこにはクラリスがいた。

 栗色の髪に青い瞳、白いブラウスに青いスカートの清楚な美少女。誰がどう見てもクラリスだ。


「えっと…僕は祈祷師で神官じゃ無いけど、僕なのかな?」


 絶対ヤバいフラグが立っている。和人はそう感じながらもクラリス(仮)に応えた。


「そうなのですか?他の方々と比べ、話し掛けやすい雰囲気でしたので。気にされたのなら謝罪します。」

「いや、気にしなくていいですよ。それで、僕にどんな用事です?」


 相手は王族かも知れない(ほぼ確定)ので、少し言葉を正す。

 そんな和人にクラリス(仮)は軽く微笑みかけ、


「実は数年ぶりに王都へ来たのですが、色々と様変わりしてしまっていて…よろしければ、少し案内を頼めないかと。」


 和人は普通に困ってしまった。


「すみません、僕も最近王都に住み始めたばかりで、案内出来る程詳しく無いんです。なのでこうして散歩がてら、町を見て回ってるんですよ。」


 和人は心から申し訳ないと思いながらも、フラグを回避出来たと少し喜んだ。

 クラリス(仮)には悪いが、王族絡みの面倒事など真っ平御免だ。


「そうなのですか…なら、一緒に町を見て回ってもよろしいですか?一人では心細いのです。」

―あ…回避出来ないヤツだ…―


 和人はここで断れる様な性格では無い。


「解りました。僕で良ければご一緒しますよ。」


 内心溜め息をつきながら、笑顔で承諾した。


「僕は駿河和人、和人が名前です。あなたは?」

「私はクラリ…ンッ!ンンッ!クララ・エリステルです。」

―嘘が下手過ぎる!?何そのパチもんブランドみたいな偽名!?―


 クラリス(確)の偽名に心の中で突っ込む。

 当然だ。修道院で暮らしていた箱入りお姫様に上手な嘘などつける訳がない。


「とりあえず、僕はお腹が空いたから何か食べようと思ってたんですけど。クララさんはどうします?」


 和人が尋ねると、クラリス(確)は目を輝かせ、両手の平を合わせて身を乗り出した。


「私も食べたいです!民がどんな物を食べているのか、とても興味があります!」

 ―民って…まあ、僕が気付かないふりしてればいいか…―


 和人はそれなりに人気のありそうな定食屋を見つけたので、そこで食事にする事にした。


 店の中はかなり活気で満ちていて、集客率は8割といった所だ。

 三人の給仕のお姉さんが踊るように動き回り、一人のおばちゃんが凄まじい勢いで料理を作っている。


「らっしゃあーせー!空いてる席へどーぞー!」


 威勢のいい声が響く、和人は壁際に空いてるテーブル席を見つけクラリス(確)と共に座った。


 和人は先ず日替わり定食の内容を確認する。

 グレイハウンドのワイン煮込みとじゃがいものポタージュ、温野菜サラダにパンが二個。いまいち今の気分に合わない。

 続いて今日のオススメを見る。

 スリープシープの香草焼き、和人の好物だ。これは決まりである。

 幾つかの魚料理が並ぶが、ここ最近魚は食い倒している。

 単品メニューに目を移す。


「お?」


 グレイハウンドのミートボールスパゲティー、隣にいるのがクールなガンマンでないのは残念だが、せっかくクラリス(確)がいるのだから頼む事にする。

 肉続きなので箸休めに三種のピクルスと、野菜スープを付けることにした。


「クララさんは決まりました?」


 和人が目を移すと、クラリス(確)が引き吊った表情を浮かべていた。


「あの…所々魔物の名前があるのですが…」


 最近までどこぞの修道院で暮らしていたお姫様は、魔物食の普及を知らないらしい。


「最近食べられる様になったんです。王城でも普通に食べられていますし、美味しいですよ?」

「そうなのですか…なら、私には決めかねますので、和人さんと同じでお願いします。」

「解りました。すみませーん!注文お願いしまーす!」


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「何故、魔物なんか食べるんだろう?って思ってますね?」

「え!?顔に出てましたか!?」


 クラリス(確)は両頬に手を当てて紅潮する。

 料理を待つ間、和人は世間から隔離されていたお姫様に、世界の状況を話す事にした。


「新しい魔王が生まれた事は知ってますよね?」

「ええ。」

「魔王は厄災の象徴であり強い特徴があります。過去の魔王は炎や水の天変地異を引き起こしました。」

「存じています。」

「今回の魔王は飢饉だと言われているんです。ここ、王都近郊ではまだ影響は見えていませんが、辺境では土地を捨てる事態にもなっているらしいです。」

「そんな事に…」


 クラリス(確)は悲しげな表情をした。


「そこである人物が、ならば魔王の影響で活性化し、数も増える魔物を食べられたら、少しは改善するのではないかと考えたんです。」

「ずいぶんと飛躍した考えをお持ちの方なんですね。」


 和人は苦笑した。


「まあ、僕の仲間なんですけどね。それで食べてみたら美味しかったと言う訳です。お店はギルドに依頼して安くて美味しいお肉を手に入れます。冒険者はその依頼でお金を手に入れ、国は害獣駆除が出来る。良い事しかないんですよ。」


 和人がそう言った所で料理が来た。


「はいよ!お待ちどうさん、ごゆっくりー!」

「では、食べましょうか。いただきます!」


 和人は早速、骨の付いたスリープシープを手に取って噛り付いた。

 ミルキーな脂と少し癖のある肉汁が口一杯に広がる。様々な香草と柑橘の風味が、その癖のある肉汁と合わさり、極上の風味へと昇華する。


「ん~!美味しい!この店大当たりだ!」


 クラリス(確)はナイフとフォークを使おうとしたが、目の前の和人に倣い、素手でスリープシープを手に取った。


「これが魔物のお肉…」


 ごくりと喉が鳴る。美味しい物を前にした時のそれでは無い。緊張に依る物だ。

 暫し肉を見詰め、意を決して口にした。


「美味しい…」


 クラリス(確)は左手で口元を隠しながら呟いた。


「でしょう?こっちのグレイハウンドのミートボールも食べてみて下さい。」


 和人はそんなクラリス(確)に笑顔を向け、ミートボールスパゲティーを薦めた。

 クラリス(確)は笑顔でミートボールスパゲティーを取り分け、食べようとした。


「あ、ちょっと待って。」


 和人は懐から大きめのハンカチを取り出すと、クラリス(確)の後ろに回った。


「せっかくの白いブラウスが汚れちゃいますから。失礼しますね。」

「あ、ありがとうございます…」


 首もとにハンカチを掛けてくれた和人に、クラリス(確)は頬を染めながら礼を言った。

 それから二人は、楽しく談笑しながら、残りの料理を平らげていった。


 食事を終えた和人とクラリス(確)は、最近流行っているスライムジェラートを食べながら散策を続けた。

 クラリス(確)はジェラートを渡された時、座る所を探してキョロキョロしたが、食べながら歩き出した和人を見て、戸惑いながらもそれに倣った。

 二人で色んな場所を見て回り、小物店をひやかしたりしながら、ゆっくりと王都の散策を楽しんだ。


 ―こうしていると、世間知らずなだけで普通の女の子だよな。―


 そう思った和人がクラリスを見ると、クラリス(確)も和人を見ていて、ばっちりと目が合う。

 とたんにクラリス(確)は頬を染め俯いた。


「あぁ、歩き疲れましたか?顔が少し赤いですよ?何処かで休みますか?」


 相手は王族だ、靴擦れ一つでも問題に成り兼ねない。和人は的外れな心配をする。


「い、いえ、そういう訳では……」


 往来の真ん中でそんなやり取りをしていた時だった。

 そう遠くない所から銃声が響いた。

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