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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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初めての友達

合体ロボの顔は人間ぽく無い方が好みです。

 ロレインは料理を続けながら語り始めた。


「私の父は魔族の軍人で、母はエルフの巫女だったそうです。ある戦で敗走した父は、仲間を逃がす為に殿をつとめ、大怪我を負いながらも、自身も逃げ延びました。敵兵の追っ手をやり過ごす為に、森の中で息を潜めていたときに母と出会ったそうです。」


 ロレインは厚手に切ったパンに切り込みを入れ、薄切りにしたハムとチーズを詰めた。


「母は怪我を負った父を匿い、献身的に看病したそうです。そうして共に時間を過ごす中、二人は引かれ合い、愛し合ったそうです。」


 卵にミルク、塩、胡椒を入れ数本のフォークを束ねてよくかき混ぜ、先程のパンを浸す。


「怪我が良くなると、父は母を連れ帰り夫婦になりました。周りから見ても、とても仲睦まじく、深く愛し合っていたそうです。そして数年後、母は私を身籠りました。」


 フライパンにバターを溶かし、浸したパンを焼き始め、ティーポットに茶葉を入れ、湯を注ぐ。


「しかし、魔族とエルフ、魔力が強い種族の中でも、特に魔力が秀でていた両親の特性を受け継いだ私は、母のお腹にいる時点で、膨大な魔力を持ってしまいました。日に日に母は私から漏れ出る魔力に当てられ、疲弊していきましたが、周囲の反対を推しきって私を産みました。しかし、母は私を産んだ事でその命を使い果たしてしまったのです。」


 二枚目のパンを焼き始め、ポットからお茶を注ぎ、先に一同の前に並べていく。


「母を溺愛していた父は、私を母の命を奪った忌み子として、忌避し、愛情を注いではくれませんでした。そして最低限、自分で生き延びる事が出来るだけの教育を私に施し、私が15歳になった時、父はこの小屋を建て、私を住まわせたのです。それからもう二年経ちましたね…」


 焼けたパンを半分に切り、皿に盛って皆の前に並べた。


「すみません、こんな話長々と。冷めない内に…」


 椅子に座り、笑顔を作り直したロレインが料理を勧めようと顔を上げると、四人は皆泣いていた。

 美空に至ってはだばだばと涙を流している。

 美空はロレインの手を両手で祈る様に握った。


「ロレインじゃん!ばたじだぢばぼんどおにあなだどおどもだぢになりだいでず!」


「ロレインさんには幸せになる権利…いや、義務があるよ!」

「これから私達と楽しい思い出を作っていこうよ!」


 少し戸惑いながらも、涙を滲ませ顔を赤らめるロレインに、慎太郎が四人の気持ちをまとめて提案する。


「喧騒は苦手って言ってたけど、四人くらいなら良いだろ?また遊びに来てもいいかな?」

「…はい!」


 ロレインは涙を流し、大輪の花のような最高の笑顔で応えた。


 それから一同は、ロレインの作ったフレンチトースト(美空が言うにはモンテ・クリスト・サンドイッチが正しいらしい)を食べ、他愛の無い話で盛り上がった。お茶を飲みながら小一時間談笑し、明日またみんなで釣りをしようと約束して、四人はロレインの家を後にした。

 振り返るとロレインはまだ一同を見送り、手を降っていた。

 そんなロレインに応え、一同もその姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。


「凄くいい人だったね…」

「ああ…幸せになって欲しいよな…」


 和人の言葉にそう答えた慎太郎に対し、意地の悪い顔した美空が肘でつつく。


「幸せにしてやりたいの間違いじゃ無いんですかぁ?」

「まぁ、そうなんだけど…でもなぁ…」

「何悩んでんの?茶化す訳じゃ無いけど、実際お似合いだと思うよ?」


 煮え切らない慎太郎に遥が言う。


「いやさ、半分とはいえ魔族の血が入ってる彼女に、勇者の俺がそんな気持ち持っていいのかなってな…」


 その言葉を聞いた女子二人は表情を重くした。

 割と重大な悩みである。

 そんな慎太郎に和人は優しい顔を向けて言った。


「これは何かで見た受け売りなんだけど。慎太郎、その腰に提げているものは何?」


 慎太郎は自分の腰に提げた剣を見る。


「何って、剣だろ?」


 和人は首を横に振った。


「違うよ、人殺しの道具だ。」


 その言葉に慎太郎はハッとする。


「ならばそれを持った慎太郎は人殺しなのかな?」


 その言葉で慎太郎の悩みは吹っ切れた。いつもの爽やかな笑顔で和人に礼を言う。


「サンキュ、和人。剣を持ったヤツがみんな人殺しじゃ無い、魔族がみんな人間の敵じゃ無い。大事なのはその人自身、ロレインはロレインだよな!」

「そーゆーこと。」

「ならば私らは全力サポートだね。」

「ええ!支援こそ後衛の仕事ですからね!」


 女子二人も重くなった表情を軽くした。


「お前らぁ~~…アテにしてるぜ!」


 慎太郎の、アテにする宣言に、一同笑いながら歩いて行った。


 〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「僕らさ、正直必要かな?」

「多分要りませんね…」

「なんだろ、映画視てる気分。」


 目の前では、イケメンと美少女がキャッキャウフフしている。

 ロレインに出会った日を含め三日目、既に二人の世界を作り出していた。

 三人は体育座りでそれを見ている。


「帰る?」

「さすがにそれはどうかと…」

「明日からは一人で来て貰おうか…」


 何やら大物がヒットしたらしいロレインのロッドに、慎太郎が手を添える。本当に映画やドラマのワンシーンの様だ。


「そういえば近々、修道院で暮らしてた王女様が帰って来るらしいね。」

「何そのどっかで聞いた様な話。名前クラリス?」

「そのまさかです、フルネームはクラリス・エル・ステラ・シーロブルト王女殿下です。」


 和人と遥はこの時初めて、王族の名前を知った。王は王で通じるし、その名前を呼ぶ機会など無いので気にしていなかったからだ。

 その事実に、美空が真顔で呆れる。


「むしろひと月もお世話なっているのに、何故知らないんですか?王様の名前はローデンバッハ・メイク・アース・シーロブルト王陛下です。そしてこの国、シーロブルト王国は、太古の魔王、スルトの封印を監視するために建国されたと言われている国で、Seal of surtr.が詰まってシーロブルトになったと言われています。」

「「へー、ソウナンダー。」」


 和人と遥は目を泳がせた。

 遥は初日の出来事に大いに心当たりがあるため、和人は『ごめんなさい、今そいつ僕の中に居ます。』という後ろめたさからだ。

 それを見逃す美空では無い。


「二人共、何か隠してませんか?」

「「ソンナコトナイヨー、キノセイダヨー。」」


 美空のジト目を、光の無い濁った目で見詰め返す二人。

 更に無言のジト目で見詰め続ける美空。

 四方を鏡で囲まれたガマガエルの様に、脂汗を流し始める二人。


「おーい、みんな。飯にしようぜー!」


 慎太郎の声が響く。

 見ると笑顔で手を振る慎太郎と、60㎝程のブラックバスの様な魚を、へっぴり腰で支えるロレインの姿。


「チッ!いつか必ず言及しますからね。」


 解りやすい程の舌打ちを付いて、美空は立ち上がった。

 二人は胸を撫で下ろし、ロレインの家へ向かった。


 ロレインの家は美空によって幾分手が加えられていた。木塀と外壁ははジュラルミンで補強され、鍵は10桁ダイヤルロック、窓には圧縮ガラスが嵌められている。


「防弾ガラスにしたいのですが素材が足りないんですよね。鍵もいずれは魔力認証とか作りたいと思っています。」


 明らかにやり過ぎだし、膨大な魔力を持つロレインは、魔法のみならば四人掛かりでも足元に及ばないのだが、どうしても美空がやりたかったらしい。

 家具も一新されている。

 美空が設置したシステムキッチンで、ダマスカスの包丁を振るいながらロレインが皆に尋ねた。

「皆さん魔族に付いてどこまで知ってますか?」

「そういえばほとんど何も知らないな。美空は解るか?」


 慎太郎は美空の知識に丸投げする。


「私もよく知らないんですよね。見た目は人と大差無いですが、身体能力も魔力も数段上。魔物の特徴が体の一部に出る者もいる。その程度です。」


 それを聞いたロレインが話を続けた。


「実は平時は人と変わらないんですよ。普通に町で生活し、私達と同じ言葉で意志疎通が出来ます。ですが、魔王が生まれるとその魔力に汚染され、邪に染まってしまうんです。私は混血なので影響は無い様ですけど。魔族にのみ存在する魔核という器官が関係すると言われていますが、これは他でいう心臓なので、生体での研究が進んでいません。」


 ロレインは三枚に卸した魚のアラを茹で溢し、水から煮始める。


「魔王は居城を守る結界を張るため、四人以上の特に秀でた魔族を選出します。魔王を倒すにはどうしても魔族と戦わなければいけません。」


 切り身をミンサーにかけ、刻んだ野菜を練り込む。


「皆さん人を殺したこと無いですよね…人と大差無い姿で、言葉で意志疎通が出来る相手と戦えますか?」


 魚のアラを取り出し、練った身を団子にして鍋に入れていく。

 皆、黙って考え込んでいる。


「皆さん優しいですし、聞く限り、皆さんの元の世界はとても平和で、恐らく、この世界で初めて魔物を殺した時も、えも言われぬ感覚があったでしょう。」


 塩、胡椒で味付けし、刻んだクレソン等の野草を入れ、レモンの様な柑橘を搾る。

 皆それぞれ思い出す。美空は笑いながら銃を撃っていた気がするが…


「今すぐでは無いでしょうが、人や魔族と戦う時は必ず来ます。私は皆さんを失いたくありません…身勝手な言い草ですが、その覚悟はしておいて下さい。一瞬の気の迷いで、命を落とす事になるかも知れませんから…」


 ロレインは皆の前に魚の団子のスープとパンを並べた。

 優しい味わいながらも酸味と苦味のあるスープは、彼女の心の様だった…

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