釣りロマンを求めて
改めて自分で一話から読み返したら、色々と穴だらけだったので、ちまちま加筆、修正を加えています。
何分素人なので…
和人達が異世界に来てからおよそ一月。
実戦を経験した後に、やはり戦闘は自分には向いていないと離脱した者が5名出た。
真琴は残った30名を練兵場に集めた。
「皆、この1ヶ月よく頑張った。今後としては、15人編成の中隊行動による遠征を考えている。第一中隊は幾島を中隊長として、秋山、植野…」
真琴の口から編成内容が伝えられる、もちろん色々とパワーバランスを加味しての編成だ。
しかし、信治がその編成に異を唱える。
「隊長、パワーバランスおかしくないっすか?慎太郎と美空が同じ隊って。それに、和人と遥も一緒だし。」
勇者である慎太郎はもちろん、壊れ気味錬金術士の美空、広範囲支援の出来る遥、四属性適性があり複合魔法が使える和人が同じ中隊だ。
信治は美空と同じ中隊になりたかっただけだが、実際パワーバランスがおかしいと言えばそう思えるが、その不満は次の真琴の言葉で一蹴される。
「案ずるな、第二中隊には私が同行する。」
『え!?』
真琴の口から出た言葉に皆が驚いた。
「何だ?不満か?」
『いやいやいやいや!!!!』
日本に置いて、教師の同行など邪魔でしかないが、事、異世界に置いて、真琴の同行は、絶対的な安全を約束されたに等しい。
行動にある程度の制限が付けられるかもしれないが、命に比べれば安いものだ。
正直、第一中隊は第二中隊が羨ましい。
「さて、任務ばかりでは息が詰まるのも、私は経験しているからな。これより一週間自由行動とする。思い切り羽を伸ばしてこい!」
皆が一斉に歓声をあげた。
ギルドの依頼を承けつつも、宿と飯は国持ちだったため、全員金はあるが暇が無い状態だった。
降って湧いた自由に、皆が色めき立つ。
しかし、特に嬉しく無さそうな者が数名…
「ケルベライガー様に会いたい…セイレイジャーの続き見たい…」
「お金も暇もあるのに、特撮が無いなんて生殺しだよ…何したらいいんだよ…」
「私、ひと月に鮫映画一本、ラス○ボーイス○ウト二回視ないと死んじゃうんですよぉ~…」
突然暇を持たされたオタ達は、1ヶ月分のぶり返しが出てしまった。
口から魂が出て行きそうなオタ三人を、慎太郎が冷めた目で見ている。
「お前ら、今まで休みの日、何して過ごしてたんだ?」
三人は死んだ魚の目を慎太郎に向ける。
「一日中自分の部屋で、」
「飲み物とカップ麺とお菓子用意して、」
「撮り溜めた録画や円盤を視ながら、」
「「「ゴロゴロして(まし)た。」」」
三人の行動は全く同じだった。
慎太郎は手で顔を覆った、少し泣きそうだ。
「不健康過ぎる…華が無さ過ぎる…お前らそれでも高校生かよ…どっか遊びに行ったり、買い物したりとかしなかったのかよ?」
その言葉に対し三人は、
「たまには行ってたわよ、中野とか。」
「マ○クでハッピーセット食べたり。」
「映画には行きます。M○G・THE・Mon○terは中々でした。あ、たまにサバゲーにフリーで参加してましたよ?年齢詐称して。」
「そんなスパイスの効いた遊びや買い物じゃねえよ!」
慎太郎はとうとう涙を溢してしまった。
「あ、一度学校帰りに三人でカラオケ行ったわね。」
遥の言葉に慎太郎が笑顔になる。
「それそれ!そういうの!」
「僕がゴー○ーフ○イブ歌った時、二人がバックコーラスしてくれたの、嬉しかったな~。」
「やはり特ソンはコーラスが入ると味が出ますからね。」
「美空のIT'S A LONG ROADは圧巻だったわ~。」
「だからそんなスパイス要らねえって言ってんだろぉぉぉぉ…」
とうとう慎太郎は四つん這いになって泣き出してしまった。
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「と、言うわけで。ルアーフィッシングを教えます!」
「「「おー!」」」
四人は、健康的な遊び、慎太郎の趣味である釣りをするため、ルコル草の群生地よりも更に先にある湖に来ていた。
釣り道具は美空に作って貰った。
ダマスカス製のロッドとリール、綱糸のライン、不気味な程リアルに動くルアーやスプーン。ちょっとやそっとの大物ではびくともしないだろう。
慎太郎が三人に道具の使い方を説明し、手本として一度実演する。
いきなりのヒット!
「しゃあッ!中々良い引きだぜ!」
慎太郎は、久しぶりの竿先から伝わる感触を堪能する。縦横無尽に動き回る魚を、中々のロッドテクニックでいなし、ファイトすること2分少々、ついに獲物を釣り上げた。
丸々と太った40㎝オーバーのニジマスに似た魚だ。
「ま、こんなもんよ!」
「「「おぉ~!」」」
三人が拍手して慎太郎を讃える。
「美空、鑑定してくれ。」
「やりました!生食OKです!お刺身が食べれますよ!」
はしゃぐ美空だが、三人はあまりテンションが上がっていない。
「刺身でって…醤油とワサビが無いじゃないか…」
和人がむしろがっかりしたような声を出す。
それを聞いた美空は、少し悪どい笑顔を浮かべた。
「実は王城にいくらか残ってたんですよ。それを少しくすね…わけて貰ったんです。ワサビに至ってはそこに生えてますよ。」
「「「よっしゃぁッ!」」」
少し不穏なワードが出かけたが、三人のテンションが一気にMAXになる。
「とは言え、クラス皆と分けるほどは無いので、先ずはそれをおかずにご飯にしましょう。さすがにお刺身とあらば、私もポリシーを曲げざるを得ません。長粒米ですが、白飯も炊いちゃいましょう!」
「「「イェアッ!」」」
三人は天高く拳を突き上げ、テンションがMAXを突破した。
美空が料理をしている間、三人は釣りを始めた。
慎太郎は趣味が釣りの上級者だが、和人と遥は全くの素人だ。そんな簡単に釣れる訳が無いと思いながら投げていた3投目。
「おわ!?きた!!」
和人にヒット!竿先から伝わるびりびりとした感触。右に左に動き回る魚。
和人は一心不乱にリールを回す。格闘すること1分少々、25㎝程のヤマメに似た魚を釣り上げた。
初めて釣った魚を前に感動する和人。
「どうだ、初めて釣った気分は?」
「凄く気持ちいい!釣りって楽しいよ!」
「だろ?この調子でバンバン釣ろうぜ!」
笑い合う男子達を横目に、遥が口を尖らせている。
「む~…二人で盛り上がって、私まだ釣れて無いのに~。」
と、ブー垂れていたが、ふいに竿が重くなった。
「ふえ!?」
まるでドリルを持っているかの様な震え、異常な速さで糸を吐き出すドラグ、そして少しずつ引き摺られる足!
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?慎太郎ぉぉぉぉぉ!!」
あまりの出来事に助けを呼ぶ遥。慎太郎と和人が急いで駆け寄る。
しかし、慎太郎は手を出さない。
「これだけの大物、そうそう釣るチャンスはないぞ!ギリギリまで頑張れ!」
「そんな…事…言っても…」
遥は必死に耐える。
「パワーブースト!アイアンボディ!どう?遥。」
和人が支援魔法をかける。
「ありがと…これならいけるかも!」
遥がゆっくりとリールを巻き始めた。
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遥の死闘はもう10分も続いている。
「まさか、モンスターじゃないよね?」
「あり得るな…遥にはギターで賞金首呼んだ前例があるしな。」
和人と慎太郎がそんな事を話していると、
「あれは偶然よ!和人、支援追加して!」
「パワーブースト、アイアンボディ。」
三回目の支援魔法をかけた時、ついにその背ビレが姿を現した。
「でかっ!」
「凄え!メーター超えだ!!」
遥の対戦相手は背ビレだけで80㎝はある。
驚いた遥は美空に叫んだ。
「美空!あれってモンスターじゃないの!?鑑定できる!?」
美空は額に手を当てて背ビレを眺める。
「大丈夫ですよ、食用出来るお魚です。ただ…」
皆の視線が美空に集まる。
「この湖の主です。下手なモンスターよりも強いですよ。」
「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
その鑑定結果に、女子らしからぬ声を上げて、涙目で気張る遥。
「頑張れ!主クラス釣れば何かしらあるかも知れないぞ!」
慎太郎が激を飛ばす。湖岸までもう少しだ!
和人が、特オタなら誰もが全力になる魔法の言葉を叫ぶ!
「一つの命を救うのは!!!」
「無限の未来を救うことぉぉぉぉぉッ!!!」
遥が残り全ての力を込めて竿を持ち上げた!
派手な水飛沫を上げて、湖の主がその全貌を現した!
「Wow!!!」
美空が拳を振り上げコーラスをいれる!
翡翠の様に透明感のある美しい緑色の体、体長は170㎝はあるだろう。体の至るところに歴戦を越えた証の傷痕があり、その面構えは魚と言うよりもはや竜だ。
遥の尻餅と共に、主の体は地面に叩きつけられた。
「しゃァァァァァァァァッ!」
遥が拳を突き上げ勝鬨を上げた。
「おめでとうございます♪このお魚の名前は昇鯉、百年生きた鯉です。これが登竜門と呼ばれる滝を昇ると竜に成ると言われています。」
「達成感半端ないわ!」
遥は肩で息をしながら主を見た。
「遥、ステータスは!?」
和人に言われステータスを確認する。
「レベルが3上がった、スキルに釣りと根性が出てる。それと水魔法!?称号:アングラー!?」
スキル:釣り ヒットの確率と大物の確率に大幅なプラス補正
スキル:根性 窮地に立たされる程、全ステータスにプラス補正
称号:アングラー 釣りスキルに更なるプラス補正、主との遭遇率が高くなる
主を釣り上げた恩恵は思いも依らぬ程だった。
皆の称賛を受けながら喜ぶ遥の鼻を、ご飯の炊ける香ばしい香りが掠めた。
「祝勝会だ!久しぶりのご飯とお刺身と醤油を堪能するよ!!」
「「「イェアッ!」」」
皆が拳を突き上げた!