勇者を差し置いて
「おぉ!成功だ!!」
「急ぎ陛下に報告を!!」
「お前は鑑定具を準備を!」
思考が追い付かない一同を余所に、ローブの集団は勝手に盛り上がっている。
イラついた真琴は、先ほどから回りに指示を出している男に近付くと、
「先ずは名乗れ!そして説明だ!良い大人がそんなことも解らんのか!!」
アイアンクローで吊し上げた。
「ギャァァァァッッ!?ごめんなさい!ちょっとテンション上がってました!」
男の悲鳴を聞いた所で、美空の理解が追い付き冷静に言う、
「あぁ、これはラノベなんかでよく見る異世界召喚というヤツですね。しかもクラスまるごとのはた迷惑なタイプ。」
それを聞いたクラスメイト達が一斉にざわめきだす。喜ぶ者、怒る者、泣き出す者、只々困惑する者、様々だ。
そんな中、もはや慟哭の声を上げた者が二人いる。
「「いやだあぁぁぁぁっっっ!!!!」」
頭を抱え膝から崩れる和人、その隣で四つん這いになって床を叩く遥。心配した慎太郎が慰めようとするが、
「なんで今日なのよぉぉッ!」
「せめて…せめて明日ならッッ!!」
なにやら様子がおかしいと慎太郎は歩みを止める。
「「今日は月1の月光機マンゲツの放送日だったのに!!!!」」
………………
『ブレねーな特オタ夫婦!!!』
クラス一同心の突っ込みと共に、今の自分を客観視した気がして冷静になった。
そして、聞こえてくる最初から冷静だった二人の声、
「隊長、それ以上やったらその人滅んじゃいますよ?」
「そうか?だとしたらこの国の者はお前より軟弱だな。」
既に力無く痙攣するローブの男を締め上げ続ける真琴の姿があった。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
「配下の者の無礼、真に申し訳ない。心から詫びよう、許して欲しい。」
国王は玉座から降り、片膝をつき謝罪した。
貴族は面子を大事にする。ここまで出来る国王は本物の人格者か、それほどに国が切迫してるかの2択だ。どちらにしろ信用していいだろう。
王の口からこの世界の現状が説明される。魔王の顕現、魔王に女神が封印されてしまった事、この世界の勇者は女神が選定する事、故に異世界から呼ぶしか無かった事。
「こちらの事情に関係の無い君達を巻き込む事、実に心苦しいと思う。しかし、この世界のためにも、力を貸して貰えぬだろうか?」
皆静かに王の話を聞いていた。少しの間目を閉じ思案していた真琴が口を開く、
「私は生徒を守る立場にあるので皆に強要する事は出来ない、なので意欲の有るもののみということで良いだろうか?皆の協力は得られないかもしれないが。」
王は深く頷くと、
「協力を感謝する、残る者はこの国で手厚く保護することを約束しよう。」
王と真琴は固く握手を交わした。真琴は生徒達に向き直り、
「皆聞いていたな。此より有志を募る、残る者の事を誰も笑いはしない。命に関わることだ、よく考えて決断して欲しい。」
決断まで1日の有余が与えられた。しかしどちらを選ぶにしろ、己の適正を理解した方が不便は無いだろうと、皆の鑑定が行われた。
皆テストの結果を見せ合うかのようにステータスを見せあっている。ちなみにこの世界のステータスは巻物だ。
「私は吟遊詩人だってさー、和人は何だった?」
「僕は祈祷師だけど、何を基準に決まったんだろうこれ?」
―駿河和人―
祈祷師
Lv:1
筋力:23
体力:25
敏捷:20
知力:58
魔力:53
運:48
スキル:祈祷 霊媒
アビリティ:火魔法(C) 水魔法(C) 土魔法(C) 風魔法(C)回復魔法(C) 支援魔法(C)
祈祷:ノーコストで4属性魔法や解呪ができる。しかし時間がかかる。
霊媒:死者の魂や精霊をその身に宿すことができる。
―山崎遥―
吟遊詩人
Lv:1
筋力:30
体力:23
敏捷:35
知力:56
魔力:49
運:72
スキル:歌唱
アビリティ:土魔法(C) 風魔法(C) 回復魔法(C) 支援魔法(C)
歌唱:ノーコストで回復や支援ができる。しかし歌唱中は他の事は出来ない。
和人の家は一般的な家庭だ。先祖がどうとか霊感があるとかそんな事は一切無い。
ちなみに遥は歌が上手い、テレビのカラオケバトルに出れば確実に上を狙えるだろう。
しかし、レパートリーは特ソンに限る。
そこに慎太郎が嬉しそうな顔でやって来た。その顔に気付いた遥が先を制し、
「慎太郎、その顔はもしや、当たりかね?」
と、尋ねた。慎太郎は満面の笑みを浮かべ親指を立てる。
「yes!勇者慎太郎参上だぜ!」
―幾島慎太郎―
勇者
Lv:1
筋力:72
体力:83
敏捷:65
知力:52
魔力:58
運:46
スキル :聖武具 聖剣技
アビリティ:火魔法(C) 水魔法(C) 土魔法(C) 風魔法(C) 光魔法(C) 回復魔法(C) 支援魔法(C)
聖武具:伝説の武具の力を解放する継承資格
聖剣技:勇者のみ使用できる、魔王とその眷族に絶大な効果がある。
勇者だけあって全体的にステータスが高めだ、
「やっぱり勇者に選ばれるのは爽やかイケメンなんだねぇ。」
「まぁ、私らオタに前衛は無理だし、妥当でしょ?」
「でも、これで俺が不参加って言ったら認められんのかな?」
「慎太郎、冗談でもやめなよ?」
メタ発言する慎太郎を和人が咎める。
「私は錬金術師でしたよー!」
と、【勝訴】みたいな感じでステータスを掲げた美空が駆け寄って来た。
そのステータスを見て皆が目を丸くする。
―渡辺美空―
錬金術師
Lv:1
筋力:23
体力:69
敏捷:72
知力:2758
魔力:54
運:22
スキル:錬金 天才 遅刻王
アビリティ:火魔法(B) 土魔法(B) 雷撃魔法(B) 空間魔法(B) 回復魔法(B) 支援魔法(B)
錬金:全ての鉱物の在り方を書き替える。
天才:ユニークスキル、経験値、アビリティ取得ポイント2倍、知力に絶大な+補正。
遅刻王:ユニークスキル、体力と敏捷に+補正。しかし、催眠攻撃にかなり弱くなる。
地味に高い体力と敏捷、異常に高い知力、職業自体激レアなのに加え、雷撃と空間という激レアな魔法がある。しかもオールBランク。
入学式から毎日遅刻で学校まで走り、その度に真琴にアイアンクローを受け続けた日々は、スキルとなって昇華されたようだ。
そして何よりもユニークスキル【天才】。
確かに美空は主席入学だ、新入生代表が遅刻したから入学式は荒れた。
そして異常に飲み込みが早い、大概の事は三回くらいでコツを掴む。
しかし、遅刻は治らない。その理由が解った気がした。
「でも、遅刻王って酷くないですか?私女の子ですよ?遅刻女王ですよね!」
美空が口を尖らせる、突っ込む所はそこなのか?さすがに天才は気にする所が違うらしい。
「幾島、お前が勇者に選ばれたそうだな。」
と、真琴が少し心配そうに近付いて来た。
「もう一度言うが、命に関わることだ。たとえ勇者でも、よく考えて決断するんだぞ。」
先ほどの慎太郎の冗談を助長するような事を言う。教師としては立派だが、今この場ではどうだろうか。
「解ってますよ先生、所で先生のステータスはどうでした?」
真琴は少し残念な表情でステータスを差し出す。
「見てみるか?残念だが私には魔法の適正は無いらしい、少し興味があったのだがな。」
―犬飼真琴―
陸戦の覇者
Lv:48
筋力:1852
体力:2035
敏捷:1799
知力:1984
魔力:142
運:1026
スキル:世界王者 決闘の匠 教官
アビリティ:格闘術(A+) 銃剣術(S) 剣術(A+) 短剣術(S) 槍術(A+) 棒術(A+) 薙刀術(A+) 弓術(S) 投擲術(S) 合気術(S)
世界王者:ユニークスキル 対人戦闘において、全ステータス値2倍
決闘の匠:ユニークスキル タイマン上等!一対一の戦闘において、全ステータス値3倍
教官:これを持つ者が人に師事した場合、師事された者の習熟度に+補正がかかる。
一同絶句、もはや職業が称号っぽい。
真琴を相手にタイマン張ろうとすると、ステータス平均一万を超える(魔力と運は除く)化物と戦うことになるのだ。
そして軒なみランクの高い戦闘術の数々。何よりも、すでにLvが48あるのだ。
真琴は異世界に来る前に、何かを倒してLvが上がっていたという事だ。
陸戦の覇者、世界王者、決闘の匠、何かを倒して上がったと思われるLv、皆の頭にはグラッ○ラー○キの世界しか浮かばない。一同は考えるのを止めた。