一攫千金!?
美空が城の調理場に大量のグレイハウンドを持ち込んで、大騒ぎになった二日後。
ギルドの掲示板には、グレイハウンドの依頼が溢れ返っていた。その肉が十分に美味しく、食用に適していると発表されたためだ。
害獣駆除になり、食料にもなり、冒険者達の小遣い稼ぎになる。国にも民にも冒険者にも得しかない、当然のことだった。
「とは言え、多すぎるよな…」
慎太郎は掲示板の前で呟く。
立役者である慎太郎小隊は、結局あの日合計100匹近いグレイハウンドを狩り、Lvも平均12程になっていた。
早い話、グレイハウンドに飽きている。
昨日探索した結果、王都付近では食用になるモンスターは、一部のスライムと、スリープシープという羊型モンスターである事が解った。
後者は名前の通り、催眠効果のある鳴き声を出すので、スキル:遅刻王のマイナス効果がある美空と圧倒的に相性が悪い。会う度に寝るので面倒臭い。
どうしたものかと悩んでいると、美空が一つの依頼書を指差した。
「コレなんてどうです?」
“ルコル草20束の採取”
ルコル草は薬草だが、普通に食材にもなる菜の花に似た植物だ。
しかし、その群生地は王都から少し遠出しなければならない。
今更そんな依頼を選ぶ事に対し、和人は美空の提案に裏があると感じた。
「美空がそんな事言うんなら、それだけじゃ無いんだよね?」
和人と遥がジト目で美空を見据える。
「当ててあげようか?多分その辺に、賞金首モンスターでも出るんでしょ?」
遥はこの間の美空の言葉から当たりを付けて言った。
「正解です♪駆け出し冒険者には荷が重く、そこそこの冒険者は逆方向の町へ行ってしまうので、放置されているのが一匹居るんですよね。」
美空は凄く楽しそうだ。そんな彼女に惚れている信治は当然同調する。
「いいじゃねえか賞金首!なんかこう、テンション上がる言葉だよな!」
単に素で好きなのかもしれない。
小隊長である慎太郎は軽々しい判断は出来ない。しばし、思案を巡らせる。
「美空、それは俺達の実力で勝てそうなのか?」
〔何より生き残れ、次が必ずある。〕が、師である真琴の信条だ。
「実際会って見ないと言い切れませんが、遭遇報告等から察すれば十分勝てる相手です。」
今の実力を計るにも、悪く無いかもしれない。
「ちなみに賞金額は?」
金はあるに越したことは無い、これも大事な事だ。
「金貨50枚です!放置されてる間に上がっていったらしいんですよ。」
グレイハウンド20匹の依頼報酬が銀貨30枚なので、これは超破格だ。
ちなみに御多分に漏れず、銀貨100枚で金貨一枚である。
「行ってみるか…でも、危なくなったら逃げるのを最優先だぞ。」
慎太郎はルコル草の依頼書を手に取った。
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「あ、忘れるところでした。」
王都から少し歩いた所で美空が立ち止まった。
「皆さんに渡す物があるんですよ。慎太郎君と信治君にはコレを。私が作ったダマスカスの剣です。」
美空が空間魔法:まいるーむから二振の剣を出す。
それを聞いた信治が顔を引き吊らせる。
「ダマスカスって、伝説金属じゃなかったか?」
それを聞いた慎太郎も驚きの表情になる。
「あ、違いますよ。これは現代版で、銅とニッケルを重ね合わせた合金です。弾性に優れていて、軽くて丈夫、切れ味抜群、おまけに錆びに強い。今持ってる剣よりは格段に上です。」
「アメリカ通販みたいだな…」
「何ならナイフとピーラーとまな板付けましょうか?」
「遠慮しとくよ。」
慎太郎が苦笑いしながら剣を受け取った。
「おぉ!軽い!こりゃ使うのが楽しみだ。」
信治が軽く素振りをしながら喜んだ。
そして美空は和人達に向き直ると、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、まいるーむに手を入れた。
「和人君にはコレ。」
と、言って差し出した物、それは――
「音○棒!!」
仮○ラ○ダー響○の武器、音○棒。
「遥にはコレです。」
これも当然――
「音○弦!!」
仮○ラ○ダー轟○の武器、音○弦。
二人の特オタのテンションは一気にMAXになり、とても素敵な笑顔で涙を流しながら、狂喜乱舞している。
「遥のはネックの根本にある安全装置解除で刃が出る仕組みです。後、風の魔力を通すことで音響効果出ますから。スキルの効果範囲広げられますよ。」
遥は大事そうに音○弦を抱えながら美空に抱きついた。
「ありがとう!あんたが親友で本当に良かったわ!!」
「遥、ギターがぐりぐりして痛いです…それと、和人君のはグリップ繋げて杖としても使えます。そして、当然の事ながら…あ、もうやってますね。」
和人は早速、鬼棒術 烈火剣を発動させていた。
「ありがとう美空!大切に使うよ!!」
和人は烈火剣を解除し、腰に納めた。杖はずっと持っていないといけないので、これだけでもかなり嬉しい。
「よし!得物も一新した所で、改めて行くか!!」
「「「「おーっ!!!」」」」
慎太郎の号令に、皆が掛け声を上げ歩き出した。
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しばらく歩くと、4匹のゴブリンと3匹のグレイハウンドに遭遇した。
前衛組が颯爽と駆け出す。
「よし!試し切りだ!」
「お前ら、手出すなよ!」
飛び掛かってきたグレイハウンドを、慎太郎と信治が横凪ぎに切り抜ける!
ダマスカスの剣は何の抵抗もなくグレイハウンドの体を通り抜け、上下二つに切り分けた!
二人はそのままゴブリンに詰め寄ると、それぞれ二匹ずつ、一刀の下に両断した!
残るグレイハウンド一匹は美空に眉間を撃ち抜かれ絶命している。
慎太郎と信治は、その手に握られた剣を見つめ震えていた。
「凄い…骨まで切ったのに刃こぼれひとつ無い。」
「ゴブリンがまるで豆腐みてぇに切れたぞ!?こりゃ賞金首モンスターも楽勝かもな。」
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その後一行は、順調に消耗を押さえた戦闘をこなしながら、目的地のルコル草群生地にたどり着いた。
辺り一面にルコル草が鬱蒼と生い茂っており、ちらほらとヌートラットという小型犬くらいのネズミ型モンスターがうごうごしている。見た目はでかいハムスターだ。
モンスターに認定されているが、性格は温厚で自分から攻撃してくることはほぼ無い。
動きは遅い、と言うか、鈍臭い。少し高い所に登ろうとして、後ろ足をわたわたさせたあげく尻から落ちるなどざらだ。
しかし、目の前の無生物は何でもかじってしまう。その上で繁殖力がやたら強い。
そんな訳で害獣指定されているモンスターだ。
そんな背景を持ちながらも、富裕層にはペットとして、とても人気が高かったりする。
当然ながら、賞金首モンスターはいないようだ。
「とりあえず、依頼を達成しよう。これだけあれば一人一件でいけるな。」
慎太郎の言葉で、皆がルコル草を摘み始める。
他の冒険者が居ないせいか、あっという間に集まってしまい、皆が暇を持て余し始めた。
「あ~…可愛いですねぇ~…おなかむにむにで気持ちいいですぅ~…」
美空が一匹のヌートラットをひっくり返して、そのお腹に顔を埋めている。
「もきゅ~…」
ヌートラットは手足をわたわたさせているが、それ以上の抵抗は無い。
『気持ち良さそう…』
それを見た皆が真似をし始めた。
「あ…何これ…すんごい気持ちいい…」
遥は一瞬で虜になった。犬や猫を飼っている人なら解るかもしれないあれだ。
むにむに、もふもふ、ぷにぷに、ふわふわ…
人を堕落させる凶悪な感触の中で、皆が眠りに堕ちていった……