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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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VS ゴブリン・ロード!!(和人視点)

 ―うわぁ…―


 和人は、自分でやっておきながら、股間がキュッとした。同じ男として感じる物がないわけではないが、相手は遥を凌辱しようとした化け物だ。同情の余地は無い。


「俺ノ×××ガ…テメェ!ナニモンダ!!」


 無論、名乗るわけにはいかない。今後先行きの見えない戦いが待っているのに、折角手に入れた強大な力を手離す訳にはいかない。何よりカッコいいし。

 とは言え、ここで何も言わないのも味気無い。


 ―よし、ここはテンプレでいこう。―


「貴様に名乗る名など無い…強いて云うなら、助けを求める乙女の悲鳴を聞き捨てる事の出来ない、ただのお節介者さ。」


 和人は一度は言ってみたいのセリフベスト3、貴様に名乗る名など無い、を言ってみた。


 ―何か気持ちいい!?そうか…美空の気持ちが少し解った気がする…―


 和人の開けてはいけない扉が少し開いた。

 そんな事を考えていたら、いつの間にか囲まれているのに気が付き、辺りを見回した。

 しかし、和人は落ち着いていた。最初にナイフを投げた時に、今の自分の強さに確信を持っていた。

 タイマンで真琴に勝てるかもしれないと…

 とは言え、和人は素人だ。マリカーしかやったことの無いヤツが、いきなりモナコグランプリに出れる訳がない。

 なので和人は頼る事にした。


 ―今から戦うのは僕じゃない…僕の中で生き続けるヒーロー達だ!―


 今の和人には最高レベルの探知能力がある。全方位、文字通り目をつぶっていても解るのだ。

 和人は今まで、何百回、何千回と見てきたヒーロー達の戦いを思い出す。あとはゴブリン達の動きにその記憶を重ねるだけだ。

 和人はそれっぽく構えてみた。途端に三匹のゴブリン達が襲い掛かって来た。


 ―後ろに二匹、正面に一匹―


 右後ろのに裏拳、正面に前蹴り、左後方を受け流しつつ手刀!


 ―うん、問題なく動ける。待ってて遥、今助けるから!―


 和人はゴブリン・ロードの後方に居る、今だ暗い瞳をした遥を見た。


「フ…フ…フザケンナァァァァァァァァッ!!!」


 ゴブリン・ロードが何やら急にキレ始めた。

 そしてゴブリン達が一斉に襲い掛かって来た。

 和人はひとまず、この体に慣れるため、回避に専念した。次第に慣れて来た所で攻撃を加え始める。

 多分本気でやったらこの拳はゴブリンの頭を破裂させ、この蹴りはその体を両断するだろう。憔悴している遥に、そんな物見せられない。和人は力の加減を探る。

 しかし、段々調子に乗っていった。


 ―うわぁ!凄い!強い!―


 動きがどんどん派手になっていく。


 ―後ろ回し蹴り!よし、決まった!ちょっと、そこ邪魔。おっと危ない、空気投げ!なんて…できた!?上から来る!漫画でしか見たこと無いキック!!出来ちゃうんだ!?上にまだいるな?飛んでからのーそおぃ!!いやっほぅー♪ついでにどーん!!―


 完全に勝てると確信した和人は、この戦いを楽しみ始めた。

 夢中になっている和人だが、視界の端に端にあるゲージがどんどん増えている事に気付いた。


 ―何だろこれ?まあその内わかるか。―


 格ゲーやヒーロー技を満喫し、ゴブリン共を倒し終えると、ゴブリン・ロードを見た。


 ―さぁ、雑魚戦闘員を倒した後は、メイン怪人だ!―


「クソガァァァッ!ナメンジャネェェェェェェェェッ!」


 一拍も置かずゴブリン・ロードが襲い掛かって来た。


 ―やっぱり最後は、ヒーローらしく倒したいよね…―


 ゴブリン・ロードの攻撃をかわして、かわして、バク転でかわして。


 ―あ、当たっちゃった。カッコいいし、いいか。ここで武器を落とすっ!―


 肘を逆から蹴り上げへし折る!


「グアァァァァァッッッ!?」


 ゴブリン・ロードは残された左手で掴み掛かってくる。

 かわして、膝蹴りを入れる。


「グボェッ!?」


 下がった頭をめがけて、


 ―これは絶対やっときたい!―


 ハイキック!ハイキック!後ろ回し蹴り!!

 誰もが見たことがあるであろう、【ヒーローがよくやるけれど、絶対に実戦向きじゃ無いキックコンボ】!!

 ゴブリン・ロードがぶっ飛ぶ!!


 ―……ッ!気持ちいいぃぃぃぃぃッ!―


 その時、視界の端のゲージか最高まで溜まった。


 ―魂のVoltageMAX!!必殺技(フィニッシュアーツ)解放!!!―


 今まで黒かったアイコンが輝き、『獄炎の剣(レーヴァテイン)』の文字が浮かび上がる。


 ―必殺技!?もちろん使う!!!―


 その文字に和人の心は踊った。これは特オタでなくても、男なら誰でも心踊る言葉なのだ!


獄炎の剣(レーヴァテイン)!!!」


 和人の右手が自然に動き、ゴブリン・ロードに向かってかざされた。

 すると自分の少し前の空間に炎の極大魔法陣が浮かび上がる。

 必殺技と言われ、目の前にこんな物が浮かび上がったら、特オタが取る行動は一つだ!


 ―OK、飛び込もう!―

「ハァッ!」


 和人は高く跳躍し前方宙返りをすると、蹴り姿勢で魔法陣へ飛び込んだ!

 和人の体を炎が包み込む、三回目だからもう慣れた!炎の剣となった和人がゴブリン・ロードを貫く!


 ズシャァァァッ


 スライディング姿勢でスリップして着地、これから後ろで起こる光景を見たいが、我慢してその時を待つ。


「グォアァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!」


 ドゴォォォォォォォォン


 ―くぅぅぅぅッ!完璧だ…!―


 和人は心の中で感涙しながら、ゆっくりと立ち上がる。マントがまとわり付いて邪魔なので振り払うと、遥を見る。


 ―うわ!?裸だ!―


 和人も健全な男の子だ、好きな女の子の裸は見たいに決まっている。しかし、今の和人はヒーローだ。紳士的に振る舞わないといけない。

 視線を外しながら遥に近付いて行く。途中何度かチラ見したのは、抑え切れない男の性だ。

 和人はマントを外し、残惜しくも遥の体を隠した。


「もう大丈夫だ、安心して良いよ。」


 和人は遥の顔を見て、自分がやってしまった事に気が付いた。


「ありが…とう…ございます…」

 ―この状況で…この姿で…遥を助けたら絶対こうなるって…少し考えれば解ってた筈なのに…―


 そこには、誰がどう見ても恋する乙女がいた。

 昔から自分に向けて欲しかった視線が、今自分に向けられている。しかし、それは和人ではなく、窮地を救ってくれた謎のヒーローに向けられている事を、和人は理解している。


 ―なんで正体明かしちゃいけないんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―


 和人は心の中で血涙を流した。

 正体を明かせば、遥はその視線を和人に向けるかも知れないが、そこでスルトは居なくなる。スルトが居なくなると、もう変身出来ないので、遥を幻滅させてしまうかも知れない。結局正体は明かせ無いのだ。


「君の仲間達は気を失っているだけのようだ、じきに目を覚ますよ。」


 心の血涙を流し続けながら、和人は探知能力で仲間の状態を確認した。

 遥はずっと、その熱っぽい視線を向けている。


 ―スルト、どうしよう?このまま置いて行けないし、見られてたら元の姿に戻れないよ?―

 ―仕方ないな…見ててやるから休めとでも言え…後はどうにかしてやる…―

「私が見守っていてあげるから。君も少し休むと良い。死の恐怖は、君が思うよりも、心を傷付けている筈だから。」


 すると遥は、電池が切れたように瞼を落とし始めた。


「あな…たの…な…まえ」


 正体はもちろん明かせないが、このカッコいい姿に、適当な名前なんて絶対に付けられない!絶対にだ!!

 崩れ落ちる遥を優しく受け止めると、和人は言った。


「次に会うことがあれば、その時は必ず名乗ると約束するよ。」


 遥が腕の中で寝息をたて始めるのを確認すると、そっと地面へ下ろした。


 ―一体何をしたの?―


 死ぬ様な事はしてないだろうがスルトに尋ねる。


 ―寸手の所まで魔力を抜いただけだ…今のこの娘の状態ならば…全て抜かなくても…耐え切れぬだろう…―


 スルトの言葉に、和人は胸を撫で下ろすとその姿を元に戻し、遥の隣に腰を下ろした。

 そして、守り抜いたその寝顔を、皆が起きるまで、優し気な表情で眺めていた。

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