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剣と魔法と特撮ヒーロー!!  作者: 鮭皮猫乃助
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VS ゴブリン・ロード!!(遥視点)

 遥は絶望の中を駆けていた。仲間達は自分を逃がす為にその身を盾に戦ってくれたが、一人、また一人と、仲間が減ることで、遥はより恐怖を膨らませた。

 そんな中、今までずっと一緒にいた和人が倒れた事で、堪えていた涙が一気に溢れ出した。


「頑張れ!皆の努力を無駄にすんな!」


 祐司が懸命に励ますが、泣きじゃくりながらの足はどうしても鈍る。


「ぐぁッ!?」


 突然木の上から飛び掛かって来たゴブリンに後頭部を強打され、とうとう祐司まで倒れてしまった。

 群がるゴブリンをダガーで切り付け、風魔法で応戦するも、所詮多勢に無勢。あえなく数匹のゴブリンに組伏せられた。


「くそ!離せ!離してよ!」


 必死に抵抗するものの、最下級とはいえモンスターの力に、オタク少女の力は通用しなかった。

 下卑た笑みで涎を撒き散らしなから、ゴブリン達は遥の衣服を引き千切ってゆく。


「嫌ッ!止めてよ!誰か助けてッ!」


 助けを呼んでも無駄なのは解っている。目の前で、股間に醜悪なモノをたぎらせたゴブリンが、きつく閉ざされた足をこじ開けようとしている。


― 恐い…汚ない…気持ち悪い…臭い…嫌だ…嫌だ…嫌だ!…―


 そのゴブリンの頭を鷲掴みにし、乱暴に投げ捨て、ゴブリン・ロードが遥を見下ろす様に相対した。

 ゴブリン・ロードは一際下卑た笑みを浮かべると、その下腹部から隆起する凶悪なモノをさらけ出した。その大きさは先程のゴブリンとは比較にならない。

 遥の心は絶望に沈み、その瞳は光を失った。


「嫌ああああああああぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!」


 その時、一瞬の風切り音が目の前を通り過ぎた。それに遅れて、目の前にそそり立っていたモノがぼとりと落ち、その傍らには錆びたナイフが刺さっていた。


「ギャアァァァァァァァァァァァァッ!?」


 ゴブリン・ロードが股間を抑え叫び声を上げた。遥を含む全ての視線が、そのナイフが飛んできた先に注がれる、そこには一人の男が立っていた。


 燃え盛る炎をそのまま纏ったかの様な紅蓮のマントに身を包み、闇夜を掬い取ったかの様な鈍い光沢を放つ漆黒の軽鎧。嫌みの無い赤と金の装飾の施されたその胸元には、晩秋の夕日を嵌め込んだが如き朱い宝珠が輝く。竜の角の様な兜飾りを付けたフルフェイスのマスクからは、その表情を伺い知ることは出来ないが、金色に輝く双眸は、その男がただ者ではない事を物語っていた。


 ゴブリン・ロードが怨嗟の声を上げた。


「チクショオォォッ!俺ノ×××ガ…テメェ!ナニモンダ!!」


 男は静かに答えた。


「貴様に名乗る名など無い…強いて云うなら、助けを求める乙女の悲鳴を聞き捨てる事の出来ない、ただのお節介者さ。」


 それを聞いたゴブリン・ロードの顔が憤怒に染まる。


「フザケヤガッテ…ブッ殺セ!!!」


 ゴブリン達が一斉に男を取り囲んだ。

 遥はその様子を絶望の瞳のまま見詰めていた。


―無理だよ…勝てる訳がない…みんなやられたのに、たった一人で何が出来るって言うの…―


 男はゆっくりとゴブリン達を見回すと静かに構えを取った。

 それを待っていたかの様に、三匹のゴブリンが飛びかかる!しかし、男は慌てる様子もなく、右後ろのゴブリンに裏拳を叩き込み、正面のゴブリンの顎に前蹴りを入れ、左後方のゴブリンを受け流しながら、すれ違い様に首裏に手刀を入れた。

 その一撃はさほど力を入れた様には見えなかったが、ゴブリン達の命を完全に摘み取っていた。


 男は再びゴブリン・ロードをに向かい合う。まるで、『コレで終わりか?』とでも言うように。


 ゴブリン・ロードが完全にキレた。


「フ…フ…フザケンナァァァァァァァッ!!!」


 その怒号を皮切りに、ゴブリン達が一斉に襲い掛かった!

 しかし男は、或いはマタドールの様に、或いは宙を舞う花びらが如く、軽やかにその攻撃をいなしながらゴブリンの命を摘み取ってゆく。

 背後から飛びかかる二匹のゴブリンを後ろ回し蹴りで凪ぎ払い、右の一匹の溝尾に肘をいれる!

 正面からの一撃を左手で受け止め、合気の様に投げ飛ばすと、その仰向けに倒れたゴブリンの喉に右の拳を突き刺した!

 屈み込んでいる男に、木の上から四匹のゴブリンが同時に襲い掛かる!男は逆立ちから独楽の様な回転蹴りで、その四匹を吹き飛ばした!

 男は再び屈む体勢で回転を止めると、その溜めを利用し高く跳躍した。そして木の上に残っていた二匹をローリングソバットで撃墜し、落下点にいた一匹の頭に踵を落とし込む!


 遥は目の前で繰り広げられている戦いを、なかば放心して眺めていた。まるで特撮の世界から飛び出てきたかの様な姿の男が、自分を護るために獅子奮迅の戦いをしている。


―あぁ…そうか、異世界なんて信じられない場所にいるんだから、ヒーローが居たって可笑しく無いじゃない…私ってバカだな…自分の大好きなヒーローを信じられなかったなんて…そうだ、あの人はヒーローなんだ!!―


 先程まで、恐怖と絶望の涙で濡れていた遥の瞳は、いつからか、希望と感動の涙で溢れ、光を取り戻していた。


 男は瞬く間に全てのゴブリンを倒し終え、ゴブリン・ロードを真っ直ぐに見据えた。


「クソガァァァッ!ナメンジャネエェェェェェェェッ!」


 怒りに燃えるゴブリン・ロードは、大剣を振りかぶりながら男に襲い掛かる!

 大上段からの一撃を男は難なくかわす、その後二回、三回と力任せに振るわれる攻撃を踊る様にかわし、バク転から放たれた蹴りがゴブリン・ロードの顎を捉えた!

 よろめくゴブリン・ロードの大剣を持つ腕の肘を、逆から蹴りあげへし折る!


「グアァァァァァッ!?」


 大剣を取り落としたゴブリン・ロードは、残された左手を振り回し、男を捕らえようとするが、男はそれをかわし、すれ違い様にその腹に膝蹴りを入れた!


「グボェッ!?」


 堪らず胃の中身をぶちまけよろめくゴブリン・ロード。男はその米噛みめがけ右のハイキックを二回いれ、後ろ回し蹴りで蹴り飛ばした!


「ガアァァァァァッッッ!?」


 ゴブリン・ロードは五メートル程吹っ飛ばされ滑り転がる。何とか立ち上がろうとするが、その足は覚束無く、目の焦点も定かでは無い。


獄炎の剣(レーヴァテイン)!!!」


 男はゴブリン・ロードに向かって、その右手を振りかざした!男の少し前の空間に炎の極大魔法陣が浮かび上がる!


「ハァッ!」


 男は高く跳躍すると、空中で前方に一回転し蹴りの形を取り、魔法陣へ飛び込んだ!

 魔方陣を潜り抜けた男の体は一振りの炎の剣と化し、ゴブリン・ロードの体を貫いた!


「グォアァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!」


 ゴブリン・ロードは断末魔の声を上げると、少しの間、天を掴むようにもがき、ゆっくりと倒れ、爆炎を上げた。


 ゴブリン・ロードから少し離れた場所に、滑り込む様に着地していた男は、炎を背にゆっくりと立ち上がる。戦いの余韻に浸る様に、爆風にたなびくマントを振り払うと、その戦いをずっと見守っていた遥に向き直った。

 そして男は、少し視線を外しながら遥へ歩み寄っていく。

 遥は遅蒔きながら、自分がほぼ全裸な事に気付き、顔を赤くして体を隠した。

 男はその身を包むマントを外すと、遥の体を優しく覆い隠した。


「もう大丈夫だ、安心して良いよ。」


 この時遥は、生まれて始めて本当の恋に落ちた。


「ありが…とう…ございます…」


 絞り出す様にお礼の言葉を言う。


「君の仲間達は気を失っているだけのようだ、じきに目を覚ますよ」


 何か言いたいのに、胸の高鳴りが激しすぎて上手く声が出ない。


「私が見守っていてあげるから、君も少し休むと良い。死の恐怖は、君が思うよりも、心を傷付けている筈だから。」


 その言葉で緊張の糸が切れたのか、遥の意識は遠退いていった…


「あな…たの…な…まえ…」


 やっとの思いで絞り出した言葉、遥は暗くなった意識の中ではっきりと聞いた。


「次に会う事があれば、その時は必ず名乗ると約束するよ…」

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