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うららかの跡
うららかの跡
旦那はむかし私のことを、なよやかで綺麗だと云ってくれていた。このやわななりはもっと円かだったから、旦那の触れかたも今より濃やかだった。ときおり愛しむようにほおを触ってくれた。沁みゆく肌の温かみをいくばくかおぼえている。
それはきっと恋心のなごりだろう。すてきな花片のうえの露が零れるような、いたたまれない恋心である。左腕のゆびはいまも尚あだっぽくある。もう罅われたけれど、あまやかに凭れるしなはおき忘れてなかった。悲喜こもごもの跡を、このゆびはおぼえている。
むねの内がわは恋慕のあたたかみなど、掻ききえていったというのに。ちいさなゆびにその面影がかよって、幽かに脈打っているのがうれしかった。