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空色の嘘。  作者: 西条 泰
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第一話 僕と嘘が出会った日。

嘘嫌い少年と嘘吐き少女の青春ラブコメがここに開幕!



「今まで、君に言った事、全部嘘なの……。ごめんなさい。そして、さよなら。佑々木幸人君。」


少女は、空のような青い髪を靡かせ、儚げに言い放つ。

背けていた目を彼女の顔に向けると、彼女の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

僕には涙の理由が分からなかった。

彼女は嘘つきで、本当の事を言わなかったから…

言葉の中の真実に気付くことが出来なかった。

僕は、走り去って行く少女の背中をただ呆然と眺めていた。


僕は、平気で嘘を吐く人間が嫌いだ。

それが、悪意が無い、人を幸せにする嘘であっても。人を救う嘘であっても。


「——佑々木君!起きなさい佑々木君っ!」


声が聞こえる。担任の白宮ちとせ先生の声だ。

白宮先生は、低身長、高ボイス、童顔と齢23には見えないロリっ子先生で、学校内の生徒からは絶大な人気を誇っている。

そっと瞼を開くと、目の前には白宮先生の童顔があり、少しときめいてしまう。


「あ、ああ…はい。おはようございます。」


僕は顔を上げ、先生に朝の挨拶をする。

何故なら、今は朝のホームルームの真っ最中なのだから。


「これはこれは、おはようございます……って、違ーうっ!なんで、ホームルームから寝ているんですか貴方はーっ!」


朝っぱらからノリツッコミをかましてくるとは、先生も元気だなぁ…。僕は、寝不足で辛いと言うのに。先生のロリボイスは、中々に頭に響く。


「眠かったので。不快だったら謝ります。」


「貴方は、学校に何しに来ているんですかっ!?そんな事していると、転校生に嫌われちゃいますよ!?初っ端からイメージダウンですよ。」


「転校生?」


先生の『転校生』というワードに、クラスの皆の退屈そうな目がキラキラと輝き、先生に視線が集まる。「女子ならいいなー」や「イケメンがいいー」などの、理想論や野次が教室中に蔓延する。


「はいはーい!佑々木君も起きたし、皆さんに新しいお友達を紹介しまーす!」


先生はそう言うと、教室のドアをガラッと開けて、転校生らしき女子生徒を引っ張ってくる。

果たして、この演出は必要だったのだろうか…僕が起こされる必要があったのだろうか…なんて事を考えていると、少女が教卓の後ろに到着し、自己紹介が始まった。


「卯月空です。音君大学付属高校から来ました。ずっと女子校だったので、共学の高校で緊張していますが、男の子と沢山お話ししたいです。勿論女の子とも!宜しくお願いします!」


空色の髪で碧眼の美少女は、満遍の笑顔で自己紹介をする。

気のせいだとは思うが、その曇りがない笑顔の底に、少し違和感を感じた。まあ、気のせいだとは思うが…。

それはさて置き、音君付属って、有名なお嬢様学校じゃないか!?それも結構偏差値高めの……、それが何故、こんな平凡な高校に?音君はお金持ちしか入れないから、親の転勤って線も薄いし……。

ここの近辺には、結構有名な病院と大型ショッピングモールぐらいしかないぞ?


「席は、あの寝ぼけ顔の男の子の隣ね。」


ん?寝ぼけ顔?あっ!僕か!?

紹介が雑だな…。もっと何かあるんじゃないか?中の上の顔の男子とか…、まぁ、寝ぼけていたのは真実なので仕方ないっちゃ仕方ないが……。


「佑々木って言います。宜しく。」


僕は、社交辞令的な挨拶をする。

これからあまり関わらないのだろうけど、一応お隣さんには挨拶をしておかねばなるまい。


「うん宜しくー!お隣さんだから仲良くしよーね!それと、苗字、ウサギってすごーくかわいいね!」


「お、おう。」


お高い感じなのかと思いきや、結構フレンドリーな感じで来られて、陰キャラ予備軍の僕は、少し気圧されてしまった。

クラス中が騒めきを見せる矢先、チャイムが鳴り、一時限目の授業が始まった。

僕は、終始眠気と闘っていた為、そんな余裕は無かったが、明らかに視線が先生よりも卯月に集まっていた。それも、一時限目の授業だけには留まらず、一日中続いた。隣にいた僕も恥ずかしくなってしまうほどに。


——キーンコーカンコーン


六時限目の終了のベルが鳴り終え、授業終了の挨拶を終えると、僕はすぐさま荷物をまとめ、教室を立ち去ろうと席を立つ。

卯月の周りにいると、人混みで帰れなくなりそうだからな。

出口に向かって歩き出そうとすると、誰かに服の袖を掴まれた。振り返ってみると、袖を掴んでいるのは、卯月だった。


「帰っちゃうの?」


「うん。まぁ…。」


「なんだぁ…、お話ししたかったのに。」


卯月のしゅんとした顔に、僕は思わず頬を赤く染めてしまう。


「わ、悪い。また明日な。」


「うん!また明日、お話ししようね!」


満遍の笑みで手を振っている卯月に、僕ははにかみ笑いを浮かべながら、手を振り返す。

そうして、俺は教室を後にした。


——ピロリン


学校を出て、十数分ぐらい歩いた頃、ポケットに入れていた携帯が鳴った。

見てみると、妹の舞からのラインだった。

舞は、可愛くて素直で純粋で自慢の妹である。


『お疲れ様!ゆきお兄ちゃん♪舞、プリンが食べたいので、買って来てほしーのです!』


プリンかぁ…コンビニで買って行ってやるか。

うーん、でも、あまり甘やかすのも良くないか…。


『お兄ちゃん、愛してる♪(´ε` )』


「よし!迅速的スピーディに買って行って、舞の膝枕を堪能しよう。」


僕は了解と返信すると、妹の太ももを夢見つつ、財布を残高を確認しようと鞄を漁る。


「あれ?財布がない?」


鞄の物を全て出して確認するが、財布が無かった。

今朝、自動販売機でジュースを買って、机に入れてそのままだったか……。

しょうがない。学校まで戻るか……。


僕は、歩いて来た道を引き返し、学校へ向かった。


学校に着くと、見えうる限り生徒は一人もいなく、校内は静寂に包まれていた。

何故、一人もいないかと言うと、今時珍しく、うちの学校には部活というものが無く、生徒は早めに帰宅するためである。


「ふぅ、やっと着いた。千円ぐらいしか入ってないし、普段はわざわざ取りになんて来ないけど、舞の太ももが掛かってるからな。」


そんな事を呟きながら、教室への道を歩く。

そして、教室の前まで来て、ドアに手をかけた時だった——


「ゲボッ…、ゴボゴボッ…。」


教室で一人の少女が咳き込んでいた。凄く苦しそうに——


「お、おい!大丈夫か!?」


僕は、すぐさまドアを開け、駆け込む。


「だ、大丈夫。大丈夫です。」


少女は顔を上げると、微笑んで此方をみる。

そして、その少女とは、空色の髪の碧眼の少女——卯月だった。


「う、卯月!?どうしたんだ?病気か!?」


「う、うん。風邪かなー……。」


「風邪?そうか、熱は?」


「まだ測ってない。」


「そうか…、なら。」


僕は、卯月の前髪をかきあげ、卯月のおでこと自身のおでこをくっつけた。


「ひゃっ…っ!」


「ん?どーした?変な声出して。まぁ、熱はないようで安心しっ——」


卯月は慌てふためく手をあたふたさせる。

その手を見たとき、僕は背筋が凍りついた。


「お、お前その血っ!」


「あっ……、あーあ。バレちゃった。」


「バレちゃったって、うず——」


僕が卯月の名前を呼ぼうとした時、彼女の細い指が、僕の唇に触れた。

そして、卯月は顔を横に振り、深呼吸をすると、真剣な面持ちになり、話し始める。


「私、実は癌なの。」


「——っ」


「そう、正確には胃癌。だから喀血してたの。」


僕は、驚きのあまり声がでなかった。

こんなに明るくて、元気な卯月が癌なんて……。


「だから、ここに転校して来たんだー。」


「じゃ、じゃあ、治るんだな。」


「うん。治るよ〜!」


正直、まだ信じられない。こんなに若くして癌になんてなるものなんだな。何はともあれ、治るなら良かった。


——コトン


僕が、少し安心して胸を撫で下ろしていると、卯月の鞄から何か紅い液体が入ったプラスチックの容器が床に落ちる。


「なんか落ちたぞ?」


それは、ハロウィンの時に百均などで売っている血のりだった。


「あははは!バレちゃったかー!嘘でしたー!ドッキリ大成功ー!てってれー!」


「え!?それってどういう!?」


僕は、楽しげな卯月の言葉が理解出来なかった。


「えっと、癌とか、そういうくだり全部嘘!ここに転校して来たのも、別に特別な理由なんて無いし。外を見ていたら、君が戻ってくるのが見えて、からかっちゃった。」


「そっか。」


「安心してくれた?」


「安心…、そうだな。安心したよ。明日から、また僕は隣を気にせず眠れるんだから。」


「それって、どういう事?」


僕は、手から血が出るほどにぎゅっと拳を握りしめる。


「僕は嘘が嫌いだ。どんな嘘でも最終的には人を傷つける。僕は嘘を吐く人間が嫌いだ。人のことも考えずに、真実を語らない。そんな人間が大っ嫌いだ!」


僕は、感情の昂ぶるあまり、つい叫んでしまった。

ここで、笑いながら「騙されたー」などと返すのが最適解なのだろう。だが、僕にはそんな無責任なことは出来ない……、と言うかしたくない。

人にこんなに心配させて、全部嘘だったなんて。


「兎に角、明日から僕に話しかけないでくれ。僕には、嘘吐くと交わす言葉はな——」


「ごめんなさい。」


「え?何?」


僕が財布を鞄に入れ、教室を離れようとすると、卯月は僕に向かって、深々と頭を下げる。


「私、あなたの気を引きたくてっ……。それで!」


「もう、吐き慣れた嘘はうんざりだ。いいじゃないか、僕みたいな偏屈野郎と縁が切れて。」


自分自身でも、偏屈だと思う。だが、この嘘嫌いという性格を否定されると、僕自身を否定されている気分になる。


「嘘じゃないよ!私、君と仲良くなりたくて!君の事が知りたくてっ!」


「薄っぺらいんだよ。そんなこと言われたところで、僕は何も感じやしないし、君をどうしても許すことは出来ない。僕だって、君は可愛いと思うし、お近づきになりたいと思った。だから、死なないって言った時はホッとしたし、嬉しかった。」


——ピロリン


僕が話し終えるのと時を同じくして、携帯が軽快なリズムを奏でる。

卯月に確認もせずに、携帯をポケットから取り出し、ラインアプリを開く。


『ゆきお兄ちゃん。遅いけど大丈夫?舞はすごーく心配です……無事に帰って来てね!』


予想通り、舞からのメッセージだった。


「妹も心配してるし帰るから。」


「う、うん。また明日。」


「さようなら。」


僕はそう言い残すと、教室を後にした。

自分を正当化する気は無い。

他の人から見ると、くだらないことかも知れない。

でも、僕にとっては大切なんだ。この事で、僕は卯月に嫌われるかも知れない。言いふらされて、苛められるかも知れない。でも、それで卯月が嘘を吐かなくなって、人と本音で話せればそれでいい。


「そう、これでいいんだ。」

ご閲覧くださりありがとうございました。

これから、頑張って投稿したいと思いますので、感想、ブクマ等よろしくお願いいたします。

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