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異世界モノ短編「万能薬とは」  作者: しおん
プロローグ
1/1

異世界転生はいつも突然に

 なろう小説を書いてみようと思ったので、仕様確認のついでに短編小説(10話くらい?)で腕試しします。

 文章校正や内容、表現、投稿の仕方等でアドバイスいただけたらと思います。

 ――万能薬<エリクサー>。

 錬金術なんていう古い御伽噺に出てくるそれは、服用することで如何なる病も治すことができるという触れ書きだった。

 「如何なる病も」などという点が御伽噺だなと感じさせてくれる。

 病気で死ぬ人たちが多い時代は、そうして願掛けのようなアイテムにすがっていたんだろう。

 そもそも病気ってもんは、体調を管理してなかったから風邪を引くだとか、ウィルスが感染してインフルエンザになるだとか、原因があって結果があるもんだ。

 そして、結果を見て原因を推測し、原因を取り除くために適切な治療薬を処方する。

 医者や薬剤師は、そんな推測のために知識と経験を積んだ人たちの職業だった。


 原因を素通りして全てを解決する、そんな都合の良い薬があるはずがない。

 というのが俺の常識。いや、ここでは俺の“もといた世界”での常識、というべきか。

 

 ここでは俺の常識は通用しない。

 前調べ通り、この遺跡には万能薬を生成するための工房が存在した。

 

 ~汝等 其ノ絆ヲ糧トシ 万能ノ薬トセン~

 

********


「えぇ…。なにこれー…。」


 頬を撫でる柔からな空気は、地平線の向こう側から運ばれてきたのだろうか。

 茅のような細長い草は、立ち尽くす私の膝あたりでざわめき、そよ風の到来を知らせてくれる。

 一面に広がる緑は、波打つかのように白く輝き、頭上の陽の光を意識させる。


 そんな自然の必死な訴えにもかかわらず、私の頭はいまだ思考を始めない。

 先程まで椅子に座り、窓から注ぎ込むそよ風と陽の光に気持ちよさを感じながら、夢うつつに机に突っ伏していた。

 そのはずだった。

 南雲、南雲!と怒鳴る声が次第に大きく聞こえてきて、私は急いで立ち上がった。

 世界史の元山先生の授業で寝てしまうなんて、とんでもない失敗をしてしまったと思った。

 するとどうだろう。

 

 私は、視界いっぱいに広がる草原のなかに、ひとりで立ち上がっていた。


 たったひとりで。立っていた。


 「ごめん…なさい…?」


 黒板の前に立つ世界史の般若に対して向けるはずだった言葉を、思考を停止した頭がそのまま吐き出した。

 急激に吹き出した汗は、教室に注ぐそよ風よりも上質なそよ風で急激にその温度を下げていくのが分かる。


 …。


 「なんじゃこりゃああああぁぁぁーーーー?!?!」


 活動を開始した頭がようやく私の声帯に司令を送り、まずは常套句でウォームアップを行う。

 ウォームアップを終えたら首を動かし、右隣の席にいた友人を探す。

 寝起きの私を面白そうに見つめてくる由香里は、もちろんそこにはいない。

 腰も使ってウォームアップをしながら右斜め後ろを見ると、杏ちゃんが世界史の元山先生を恐ろしそうに見ていた。

 もちろん杏ちゃんもいない。これは寝起きの私が見た幻覚。

 

 私は、そうか。

 なんかワープしちゃったんだな。

 私の頭脳はそう結論づけた。

 

 「も、モンゴル、かな…?」


 この一面に広がる草木を見て、いつの日かテレビで見た遊牧民族を思い出した。

 白色の大きなパンケーキのようなテントを張り、馬を放牧して生活する人たち。

 あたりをぐるっと見回して彼らを探してみた。

 いない。

 

 かと思ったら、遠くにぽつぽつと何かが見える。

 四角い何かが一列に並びながら少しずつ左から右に向かって移動していく。

 車かな。モンゴルの遊牧民族も自動車を使うんだね。テレビでの姿は偽りだったんだ。


 …あれって、馬車?


 うん。馬車だ。


 車輪のついた箱型のものを馬が牽いて走っている。

 5台の馬車が一列に並びながら、走るというより歩く速さで。


 モンゴルの遊牧民族が文明の力に頼っていると疑って申し訳なく思うと同時に、私は馬車に向かって焦って走り出した。

 走り出して十歩も行った頃になって、私が右足、左足と踏み出していることに違和感を感じ、立ち止まった。

 うん。

 大丈夫。

 ワープしたからって走り方は忘れてない。

 ワープの時に脚を教室に置いてきてない。

 スカートはちゃんと履いてる。めくれてない。

 靴は…そっか、上履きだ。これか。

 

 そうして違和感の原因から顔を上げて前を向くと、先ほど周りを騒がせていた風が顔に当たる。

 汗が冷えて少し寒いが、髪を掻き上げてくれる風はとても優しい。

 私の膝のところまで生えた草が、チクチクと私の脚をこそばゆく突付く。

 自然が私を包み込むとはこのことか、と思うと、すっと焦りが消えた。

 

 上履きを確かめるために止めた脚を、今度はその優しい風を浴びるために動かす。

 そうして優しさを全身で堪能していると、今度はこのだだっ広い草原に向かって叫びたくなってくる。

 

 「ああああああーーー!」


 心の赴くままに叫んだ声は、跳ね返ることなく風に乗って消えていく。

 教室のように誰かが聞いていることも、やまびこのように自分が聞くこともない叫び声は、なんだか新鮮だった。

 ヤッホーに変えた方がいいかな、でも山じゃなくて草原だしな、と逡巡しつつも、そのまま叫び続けて走った。

 息が切れそうになるまで吐ききった後、大きく息を吸ってまた叫んだ。


 なんだろう。本当に気持ちがいい。

 思えば、私はワープしたんだ。多分。

 それでモンゴルに飛ばされた。

 最初は焦ってた。

 でも、こんな大自然の前で焦るなんて、もったいない。そう思う。

 だから、楽しもう。


 そう心に決め、持てる限りの力を振り絞って叫び、走った。


 「ああああーーーーーーー!!!」


 空を見上げると、ほとんど雲のない一面の青が、地面の緑と対をなすように広がっていた。

 

 「青ーーーーー!!!!!!!」


 叫び、走った。


 前を見た。

 

 5台の馬車が止まっていた。


 …。


 馬車の御者台に座った民族衣装姿の男性たちが、変なものを見る目をしている。

 荷台に繋がれていない馬が6匹、その背にそれぞれ人を乗せて立っている。

 彼らもまた、同じように変なものを見る目をしている。


 あー…。やっちゃったかも…。

 

 徐々に顔が熱くなってくるのが分かる。超恥ずかしい。

 1匹の馬がこちらにゆっくりと歩いてきた。

 どんなツッコミが来るんだろう。ドキドキする。

 徐々に近づいてくる馬上の男性を見上げ、そこから目が離せない。

 馬が私から五、六歩のところで止まると、馬上の男性が何かを言い始めた。

 

 んー、なんて言ってるのか分かんない!

 そりゃモンゴル語だもん。分かるわけないよ。

 

 どう答えたものかとあたふたしていると、馬車から降りてきたと思われる白服の男性が馬の傍らまで来ていた。

 私よりも少し背の高い黒髪の彼は、私を驚くような目で見ながら、そう言った。


 「JKが、異世界転生してきやがった…。」

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