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お題小説  作者: もっちもち
3/4

朽木、予言、隠れ家

 二つの影が不規則に並ぶ木々の間をすり抜けながらけもの道を進む。空から降る光は張り巡らされた葉っぱたちに遮られ、昼間にしては少し薄暗い。ほおに流れる汗は暑さによるものなのか、焦りによるものなのか。


「やっぱりさっきの道、右だったんじゃないの?」

 俺の幼馴染の優姫ユウキは短髪の黒髪に乗った葉っぱを払い落としながら、不安そうな声をあげる。


「いやー、こっちであってると思うんだけどな……」

 俺と優姫は登山のため山に来ていた。ここの山は道があまり整備されていないため、道がどうかわからない場所が多い。そのため、下山しようとしたところ道に迷ってしまったのだ。


「次は私が道案内するからついて来て」

 自信満々に言いながら俺の前に出る優姫。俺はそんな彼女の左肩に右手を置いて、


「断る」

 躊躇ちゅうちょすることなく言う。まさか断られるとは思ってなかったらしい彼女は勢いよく振り向き、


「まさかの即答⁉︎ なんでダメなのよ」


「だってお前方向音痴じゃん」

 ショッピングモールで迷子になるやつの案内を受けるとか恐怖しかない。そもそも山の中で迷子になったの優姫のせいだし。


「もう迷子になってるんだから方向音痴関係ないと思うけど。……だめ……かな?」

 優姫はわずかに瞳を潤ませ悲しげに言った。おい、その表情はずるいぞ。


「……じゃあ協力してこの山から脱出するぞ」


「おぉー!」

 優姫は右手を空高くあげながら声を張り上げた。このやる気とテンションの高さだけは勝てる気がしないな。優姫と一緒にいるとなんだかんだでうまくいく気がするから不思議だ。


 ******


 けもの道を歩くこと二時間ほどたった。明るかった空も次第に空色から朱色へと移り変わり、夜へのカウントダウンを始める。空の色はまるで俺たちの現状を表してるようだった。


「「どうしよ……」」

 二人で相談した結果、道を引き返すことにしたのだが元の道に戻れずにいた。それどころかさらに複雑な道になってしまい、どこの方向へ進んめばいいかすら分からない状況だ。


「こうなったら最終手段!携帯で助けを呼ぼうよ」

 ポジティブな提案する優姫。しかしその方法は使えない。なぜならば、


「なぜか圏外になってて電話出来ないんだよな……」


「なんですとぉ!? ……私たちここで死ぬのかな……」

 ずっと明るく振舞ってきた優姫にも精神の限界が訪れたのか、テンションが落ち込む。男としてここは元気づけないと。


「俺に任せとけ! 絶対生きて下山してやる」

 俺は力強く握りしめた右手を胸に当てて宣言する。自信満々に宣言したはいいものの、この状況を打破できる方法なんてなにも浮かばない。……本当にどうしよ。このまま夜が来てしまったらマジで詰みじゃん。


「ねえ、あれ何かな?」

 俺の一歩前を歩いていた優姫が突然立ち止まり、どこかを指差していた。そこに顔を向けて見ると、


「……家?なんでこんなどころに」

 不規則であっても絶え間なく立っていた木々が途切れ、クローバーの世界が広がっている。その中心に太陽の祝福を受けて立つ家があった。家とはいっても今どきのおしゃれな家ではなく、なんの塗装もされていないキャンプ場にあるような木造一階建ての家だった。


「きっと休憩場か何かだよ!あー、やっと休憩できる」

 優姫は満開の笑顔を咲かせ、家があるほうへ嬉しそうにかけて行く。俺もそのあとを追いながら、


「あ、ちょっと待てって! もしかしたら悪の組織のアジトかもしれないだろ」


「アニメの見過ぎだよ。そんな展開リアルで起きるわけないじゃん」


「ぐ、真顔で正論言わないでくれ」

 そんなやりとりをしている間に、家の入り口に到着する。家のドアには札がかけてあり、ご自由にご使用くださいと書いてあった。


「ほらね?」


「うるせえ」

 ドヤ顔で言われるとイラってくるな。

 それにしてもなんでこんなところに家があるんだろ。俺たちがここまで来るときに通った道は明らかに登山やウォーキングのコースではない。だから休憩場とは考えづらい。

 家の素材である木は朽木になってるどころか、若々しくて綺麗なメープル色だし。まるで最近出来たみたいな家だな……。


「なんか隠れ家みたいでドキドキするね」


「気持ちは分かるけど、なかに人がいたらどうするんだ?」


「別の意味でドキドキするね」


「左様ですか」

 上手いこと言ったってドヤ顔するな。全然うまくないから。……それはそうと優姫に元気が戻って良かった。


「あのー、すいませんだれかいますか?」

 このまま山の中を彷徨っていたらどっち道お陀仏だ。だから勇気を振り絞ってドアをノックした。


「……返事がない。ただのしかばねのようだ」

 俺の耳元で優姫がボソッと言った。


「怖いこと言うな! ……どうやら鍵はかかってないみたいだから開けてみるか」

 優姫が言った通りしかばねがないことを祈るばかりだ。その優姫は俺の後ろに隠れるように立っていて、いつでも逃げれるような体勢になっている。……別にいいんだけどね。


「お邪魔しまーす……やっぱり誰もいないな」

 入った瞬間、ヒノキのような優しい香りが襲来する。落ち着く匂いだな。

 家の中には一つの丸テーブル、二つのベットと照明があるだけの殺風景な部屋だった。これが住宅街とかにある普通の家であったならば……


「やったー、ベットがある! 今日はここに泊まろう」

 そう言いながら優姫は俺を追い越してベットにダイブした。ベットは底が破れたりすることもなく優姫を優しく受け止めた。


「いや、適応能力高すぎだろ。ベットがあることに疑問を持とうぜ!」

 こんな山の奥に家があり、しかも中にはベットがある。高い山とかには休憩ポイントとして家があったりするがここの山はたいして高くはない。だから普通に考えてこの状況はおかしい。


「外に自由にご利用くださいって書いたあったから大丈夫だって」

 肝が据わりすぎだろ。なんか心配ばっかりしている自分がアホらしくなってくるよ。


「……どうなっても知らないからな?」


 ******


 日は地平線の彼方へと消え、夜の帳が下りる。俺たちはこの家に一泊することにした。


 家に入ってから数時間経ったが、結局この家の持ち主が来ることはなかった。家の中には拳銃や麻薬などのやばいブツが見つかることもなかった。それが逆に不気味に感じる。不気味といえばもう一つ、おかしなものがあった。もちろん食べるお菓子ではない。


「ねえ、やっぱりあの手帳になんか書いてみない?」


「呪いの手帳だったらどうするんだ?」


「だから、アニメの見過ぎだって。それにちゃんと予言書って書いてあるよ?」


「いや、予言書の方がオカルトだろ」

 丸テーブルの上にあったもの。それは手帳だった。ただ手帳には予言書と書かれていて、不気味なものだった。ここが子供の秘密基地で手帳は子供たちがふざけてつくったものだと考えたが、子供がこんな山奥に来れるはずがない。


 まあ暇つぶしにはなるか。


 俺と優姫はベットから起き上がり、丸テーブルの前に立つ。


「それで何書くんだ?」

 予言書と書いて以外は白紙である。きっとこれの製作者はここに未来起こることを予想して書いて欲しいのだろう。


「世界平和!」


「子供か!」


「じゃあほかに案があるの?」


「そうだな……。山で迷子になったのが実は夢だったとか?」

 予言というより願望だな。


「うわ、現実的だ! でもそれだと楽しかった捜索もなかったことになるよ」

 優姫が口を尖らせながらいう。優姫と過ごした時間は楽しかった。なかったことになるとのはたしかに悲しいな。


「じゃあさ、目が覚めたら家にいるとか?」


「もっと面白いこと書こうよ!」


「もしかしたら本当に予言書かもしれないだろ。だからこの状況を打破できること書くべきだ」


「むー……わかった」

 優姫は口を膨らませながらも頷く。俺は置いてあったペンを持ち書き出す。目が覚めたら家にいるっと、よし。


 そんな感じで何だかんだと二人でこの状況を楽しんだ。じゃないと不安で心折れてしまう。


 数時間が経ち、疲れた俺たちはベットに潜り込み照明を消した。そういえばなんで照明つくんだろ? ……まあいいか。


「まだ起きてる?」


 夜の静寂に包まれてしばらく経った頃、優姫が話しかけてきた。


「起きてるよ」

 寝てるふりをしようと考えたが優姫の声に元気がなかったため正直に答える。


「今日はごめんね。私がリスを追いかけたばっかりにこんなことになっちゃって……」


「まだ気にしてたのか。なんだかんだで今日楽しかったから別にいいよ」

 これは本音だ。最初こそ不安でいっぱいだったが知らない道、知らない植物をたくさん見れて、冒険家になったみたいでワクワクしたし、楽しかった。


「……うん、私も今日は楽しかった! ……絶対生きて帰ろうね」


「そうだな。そのためにも早く寝て体力回復させないとな」


「……うん」

 優姫が弱々しく返事する

 ふたたび訪れる静寂。自分のベット以外ではなかなか眠れない俺であるが、今日一日で蓄積した疲労がまぶたを重くする。眠りに落ちるのに10分もかからなかった。


 ******


『チリリリン! チリリリン! チリリリン!』

 心地よい夢の世界から現実へ戻そうとするあいつが部屋に鳴り響く。止めても止めても数分後には不死鳥のごとくよみがえり、何度でも鳴き続ける。


「あー、はいはい起きるから鳴き止め……朝……か」

 身体にかぶさっていた布団をどけて起き上がり、眠い目を擦りながら周りを見渡す。四角いテーブル、勉強机、テレビ。いつもの俺の部屋だ。


「……え? ……えぇぇぇ、なんで自分の部屋にいるんだ!?」

 俺は山の奥にあった家で眠ったはずだ。そのはずなのだが、


「今までの夢だったのか……?」

 夢オチとか最悪だろ。そうだ、優姫に確認とってみればいいんだ!当たり前だが優姫は俺の部屋にはいない。だから携帯で電話することにした。


 時刻は朝の9時。寝ているかもしれないと思ったが、このモヤモヤを晴らさないと気持ち悪い気分だったので遠慮することなくかける。優姫は四コールのあと出た。


「……もしもし、こんな朝からどうしたのー」

 電話から気だるげな声が聞こえてくる。どうやら今起きたらしい。


「変なこと聞くようだけど、昨日の夜ってなにしてた?」


「え、昨日の夜? 昨日の夜は……あれ!? なんで私、家にいるの!? あれ全部夢だったの」

 突然、裏返った声色で大声を出す優姫。その反応で俺は理解した。やっぱり夢じゃなかったんだ。そうなるとなんで家にいるんだ。


「もしかして……予言書が本物だったのか?」

 今起きてることは予言書に書いた通りなのだ。というかそれしかこの状況を説明できない。


「予言書って……あの手帳みたいなの?」


「そうそう、やっぱりまじめに書いといて良かっただろ?」


「……」

 急に優姫が黙る。悔しくて黙ったのかと考えたが、それは優姫らしくない。どうしたんだろ


「どうした?」


「どうしよう……あの手帳に、ね?」


「お、おう」

 なんか嫌な予感がする。


「明日世界が滅びるって書いちゃった」

 深刻な声で言う優姫。その言葉に血の気が引いていくのを感じる。


「マジか」


「マジ……」


「何やってるんだよ!」


「ごめんなさい!」

 いや、ごめんなさい、じゃあすまないだろ!



 後日談ではあるが、その後世界は滅びることはなかった。知り合いの登山家に聞いたところ、俺たちが登った山には迷子になった人を助けてくれる迷い家のようなものがあるらしい。そこで泊まると自分の家まで転送?してくれるという噂だ。


 つまり予言書はただの手帳でしかなかったわけだ。

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