雨、偽物、腹巻
緑一色に染まっていた山々は赤や黄色などに模様替えする。季節の変わり目というのはうんざりするほど雨が降る。
雨が降ると喜ぶ人もいるそうだが、俺たちにとって雨というのは敵だ。なぜかというと、雨はお客様を奪っていってしまうからだ。こればかりはどうしようもない……と言いたいところではあるが、そんなことを言っていては資本主義の世界では生きていけない。
「ということで緊急会議を始める」
会議室に集まったのは一人の男性と二人の女性と俺だ。売り上げをあげるための対策を話し合うためにここに集めた。四人は円卓の騎士のように円になって座っている。
「まずは政宗さんの意見を聞きたい」
「ふっふっふ、ついに我が力を解放するときがきたか……世界の終わりが押し寄せてくるまで封印しておくつまりだったが仕方ない」
「じゃあ、世界の終わりまで封印しておいてください」
厨二病の政宗さん、性格はあれだが仕事はめちゃくちゃ出来るというのはうちの会社の七不思議の一つだ。
「では次、花蓮さんどうぞ」
「はい!全ての商品をタダにすれば売れると思います!」
花蓮は自信満々に言う。なるほど……一理ある。
「売れた分だけ給料引かせもらおう」
「そんな殺生な……。ソシャゲに課金できなくなります!」
そう言いながら花蓮は涙目になる。ちなみに花蓮は課金のしすぎで借金があるらしい。
「……じゃあ、最後に碧さん、どうぞ」
「はい」と言いながら最後の砦が立ち上がる。あくあまりんと言ったのは言い間違いではない。キラキラネームなのだ。
「腹巻の新商品なんてどうでしょうか? もうすぐ季節は冬に変わりますのでちょうどいいかと」
碧は眼鏡を右手でくいっとあげながら真面目なことを言う。名前とのギャップがすごい。
「腹巻って地味じゃないか? それならオシャレな服を売った方がいいと思うんだが……」
「ふっ、腹巻か……。私を三千世界に連れて行くつもりか、我がライバルよ!」
「政宗さんは今すぐこの部屋の窓からバンジージャンプして消えてください。……オシャレな服に力を入れている店が多いため、競争になり売れあげはあがらないと思います」
「なるほどな……よしそれ採用だ」
「ありがとうございます」
碧は軽く会釈する。
「はいはい、私に提案があります!」
「花蓮さん、今度は真面目な言ってくださいよ?」
「政宗さんに、某アニメの三刀流のキャラクターのコスプレさせて腹巻の宣伝をさせましょう」
と花蓮は元気よく言った。
「貴様らー! 俺を著作権違反で豚小屋送りにするつもりか!さては貴様ら秘密結社が送り込んだ……」
──キーンコンカーンコン
政宗が熱く厨二病を披露していると学校の予鈴がなる。それは授業の始まりとともにこの茶番の終わりを告げるものだった。