プロローグ(前編)
西暦1990年代の米国製アクション映画。
無粋にも邪魔が入ったのは、そのクライマックスを視聴していたときだ。
破壊と言う名の崩壊が、視界のすべてを覆い尽くした。
俺は、瞬く間に宇宙空間に投げ出される。
爆発音は周囲に空気が失われると同時に聴こえなくなった。
衝撃が、俺の肉体を弾き出すように一方へと飛ばす。
宇宙。
音も温度もない言葉通り、ただのスペース。
上にシャツ、下にズボンをはいているだけの軽装だが、俺はまったく危機感を覚えない。
普通の人だったら、とっくに死んでいるところだが。
だが俺は、少々訳ありだったりするわけで、ちょっと生身で宇宙空間を漂っただけでは死ねない身体をしているのだ。
俺の名は、凰上明秀。
もともとは西暦2020年頃に日本の東京という都市で、普通の高校生をしていた。
それが突然、剣と魔法の世界に呼び出されて色々とやらされたりしてみたのだが、それが一段落して東京に帰ってみるといつの間にやら地球自体が滅んでしまっていた。
なんでも、異世界と俺の世界では時間の流れが違ったらしい。
びっくりなことに、2,3年で帰ってきたつもりが、2,3万年くらいは経過しちゃっていたんだ。
まあ、あの時は焦ったりしたものだが、もう過ぎたことだし諦めるしかない。
幸いなことに、人類社会は宇宙に進出して何かと発展していたことだし、俺はそんな人類の生息圏の片隅に、放棄された宇宙船を見つけ出して、そこでのんびり暮らしていたのだ。
ネットから過去の映像作品のアーカイブを見つけ出しては、それを視聴するのが日課だった。
というかほとんどそれしかしていない。
飲まず食わずでも俺は生きていられる。
それはそれで、味気ないけどね。
しばらく、200年くらいは日数をカウントしていたのだが、飽きてきたので数えるのを止めていたのでもうどれくらい月日が経過したのか分からない。
たぶん、500年くらいだと思う。
アニメ、ドラマ、映画と何でも観ていたのだがまだまだ観尽くしたという感じはしない。
人類は一体、何年分の映像作品を製作したんだろうか。
俺はまだまだ人類の知的財産を堪能するつもりだった。
だが、そんなお楽しみの時間を、俺は何者かによって宇宙船ごと吹き飛ばされたのだ。
ひさしぶりに腹が立った。
ただ、ひさしぶり過ぎてちょっと笑ってしまう。
とりあえず俺は、もともと展開したままにしていた魔法の防護障壁を何重にも張り足して防御力を高め、更に風属性の魔法を使い自分のまわりに空気を造り出した。
異世界にいるあいだに覚えた技だ。
こんなふうに使うことになるとは思っていなかったが。
本当は多少の間、呼吸なんかしなくても大丈夫なんだが、やっぱり息ができないというのはなんだか気持ちが悪い。
さて、と。
『レイチェル、無事か────?』
俺は、同じ宇宙船内にいたはずの仲間に思念波で呼び掛ける。
簡単に死んだりすることはないはずだ。
返事がないので生命反応があるところに飛んで移動すると、レイチェルは寝ていた。
もぞもぞと口を動かしているので寝言を言っているらしいのだが、ここは無音の宇宙だ。さっぱり聞こえない。
確か映画を観ている俺の傍らで、ゴロゴロして寝ていたはずだが、よく考えるとしばらくの間は寝ていた気がする。
たぶんだけど、100年くらいは。
しかし、宇宙船が吹っ飛んでも寝ていられる神経の図太さは見上げたものだ。
彼女は、俺が異世界から連れてきた堕天使だ。
だが、どちらかというと堕天使というよりは、ぐうたらな天使と呼んだほうが正しい気もする。
俺はレイチェルに、魔法の結界と空気のある空間を造ってやると、いよいよ他人の楽しみを邪魔する奴に鉄槌をくだしてやることにした。
魔法の視界を拡げて敵の姿を探す。
すると、一隻の宇宙船が一機の有人兵器に追跡されているのがわかった。
移動方向からして途中で俺たちを襲ったに違いない。
流れ弾か何かが当たったのだろう。
俺は状況を見て、有人兵器のほうが俺の敵だと結論づけた。
決めつけたとも言う。
俺は飛翔魔法を応用的に使い、標的を目掛けて飛ぶ。
追われる宇宙船と、追う兵器のあいだに分け入ったのは、あっという間だった。
しかし、相手はすぐには俺を発見できなかった。
ようやくここに俺という存在がいることを認識させることができたのは、宇宙船に向けて撃たれたミサイルを2つばかり蹴り飛ばしてやってからだ。
俺を知覚して、しばらく兵器側は沈黙した。
まあ、わかる。
不測の事態というやつだろうから。
生身の人間っぽいやつが宇宙空間でいきなりミサイルを蹴飛ばしたら、たいていの人は驚くに違いない。
だから俺は、少しのあいだ待ってやることにした。
そんな紳士的な俺。
自分で格好いいと思ってしまうね。
世の女性はすべて俺に惚れるべきだろう。
やがて、そいつは俺に武器を向けた。
どうやら排除すべき障害として理解してもらえたらしい。
四肢を持ち、人のかたちを模したこの時代の戦闘兵器。
人が操るべき兵器に合わせる時代から、兵器が己を操る人に合わせる時代に進んだがゆえに至った姿なのだとは聞いている。
いずれはどんなものか現物を見てやろうとは思っていたが、まさか喧嘩することになるとは。
ロボと宇宙でバトルか。
異世界仕込みの俺の魔力が、この世界の、この時代でどれだけ通用するのかを計るのにはいい機会かもしれない。
それに今の俺はまだ、アクション映画のテンションを維持しているのだ。
アチョー。
相手にとって不足はないね!
500年ぶりの運動をさせてもらうことにしようか!




