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前世の記憶 宿命

 恭しく掲げられた人物画


 花園に佇む少女。控えめな微笑みながらバラ色の頬が彼女の活発さを語り、翳した右手からあふれる光が神秘を語る。服装から巫女のようだ。さすればあの光は癒しの祝福か。ロイヤルパープルの帯が彼女を王族と示している。そう王族だ。しかし……ユリそっくりなのだ。違いは同じく真っ赤に燃えるような髪の長さだけ。短髪のユリに対して流れるような豊かな長髪。


「そんなバカな……」

 思わず零れてしまった言葉。


 呆然とするユリに王がぽつりと告げた。

「代の妹アスタルテだ」


「勇者一行の巫女……」


 ユリは呻くように呟いた。

 50年前、魔王の力が強大となり勇者と各国の騎士団は壊滅状態。神々も深手を負い、伝説の暗黒の時代が迫っていた。窮地に陥ったニレディアンを救って頂いたのが異界の神々だった。異界の地の神々が話し合い、アマテースの神が己の加護を持つ勇者をこの地に送り出したのだ。異界の勇者は生き残っていた騎士数名と、当時癒しの加護を持っていた王女を巫女として伴い、見事魔王を討ち取った。しかしその時王女は亡くなったと伝えられている。


「異例が何度も続けば異例ではない。必然だ」

 総帥の言葉に雷に打たれたようにショックを受ける。


 父の男爵叙任、領地拝領、娘の継承承認。女性だてらに重騎士師団の分団とはいえ副団長へ……


「父が巫女の落とし子……という事ですか……」

 自分の実力だと思っていただけに恥辱に叫び出したい気持ちになる。

 すべて己の身体に流れる血のお陰だったのか。


「貴殿も聞いたことがあろう、魔族が人間を拐かしていると」


 ユリは黙って頷いた。


「確かに魔王との戦いで荒れた焦土の復興は血の滲む思いだった。しかし5千年の歴史で人々は苦しいときも分かち合い、助け合い、手を携え生きてきた。それなのに今回は漁村や農村が納税を拒み、自領から食料を出さなかった。王命を無視し、勝手に独立宣言。領民も自分たちの分け前確保の為それを支持した。スフォルツ領のような鉱山で食べていた領民達は飢えで苦しんだ。先代男爵は民を救うため隣の領と内戦を起おこしてしまった。どこもかしこも似たり寄ったり。ニレディアンは半分以上の領土を失ってさえ国として復興するのに20年かかった」


 王は苦悩の表情で語り続けた。

「先の魔王は歴史上最強の力を持っていたが、武力だけではなく調略にも長けていた。勇者との戦いが苦戦したのも、各領の連携が取れなくなっていたからだ。それほど上層部に魔王の手の者が入り込んでいたのだ。そして魔王亡き後も戦いの場に出ていなかったであろう魔族は生き残り、次の魔王復活まで今でも暗躍し続けているのだ。神殿でも例外はない」


 王は巫女の絵を痛ましそうに見つめた。


「勇者一行が神の剣を収めに神殿へ戻って来た時だった。我々王族も出迎えた。異界の神アマテース様が勇者を迎えに来るのを見守るために。しかし、妹と恋仲になった勇者はこの世界に残るか、勇者の世界に連れて行きたいと王に願い出た。王は神が許せばどちらでも叶えようとされた。しかし妹に横恋慕していた神官が、神が降臨される前に魔方陣を発動して勇者を時空の彼方に飛ばしてしまった。帰還軸など書かれていない魔方陣では勇者は永遠に時の狭間を彷徨うか、偶然どこかの世界に飛ばされたのか知る術も無い。神は激怒した。神官は魔族の姿になりすでに行方をくらましていた。金輪際わが世界を助けることは無いとの言葉を残してお帰りになった。


 巫女は魔族から身を守るため姿を隠した。神を冒涜した国からも身を隠した。

 恥ずかしながら我々王族も失踪後の妹の行方は解らなかったのだ。


 そなたの父に会った時、一目でわかった。妹にそっくりな赤い髪、あふれ出る王族特有のの魔力。

 運命がそなた達をここへ使わしたのなら、王族に戻すべきそう考えた。

 しかし今まで無かった事にしていたのだ、すぐには出来ぬ。まずは貴族へと画策した。

 その結果が今なのだ。


「父は知っていたのですか?」


「いや 昨日呼び出されて知った」

 振り返ればいつの間にやら男爵が後ろに立っていた。


「なんと申せばいいのか。我も其方も。言いたいことはあろうが、これを抜いてみよ」


 複雑な表情の父が差し出したのは

「神の剣……」


 巫女が王族を捨て、隣国で身を隠した理由は簡単に想像がつく。

 そしてそれならこの身には王族の血以外にーーーー


 ユリがためらいながらも鞘に手を添えると、くすんでいた鞘が黄金の輝きを取り戻す。

 スーっと抵抗なく剣が抜かれる。


 認めたくない思いを押し込める。全て神の手の上であった。

今まで信じてきた道、背負ってきた苦労、全て偽りであったのか。


「ユリ」

「マド……」

 剣を握りしめながら震え立つユリを支えるように、マドーニが寄り添った。


「ユリはユリだ。今までの努力、犠牲、流した涙。笑った幸せも、神への想いも全てユリの物だ。まぎれもないユリだけの物だよ」


「俺達が何者であっても、与えられた道があっても、俺達が家族でお前を愛しているのは変わらない」


「父上……マドーニ……」



 ーーーーー全てのニレディアンに住まいし神の子らよ。魔王が復活した。もう悪魔に惑わされず、慈悲深き神に祈れ。神への感謝を込めて、明日への希望を込めて。

 先代勇者と巫女の子らが魔王討伐へと向かう。祈れ、祈るのだ。彼らのために。神々の力を賜るために。全ての尊き命の為に。自然と神と人間が築き上げた美しい世界の為に



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