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 ビリッと絹を裂く音が響く。

 『あっ』


 『すまない 堪えてくれっ』

 傷口を焼いたナイフで削り、口で毒を吸い出す。


 『ぐううっ』

 焼かれるような痛みが気を失うことも許さない


 『これで大丈夫だと思うが、しばらく熱が出るかもしれない』

 矢で射られた腕に薬草を押し当てながら止血する。


 『あ……りが…とう』

 肩で息を吐きながら御礼を述べる。


 『守れなくてすまない』


 『これぐらい平気。貴方の方がよっぽど苦しそうな顔をしている』


 『女性の肌に傷を造ってしまうなんて 自分がもっと早く気づいていれば』


 ユリがふふっと笑った。

 『私は騎士、怪我なんて昔からいくらでも。 誰にも女扱いなんて……』


 『ユリっ』

 マドーニがユリを後ろから抱きしめた。

 『貴女の気高く尊い心は誰よりも美しい 女神のような女性だ。俺はだれより貴女が……』


 『マドーニ……』






「いーーーやーー!!!萌えるーー!マドーニデレ期きたーーー!!」


「みっちゃん……」

 人の部屋で萌え転がる後輩を冷めた目で見つめる。


「だってチーフぅ!キリーは毎回ユリをぐいぐい口説いているけれど、マドーニがデレるのは、3週間に1回ですからね!」

 ふんがーと鼻息も荒く力説する。


「わかったけど もう会社無くなったんだからチーフじゃないから……」


「いけ!押し倒せ!ああーここで終わりー!いけずーー」

 人の話を全く聞かないこの子は会社時代の後輩佐藤美里。


「そもそも子供番組で押し倒せるのか」

 やれやれとコーヒーをあおりながら画面を眺める。相変わらずイケメンだねぇ。


「あまいですよ チーフ!子供番組と侮っていたら死にます、萌え的に。 今どきキスシーンぐらい当たり前にぶっこんできますからね」


「へー昔と違うのね。昔は新人俳優が棒読みみたいな番組だったのに。デビュー5年目のアイドルなんでしょ。子供たちも割り切っているのかね」


「ちゃんと現代のアイドルが異世界に召喚されてとなっているから、大丈夫なんですよ。彼らもこの1年徹底してほかのメディアに出ていませんからね。小さい子の夢は壊しません。」


 みっちゃんは詳しい。彼らのファンクラブにも入っているそうな。

「そこまでして子供番組にでたかったの」


 バーンっと炬燵をたたいてみっちゃんが反論する

「紅白出て、朝ドラ出て、昼ドラ出て、アニメで声優して、映画も出てもユリが見つからないからですよ。この番組海外にも放送されているんです。噂ではこの後ハリウッドで映画化らしいですよ 日本で見つからないから世界を視野に入れはじめたんです」


「そのユリを探すって設定どこまで拘っているの?」


「設定って言っちゃだめー!世紀の純愛物語なんですから!ほんとに彼らを知らなかったんですね。信じられない。デビューから超絶話題でしたよ。失われた姫を探す王子。 私もミリじゃなくてユリだったら名乗りでたのに!!!あれ?チーフの名前『総湯 梨花』

を『そう ゆり か』で区切ったらユリですね!受ける!あはは!」


「そうだね あはははー」

 笑い転げるみっちゃんをひきつった顔で見た。


 両親が百合と名付けて届をだそうとした日に訪ねてきた祖母が、『そうゆゆり』なんて重なってておかしい!と異を唱えて急きょ名前を変えたと聞いたことがある。あぶない……おばあちゃんありがとう。


「まあこの五年会社やばくて休みほとんどなかったですもんね。下っ端の私でも。チーフが過労で倒れて、会社も倒れましたね。うけるー わらえなーい」


「まあね。経営不振で部署統合で人が半分になっても仕事量変わらなかったからね。世の中の事まったくわかんないよ。テレビなんて2、3年スイッチ入れた覚えないから。先代に頼まれなかったら倒れる前に辞めていたよ。お金もっている無能なボンボンは悪だね」


「ほんとですよー。それなのに見栄だけはって駅ビルに事務所って先に削れよって感じですよね」


「ほんとそれ。阿保の極み。家賃で赤字補填できたっての」


 10年前就職した会社は経営者が代わり、前社長の営業力をなくし経営は悪化。無能をダンピングで補うものだから負のスパイラルまっしぐら。安易なリストラで慢性の人手不足。古参の使える社員は次々と倒れ、無駄に丈夫だったのが災いして最後は救急車コースで働かされた。テレビのユリも死にかけていたけれど、私だって死にかけていた。物理的に。


「チーフは再就職どうするんですか?」


「うーん 10年働いたから少し休みたいかな。病み上がりだし」


「そんなチーフにお願いがあります」


 いやな予感しかしない



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