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『くっくっくっくっく これまでのようだな勇者共』
腕を切り取られた肩の付け根から、黒い血液をしたたらせながら、魔王エレーダが不敵にあざ笑う。
『ユリ殿を離せ!!』
もはや立っていることもやっとの満身創痍なマドーニと、うずくまるキリー。
『すまん俺のせいで……』
魔王討伐まであと一歩というところでキリーが罠にかかり転落、一瞬の隙を突いてユリは背後を取られ羽交い締めにされてしまった。
『ふんっ くうっ』
ユリも藻掻くが断罪の鎖が魔王ごと絡まるかのようにきつく締め上げられていく。
『この時をどれほど待ったことか。神々の力は眠ったままの今こそ我の世界が始まる。もう二度と明けぬ暗黒の世界。連中がお高くとまっていたのは約束の救援あってのこと。それも今や過去。異界の神さえ見捨てたこの地に永遠に光などささぬのだ』
『させるか』
キリーが己の足に刀を立てた。
マドーニが驚いてキリーを止めようとした。
『マド!よく聞け、これが俺の炎の力と融合した神の石だ。俺をあいつの所まで投げてくれ、鎖を切ってユリを離したら全ての魔力を込めてやつを足止めする。5年か10年かしらないが、少しは体勢を整える事はできるだろう。勇者の剣ではないからそれ以上の負荷は与えられない。でも、もうこれしか方法が無い』
『そんな事をしたらお前は!』
『ハっ!ここで全滅するよりましだ。どうせもう折れて動かぬ足なんざいらぬ』
『お前は国を治めなければ。その役目は俺が!』
『この石は俺の意思だ。俺が一番力を引き出せる!ユリを連れて逃げろ!』
『キリー!!』
『俺だって王族の覚悟ぐらいあるんだ。昔から第三王子なんか義務だけで好きに生きられぬと、お前達を散々困らせた。上辺だけの奴らに囲まれた俺に本当に力を貸してくれたのはおまえだけだった。これからはユリと力を合わせて、この世界の未来を救ってくれ』
『今更ごちゃごちゃとうるさい奴らだ。絶望と悲哀を絵に描いたようなものたちよ。この世の終わりを見せられぬのは残念だが、勇者の生き残りなど誤算であった。少しの憂いも残さぬ。この場で屑となれ!!何もかもが無駄だという事をわから! ぐっ! うっうっ うぎゃあああああああああ』
魔王の断末魔が響きわたる中、マドーニとキリーの見開いた目には己の身体ごと剣で魔王を貫くユリが映っていた。
『ユリー!!!』
マドーニが駆けより、鎖を断ち切る。
『隙だらけで助かっ……た……よ』
マドーニの腕の中で、ユリは弱々しく微笑みながら言った。
『ユリ!なんてことを!ユリ!ユリ!』
『早く……逃げて……崩れる……ま……え』
最後まで言い終わらぬうちに、そのままユリが静かに息絶えた。
ガラガラと建物が崩壊する魔王城。
崩落の大音響のなかで一切周りの音などしないかのように二人は動けなかった。
『マドーニ……とにかくユリを連れて行かねば』
マドーニは無言でユリの首元からネックレスを引きちぎった。
『勇者の国では死ぬと魂は生まれ変わるらしい。男爵殿の数少ない記憶に来世で夫に巡り会えるとアスタルテ様は言い遺されたと』
『来世……』
『来世では争いの無い、身分もない、平和な勇者の国で暮らしたいとユリは望んでいた』
一際大きな地響きを立て、中央の柱が次々と倒れていく。
『二人が来世で離ればなれにならないように、俺の全てで魂に絆を刻みつける』
『マドーニ今はそんな時間……』
『ニレディアンの未来を頼む』
マドーニはペンダントをキリーに押しつけながら、石をパキッと割った。
『なっ』
青い光に包まれたキリーが軈て粒子となって消えていった。
こんな形で使う事になるとは思わなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―――『マドーニ・ミカエリス』
『はっ』
『ごめんなさい。もうすぐ旅だってしまうあなたへどうしてもお会いしたくて』
明日を出発に控えた夜更け、石を飲んでも生き残った王女ジルノミアの部屋にマドーニが呼ばれた。
『お体は回復されたのですか?』
王女は侍女に支えられて座っている。
『こんな時に役に立てない王族なんて価値ないわね』
王女は寂しそうに笑った。
『決してそのようなこと』
『いいの。解っているから』
王女はマドーニの慰めを遮った。
『ここへ』
マドーニが王女へ近づくと、鈍く青く光る小指ほどの石を手渡された。
『それは先ほど私から取り出した神の石です』
そう言うと王女はおもむろにガウンを大きく肩からずらした。生々しい傷跡が見て取れる、
『姫……』
『神の石は身体の中でバラバラに砕け散りました。私は運良く肩口や腕など、生命に支障の無い場所だったのでこのように生きながらえております。この大きさでは一つの魔方陣程度を刻むのが限度。しかし出来損ないでも神の石。1回の使用なら十分に耐えます。私は王族特有の癒やしの力ともう一つ、母の系統空間系の魔力があります』
王女はマドーニの手を取った。
『もしも勇者の剣で魔王を倒せなかった時、この石を割り私の元へと戻りなさい』
『それはいったい……』
『貴方は最初の神々が敗れた暗黒の時代、人々がどのように生き抜いたかご存じ?』
『いえ』
『神の石がある中央神殿の敷地は強固な結界で守られているのです。狭い敷地でも国一番の神殿。神官100人は生きていけるだけの設備が整っています』
マドーニは驚いて王女を見る。
『そこで何世代にもわたって生き抜いたのです。奉仕活動として作物をつくり、衣を織り、薬を作っているのは、いざという時生きるためなのです。暗黒の時代でも、王家の血を残さねばなりません。神が復活された時に共に歩める力を絶やしてはならないのです』
『王子を脱出させろということですか?』
『いいえ』
王女がマドーニの手をぐっと握りしめた。
『貴方が帰ってくるのです。私と弟では血が近すぎます。貴方は王族の血を引いている訳でも、勇者の血を引いている訳でもないのに神の石に選ばれた。本来の加護さえあれば、勇者は貴方だったはずです。その強さで次世代を残すのです』
『私は二人を守る盾、先に散るのが役目。逃げおせるなど出来ません。するつもりもありません』
『貴方の意思は関係ありません。これは世界の為なのです。暗黒時代を終わらせるために、次の光を残すのです』
『……』
『忘れないで、民の為、神の為に。自分に課せられているものを間違えてはなりません』
―――
ユリだけでも逃がそうとユリに身につけさせていた姫の転送石。
『あいつ怒るだろうな』
こんな時だが、ふっと笑みがこぼれる。
王都に馴染めないマドーニを翻弄し、手こずらせながらも気安い関係を築いてくれたキリーには感謝していた。だが、ユリを一人だけ逝かせる訳にはいかない。
ユリの為に生きるつもりだった。ユリに並び立ち、支えるための力を手に入れるため歯を食いしばり今の地位まで駆け抜けた。今度は来世で。一刻も早く、ユリを一人にしないために。
『来世でもその先でも未来永劫、貴方と共に、貴方の為に。何者も二人を別つことのないように 全てを貴方に』
淡い暖かな虹色の光が二人を包み込み、画面がホワイトアウトしていったーーー
ボスンと力なくベッドに倒れ込んだ。
自分が死ぬ話って思っていたよりヘビーだった。
マド……あと追ったってことだよね……悪かった……かなぁ?
でも、ああするしかなかったし。
梨花は頭を抱えて布団に潜り込む。
番組では街角ですれ違った女性の腕を掴んでエンドロールだった。
前世のユリの様なすらっとした長身の後ろ姿。
やばい……それ想像されると困りますですはい。
どうすればいいんだろう。
マドは姫様と出来ていると思っていた。
どうやら姫の策略にはまったらしい。死ぬ前に知りたかったな、今更だけれど。
おかげで言い訳が消えてしまった事になる。
ずっとマドは義理とか恩義とか、そういったもので私に使えていて探しているのかと思っていた。それがまさか……
「す……好きって事?」
ぎゃー自分で言って恥辱で死ねる。乙女かこの歳で。
カタンと木戸が音を立てたような気がして庭を見る。
「風がでてきたのかな。今日で散っちゃうのかな」
起き上がりサンダルをつっかけて庭に出た。
一際大きな風が吹くと、舞い散る花びらに溺れそうなほどだ。
サクヤビーメの下で捨てたはずのこの想い、時を超えても鮮やかに蘇る。
枯れ果てた気持ちだと思い込もうとした。でも……でも……
「マド……」
思わず小さく呟いたとき、ふわりと懐かしいぬくもりがユリを後ろから抱きしめた。
「やっと……捕まえた」
「?!」
な、な、な、なんで!なんで!こここ、ここに!
固まってしまい声もでない。振り向くことができない。否、振り向きたくない。心の準備なんて出来てない。
どどどど、どうすりゃいいのぉぉぉぉ!!!
無理矢理完
プロット3つぐらいすっとばして完結させましたw
すんましぇーん 4月から忙しくなるの解っていたので3月で終わるつもりの桜エンド。
この時期にやばすぎるwww
プロローグがあるのにエピローグがないひどい話だwww
8+ちょこっとエピローグですね。
なんでたどり着けたかとかは番外で追加します。
消化不良ですので(^0^;)
次回からは全部かけてから投稿しまーす
多分秋まで時間ないんですけどね
ありがとうございました。