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彼の実力



魔術騎士学科の授業が始まったのだが、何故かマッチョ先生と、レイエスが円の中に居る。


本気の実力を知りたい見てみたい、と生徒達に請われたマッチョ先生。

そこに丁度良く学園騎士団の生徒数人が現れた訳で。


レイエスは魔術騎士学科を専攻していて、マッチョ先生が『殺るぞ』と、笑顔で指名してました。可哀想に。


面倒くさそうなレイエスと目が合い、私は『頑張って』と口だけ動かして応援しておいた。

それに気付いたのか、レイエスは微かに微笑んだ。



二人が剣を構えれば、闘技場内は静まり返って、生徒達は固唾を呑んで見守る。攻撃魔法もありなので、生徒達に被害がないよう円に沿って結界も発動している。


「制限時間は五分。始め!」


今日はイケメン風眼鏡の先生が、開始の合図をした。


二人はゆっくりと円を描くように動いたかと思うと、先生が数十本の火の矢で攻撃し、レイエスは同じだけの氷の塊でそれを相殺する。

そして、お互い一瞬で斬り掛かった。

二人の剣が激しくぶつかって、甲高い音が響いた。


身体強化をした二人の速度は速過ぎて、慣れてない人にはいつ動いたのかすら分からないだろう。


鋭い眼で見据えて攻めていくレイエス。相手を上手く誘導して隙を作った所を一瞬で狩り取る。

先生もその鋭い一撃を剣で受け止め、即座に反撃に転じる。

剣戟の合間に魔法も発動してるので、地面は凹凸が出来てる。それでも、足を取られる事なく二人は攻めていく。


激しい剣戟と魔法の応酬に魅入って、私は感嘆の声を上げた。


マッチョ先生もだけど、レイエスってこんなに強かったんだ。

本気で殺る相手にレイエスを指名したんだから、当たり前なのかもしれないけど。


攻略対象者は皆チートなんだろうけど、何もしないでこんなに強くなれる訳じゃない。

努力の積み重ねが大事だから。


正直、レイエスが努力とか似合わないと思ってたから。って偏見かな。偏見は良くないよね。ごめん、レイエス。



終わりの合図に、生徒達から興奮した歓声が上がった。

誰もが目を奪われ、手に汗握る、そんな濃い五分間だった。


二人が円の外に出れば、普段通りの授業が始まる。


マッチョ先生は、実戦こそ全ての脳筋タイプ。

イケメン風眼鏡先生は、頭脳タイプ。


常に誰かしら模擬戦をしてて、終わった人から個人的に相談を受けたり、指導したりしてます。なかなかいいコンビなのかなと。


レイエスを見れば、学園騎士団の生徒と楽しそうに笑い合っていた。疲れてる様子はない。

乱れた黒髪を掻き上げて、無駄に色気を垂れ流してる。


それを数人の女子生徒が、頬を染めて見つめていた。目も潤んでいて正しく恋する乙女だ。


「アンジー、暇だったらやるぞ」


ナイジェルに誘われて、笑顔で頷く。二人の闘いを見て、私もウズウズしてたから。

立派な戦闘狂だよね。でも、断じて脳筋ではないからね。




ナイジェルと他の男子生徒数人を叩きのめし、授業が終わったので着替える。

最近、男子生徒から模擬戦の申し込みが多いな、と思いながら。

しかも叩きのめされて笑顔なのが恐すぎる。Mって本気で恐い。


闘技場を出て寮に戻る際、レイエスに会った。


「アンジー、お疲れ様」


既に人気がないからか、普通に話し掛けてきた。

彼等に出会ってからもう一ヶ月は経ったけど、普段は昼休み以外で見かけても、話す事はないから吃驚した。


「レイエスもお疲れ様」


畏まった口調? そんなのすぐに辞めたよ。

私だけ丁寧に話すのは馬鹿げてるし、レイエスも一人称が『私』から『俺』に変わったしね。


いつの間にか仲良くなってる不思議。レイエスって人の心の壁を、気付かれないように越える事が出来るらしい。

私にもその技教えてくれないかな。


「レイエスって強かったんだね。吃驚した」


「俺、一応学園騎士団なんだけどね。弱かったら選ばれないよ」


私の言葉に、レイエスは呆れた表情で見下ろす。


「わかってる。でも実際に見たのは初めてだし。格好良かったよ」


笑顔で言えば、微笑して私の頭にぽんと手を置いた。


「ありがとう、ついでに惚れていいんだよ」


「うん、それはない。強いからとか、そんな事で惚れませんよ私は」


冗談に本気で返す私って、空気読めないとか言われそうだよね。

でも恋愛に関わる事は、冗談には出来ないからね。

だって、冗談に冗談で返したら、いつの間にか婚約してました。ってなってたら笑えないでしょ? 他人事なら爆笑だけど。


「そっか。残念だな」


言葉とは裏腹に、レイエスは嬉しそうな表情だ。失礼な人だよね。

私の頭に乗ったままの大きな手が、髪を掻き乱した。


「ちょっとレイエス!」


抗議の声に笑って頭から手を離したレイエスは、その手を移動させて頬に軽く触れた。そして、慈しむように私を見て微笑んだ。


「それじゃあ、また明日。可愛いアンジー」


『可愛いアンジー』と低く甘い声で言われて驚いた。そんな風に呼ぶのは今まで兄だけだったから。


もし、他の人に言われたら殴ってたかもしれない。


レイエスにそう呼ばれるのは嫌じゃないけど、ほんの少し心がざわついた。

気持ち悪いというか、得体の知れない感覚というか。どうしたのかな。


離れていくレイエスの後ろ姿を見ながら、ぼんやりと立ち尽くしていた。






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