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乙女二人の語い



寮に戻ると直ぐに、ノックの音が聴こえた。

メアリがドアを開ければ、笑顔のマリアが現れる。


「アンジー。来ちゃった」


「来ちゃったって……入って」


トコトコ部屋に足を踏み入れる姿は正しく小動物だ。


メアリは、二人分の紅茶を用意して一礼した後、使用人部屋へ移動した。

無駄口を叩かず、気の利くメアリに、マリアは感嘆の声を出す。


「わあ。うちの使用人とは全然違うね」


「当たり前。うちの使用人は特別だからね」


砕けた口調はここが自室だからだ。

外では人の目があるので、お互い令嬢らしく振舞っている。


「そういえば、魔術士学科はどうだった? 面白い?」


座ってから問い掛ければ、マリアは少し考え込んだ。


「うーん。普通、かな。私は治癒に特化してるからか、攻撃魔法が苦手で。はあ、私も派手な魔法使いたいよー」


拗ねた口調に、つい笑ってしまう。


「相性があるからね。仕方ないよ。でも、全く出来ない訳じゃないんでしょう?」


「うん。ただ威力が弱いだけ。って一番大事なとこ! 全然駄目じゃん! まあ、いいや。攻撃魔法以外は優秀だからね! で、そっちはどうだったの?」


頭を抱えたかと思ったら、今度はドヤ顔になり、そして何でもないような表情。コロコロ変わる顔に感心してしまう。


「私? なかなか楽しかったよ。模擬戦の相手とは仲良くなれたし」


「男? 女?」


「男。ナイジェルって名前の大型ワンコ」


「大型ワンコ! いいね! 恋、始まったりしないの?」


マリアはニヤニヤ笑っている。

どこのオバサンだ。


「しないしない。残念ながらタイプじゃないね」


ナイジェルは私にとって、いい人担当というか、癒しというか。

恋愛にはならないタイプかな。


「なんだ、つまらん。若い乙女なんだから恋しなきゃ」


心底つまらなそうな表情だ。

失礼な奴ですね。反撃しときますか。


「はいはい。で、王子とはどうなの。告白した?」


紅茶を飲んでたマリアは、私の言葉に紅茶を吹きそうになった。

ギリギリ吹いてないけど。残念。


「もう! 紅茶飲んでる時にやめてよ」


抗議の言葉を素知らぬ顔で受け流し、催促するよう片眉を上げた。

すると、マリアは溜め息を吐いて話し出す。


「アルとは……昼休みに一緒にお弁当食べてるよ。人気のない庭でね……でも、アルの友人も居るから二人きりではないんだよね。微妙に気まずいというか」


学園敷地内には沢山の庭があったりする。

お昼はお弁当だったり、食堂で食べたり。好きに過ごせる。


もし、王子と一緒に居る所を誰かに見られたら……考えたくないような目に遭うだろうね。女って恐いから。


「友人? 誰?」


「スタークス公爵子息に、ノリス侯爵子息。どっちも攻略対象者だよ」


沈んだ声に、ああ、と納得する。


「攻略対象者かあ。マリア、一応ヒロイン担当だもんね。大丈夫なの?」


「一応って酷いな。まあ、ヒロインらしくないのは自覚あるけど。でも腐ってもヒロインな訳で。間違いがあったら目も当てられない……って訳で、明日からアンジーも一緒に食べようね」


腐ってる自覚はあったみたい。って、待て!


「こらこら、どんな訳なのさ。それに、私が行ったって変わらないでしょ」


無邪気な笑顔を浮かべて、私を餌にしようと企むマリアに眉を顰めた。


「アンジーは美少女だし。私がアルと話してるから、他二人の相手してー。マジで! 私の恋を助けるという事で! お願い!」


拝むように手を合わせるマリア。

正直、恋の手伝いとか攻略対象者の話し相手とか。本気で嫌なんですが。


「ほら! 一応、攻略対象者だから、顔も頭も良いし。目の保養になるよ。家柄も良いからお近付きになればお得だよ」


何とか私に興味を持って貰おうと、一生懸命に言い募るマリアに呆れた視線を向ける。


「その前に、女嫌いって設定じゃなかった? それなのに一緒にお昼食べてるの?」


忘れちゃいけない設定。女嫌いに女性不信はどうした。


「うん、それね。アルの女嫌いになったトラウマは、私が昔、根本から崩したから。ゲームとは違って女嫌いじゃないんだよね。後の二人は……私の事冷めた目で見てるよー。でも無問題! 私の瞳はアルしか映しません!」


誇らしげに胸を張るマリアに、スッと目が細まる。


「マリア……そっちのが大事だよね? 私に二人の冷めた視線を我慢しろと? そう言ってるのかな? マリアは自殺願望ある子だったのかな?」


私のわかり易い脅しにマリアは慌て出す。


「いや、待って待って! そうじゃなくてね? 一応、二人とも普通に話してくれるし。それに、あの、実は……アンジーを紹介して欲しいって頼まれてて……」


必死な言葉に、私は首を傾げた。


「私? 理由は?」


「……入学式の後の試験のせいかな。学園騎士団も居たでしょ? そこで目をつけられたっぽいよ。今日の午後の授業が終わった後も、たまたま会ってまたアンジーの事言われたし」


私は深く溜め息を吐いた。

いくら学園が身分に煩くなくても、流石に王子達に呼ばれて無視する訳にはいかないのが辛い。本当に。


「はあ……何で私なの。ちょっと魔力多いだけで、普通なのに」


「……いや、アンジーが普通だったら、私も他の人もゴミ以下だから。マジで。自分がチートだって自覚して」


じと目のマリアに、私は首を横に振った。


「確かにチートなんだろうけど、師匠や兄と比べるとね。あれ、私って凡人だったわ。って気付くんだよね」


「えっ……マジで? 師匠はまだ分かるけど、アンジーのお兄ちゃんどんだけチートなの? もしかして転生者?」


目を見開いて問い掛けるマリア。


「ううん。私も昔はもしかして……って思ったけど、兄は転生者じゃないよ。純粋に化け物並にチート」


「へえ、そっかー。凄い兄妹だね」


感心したように頷くマリアに、仕方なく本題に話を戻す。


「それで、庭ってどこ? 場所分かんないけど」


「ああ、昼休みになったら一緒に行こう。お弁当忘れないでね」


「はあ……明日、雨降ればいいのに」


諦めの悪い私に、マリアは「ゴメンねえ」と、笑いながら謝る。

全く誠意が見えませんよマリアさん。





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