魔術騎士学科
今日から授業が始まります。
午前の授業は魔法関連なら何でもやるみたい。
私のクラスはSクラス。
クラスはSからA、B、C、Dの五クラスあって、魔力や魔法での優秀な順に決まってるようで。
Sクラスには、ヒロインに、攻略対象者のミカエル・オートバーグ伯爵子息。この人が、乙女ゲームでのアンジェリーナの婚約者ですね。どうでもいいけど。
担任は、攻略対象者である王弟のリカルド先生。
主要人物が集まり過ぎじゃないですかね。
教師には、平民の出もいるので差別がないよう家名は非公開となってます。
基本、実力主義なのだけど、馬鹿な貴族も沢山いるからね。
専攻の学科はやはり一つしか駄目でした。残念無念。
魔術騎士学科を選んだんですが、理由は主に戦えるから、ですかね。
模擬戦とか模擬戦とか模擬戦とか……はい。
師匠の言うように、私は戦闘狂らしいので。
見た目詐欺とよく言われます。失礼な師匠だよね。本当に。
私は一応、儚げな美少女を自負してます。ナルシストじゃないからね。客観的にだよ。ははは。
ああ、入学式の日の事だけど、結果を先に言えば、ヒロインであるマリアとは友人になりました。
マリアは結構なオタク(微腐女子)で、頭がお花畑の勘違いヒロインじゃなくてひと安心。
マリアはかなり運動音痴らしいので、魔術士学科を専攻したみたい。身体強化してやっと人並みって、どんだけですか。流石ヒロイン。
乙女ゲームでは治癒学科だけど、つまらなそうと一刀両断。
攻略対象者との恋愛ですが、マリアは第二王子アルベルト・アーヴィングが好きなようで。
前世で王子のルートは百回以上はやったと言ってたけど、本当ですかね?
何だか執念を感じて、あまり深くは訊きたくないのが本音。
王子と現在は友人関係らしく。何がどうなってそうなったかは訊いてません。ま、ゲーム通りの出逢いではないんだろうね。
とりあえず、頑張って、と応援しておきました。
さてさて、午前の授業が終わって、魔術騎士学科の授業が始まりました。
今日は生徒達の技量を知る為に、剣術の模擬戦です。
魔法の使用は身体強化のみ。
この授業の担任は二人。マッチョな熱血漢タイプと、涼しげなイケメン風眼鏡がいます。名前? 忘れました。
「静かに! これから模擬戦を始める。名前を呼ばれた者は円の中に入れ。時間は五分間! 誰と当たっても手は抜かず本気でやれよ! いいな!」
マッチョ先生が声を張り上げる。
そして、呼ばれた生徒が円の中に入って、模擬戦が開始された。
剣戟の音を聞きながら、周りを見れば男ばかり。女は十人もいないようだ。
皆の視線は、真っ直ぐ円の中の二人に向けられている。
私もそちらを見れば、二人の男性が真剣な表情で剣を振るっている。
なかなか迫力があるが、師匠や兄を見てきた私にはどこか物足りない。
まあ、あのチートな二人と比べるのは可哀想だけどね。
何組か模擬戦が終わり、私の名前が呼ばれた。
どうやら私の相手は男性のようです。
背の高い、無駄のない筋肉に包まれた身体をした男。素敵な身体ですね。
男は、私を見て驚いた後に心配そうな表情になる。
はい。見た目は儚げな美少女ですから、心配になるのも理解してます。
が、そんな心配は不要だと教えてあげましょうか。
「構えろ! 制限時間は五分……手は抜くなよ」
後半の言葉は、私にではなく相手の男性に向けて。
その言葉に一瞬口角が上がってしまった。
剣を下段に構えて、身体強化を掛ける。
マッチョ先生の開始の合図に、私は一瞬で、相手の目の前に躍り出る。
相手の目が驚きに開かれるのが見えた。
私は剣を下から切り上げ、男は驚きながらも何とか躱す。
それから休む間もなく、剣戟の応酬が始まった。
一閃一閃、無駄のない動作で急所を狙い、足は止めず、舞う様に相手を翻弄していく。
男は苦しそうに眉を寄せているが、それでも何とか私の動きに付いてきている。
まだ全力ではないけれど、これはこれで楽しい。
全力でやるのは命が懸かってる時と、師匠との稽古くらいだ。
「そこまで!」
五分が経ちマッチョ先生の声が聴こえて、私は相手から離れた。
マッチョ先生は、息の乱れもない私を見て、荒い息を吐く相手の男を見て、頷いた。
そして、私達を円の中から追い出し、次の生徒の名前が呼ばれる。
円から離れるように歩いてると、後ろから模擬戦をした男の気配が近付いてきた。
肩を軽く叩かれて振り返れば、男の笑顔が目に映った。
「あんた凄いな。良かったら名前教えてくれないか。あ、俺はナイジェルだ。ナイジェル・ウェーバー。呼び捨てでいい」
背の高い男を見上げれば、子供みたいな無邪気な笑顔に、つい微笑んでしまう。
「ふふ、私はアンジェリーナ・ヴィッセルと申します。アンジェリーナとお呼び下さい」
ウェーバーは確か侯爵家だったかな。
「なるほど。ヴィッセル伯爵の妹か。流石あの人の妹だな」
まるで兄と会った事があるような言い方に、私は首を傾げた。
「兄とお知り合いですか?」
「ああ。前に魔動車を購入した縁で知り合って。それから仲良くして貰っている。あの人、化け物並に強くてな。俺の尊敬する人なんだ」
心底嬉しそうに話すナイジェルに、私も嬉しくなった。
大好きな兄を褒める人に悪い人はいない。というのが自論だ。
勿論、嘘か本当かは目を見ればわかる。
ナイジェルの瞳は純粋で、兄に対する憧憬が篭っていた。
「ふふ。そうなのですね。でも、兄と私の師匠はもっと化け物ですよ」
「本当か! って、そりゃそうだよな。素晴らしい師匠で羨ましいなあ」
瞳をキラキラ輝かせて、子供のように笑う姿は大型のワンコにしか見えない。
尻尾があれば、激しく振られているだろう。
うん。ナイジェルとは仲良くやっていけそうだ。
ふと視線を感じて、そちらを見れば、いつの間にか数人の学園騎士団が居た。
あれは、攻略対象者のレイエス・スタークス。スタークス公爵家嫡男か。
一瞬、視線が合いすぐ逸らされた気がした。
気のせいかな、と内心で首を傾げるが、すぐにどうでも良くなり、ナイジェルに視線を戻す。
大型ワンコの明るさに癒されながら、授業の終わりを迎えた。




