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ヒロイン現る



入学式が終わり、続けて魔力測定に移行した。これの次は魔力制御で、自分の得意な攻撃魔法を見せるようだ。

規模に対しての魔力の流れや、発動の正確性を見て判断するらしい。

攻撃魔法が苦手な人もいるから、それだけで決めたりはしないみたいだけど、目安にはなるのかな。


魔力量は普通で五千から一万位で、優秀な魔術士となると、二万は超えてるのが当たり前。まあ、魔力量が全てではないけどね。


新入生達が順番に名前を呼ばれ、測定していく。

ぼんやりしていると、一際大きな声が届いた。

そちらを窺うと、やはりというか。ヒロインでした。


ヒロインの名前はマリア・ドノヴァン男爵令嬢。

背中まである薄桃色のふわふわの髪に、琥珀色のくりっとしたつぶらな瞳。乳白色の肌に小ぶりな唇。


うん。小動物系美少女ですね。


どうやら魔力量が四万超えていたようで、教師陣と学園騎士団、それに近くにいた新入生が騒いでいる。


優秀な魔術士で二万超えだから、驚くのもわかるけど、人の魔力量を皆の前で言っちゃ駄目でしょ。他の生徒のは口に出してないんだからさ。


そんなこんなで、やっと私の番です。

長方形の形をした魔力計測器の端に細い針があり、そこに人差し指を置く。

すると針が刺さり、ほんの少し血が出て数秒、測定器に数字が表示された。

それを声の大きい教師が叫ぶように言う。おい。


「……また四万超え……今年の新入生はどうなってるんだ」


またもや、辺りが騒然として面倒くさい。

教師の一人が呆然と呟いた言葉は、周りの声にかき消さていたが、私には聴こえた。


そりゃあ、鍛えてますから。努力ですよ、努力。

残念ながら、ヒロインみたいに最初からこんなに魔力量があった訳ではないからね。


「もう宜しいでしょうか?」


何時までたっても進まないので、私は微笑んで教師に問いかけた。


「あ……はい、大丈夫です。次はあちらの部屋で攻撃魔法を見ますので、進んで下さい」


眼鏡を掛けた気の弱そうな教師が、講堂の左にある扉を示す。

私は微笑んだまま、淑女らしくお辞儀をして扉に向かった。


向かった、のだが、私は思わず足を止めてしまった。

何故か。それは扉の前にヒロインが居たからだ。


何故そこに居る! そして何故此方を見ている!


再び足を動かすと、ヒロインが笑顔で私に近付いて来た。


「お初にお目にかかります。私、マリア・ドノヴァンと申します。もし良ければご一緒しても宜しいでしょうか」


ヒロイン、マリアが優雅に挨拶をしてきて内心驚いた。

もしかして私に用が? とは思ったけれど本当に来るとは。


普通は、位の低い者から高い者へ話し掛ける事は御法度だが、ここは学園だ。

学園の敷地内では王子だろうが、平民だろうが平等だ。

まあ、一応。と付け足しておくが。


「まあ、嬉しいですわ。私、アンジェリーナ・ヴィッセルと申します。此方こそ宜しくお願いしますわ」


優雅に挨拶を返せば、ヒロインは嬉しそうに笑った。


花が綻ぶような笑顔は、流石だなと感心してしまう。

私が男だったら、この笑顔に落とされていただろう。


扉を開け、二人で進み順番を待つ。

周りを見れば、まだ時間が掛かりそうだ。


「アンジェリーナ様。私とご一緒して頂いて有り難うございます。私、どうしてもアンジェリーナ様とお話したくて」


「いえ、嬉しかったですわ。私はあまり友人がおりませんから」


マリアの言葉に微笑んで返す。

あまりというか、貴族で友人と言える人はゼロだったりするのだが。


ほぼ、領地に引き篭もりというか、修行に明け暮れてましたから。

勿論、領民の方々とは仲良しですよ。よく魔物を狩ってたからね。感謝されてたからね。

ぼっちじゃありませんから。うん。



それにしても、本当に何で私と?


「マリア様。お話とは何ですの?」


高圧的にならないように、優しく問い掛けると、マリアは微かに頷いた。


「私、アンジェリーナ様にお伺いしてみたい事がありまして……もし意味がわからなければ忘れて頂きたいのですが、宜しいでしょうか」


おずおずと、私の様子を窺うように話すマリアに、内心首を傾げるが表情には出さない。

私は微笑んだまま頷いた。


「……アンジェリーナ様は、転生者でしょうか」


マリアは深く深呼吸してから言葉を発し、私の瞳を真っ直ぐ見つめた。

私もマリアの琥珀色の瞳を見つめ返す。


「ええ、転生者ですわ」


驚きはあまりなかった。

ヒロインも転生者だという可能性も、考えた事はある。

というか、私がいるのだから、他に転生者が居ないなんて言える筈がない。


「やっぱり! そうだったのですね。あ……この世界が乙女ゲームに似ている事はご存知ですよね」


マリアは喜色を浮かべた後、後半は周りを見てから小声で訊いてきた。

語尾に『ご存知ですよね、勿論』とでも言いたそうに。


多分、父親を廃して兄が伯爵になっていたり、私自身が婚約していない事を知っているのだろう。


思いっきりゲームとは違っているのだから、乙女ゲームを知っている人なら転生者だとわかるのも肯ける。


「ええ、知っていますわ。幼い頃に前世の記憶を思い出しましたの。それからは出来る事は全てしましたわ」


没落コースは回避済みだし、戦う力もつけたし。物理的に。


マリアはこの世界ではヒロインだ。転生者である彼女はどうしたいんだろうか。

そう考えているとマリアは微笑んだ。


「アンジェリーナ様は幼い頃に思い出したのですね。私は四年前でした……あっ、次は私の番のようですわ。アンジェリーナ様、またお話出来ますでしょうか?」


話途中で、マリアの名前が呼ばれる。

私も訊きたい事があるので、後で私の部屋に来るように伝えた。

今日は授業はなく、これが終わった者から解散出来る。


マリアが離れていくのを見ながら、何となく溜め息を吐きたくなった。


まだ、マリアの目的は分からない。

ただ、転生者同士仲良くしたいのか。それとも、好きな攻略対象者がいて、邪魔しないように言いたいのか。

それなら頑張れ、で終わるけれど。


とりあえず、悪意は感じなかったので、そこまで気にしなくても大丈夫だろう。


出来たら仲良くしたいというのが本音だけどね。

どうなる事やら。




私の名前が呼ばれ、標的である鎧を纏った人形に、適当に魔法を放った。


火と風を同時に操り、炎が風を呑み込む様に回転させながら、青い炎になったそれを槍の形に変えていく。

そして速度をつけて、鎧を纏った人形の心臓を貫いた。

心臓を貫いたまま止まり、次の瞬間その炎の槍が爆発する。

人形は木端微塵だ。


うん。なかなか上出来かな、と頷いていると、何故か周りが静かになっていた。


何かあったのかな。まさか私の魔法?


いや、でも別に凄い魔法だった訳ではない。師匠だって、兄だって出来るし、二人に比べれば私なんかまだまだだしね。


あ、もしかして、攻撃魔法が惨かったかな?

本物の人間だったら、かなり凄惨な光景だもんね。反省。


私は監督していた教師陣に、挨拶してから後ろを振り返らず歩を進めた。

扉を抜け、講堂を出て寮へ向かう。


入学式の間、侍女のメアリには学園内を調べて貰っていたのだが、もう終了して戻っているだろう。


なんといっても、メアリは優秀ですから。





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