番外編。アルとマリアのその後。
アル視点です。
レイエスとアンジーが居なくなった庭で、私とマリアはお互い顔を見合わせて笑った。
花が咲き綻ぶように笑うマリアに、胸が締めつけられる。
やっと、想いを伝えられる。
愛しい君に、私の想いを。
四年前、まだ十三歳だった私は王城から抜け出し、一人で街を歩いていた。見目も良く、家が裕福そうな私はすぐに目をつけられた。
とても浅はかだと今ではよくわかっているが、子供だったあの時は、自分は何でも出来ると勘違いしていたのだ。
そして、誘拐されそうになっていた私を助けた女の子。
自分より華奢で小さく、か弱い女の子が、危険を顧みず助けてくれた。
沢山の男達に囲まれ、魔力も底を尽きて諦めかけていた時だ。
大した威力はないが、火魔法が屈強な男に当たり、私を掴んだ腕が緩んだ。
その隙に離れた私を、その小さな女の子は結界魔術を展開して、すぐに転移した。
転移した場所は彼女の屋敷だった。彼女は治癒魔法で私を治し、助けられて良かった、と綺麗に笑った。
その笑顔に私が一瞬で落ちた事を、彼女は知らない。
それから王城に使いを出して貰い、迎えが来て私は帰った。
その次の日、私は彼女の屋敷へ行った。お礼の品を持って。
彼女はずっと恐縮してたが、構わなかった。仲良くしたいと思ったから。
何度も通って、私は彼女の心を開いた。
それから、ずっと付き合いは続いている。
私の心を奪ったマリアと。
マリアは表情が豊かだ。
喜怒哀楽を素直に表に出すマリアは、とても可愛い。
笑った顔も怒った顔も、泣いてる顔も全て私のもの。
可愛過ぎて、つい苛めてしまうのも仕方ない事だと思うんだ。
そして、私に好意を抱いてる事を隠しもしない。表情が、行動が、全てが私を好きだと物語っている。
そんなマリアが私は愛しい。
「マリア」
私はマリアの名前を呼んでから、片膝をついて、その小さな手を取った。
不思議そうにしているマリアを見上げる。
「愛しいマリア。私と結婚してくれないか」
私の言葉に、マリアは驚いて目を見開いた。大きな琥珀色の瞳が零れ落ちそうだ。
「……えっ? でも……え?」
混乱するマリアに苦笑してしまう。
確かに今まで、私は愛を伝えた事はない。
友人達には、私の気持ちは分かっていただろうが、マリアは全く気付いてなかった。
充分、行動には出していたとは思う。何度もマリアに会いに行き、マリアだけに素の私を見せてきた。
それでも、鈍感なマリアは言葉で伝えないと気付かない。
それは分かっていたが、私も色々大変だったから。
根回しもせずにマリアを手に入れて、誰かに傷付けられたら堪らない。
でも、やっと面倒な事は終わったから。
邪魔をする奴は、脅して潰して、もう文句は言えないようにしたから。
両親には四年前に伝えてあるしね。
だから、もう隠さない。私の気持ちを、愛を。
「私はマリアを、心から愛しているよ。四年前に出逢ったその時から」
嘘偽りのない気持ちを伝えれば、マリアの大きな瞳に涙が溢れ出す。
私は立ち上がって、流れる涙をハンカチで優しく拭いた。
そして、マリアの琥珀色の瞳を見つめる。
「マリア。信じて欲しい。私の心を。私がマリアを愛している事を」
真剣に伝えれば、マリアはゆっくりと頷いた。
「……うん。信じる。信じた……どうしよう。幸せ過ぎて死にそう」
そう言いながら、また泣き出すマリアを抱き締めた。
私の腕の中に収まる小さな身体を、優しく抱き締める。
「死んでは駄目だよ。これから、私と一緒に生きていくのだから」
薄桃色の柔らかい髪に口付けて、優しく言葉を紡ぐ。
「……うん。ずっと一緒に居る。ずっと傍に居たい」
涙声で一生懸命に、私の傍に居たいと言うマリアが愛しい。
「それは結婚の承諾かな?」
答えは分かっている。それでもマリアの口から聞きたい。
マリアは顔を上げて頷いた。
「私もアルが大好き。ずっと前からアルを愛してる。これからもずっと変わらず愛してく」
飾らない愛の言葉に、私の顔が自然と綻んだ。
私にこんな表情をさせるのも、見せるのも、マリアだけ。
マリアに顔を近付けていけば、顔を真っ赤にして目を瞑った。
可愛過ぎて困る。
優しく口付けて、柔らかい唇を堪能する。甘くてもっと欲しくなる。
けれど、あまりやり過ぎるとマリアが茹だってしまうから。
私は、仕方なく口付けを解いた。
どうやら、既に茹だってしまったみたいだ。
私は苦笑して、腰の抜けたマリアを横抱きにする。
力の抜けた体は軽くて、扱いやすい。
そんなに安心していいの?
このまま私に攫われてしまうよ。
「……お姫様抱っこ……嬉し過ぎるっ」
私の気持ちもお構いなしに、マリアは悶えている。
呆れて溜め息が出てしまったよ。
「マリア。一人の世界に入らないで。ちゃんと私を見て」
いつものように妄想しているマリアを軽く揺すれば、マリアは目を瞬いた。
「……え? アル何か言った?」
「私だけを見て。と言ったの。わかった?」
まあ、マリアが私だけを見てる事は知っているけど。
「勿論! アルしか見えないよ!」
うん、分かっているよ。
私はマリアを横抱きにしたまま、Sクラスへ連れて行った。
もう、私達の関係を隠す必要はないから。
まだ、クラスには沢山の人が居て、私達が一緒に現れた事で騒然とした。
「アルベルト様? え? 何故マリア様を……」
「何故あんな女を……」
そんなご令嬢達の声を気にせず、マリアを席に座らせた。
頬を赤く染めたまま、私だけを見つめるマリアに、軽く口付けて微笑む。
「それでは、また。愛しい婚約者殿」
甲高い悲鳴が上がって、辺りが更に騒然とするのに、私は愉快になって笑った。
わざと沢山の人が居る時間に、このクラスに来たのだから。マリアが私の婚約者だと知らしめる為に。
ただこの後、マリアは質問攻めに合うだろう。それは悪いとは思うけど、いつかは通る道だから。今、頑張って。
もし、嫉妬で虐めるような女がいたら、私が潰すから安心していい。
マリアを苛めていいのは私だけだから。これまでも、これからもずっと。
マリアの前世はオタク女子で初恋もまだでした。
だからアルが初恋。その為、かなり純情です。
婚約後も、アルはなかなか手を出せず悶々とするのでしょう。笑




