兄の想い
私の名前はカイン。ヴィッセル伯爵家の当主だ。
非常に辛い事だけど、可愛い妹のアンジーが魔法学園に行ってしまった。
強制じゃなければ、絶対に行かせないのに。
可愛いアンジーに会えない毎日なんて、地獄と変わらないと本気で思う。
アンジーは幼い頃から賢かった。
字や計算、歴史も何でもすぐ出来るようになったし、我が儘を言わないし手もかからない。そんな子供だった。
五歳の時にいきなり、父の不正の証拠を探そうとしたりして、なかなか見つからなくて泣きそうな顔は可愛過ぎた。
だから私が手伝った。
アンジーから頼ってくれたら、もっと嬉しいんだけどね。
どうせそのうち、あの男を追い出す予定だったから、簡単に追い出せたし。アンジーの役に立てて良かったよ。
我が儘を言わないアンジーに沢山の愛情を与えて、いっぱい甘えさせて可愛がった。
まるで父親になった気分だが、十も離れてるからそうなるのも仕方ないかな。
令嬢としてのマナーもきちんと学んでいたが、アンジーは魔法や剣術に特に興味があったようで。
私の師匠にアンジーの事を頼めば、快く引き受けてくれた。
師匠はどうして、こんな所に居るのか不思議なくらい強い人だ。正直本当に同じ人間かと疑いたくなる。実は魔王でしたって言われても驚きはないだろうね。
真剣に取り組むアンジーは、何でも吸収してどんどん強くなっていった。
朝早くから夕方まで魔の森で魔物と戦っては、魔力を空にして傷を作って帰ってくる。
治癒魔法で傷は綺麗に治るけど、心配なのは変わらない。
本当は止めたかった。けれど、それがアンジーのしたい事だから無理には止められなかった。
悔しそうに泣いてるアンジーを慰めるのは私の特権だけど。
負けず嫌いで、素直で可愛いアンジー。
昔から君は私の誇りで、大切な宝物なんだよ。
そして時が過ぎて。
どんどん賢く強く、そして美しく成長していくアンジー。
反抗期もなく、変わらず私を慕ってくれてる事に安堵したのは秘密だ。
大きくなっても、アンジーは社交界に興味が無く、夜会やお茶会に参加しなかった。
貴族の令嬢としては、本当は良くないのだろうけど関係ない。
私もアンジーに変な虫はつけたくないから、願ったり叶ったりだ。
いつの間にか、幻の令嬢なんて言われるようになってたけど、それでいい。糞みたいな貴族には一生幻のままだろう。
私の信用している人にしか、紹介する気はないからね。
だが、そんなアンジーが学園に行けば、すぐに男どもに目をつけられるだろう。
でも心配いらない。雑魚は私が蹴散らすから。
アンジーを手に入れる事が出来るのは、アンジーが認めた男だけだ。
その後に、私がしっかりと確認するけど。当たり前だよね。
アンジーが王都に行ってから、影からアンジーの動向や、周りに不審な人物はいないか等、定期的に報告を受けている。
Sクラスになったのは当然だと思う。アンジーはとても優秀だからね。
入学してから、マリア・ドノヴァン男爵令嬢と仲が良いようで、調べてみれば第二王子と恋仲のようだった。
アンジーに面倒がかからなければ、どうでもいい事だけど。
それから、その二人とスタークス公爵子息の四人で出掛けたと報告が届いた。
なんでも途中から別れて、二人で仲良く手を繋いで歩いていたとか……。
彼とは何度か顔を合わせた事はあるけど、彼自身の事はよく知らないからね。徹底的に調べさせたよ。
レイエス・スタークス。
成績優秀で学園騎士団に選ばれていて、専攻は魔術騎士学科。
秀でた剣術に武術、魔法全般が得意で、主に風と氷の属性魔法と、結界魔術が得意らしい。
苦手なものは特にないようだ。努力家なんだね。
後は女嫌いとの事だけど。アンジーは特別という事かな。
アンジーが特別なのは周知の事実だけどね。
だからと言って、簡単にアンジーは渡せないよ。
ああ。でも、そのうちアンジーから報告が来るかもしれない。
アンジーは好きでもない男に、手を握らせる子ではないからね。本人が気付いてるかは分からないけれど。
どうせなら気付かないまま、そんな報告は来なければいいのに。
それは無理な願いかな。私の勘は当たるから。
とりあえず、いつでも王都に行ける準備をしなければいけないか。アンジーの為なら、何を於いても何処へだって私は行くよ。
そうだね……アンジーに嫌われないように、どうやってその男を虐めようか。手加減? 勿論する訳ないよ。
私は、アンジーに愛する人と結ばれて欲しいと心から思っているよ。私がリーリアと結ばれるのと同じように。
だから、レイエス・スタークス。
アンジーを本気で愛しているなら。私から本気でアンジーを奪うなら、それくらい簡単に乗り越えられなきゃね。
私の愛しい宝物。可愛い可愛いアンジー。
お願いだから、そんなに早く私の手から離れて行かないでくれ。




