プロローグってやつ
私、アンジェリーナ・ヴィッセルは五歳の時、ふと前世の記憶を思い出した。
前世の私は普通の女子高生で、優しい両親と弟がいて、大好きな恋人がいて。それなりに幸せに過ごしていた。死因はわからない。
全てを覚えてる訳じゃないし、記憶はただの記憶でしかなくて。やっぱり私は私だから。
ただ、出来れば知りたくないような記憶もあった。
それは、この世界が魔物あり魔法ありの中世ヨーロッパ風ファンタジーな乙女ゲームの世界に似ている事だ。
タイトルは『肉食男子のススメ』だったかな。サブタイトルは忘れたけど。
ヒロインの高感度が上がると、女嫌いの攻略対象者が肉食男子にチェンジして、逆にヒロインが攻略されてるんじゃ? と思えるような不思議な乙女ゲームだった気がする。
中世ヨーロッパ風と言っても、言語は日本語だし、魔法のおかげで生活水準も高く清潔だったのは本当に有り難い。
有り難くないのは、私が悪役令嬢でヒロインを虐めまくり、父親は不正行為三昧。それが同時にバレて、断罪没落コースしかない事だろうか。
将来安泰、老後は穏やかに過ごしたい私はすぐさま回避の為に動いた。
母親は既に病で亡くし、顔しか能のない父親は子供に興味がなく女に溺れ、不正行為に明け暮れる。
そんな父親ならいらないよね?って事で不正の証拠を集めて密告しました。シスコン兄が。
十歳離れた兄はかなりハイスペックで、私が生まれて直ぐに、自分に従う影の部隊を設立しちゃってたみたいで。どんだけですか。吃驚です。
私が父親の不正の証拠を集めて、追い出そうとしているのに気付いたらしく。兄と影の部隊が動いてくれたので、簡単に終わった。
そのおかげで、今は優秀な兄が家督を継いで伯爵となりましたが。
とりあえず没落コース回避有り難うございます。
お次は将来安泰の為の自分磨きって事で、礼儀作法に勉強にダンスは必須。魔法と剣術はもっと必須。主に趣味として。
どうやら、私も兄に似て優秀でした。というかチートでした。ご都合主義万歳。さすが乙女ゲームのライバル役。
乙女ゲームのアンジェリーナ嬢。こんなにハイスペックだったのなら、浮気する婚約者もビッチなヒロインも相手にしなければもっといい人生を送れたんじゃないの。と思わなくもない。
まあ、恋は盲目と言いますからね。
ああ、乙女ゲームですが、正直あまり覚えてなくて。
私、アンジェリーナ伯爵令嬢の末路や、攻略対象者の名前と顔くらいかな。
前世の私はそこまで乙女ゲームに興味が無く、友人に勧められて仕方なく一通りやってみた。くらいの気持ちだったらしい。
とりあえず、攻略対象者は基本無視でいいかと。気が合えば仲良くするかもしれないし、しないかもしれない。
没落コース回避終了したし、シスコン兄のおかげで婚約者もなし。って事で、もう乙女ゲームは気にしなくていいよね。
前世の記憶を思い出して、自分磨きをする事早十一年。私も十六歳になりました。
やっと兄からのお許しが出て、王都にある全寮制の魔法学園に通えます。
魔法学園には、この国アーヴィング王国に住む魔力保持者は、必ず通わなければいけない決まりで。
魔力保持者は主に貴族に多いけれど、平民もたまにいるので、特待制度もあります。
特待生枠は平民優先だけど、貧乏な貴族も申請すれば受けられます。と言っても、見栄というものがあるので、余程じゃなければ貴族で特待生はいませんが。
魔法学園は十三歳から十八歳までの間に、最低二年間は魔法を学ぶ場所だけど、貴族のご令嬢の大半は結婚相手を探す場となってしまってるのが残念です。
なんでも、勉強よりも有力な子息を追いかけたり、夜会優先だったりと、なかなか激しい婚活戦争を繰り広げているようです。
巻き込まれない様にと、兄から煩く注意を受けるくらいですからね。恐い。
一応、この国は恋愛結婚が推奨されていまして。
先々代の王も先代の王も、そして現国王も政略結婚ではなく、恋愛結婚だからだろうね。
勿論、政略結婚がなくなる訳ではないし、今でも半数以上は政略結婚らしいけど。
そして、今のこの国の婚約は意外と重いものになっている。
婚約者と体の関係を持っても非難される事はないけれど、その後にもし、婚約破棄されてしまった女性は、新しく相手を見つける事が難しくなる。
数年前それが多発し、貴族の間で問題になったようで。
それからは、婚約の際に誓約が義務付けられる事になった。
誓約の指輪には魔力が込められていて、抜こうとしても抜けない。
もし、約束を違えたら呪いが発動する仕組みだ。
勿論、双方合意の場合は破棄も可能になっている。
一方的な破棄は認めない。手を出したなら責任を持て、という事だ。
そのお蔭で、涙に暮れる女性が減ったのは僥倖なのだろう。
だからか、婚約は若い男性には簡単に出来るものではないようで。そして、ご令嬢方の婚活も激しくなってしまう、という事です。
とりあえず私は、真面目に勉強している令嬢もちゃんといるようなので、その方々と友人になれたらと期待してます。
それにしても兄よ。結構ギリギリですよね。どれだけ私が好きなんですか、離れたくないんですか。
まあ、私も兄が大好きですけどね。