第一話(改)
それから数ヵ月後……
ガラム国王の紹介により、プリムラはお花屋さんで働いていた。
国王は紹介のみはしておこうということで、働く先を紹介してくれた。
プリムラの働いている店の名前はフラワー カルミアである。
その名の通りお花屋さんである。
そして、たった今、プリムラは仕事真っ最中である。
「今日も頑張っているわねぇ~」
後ろから声が聞こえる。
振り向くと、店長のカルミアが立っていた。
「おはようございます。 店長」
「店長なんてそんな堅く言わなくていいわよ~。 カルミアって呼んで」
「はい。 カルミアさん」
「よろしい」
これが朝のいつものやり取りである。
プリムラがいつまでも店長と呼んで、堅苦しい感じがするからと、店長のカルミアが言い出した一言である。
今では、このやり取りが朝の日課になっている。
「で、お姫様は今日はどんな仕事をするの?」
「お姫様は止めてください。 私は王家を捨てた身なのです」
「もぅ~ちょっとの冗談は通じてよ~」
カルミアはぷく~っと顔を膨らませてそっぽを向く。
そのやり取りをしている中で、店の入り口から小さな鐘の音が鳴っている。
「プリムラ、お客さんよ」
「はい!」
二人は先ほどのほんわかした雰囲気が無くなって、顔つきが変わっていた。
店の入り口には、お婆さんが一人立っていた。
そのお婆さんは右手に松葉杖を突いており、足が悪いのかと思うくらいである。
プリムラが入り口に向かい、お婆さんに会うと、
「はっ! 来てやったぞ!」
優しそうな顔とは裏腹に、上から目線のきつい一声を浴びせる。
「ようこそ、いらっしゃいました」
そのきつい一声を受け流すように、プリムラは笑顔で答えた。
「今日も買いに来たぞ」
「ありがとうございます。 どのようなお花をお探しで?」
「そうだねぇ。 この花をもらおうかしら」
お婆さんが指を指して示したのは、可憐な白い花でした。
「はい。 分かりました」
「待ちな」
花を取りにいこうとするプリムラを止めて、お婆さんはこう言ってきた。
「あの花の名前は何か分かるかい?」
「はい。 ライラックですね」
「花言葉はどうだい?」
「若さ……ですかね」
プリムラは少し不安げに答えた。
「はっ! 正解だ! だがな、まだ意味はあるんだよ」
そう言って、杖を突きながら白い花に近づいていく。
「若き日の思い出という意味が……」
お婆さんは昔の思い出を思い出すかのような言い方をしていた。
その言い方は、少し悲しい感じにも聞こえてくる。
「お婆さん」
プリムラの一言で、我に返ったのか、急いでプリムラに振り向く。
「あぁ。 すまんなぁ。 見とれてたわ」
「そうでしたか」
「じゃあ、買っていくんで、準備して」
「かしこまりました」
お婆さんの口調に対して、プリムラは丁寧な対応で返した。
お婆さんは花を買って、店を出て行った。
入り口の小さな鐘の音が鳴り響いた。
お婆さんが去ったのを確認してから、
「いいお婆さんね」
と、カルミアは呟く。
「本当ですね。 きつい言葉遣いの中に優しさも見える感じがして」
「あのお婆さんはいつでもこの店に来てくれるからね。 で、きつい言い方をしながら花を買ってくれる。 何だかんだ言ってるけど、この店を気に入ってくれてるみたいだね」
「あのお婆さんに気に入られるように、私! 頑張ります!」
「おう! その調子で頑張れ! お姫さん!」
カルミアが気合の入ったプリムラを茶化すように答える。
そして、そのやり取りの後からしばらくしてから、小さな鐘が鳴り出した。
この鐘が今後を大きく変える警報のように……。
「は~い」
小さな鐘が鳴ったのに反応して、カルミアが声を出しながら入口に向かう。
プリムラも後を追うように入口に向かう。
入口に立っていたのは、とても華やかな服装の人物が立っていた。
顔立ちから見て、男だとすぐに分かる。
男はプリムラを見て、
「やっとお会いすることが出来ました! プリムラ様!」
二人が顔を見合わせている。
「知り合いなの?」
「全然知らないです」
「向こうは知っているみたいよ」
「ですね。 何ででしょう?」
「それは、国王様から聞きましたから」
二人の会話の答えを教えるように男は答えた。
「私は、となりの国の王子でランサスと申します」
男は自己紹介を終えた後で、軽く頭を下げた。
そして、頭を上げた後、
「プリムラ様に求婚の申し出に来ました」
と、さらりと爆弾発言を言われたのである。
二人は驚き、先ほどまでの笑顔が完全に消えていた。
カルミアがプリムラの肩を掴み、
「どういうことなの!? どういうこと!?」
プリムラの体を揺さぶりながら質問する。
「私もさっぱり分からないです~」
プリムラは揺らされて、頭が揺れている状態で話す。
「あの~」
王子が女性二人のもめあいを止めるように声をかけた。
二人はハッとして、王子の方を向いた。
「プリムラ様、どうでしょうか? お互い王国の跡取りですし、悪くない話だと思いますが」
「申し訳ありません。 私、もう王家の名は捨てたのです」
「え!?」
王子は驚きを隠せない様子であった。
「だから、今の私は、一人の国民なのです。 なので、求婚には応じられません。 ごめんなさい」
プリムラの話に王子はまだ驚きを隠せない様子だった。
「そそ、そうでしたか……では、また後日、お伺いします」
王子は体をギクシャクしながら、店を出て行った。
王子が外に出た後、護衛の兵士が近づいてきた。
「どうでしたか?」
「だめだった」
兵士の質問に王子は力ない声で答える。
「内容を話すから、少し離れよう」
「分かりました」
兵士はそう答えてから、町外れの森に案内した。
森に着いて、二人は地べたに座り込んだ。
「フフフ…アッハハハハ!!」
王子は突如笑い出した。
「ランサス王子。 予想通りでしたか?」
兵士の問いに、
「本当にそのまんまだったよ。 笑いが止まらねぇぜ」
王子は、笑いをこらえながら答えた。
「では、作戦は?」
「決行するよ~。 俺が二つの国の支配者になるためにな~。 あのお姫様と国王を引きずり出さねぇとなぁ!」
「ハッ!」
すると、王子は服の内側から一つのビンを取り出し、
「前祝いだ。 飲もう!」
「いただきます!」
二人の酒盛りは夜まで続き、笑い声が絶えることはなかった。
一話まで読んでいただきありがとうございます。