8.魔力結石に補充をしよう
「ユーハさま、どうですか?」
「んー、気持ちいい」
俺に渡された黒水晶は、疑似的な魔力を持ってる人に流すものらしい。
この魔力は基本的に何かの役には立たない。
ちょっと流れてくる感覚が温かくて気持ちいい程度だ。
じゃあ何に使うかと言うと、今俺がやっているように魔力結石への魔力の注入に役立つ。
左手に持っている黒水晶から疑似的な魔力が俺へ流れる。
その魔力が俺の魔力を押し出し、右手の魔力結石へと流れる。
分かりやすく言うと、普段の魔力結石への補充を点滴とすると、黒水晶を用いる場合は注射器みたいなものかな。
「ユーハさま、ここですか?」
「んーもうちょい右」
「この辺りですか?」
「そーそー上手い上手い」
補充の間暇なので、マイに肩を揉んで貰っている。
弓を使うのはそれなりに力がいるようで、マイの握力は中々肩もみに適している。
あー気持ちいいわー。
ちなみに、俺が今座っている1人用の椅子にも工夫がある。
ちょっと左手の手すりの方が高い。
これは黒水晶を魔力結石より高い位置に持ってた方が魔力が流れやすいかららしい。
魔力補充用の椅子か。考えられてるなー。
ちょっと欲しいな。この黒水晶。
「そういえば、その疑似魔力ってどうやって作ってるんですか? 受付さん」
「えっと、そこの液体に漬け込むんですよ」
「液体?」
小さな壺が飾られていると思ったら、確かに中身がドス黒い液体でいっぱいだった。
凄い体に悪そう。石油に見える。
こんな液体から出てくるものを体に流して大丈夫だろうか。
「やっぱりコレ見ちゃうと不安ですよねー」
「そ、そうですよね」
「でもコレ、調味料を混ぜて作ってるんでむしろ美味しいんですよ」
「へー?」
「ちょっと舐めてみます?」
「うーん勇気がいるけどそうしましょう」
受付さんがスプーンをマイに渡した。
あぁ、俺今両手塞がってるもんな。
マイが察すると、スプーンでそれをすくって俺の口元へ持って行った。
「あーん」
「……あーん」
たまにリアがやるからな。
やりたかったんだろうな。
恐る恐るスプーンを口に入れる。
……どこかで味わった事があるな……。
塩味が主体だが甘味もある。
生姜のピリっとした刺激もあり、至って和風というか……。
「って佃煮の味じゃねぇか!」
「ツクダニ?」
「いや、何でもない」
この世界には佃という地名は無いからな。
そりゃ通じないか。
にしてもまさかこんなところで伏線回収されるとは。
「それより、この黒水晶って高いのかな」
「欲しいですかー? でもごめんなさい、非売品なんですよー」
「へぇ、そんなに希少なものなんですか?」
「いえ、材料はどこにでもあるような物らしいんですー。ただ、精製に時間がかかるようで、一年に一個の生産が限度だそうですよー」
ナフィには以前大侵攻があった。
その関係上ここにも魔術協会が設置され、黒水晶も置かれた。
今年は被害の大きく魔術協会もないペガサスへの配備だろうと彼女は言っていた。
その後は医療機関を優先に回していくそうだ。
俺らの番までは恐らく存命中に回ってくるかすら危うい。
ちなみに、スプーンはマイが返却すると見せかけてこっそりペロペロしていた。
気づかない事にしておこう。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
マイのマッサージは肩から足へと移行した。
俺がやってくれと頼んでる訳じゃないが、やりたがっているようだしやらせておこう。
「ユーハさんー、そろそろその魔力結石の補充も終わるので次お願いしますねー?」
「あ、はい」
もうかれこれ4つ分の補充を済ませた。
体感だがまだ1時間ちょっとぐらいしか経過してない。
普通は一晩かけても1つの補充は不十分なぐらいなので、恐るべきペースと言える。
「ちなみに、ライトベルさんもここに来たんですよー」
「あぁ、ナフィにいる時に一度立ち寄って来るってフラっと出かけてましたね」
「いえ、3回ぐらい来てましたー」
「あれ? そんなに?」
「補充でお金を稼いでたみたいですよー」
聞けば最初にフマウンに立ち寄った時に矢や食料の供給があったのは、ライトベルが先にこのバイトで貯めたお金を使ったかららしい。
だとすると結構な額を出してくれた事になる。
「ちなみにライトベルさんは一回につき3個が限度でしたー。ユーハさん凄いですねー」
「そ、そうですか」
5つ目の補充の途中だというのに俺の魔力はまだ余裕がある。
まぁちょっと貧血みたいな症状はあるけど。
それにしても、ライトベルって案外魔力少ないのかな。
いや、だからこそ魔法陣の補助が必要なのか。
「ちなみに、魔術協会長さんやホーガン支部長さんみたいな大陸で一番強い魔法使いさんたちは、大体7~8ぐらい行けるそうですよー」
「へー」
そう考えると俺が多いのか少ないのか分からないな。
まぁでもかなり魔力は強い部類なのかな。流石チート。
「そうだ、ユーハさんー。ポータルを使うんですよねー?」
「あ、そうですそうです」
「ここでもポータル使用の許可を出す手続き出来ますよ。やっておきますか?」
「あぁ、お願いします」
許可の手続きとかあるのか。
知らなかった。ここに来て正解だな。
「それで、通常の手続きにしますか? 割り込みにしますか?」
「違いは?」
「早さですねー。通常だと明日の夕方、割り込みだと早朝になります。遅刻厳禁ですよー」
「ちなみに料金の違いとかあるんですか?」
「はいー。こんな感じですー」
「うお、結構違うな」
「えっとー、4人と1羽でよろしいですねー?」
「はい、そうです」
転送料が大体3倍ぐらいの値段の差があった。
これに別途で登録費用がかかるのかな。
一度コレを使ったマイはいらないらしいけど。
だからこそマイはお金を多めに持ってきたのか。
無駄使いしなくてよかった。
「あ、ユーハさんー。結石の補充が終わってますねー」
「ほんとだ」
「今日はここまでですねー。これ以上やると、黒水晶の魔力が混ざっちゃうので」
「分かりました」
なるほど、黒水晶は使いすぎると純粋な魔力だけを結石に送れなくなるのか。
だから貧血っぽい症状も少ないのかな。
やってる事は献血っぽいんだけど
……そろそろ帰るかな。
そう思いマイに目配せをし、帰り支度をしていた時だった。
「……ん?」
「どうしましたー」
「……誰かから連絡が無理矢理来ました」
「どなたですかー?」
「……ライトベルさんです。あの人無茶するなぁ」
ライトベルから連絡?
どうやら電報みたいに何文字か送れるだけのようだ。
呪術師の子がそれを今解読している。
「……えーっと、ユーリー」
「百合?」
「……ユーリーンーキートークー。ですね」
ユリンキトク。
……ユリン危篤!?
「は!?」
「え!? なんでユリンちゃんが!?」
おかしい、ポートの話だともうしばらくは危険域に入らないレベルの病状だったはずだ。吐血はしていたけど。
それに常にエレフトラがいるはず。
すぐに体調を崩すなんてありえない。
「ユリンってのは、お知り合いの名前ですかー?」
「はい、マーシュでお世話になってる人の妹さんです」
「そうですかー」
「あの、申し訳無いのですが……」
「あ、登録は割り込みの方でやっておきました。お金は今日の補充量から抜いておきますねー」
やべぇ、この人有能だ。
ありがたい。
「じゃああの、失礼します」
「あ、ちょっと待ってください。これをー」
「この紙は?」
「小切手みたいなものですー。明後日以降に最寄りの魔術協会へこれを渡していただければ、差額をお支払いしますー」
「あ、はい。ありがとうございます」
書いてある金額はそんなに大きくは無かったが、そこそこ残った。
今日ここを訪ねてよかった。
「それと、ポータルをご使用の際にはこちらをお持ちくださいー」
「はい」
「では、また何かあったらよろしくお願いしますー」
さて、一度戻って話し合おう。
いや、話し合っても仕方ない事かもしれない。
明朝、修理が終わったらすぐにマーシュへと向かわないと。




