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9.はじめての山賊退治

 へぇ、最近変なお客さんが増えたんだ。

 それは大変だなぁ。

 お金を持ってないのにタダで泊まろうとする客? それは厄介そうだなぁ。

 まぁ、俺もあんま人の事言えないけどね。

 ハハ、リアがそんなつもりで言ったんじゃないってわかってるさ。


《ユーハさんユーハさん》

(どうした)

《ライトベルさんが一階で女将さんにある事無い事吹き込もうとしてますよ》

(……例えば?)

《あの男はひどい男だ。この前も私は酷い事された。とか》

(女将さんは?)

《信じてないです》

(じゃあいいや、放っておこう)


 あー凄い臭いお客さんが来たのかー。

 まぁ、旅の者なら仕方ないかもしれないなぁ。

 俺は水浴び好きだけど、旅してるといつもできるわけじゃないからなぁ。

 ちなみに昨日旅立ったって? それは良かった。


《ユーハさんユーハさん》

(どうした)

《ライトベルさんが一階で女将さんにさらにいろいろ吹き込もうとしてますよ》

(……例えば?)

《あの男は私の元彼だ。とかなんとか》

(女将さんは?)

《適当にあしらってます》

(じゃあいいや、飽きたらアイツも帰るだろ)


 へー、やっぱりここでも盗難って起きるんだ。

 でもこの前起きたのはギルドの人が解決してくれたって?

 俺がいればすぐに助けたんだけどなぁ。

 あぁ、俺がここに来る4日ぐらい前の話か。じゃあ無理だな。


《ユーハさんユーハさん》

(またか)

《またです。ライトベルさんが女将さんにもっと吹き込もうとしてます》

(ちなみに内容は?)

《ユーハさんの息子のサイズや持久性を事細かに報告してます。かなりの精度です》

(何でそんなの分かるんだよ……ちなみに女将さんは?)

《興味深々に聞いてます》


 女将さーん!

 くそ、後でいろいろ誤魔化したり謝罪したりしないと。

 でもとりあえず下にいる馬鹿をなんとかせねば。


「ごめんリア、下のあんの馬鹿ここに連れてくる」

「は、はい」

「そもそも持久性って……実際に使った事もないのに……ブツブツ」


 下で19センチとか意外に長持ちとか言ってる馬鹿に全力のデコピンをかまし、二階まで担いで上がる。

 二階につくとすぐに床におろし、引きずりながら部屋に連れ込む。

 本当は階段でも引きずってやろうと思ったが、意外に長持ちと言われてちょっと気分が良くなったので勘弁してやった。


「……ユハ、酷い。痛い」

「ユハ? ユーハさんじゃなくてですか?」

「あぁ、そこは気にしなくていい。あだ名みたいなもんだ。で、お前は何しに来たんだよ」

「だから暇潰し……」


 暇潰しって言われてもなぁ。

 トランプやろうっぜってノリでも無さそうだし。


「……ユハ、聞きたい事がある」

「何だよ」

「『マオウ』って言葉知ってる?」

「言葉だけか? 一応知ってるが」

「やっぱり……」

「やっぱり?」

「この辺りに、『マオウ』って言葉は存在しない……」


 そうなのか?

 リアをチラッと見ると、コクリとうなづいていた。


「……どうしても自分の研究を進めようと、未来を知ろうとすると、この『マオウ』に関わる何かが邪魔をする」

「それはお前の能力か魔法でってことか」

「……そう」


 なるほどなぁ。

 やっぱりこいつは重要な人物だったか。

 とりあえず、この世界に魔王が後々登場するのは間違いなくなった。


「……教えて、『マオウ』って何?」

「うーん、難しいな。つまりは役職なんだが。王様って分かるよな?」

「……えぇ」

「簡単に言うと、モンスターを統べる王が魔王だ。俺の故郷ではそう言っていた」

「モンスターを……統べる……」


 それを聞いて何かを考え込むライトベル。

 合点が行く点があったようだが、それでもしっくり行っていない様子。


「役職か……。個人名ではない……」

「悪いな、そこまで力になれそうもなくて」

「……大丈夫、いろいろ分かったし」


 なるほど、こいつは特別な力があるから将来の危機が分かるのか。

 それはそれで大変だな。

 何か大きな壁が立ちふさがっていて、それに俺が関わっていると踏んでここに来たのか。

 全然暇潰しじゃないじゃねぇか。まぁ、こいつにとっては暇潰し程度の用事だったのかもしれないが。

 聞きたい事を聞いたライトベルはすくっと立ち上がり、ドアの前に立った。


「……そろそろ時間、帰る」

「そうか、元気でな」

「……階段の下まで運んで」


 ええい面倒臭い。

 若干リアから黒い炎が上がってるじゃないか。

 しかしここに長居されても面倒だ。

 とっととお姫様抱っこして、外まで送る。


「……ありがと」

「そりゃどーも」

「……ユハ、貴方は自分の力をまだ全部は知らない」

「俺の力?」

「……貴方のハーレム要員になった子は、一回り強くなる。今は良いけど、私もいつかその力を必要とする時が来るかも……」

「一回り強くなる……」


 いわゆるヒロイン補正というものだろうか。

 確かに、言われてみればロントも若干強くなった気がする。

 リアも体が丈夫になったらしいし。

 遠くから馬車のようなものが走ってくる。

 だがそれを引っ張っているのは黒い豹みたいなモンスターだった。

 確か、客車と言ったか。


「……お迎えが来た。じゃあ」

「あぁ、気を付けろよ」


 客車にのったライトベルを見送る。

 なるほど、やはりあいつは重要人物のようだ。


《ハーレムの効果を知った上で狙ってくる人物ですか》

(実際の強さは分からないけど、要チェックだな)

《能力については、やっぱり極力秘密にした方がよさそうですね》

(今回は相手が悪かったから仕方ないが、そうだな)


 それにしても魔王、俺の能力を欲する女性。

 色々考えさせられる。

 グルグルと思考を回しながら部屋に戻ると、リアが部屋でモジモジとしていた。

 どうしたんだろう。


「あの、私もそろそろ帰ります」

「そうか。ごめんな、変な奴乱入してきちゃって」

「いえ。でもその、お願いがあるんですが」

「どうした?」

「私も、抱っこして欲しいです」


 上目づかいで恥らいながら言うリア。

 彼女としては一階までという意味だったのだろう。

 遠慮なく家までお姫様抱っこで送ってやった。

 天下の往来でお姫様抱っこされて真っ赤になるリアも面白かった。





 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 翌日、ギルドへ向かうとロントがソワソワしていた。

 クエストを眺めながらモジモジしている。


「ロント、おはよう。どうした?」

「あ、ユーハ。いや、何でもない」


 いや、明らかに何でもなくない。

 おしっこでも我慢してるんだろうか。


《あ、そろそろ人を斬りたいんじゃないですか?》

(まだ三日じゃねぇか。禁煙中のおっさんか)

《うーん、そうですねぇ……あ、これはどうですか?》

(あ、これはいいな)


 近くに山賊が出たという報告。

 相手は最低3人が確認されている。

 山賊退治。どうやら商人が数人殺されているようで、山賊を殺してもあんまり報酬が減らない。

 仕方ない、これでスッキリして貰おう。




 対人のエキスパートが山賊退治に行く。

 それを聞いて2人程勇気ある者が名乗り出た。

 剣士と魔法使いのカップルだった。

 俺たちと違って魔法使いが女性だったが。

 それにしても魔法使いか。初めて見るな。

 どうやら攻撃魔法特化らしいが、軽い回復魔法も使えるとか。

 男性もロント程ではないが腕に自信があるそうだし、やはり親しくなっておいて損は無さそうな相手だ。




 ポートの導きで山賊がいるという洞窟へ向かう。

 山賊退治かー。山賊退治と聞くとファンタジーっぽい気がする。

 日本じゃ山賊とかいないしな。

 そういえば俺もお金持ってないのは山賊に奪われたという設定だったし。


《そういえば、彼女魔法使いなんですよね?》

(そうだな)

《じゃあ、新しい魔法をお教えしましょう!》

(ほう)

《それも魔法の力を強化する魔法です!》


 この世界では魔法使いは杖を持っている。

 それは魔法の力を強める効果があるからだ。

 俺の精霊魔法にはそれは効果がないが、今日パーティーとなった女の子は杖を持っている。


 その魔法の力を強化する……面倒だから魔力強化魔法は杖と同じ効果を持っている。

 だから俺にその魔法をかけても意味はなかったらしい。

 今回までこの魔法は確かに出番無かったな。


 山賊がいるとポートが教えてくれた洞窟の前まで来た。

 遠くに木製の扉が見える。

 魔法使いの女の子に魔力強化魔法を使い、女の子が火球を作り扉に放った。

 それを合図に男性とロントが突入する。

 当然強化魔法は一通りかけた。

 パニックを起こす山賊をバッサバッサとロントが切り伏せる。

 いやぁ、俺何もしなくていいわぁ。

 ……いや、やることあった。

 隣の女の子に目隠しをしないと。

 これ以上の光景はトラウマになってしまう。


 結果、俺のフォローで女の子はトラウマにならずにすんだ。

 男の方がロントの発狂モードを見てしまったようで、トラウマになってた。

 まぁ、お前は知らん。自分でどうにかしろ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




(大分お金に余裕が出てきたな)

《そうですねー、でも欲を言えば欲しいものがあるんですよね》

(欲しいもの?)

《魔力結石と言います。恐らく将来大事になるものですね》

(へぇ、どういうものなんだ?)

《持ってるだけで勝手に自分の魔力が蓄積されていきます》

(へぇ)

《いざという時はこの結石に貯められた魔力を戻したり、他の人に分け与える事ができますよ》


 寝ている間に作られる魔力を貯めておけるのか。

 確かに俺には欲しいものかもしれない。

 どうやら俺の魔法は4人ぐらいの強化なら魔力不足を起こさないが、100人に魔法を使う! とかやってるとすぐに尽きるらしい。

 というか現時点でも100人強化が出来るのか。思ったより自分の魔法は強いんだな。

 もう3桁の人数を強化とかできるのか。


《ただ、結構いい金額するんですよね。そこで売ってます》

(えーっとどれどれ? うわ、ちょっとした宝石より高いじゃねぇか)

《……相場より高いですね。誰かが買い占めてるんでしょうか》

(さぁ、俺にはそういうの分からないが)


 これを買い占めるということはギルドか?

 明日のクエストをこなせばギリギリ買える額だが、うーん。

 まぁ、今の所100人に魔法を使うとかそういう場面は無いからいいか。


(それより、これは何だ? やけに高いアクセサリーだが)

《これは魔力を込めるとモンスターの注意を引くブローチですね。普段は大丈夫です》

(へぇ、これは欲しいな)

《値段はお手頃ですし、良いかもしれませんね》


 モンスター狩りをしたい時はこれを使えば呼び寄せる事ができる。

 戦っている時にこれを俺が使ってロントの気配を消せば、ロントがフリーになる。

 中々汎用性がありそうだ。

 1つ買っておいた。

 目立つように胸の所に付けておいた。

 良いものを買った。

 非常に良いものだ。

 良いものなんだよな?


(なぁ、これダサくないか?)

《いやぁ、かわいいウサちゃんのブローチですね》

(本当に胸に付けないとダメなのか?)

《ダメです!》

(うーん、なら仕方ないか)


 俺の胸に輝くウサちゃんブローチ。

 もっと他のデザインは無かったのだろうか。

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