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10.外と希望と絶望と

「ユーちゃん!」

「期待するな、ドラゴンの件がある」

「でも、登り坂だし」

「行け、ころりん!」


 再び光が見えて来た。

 少し前から、急に地面が登り坂になってきていた。

 魔法を使わなくても光がある。こんなに助かる事なのか。


 次に俺達が目にしたのは、木だった。

 木々が立ち並ぶ森の中。

 だが、確かに外に間違いない。


「出れた? ユーちゃん私たち出れた?」

「そうだ、そうだな」

「やったー!」

「……しゃぁあああ!」


 トロープと抱き合う。

 胸が当たるとかもうどうでもいい。

 素直に喜びを表現したい、それだけだ。

 ころりんから降りて、外に出た。


「……あっ」

「どうした?」

「ころりんが……」


 ころりんは、洞窟の出口まで来ていた。

 だが、そこから一歩も歩こうとしていない。

 こいつの住む世界は、土の中なのか。


「お別れなのか」

「ころりん……」


 やばい、泣けてきた。

 ころりんがこちらを見ている気がする。

 お前には本当に、本当にお世話になった。


「ころりん、コレを」


 トロープは、今まで餌をくっつけていた紐をほどいて木の実を食べさせた。

 そして、その隙に足の一本に紐を巻き付けた。


「ころりん、バイバイ」

「……くっ」

「男の子でしょ! 泣かないの!」

「でも、あいつには本当に世話になって……」

「……私まで悲しくなってきちゃった」


 俺たちは少しの間、その場で涙を流し合った。

 お互い結構大きいのに、なんて情けない。

 ころりんはそんな俺達を見たあと、自分の世界へと戻って行った。

 土の中の世界へ。




 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




「さて、ここで泣いてもいられない。状況を確認しないと」

「そうね」

「何か目印のようなものは……」


 どこかの街にとりあえず出たい。

 出来ればそこが知っている街だといいが。

 幸い2人で一泊出来る小銭程度なら持っている。


「あ、ユーちゃん」

「ん?」

「あそこに煙が」

「煙?」


 ほんとだ、煙だ。

 もしかしたら人が、もしくは町があるかもしれない。

 だとしたら、なんとかして合流する算段が付くはずだ。


「トロープは、この近くで見覚えがあるものとかないか?」

「うーん、分からない。というか、私実はほとんど旅とかした事ないの」

「そうなのか?」

「フマウンとトーノを往復するばかりだったから」


 まぁ、1人旅だとそんなものか。


「ところで、トロープ」

「何? ユーちゃん」

「その呼び方、やっぱり恥ずかしいからさ……」

「えー」

「2人っきりの時だけにしてくれないか?」


 ちょっと顔が赤くなるトロープ。

 流石にユーちゃんをパーティーの中で通されたら困る。恥ずかしいしちょっと修羅場になるかもしれない。

 こくりと頷くトロープ。やったぜ。

 こういうの、女性は好きだよな。偏見かもしれないけど。


「そういえばユーちゃん、ポートさんは?」

「あぁ、そうだった。……ダメだ、全く反応がない」


 肝心な時にいないんだからなぁ、ポートは。

 ……ずっとこのままだったらどうしよう。

 いや、カー君を見てるとそれが普通なんだ。

 あいつは便利で頼りになるけど、いつかはあいつから離れる日が来るかもしれない。


「あ、大分煙が近くなってきましたね」

「んー、お! 街だ! 街が見える!」

「助かりましたか?」

「そうだ、助かった!」


 俺達は、希望を胸にその街へと駆け出した。





 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~




 始めに感じたのは臭いだった。

 フマウンの街で嗅いだ、死体の焼ける臭い。


 そこは、本当に街なのかと疑いたくなった。

 多くの家が潰れ、燃え、死体が散乱している。

 見るからに何者かの襲撃を受けている。

 生存者はいるか怪しい。

 壊滅、いや全滅と言った方がいいかもしれないレベルだ。


「酷い……」

「どこだ? この街はどこなんだ?」


 たかだか盗賊や山賊の襲撃ではこうはなるまい。

 モンスターがただ出没した程度でも、ここまでの被害は出ないだろう。

 ふと、大侵攻を受ける街という情報を思い出す。

 ペガサスだっけ?

 ナフィで会ったあの2人が向かうと言っていた街。

 そこでも例の精霊魔法使いが出没して、崩壊したのか?

 そう最初は考えた。


 しかし、次に目にしたものにより、その考えは改められた。

 とある店の脇に倒れていた看板。

 そこにはこう書いてあった。


 エルフの里饅頭 発売中


 全身の血の気が引いた。


「エルフの里……ここがエルフの里なのか!?」

「エルフの里?」

「以前ここに来た事がある。エルフの里。確かナフィの南西にある街だ」


 ここは精霊魔法使いが多くいた街のはず。

 そしてそこには確か……。


「ナナ! ナナライド!」


 そうだ、この街にはナナがいた。

 どこに……。


 広間に出てまたもや絶句した。

 大量の岩。

 いや、これはゴーレムというのだろうか。

 岩だからストーンゴーレムか。

 その残骸が、あちらこちらに散らばっていた。


 広場のほとんどの建物は、ストーンゴーレムによって踏みつぶされていた。

 しかし、1つの建物だけが残っていた。

 そこから、子供の泣き声がする。

 多数の子供の声だ。


「ユーちゃん!」

「行くぞ!」


 そこは倉庫のようだった。

 中には10人ちょっとの子供がいた。

 エルフの子供が8人、人間の子供も2人いた。

 そして、その前には1人の少女が倒れていた。


「ナナ!」


 それは、紛れもなく星川奈々。ナナライドだった。

 全身に酷い打撲の跡がある。

 急いで抱きかかえるが、息が無い。

 まだ温かい。


「だ、誰!?」

「安心しろ、通りかかった者だ」


 後からトロープが追いついてきた。

 ナナは完全に息絶えていた。

 だが、俺にはまだ手段がある。


 躊躇いもなく、ナナの唇に唇を重ねる。

 帰って来い、俺にはまだお前を引き戻せる。


 ナナの体は徐々にその痣を消して行った。

 大丈夫だ、行ける。


「ユーちゃん、その子は?」

「カー君と俺と同じ、転生者の子だよ。まさかこんな形で再会するとはな……」


 ナナの蘇生は少し時間がかかった。

 その間に、子供から話しを聞く。


 ストーンゴーレムの襲撃があったのは、今から僅か1時間程度前のようだ。

 街の人が戦う中、ナナライドは子供達を連れてこの場所に来た。


「なぁ、この建物は何なんだ?」

「えっとね、ここはホーモツコって呼ばれてた」

「宝物庫か……」


 ナナは確か銭投げのようなチートを持っていた。

 彼女は宝物庫に立てこもり、子供達を守ったのか。

 金銭の問題で力を発揮できない彼女だが、街の宝石や資金の備蓄を消費する事で、なんとかストーンゴーレムの猛攻から子供たちを守ったのか。


「この辺りのストーンゴーレムは、このお姉ちゃんが?」

「うん、お姉ちゃん助かる?」

「あぁ、絶対に助けてやる」




 やがて、ナナが目を覚ました。


「大丈夫か、ナナ!」

「……っつつ。あれ? 確かあたし……」

「悪いが唇を奪わせて貰ったよ」

「ん? ユーハ! ユーハ? どうしてここに?」


 ナナのリストカット跡は残っていた。

 まぁ、こいつのアイデンティティみたいなもんだから残ってもいいだろ。


「そうだ、子供達! 良かった……無事だったのね」

「とりあえず俺の説明は後だ。何が起こった?」

「えっと、突然警報が鳴ったのよ。大侵攻並の攻撃が来るーって」

「あぁ」

「それで、とりあえず外に出たら子供たちが避難中で、ゴーレムがすぐそこまで迫って来て、でも街の人は凄く強くて最初は押してた」


 最初は押してた。

 ということは押し返されたということか。

 マーシュの大侵攻が脳裏に浮かぶ。


「でも、突然変化が起こった」

「変化? 精霊魔法か? 敵が急に強くなったとか」


 あの精霊魔法使いがもう一度やらかしたか?

 そう思った俺の予想は裏切られた。


「違う。私を含め、街の皆が物凄い勢いで力が抜けた」

「力が抜けた?」


 という事は呪術。

 精霊魔法じゃないのか?

 ……そうか、この街の人は精霊魔法使いがほとんど。

 だから、呪術で上書きされたから苦戦を強いられたのか。

 ナナの話によると、上空に魔法陣が現れたとかそういうのは無かったそうだ。


 だが、これは非常に面倒な問題だ。

 精霊魔法だけではなく、呪術を使う凶悪犯がいる。

 そして、この街の全員を魔法陣なしで弱体化できる。

 ……同一人物か? それとも、別の犯人が……。

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