9.不安と門とお魚と
目が覚めるとトロープさんが俺の顔を見ていた。
枯れ木はもう炭まで燃え尽きたが、例のドラゴンの所からの光が僅かながらここにまで届いているのだろう。
ということは今は日が出ている時間なのだろうか。
「おはようございます」
「おはよう、ユーちゃん」
な、何か慣れないな。
すげーバカップルっぽいというか。
ころりんちゃんにしろローちゃんにしろ、ちゃん付けが好きなのかなーこの人は。
「あ、そうだ。ころりんは?」
「その辺で丸くなってましたよ」
火をつけると、ころりんが少し離れたところで丸まっていた。
丸くなっているのは可愛いんだけど、ちょっとお腹が見えてグロい。
そのまま転がって潰されなくて良かった。
ころりんに乗って、今日も冒険に出発だ。
「簡単なクエストのつもりだったが、とんだ大冒険だなー」
「そうですね、まさかこんなに大変だとは思いもしませんでした」
「3日目だか4日目だか、もう分からないなぁ」
しかし、なんだかんだで肉を口に出来たのはでかい。
ころりんのおかげで消費するカロリーは少ないし、水もある。
あとは地上に出れれば最高なんだがなぁ、せめてポートと連絡が取りたい。
それから、俺達はずっところりんの上に乗っていた。
何だろう、他のメンバーから見てトロープに浮気しているという意識は余りない。
しかし、ブラウン君に対してころりんに浮気しているという罪悪感が結構凄い。
違うんだ、ブラウン君。仕方なかったんだ。
君を嫌いになった訳じゃない、信じてくれ。頼む。
俺とトロープさんの間にも、流石に疲労の色が強く出始めた。
無理もない。いくら座ってるだけとはいえ、もう3日はこの調子だ。
棒を持っているだけでも、火を出す為に指を上にあげているだけでも辛い。
途中から若干のリスクを承知でころりんに精霊魔法をかけてスピードを上げてるが、それでも先が見えない。
一体どこまで続くんだ。この洞窟は。
外に繋がっていなかったらどうしよう。
疲労と不安と焦りと空腹と。
無言の時間が増えて行った。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「そっちです!」
「ここか!」
「やったぁ!」
3日目はとうとう他に食料が無く、最後のパンとドライフルーツを食べてしまった。
4日目にてようやくモンスターを発見した。
大きなコウモリだった。
贅沢は言っていられなかった。
一日何時間も使い続けた事によって、俺の生活魔法の腕は格段に上がっていた。
魔力を多く消費するの覚悟で、強い火を手から出す。
直火だ直火。
流石にコウモリを生で食べるのは無理だ。
コウモリは意外と肉がついていた。
若干硬かったが、空腹の俺たちにはあまり関係なかった。
腹に入りさえすれば、それでいい。
翼や頭等の食べられない部分は、ころりんに任せる事に。
満腹かと言われたら微妙な腹持ちだが、文句は言えない。
会話も無く、黙々と食べる俺達。
やがて、再びころりんの上に乗っかった。
ころりんは歩き始める。
終わりの見えない闇の中を。
「……ユーちゃん」
「……なんだよ」
「もう、外に出られないのかな」
「出られるさ」
トロープが弱気になってきている。
仕方ない、俺も泣き言の1つでも言いたい。
この冒険が始まって、明確に体重が落ち始めたのが分かる。
魔力を垂れ流し、食糧を得られず、睡眠もどうしても浅い。
体が悲鳴をあげている。
「ねぇ、ユーちゃん」
「なんだよ」
「もしダメだって時になったら、せめて抱いて欲しい」
「何を……」
ポートの情報から察するに、恐らく彼女も処女なのだろう。
いつもはお姉さんぶっているが、処女のまま死にたくはないということなのかな。
俺もそれは同じだ。
だが、俺はまだ諦めてない。
「最初に抱くのはリアってルールらしいからなー。それまではお預けだ」
「……ふふっ」
「何だよ」
「いや、ハーレムのチートってここまで効くもんなんだなって思ってねー」
他愛のない会話。
どこまで本心か分からない会話。
だが、1人じゃないという事実だけでなんとか精神が回復する。
俺はなんとしても、トロープと一緒に脱出する。
こんなところで死んでたまるか。
まだ、まだ余力が俺たちには残ってるはずだ。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「……ユーちゃん」
「どうした?」
「あれ、見て」
トロープの指差した方を見ると、何かがあった。
扉? 門?
鉄で出来ているようだ。
書いている言葉は、恐らくトレイサーと王都の中央にあった石碑と同じく古代の文字のようだ。
解読は俺もトロープにも出来なかった。
「くぉおおっ! ダメだ、ビクともしない」
「でも、ここに人工物があるということは……」
「そうだな」
ここに誰かが運び込んだという可能性が高い。
ということは、この道を進めば地上に出られる可能性があるという事だ。
俺達の目に希望の光が差し込んできた。
すでに今日は5日目。
空腹が限界に来ている。
そろそろ外に出なければ。
「ころりん、ゴー!」
「いけー!」
ころりんへの精霊魔法をMAXにする。
ころりんは何かを感じ取ったのか、空気を読んで走ってくれた。
今はお前が主役だよ、ころりん。
それから2時間程度だったか。
開けた場所に出た。
地底湖だった。
「ユーちゃん!」
「おう、任せろ!」
パンツ一丁になり、湖に入る。
中に魚がいた。
釣っている暇も道具もない。直に入ってナイフで一突きだ。
一瞬だけ火を付けて視覚を確保し、一撃で仕留める。手ごたえがあった。
「流石ユーちゃん!」
「1匹じゃ足りない、まだまだだ!」
結果、俺は4匹の魚を手に入れた。
完全にテンションで押し切った。
生存本能は恐ろしい。普段の俺なら、絶対にもっと時間がかかった。
魚を丸ごと焼き、丸ごと齧り付く。
塩が欲しいところだが、そんな贅沢は言えない。
また生きる希望が湧いてきた。
魚の頭や尻尾、骨等はころりんに食べさせる。
「ふー、食った食った」
「ユーちゃんが一緒じゃなければ、今頃飢え死にしてましたねー」
「やっぱり飯は大事だな」
さて、そろそろ出発しよう。
と思ったら、トロープが何やらモジモジしている。
「あの、ユーちゃん」
「何だ?」
「しばらくの間、火をつけないでもらえますか?」
「ん? 分かった」
すると、がさがさと物音が聞こえた。
服を脱いでいる音か。
続いて、チャポンと音がした。
湖の中に入ったのだろう。
湖自体はプールぐらいの深さしかないので、溺れる事はないだろう。
「ふー、やっぱり水浴びはいいですね!」
「火を付けていい?」
「ダメです」
「ダメ?」
「だーめーでーすー」
とか言われたらいたずらしたくなるのが男心。
一瞬だけパッと火をつけた。
本人を見る気は無かったので顔は背けていたが。
「あ、見ましたね!」
「見てないって、ちょっと足元確認しただけだって」
「あーやーしーいー」
まぁ、俺は実はちょっと見てしまったんだけどな。
トロープの体ではない。
トロープの脱いだ服をだ。
下着が上下脱いであった。
今、全裸かぁ。
全裸なのかぁ。
見たいなぁ。
「ユーちゃん、もういいですよ」
「おう」
「ほんとにずっと後ろを向いてるなんて、紳士ですねー。てっきり途中でこっちを見るものかと」
「おう」
俺はヘタレだった。
恐らく、口ではああ言っているがトロープは体を見られても許してくれただろう。
ああもう、こんなんだからポートに好き勝手言われるんだ。
「……ユーちゃん」
「どうした?」
「木の実が、もうあと1個しかない」
「そうか」
ころりんにあげられる木の実も最後になってしまった。
その先までついてきてくれるかは分からない。
だが、俺は確信していた。
この先、もうそう遠くない所に出口があると。
ころりんの食事が終わったのを確認したら、俺達は再び出発した。




