8.ドラゴンと白い何かと呼び方と
ころりんの前にトロープさん、後ろに俺が座る。
何かこんな風景、昔映画で見たなぁ。
アリの上に小さくなった子供たちが乗って、庭を大冒険するアメリカかなんかの映画。
今回俺達は小さくなったという訳ではないが。ダンゴムシがでかいだけだ。
「そういえば、トロープさんは何で魔物使いになったんですか?」
「あぁ、実はですね。魔物使いになんてなってないんですよ」
「へ?」
「カー君が向こうから私に好意を持ってくれまして、それでカー君の提案で魔物使いを名乗るようになったんですよ」
「へぇ」
まぁ、あいつは金髪おっぱいというだけでトロープさんを選んだっぽいからな。
魔物使いになろうとしてなったという感じでは確かに無さそうだ。
「でも、今は立派に魔物使いですね」
「ふふ、ころりんちゃんは私の自慢のモンスターですね」
「自慢っていうぐらいなら、ドラゴンとかじゃないと」
「ドラゴンぐらいどーんと持って来てくださいよ! 今の私なら軽く飼い馴らして、お座りさせてあげますよ!」
ダンゴムシ一匹で自信ついてるなぁ。
まぁ、良い事だ。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「あの、すみません」
「ん?」
「ちょっと止まってもいいですか?」
「え? ……あー」
トイレだろう。
こういう時の為に、俺は一応トイレットペーパー代わりの葉っぱを常に持ち歩いている。
2枚ぐらい出して渡してやる。
ついでに精霊魔法も。
「じゃあ、ちょっとだけ失礼します」
「あぁ、ごゆっくり」
精霊魔法で足が速くなったトロープさんが、全力で来た道を引き返す。
かなり遠くまで行ったところで、物陰に隠れた。
「あーあーあー!」
トロープさんの声だ。
多分アレだ。音姫的な。
大なんだろうなぁ。
流石に恥ずかしいのだろう。俺も「わーわーわー」と返してやる。
帰ってきたら、俺の水で手を洗っていた。
衛生は大事だな、うん。
しかし、かれこれもう二十時間ぐらい移動し続けてる。
だがまだ外に出る気配は無い。
どんだけ広いんだ、この洞窟は。
ずっと一本道だし。
「もしかして、そろそろ戻った方がいいんですかね?」
「へ!?」
「誰か救助に来てくれてるかもしれないですし。一応床に『脱出経路探す』って書いておきましたけど」
「い、いや前進しましょう! 前進!」
そうだよな、今戻ったらトロープさんの出したものが見えちゃうもんな。
まぁセクハラで言ったんだけどさ。
再びころりんに乗って、前進を始める。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「ユーハさん、あれ!」
「お? おぉ!」
とうとう光が見えた。
外か?
やはりこちらの道を選んだのは正しかった。
外、外だ!
「やりまし……もがっ」
「シッ、何かいる」
トロープさんの口を手で塞ぐ。
一度ころりんから降りて、音を立てないように先行する。
そこは、非常に大きな縦の穴だった。
地上からの光が差しているが、肝心のその地上までの距離が50メートルぐらいある。
少しずつ上へと向かっている洞窟だったから安心してたが、まだこんなに地下だったのか。
俺達、一体どれぐらい落下してたんだよ。
側面は頑張れば登れそうな突起がいくらかあった。
少なくてもツルツルだった最初の場所よりはマシだ。
だが、大きな問題があった。
緑色のドラゴンが、5メートルぐらいの大きさのころりんが、まるで米粒に見えるぐらいの大きさのドラゴンがいた。
アカン、こりゃダメだ。
強いて言えば、今は昼間だというのにドラゴンが寝ているというのが救いか。
トロープさんもころりんを一度その場に止めて、こちらにこっそりと歩いてきた。
「……おっきいですね」
「ホラ、ドラゴンがいるぞ? 手懐けてお座りさせてみろよ」
「何馬鹿な事言ってるんですか」
「それよりどうする? 引き返すか?」
「そうですね……あっ」
ころりんが横からするりと中へ入ってしまった。
トロープさんが置いていた、紐に繋がれた木の実を咥えたまま。
「……ここまで来たら行きますか」
「じゃあ、先に行っててくれ。俺に考えがある」
「考え?」
ドラゴンの近くに、白い何か塊のようなものが見える。
よくよく見ると、アレは羊かヤギのように見える。
穴に落ちたか、ドラゴンに餌として持ってこられたか。
どちらにしても、できればあのタンパク源を確保したい。
「あそこにある穴に向かって進んでくれ。俺はすぐに追いつく」
「……分かりました」
トロープさんは、ころりんから棒を奪い取るとすぐに指示した穴へ向かった。
すげぇ、ころりんをもう乗りこなしてる。
……いや、アレは単にころりんが自発的にそちらへ向かってるだけか。
ある程度までころりんの気配を消し、進路を進むのを待ってから行動する。
今度は俺に精霊魔法をかけて気配を消す。
ドラゴンに気づかれぬよう慎重に、白い塊に近づく。
精霊魔法は派手なエフェクトとかないから、こういう隠密行動で助かる。
ドラゴンの顔の近くにそこそこ肉が残ってて、まだ死後そんなに経過していない奴を選ぶ。
ナイフを取り出し、比較的無事な背中の肉を剥ぎ取る。
普段からこういう作業をしていて良かった。
「……グォオオオオアアアア」
「っ……!」
び、びびびびびびった。
足が震える。この距離でその迫力はやばい。
な、何だよ。ただの寝言かよ。
大きめの肉のブロックを切り取ると、早々にトロープさんの所へ戻った。
「凄いです! 流石ですユーハさん!」
「こ、怖かった」
「かっこよかったですよ?」
「そ、そりゃどうも」
トロープさんも、ちゃっかり枯れ枝を入手していた。
おそらく穴の上から落ちて来たものだろう。
ドラゴンから十分距離を取ると、枯れ枝に火をつける。
長めのナイフで突き刺し、ファイヤー。
中まで火を通すのは諦めた。
回りだけ食べて、焼けていない中はころりんにあげる。
やばい、ちょっと可愛く思えて来た。
「ちょっとの間火を見ててくれないか?」
「あぁ、おトイレですか」
「……いや」
「ん?」
「さっき、ちょっと漏らしちゃった」
「……ちょっと、かっこ悪いです」
しょうがないじゃないか、あんなドラゴンの間近で寝言なんか言われた日には。
予備の下着を常備しておいてよかった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「うーん、ダメかー」
「ポートさんと連絡取れなかったんですか?」
「あぁ」
あの空が高く開けている場所ならなんとかなるかもと思ったが、ポートの声が聞こえない。
もしかしたら、一度接続が切れたら再び繋がるのは難しいのか?
うーん、ポートがいないというのは心細い。
とりあえず、ほっとした事が1つある。
この道が北へ向かっている訳では無さそうと言う事だ。
もしそうだったら、海の底という事になってしまっていた。
だが、上が開けた場所があったということは北ではないということだ。
東だったらいいなぁ。
そのままマーシュの近くに出たりしないかな。
食後、睡眠をとる事にした。
地下にいるので時間の感覚が分からない。
ならば休めるうちに休んだ方がいいだろう。
ころりんを首輪とかで繋げておきたいところだが、まぁ逃げたら逃げたで仕方ないだろう。
俺達を襲わなければ御の字だ。
「ユーハさん、先に寝ないんですか?」
「レディーファーストって言葉が前世にはあってね。女の子を優先にしろって意味なんだよ。俺はまだ大丈夫だから」
「ふふ、紳士さんですね」
ころりんはじっと動かない。
もしかして寝てるのだろうか。
眠っている時は団子状になったりしないのかな。
まぁ団子になられて転がられても困るんだけど。
「あの、ユーハさん」
「何だ?」
「せっかくお近づきになったんですし、呼び方変えません? 私だけさん付けなのもちょっと寂しいです」
「じゃあトロープ?」
「ふふ、呼び捨てってのも恥ずかしいですね」
何だよおい。
ちょっと可愛いじゃねぇか。
「じゃあ、お休みなさい。ユーちゃん」
「お、おう……」
ユーちゃん……ユーちゃんかぁ……。




