6.生ゴミとキスと光源と
「助け、来ませんねー」
「そうだなー」
2人の間に焦りが生じ始める。
いくら何でも、あいつらが俺たちを見捨てるのはありえない。
しかし、全然助けが来ない。
これは、簡単に助けられない事情があるということだ。
「ユーハさん、イライラしてます?」
「そう見えますか?」
「何か、せわしないです」
「うーん、そうかー」
カリカリしているつもりはないが、どうしても落ち着かない。
いつも漫才の相方の如く、脳内で会話しているポートからの反応が無いというだけで、こんなにも焦るものなのか。
「そうだ、ユーハさんの事もっと教えてくださいよ」
「教えてって言ってもなぁ。この世界に来てからの事なんて大体話したしなぁ」
「じゃあ、その前の事。前世の事を教えてください」
あぁ、そうか。
この人は、俺が違う世界から来たって事を知っているんだったな。
「うーん、じゃあ前世に転生した時から話しましょうか。あの転生神と出会った時の事とか」
「そんな気軽に神って言葉が出てくるのが凄いですよ」
「まぁ、死ねば誰でもあそこに行くと思えばなぁ」
いや、あいつの暇さ加減を考えると、ほとんどの人間は違う場所に送られる気がする。
まぁでもこんな暗闇の中で考える内容じゃないか。
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「でさーそれが臭くってなー」
「フフ、そうなんですか」
互いの顔も見えない中。俺は彼女に前世の話を聞かせてその場を繋いだ。
じわりじわりと浸食してくる不安という感情。
それを少しでも忘れる為に。
しかし、どうしても感じるものは他にもある。
空腹だ。
俺の腹の虫がぐぅーと鳴ってしまった。
「……結構時間が経つな」
「恐らく、そろそろ外は夜を迎えるんじゃないでしょうか」
「そりゃあ腹も減るよなぁ」
いざという時の非常食を多少持ってはいる。
しかし、何日も籠城できる程の装備ではない。
「そうだ、私ロントさんのお弁当持ってますよ!」
「おぉ! それは助かる」
「でも、こう暗いと食べられませんね」
「あー、そうだな」
何とかして光源を確保!
うーん、マッチの一本でも持って来ていればよかった。
普段そういうのを持っているのはリアとロントとマイ。
俺とトロープさんは持っていなかった。
正確に言うと、トロープさんは置いて来てしまったと言ってもいいか。
そりゃあ1人旅用の装備と、集団用の装備は違うから仕方ない。
「そうだ、ユーハさんのチートでなんとかなりませんか?」
「俺のチートで?」
「はい。私の唇使っていいですから」
しかし、そう簡単な問題でもないんだよなぁ。
基本的に、俺はポートの許可がないと思い通りにチートを動かせない。
ポートが設定してくれて、初めて俺のチートは成立する。
……いや、待てよ。
俺達が落ちそうになっていた時、ポートが何か言っていたな。
確か、トロ魔王? トロ魔界?
魔界はともかく、ポートはトローという言葉を発していた。
という事は、トロープさんについて何か言おうとしたのではないか?
トロープさんは無事ですか!? って言葉はあの場面では合わない気がする。
ということは、ポートは通信が切れる事を察知して、トロープさんとのキスに関して、何かしらの設定をした?
一応この事も、トロープさんに報告する
「……ということなので、もしかしたら何か起こるかもしれませんね」
「キス、してみます?」
「女性にこういう言い方するのは気が引けますが、ダメ元でやってみましょう」
「ふふ、そうですね」
暗闇に目が慣れるかとも思ったが、本当の暗闇だと全く前が見えない。
お互い手探りで接近する。
「……ん!」
「わざとじゃないですよ!」
「怪しい、まぁ触りたければいいですけど」
つい胸を触ってしまった。
カー君が知ったら怒るだろうな。
おこだろう。激おこだろう。
だが、さらにぷんぷん丸になりそうなキスをこれからする訳だ。
「じゃあ、行きますよ」
「……はい!」
俺はなんとかトロープさんの両肩に手を置くと、口づけをした。
……一度目は外れて鼻にキスしてしまったのは、無かったことにしよう
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「……ふふ、ちょっと恥ずかしいですね」
「ご馳走様でした」
少し口紅の味がした。
今まで口紅をした人とキスをしたことなかったってのも微妙な話だが。
さて、俺は暗闇プレイをしたくてキスをしたわけじゃない。
何か打開したくてキスをしたんだ。
「えっと、精霊魔法が強くなった気配はないですね」
「じゃあ火が出せるようになるとか!」
「よし、じゃあやってみましょうか!」
冗談半分で火が出ろーと念じてみる。
すると、本当に指先から火が出た。
「おおう、びっくりした」
「何事もやってみるもんですねー……」
「火の魔法でも体得したかな? ちょっと失礼」
一度手の火を消して、弓をイメージしてみる。
この前ライトベルとレナさんの会話にあった、ファイヤーアローをイメージした。
……何も出てこないな。
「もしかして、生活魔法じゃないですか?」
「生活魔法?」
「一部の魔法使いが、旅に出る為に覚える魔法です。えっと、確か火を出したり、水を出したり、氷を出したりします」
「へー」
一応やってみたら、器のように形作った手から、水が溢れて来た。
コレは便利だな。
マーシュでの生活がグッと楽になりそうだ。
確か、人間の餓死するかどうかのデッドラインは3日。
しかしそれは何も口にしていない時の話だ。
飲み水があるだけで、その日数はグンと伸びる。
しかし、今はそんなことをやっている場合ではない。
とりあえず改めて火をつける。
「魔力とかは大丈夫ですか?」
「あぁ、精霊魔法と共有する魔力っぽいので魔力切れはしばらくは大丈夫そうかな?」
「そうですか」
さて、光という物を手にいれたことで、現状が大分見えて来た。
まず、上だ。
物凄い高さだ。恐らく登るのは不可能だろう。
床を見る。
モンスターの皮や骨が散らばっていた。
恐らく、ここはゴブリンたちのダストシュートのようなものだったのだろう。
中には人間のものと思われる骨もあった。
確か最近神隠しにあった男性がいたはずだ。
ゴブリンたちの餌食になっていたのか。
「あ、そこに棒が落ちてますね」
「私のだ。良かったー」
暗くてこれも拾えなかったのか。
足で探せば見つかりそうなものだが。
お弁当の中身はサンドイッチだった。
多少ぐちゃぐちゃになっていたが、床にぶちまけていないだけマシだろう。
生ごみだらけのここで食べるのは気が引ける。
「さて、一番の議題になりそうなのはコレかな」
「ですねー」
奥に通じる通路があった。
だが、恐らく通路というより自然の穴と言った方がいい。
脱出経路があるか分からない。
しかし、このままここにいるよりはマシだろう。
「行きますか?」
「行きますか!」
トロープさんはナチュラルに俺に腕を絡めてきた。
互いの位置を確認する為だ。
決して乳の確認ではない。
通路への一歩を踏み出す。
「そういえば、俺のチートって対象の好感度を上げるんですけど、どうです? 俺かっこよく見えます?」
「んー」
何だその反応。
「ユーハさんの顔が火で見えた時、ちょっとキュンっとしました」
「おぉ、そうですか」
やっぱりこういう事を言われると嬉しくなってしまう。
「しかし、災難ですねー。こんなことになっちゃって」
「まぁ命があるだけマシとも言えますけどね」
「リアちゃんとマイちゃん、ちょっと可哀想ですね」
「あぁ……そうだった」
今晩こそ2人に手を出すと誓ったばかりなのにコレだ。
しかし、だからこそ絶対に帰らなければならないという気分にもなる。
このまま、腐れEDと言われたまま死んでたまるもんか。
絶対に、俺は、俺達は2人で帰るぞ。




