5.勝利と隙と闇と
《えっと、この先にある洞窟ですね、腐れEDさん》
(そのネタまだ引きずってるのか……)
隣でカー君がトロープさんの肩の上で楽しげにしている。
恐らく、こいつは今朝の説教。いや、昨晩からずっとポートの声を聞いているんだろう。
目が言っている。
ざまぁみろと。
ちくせう。
ちなみに今向かっているのはゴブリンたちのアジトらしき場所だ。
トーノから南に行った辺りにあるという。
結構街から近いけど大丈夫か?
いや、大丈夫じゃないからクエストが出てるんだよな。
「このお弁当、ほんとに美味しそうですねー」
「リアが丹精込めて作ったものだからな」
トロープさんがお弁当を手に持っている。
ピクニックに行く訳じゃないが、基本的にカー君がメインな彼女は多少の荷物を持っていても問題はない。
いざとなれば棒術で戦えるはずだが。
「それにしてもなつかしいなぁ」
「何がだ?」
「いや、俺とロントが会った頃も、確かゴブリン狩りしたなぁって」
「そうだなー、昔の事に感じるな」
数えてないけど、もう2カ月ぐらい前の事になるのかな?
あの頃は、ここまで一緒に旅をするなんて思いもしなかった。
いや、ちょっと嘘だ。メンバーに入れる気まんまんだった。
性癖を知るまでは。
「それで、どの辺りなんだ?」
「このまままっすぐに行ったところみたいですよ」
「うー!」
「お、目が良いな。そうだな、アレっぽい」
少し森に隠れて見えにくかったが、洞窟のようなものが見える。
多分あそこだろう。
アリの大群からすると、あくびが出る程甘っちょろい相手だが油断せずに行こう。
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「行くぞ。ロント、頼めるか」
「あぁ、余裕だ」
前回と同じく、ロントに気配を消す精霊魔法をかける。
そして、堂々と中に入ってばっさばっさとゴブリンを斬り伏せる。
いやぁ、ゴブリンは強敵でしたねぇ。
ロントもすっかり慣れたのか、返り血を浴びないように立ち回る余裕すら見せた。
流石にちょっと靴にはかかったけど。
(ポート、他にゴブリンはいるか?)
《大丈夫ですね、ここにいるのが最後みたいです》
(分かった)
皆に撤収の指示を出す。
荷物を整えてとっとと帰ろう。
この街のギルドは普段あまりクエストが出ない代わりに、一度出たら簡単なものでもそれなりの報酬が貰えるようだ。
今回は期待してもいいだろう。
俺達は安心しきっていた。
ここにはそんな凶暴なモンスターは出ないと踏んでいたからだ。
だから、出口で唐突に巨大な棍棒が振り下ろされた時は全員回避出来たのが奇跡に思える。
洞窟の入り口で上から振り下ろされた巨大な棍棒。
ロントとスランは外へ。俺とトロープさんは咄嗟に中に避けた。
それが大きな分かれ目になった。
「何だ!?」
「オーガ!? しかも変種だ!」
《いつの間に!?》
そこにいたのは巨大なオーガ。
頭は悪いが力だけは強い。
身長だけでも4メートルはあろうかというサイズだ。
カー君が動き辛い洞窟内を嫌い、外へ飛び出した。
「こんなの気づかない訳ないのに……!」
「来るぞ!」
今度はオーガが棍棒を水平方向に振り回した。
ロントとスランはそれを避ける。
彼女たちは既に俺の精霊魔法を受けている。
基本の身体能力が底上げされてる彼女たちは、この程度楽勝で避けられるはずだ。
棍棒は洞窟の入り口を強く叩いた。
「なっ……!」
《ユーハさん!》
「トロープ!」
オーガの一撃は、予想外の方向へ影響をもたらした。
洞窟の入り口が崩れ始めたのだ。
後から考えると、恐らくこれはゴブリンたちの仕掛けだったのだろう。
いざとなったら出入り口を塞ぎ、アジトを隠したり籠城したりする為の。
お陰で俺達とロント達の間が完全に崩れ、分断してしまった。
しかし、それだけでは終わらなかった。
「ユーハ! トロープ! くっ」
「大丈夫だ、怪我はない!」
「かー! かぁー!」
なんとか精霊魔法だけは途切れないようにしなければならない。
逆に言えば、あの2人だったのはせめてもの救いだ。
だが、不運は重なるものだった。
俺達には外が見えなかったが、何度か地鳴りがした。
おそらくオーガが棍棒を地面に叩きつけたりしているのだろう。
それが3、4回繰り返された時、それは発生した。
「おい、何か地面が揺れてないか?」
「あ、ここ地盤が……」
「……っ、崩れるぞ!」
トロープさんを抱きかかえてそのまま奥へと退避しようとしたが、手遅れだった。
俺達の足元の地盤は最悪な事に緩かったようだ。
大きな音を立て、地面が崩壊した。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
「……くぅ」
「大丈夫ですか? 私重くないですか?」
「平気平気、胸が当たってちょっと嬉しいぐらいだよ」
何故か知らないが、俺たちがいたすぐ下は長い縦穴になっていた。
トロープさんを抱えていた俺は、精霊魔法で自分の力を強化しつつなんとかして側面の突起に捕まる事に成功した。
「おい、ポート! なんとか出来ないか!」
《……ハさ……こ……き……》
「おい、ポート! 聞こえない! どうした!」
《トロー……まか……い……》
トロ魔界って何だよ、こんな時に冗談やめてくれよ。
精霊魔法の消費される感覚から、恐らくロントたちへの精霊魔法の供給はギリギリ間に合っている。
なんとかして、なんとかして上に上がらなければ。
しかし、入口が封鎖されてしまった事によって光が一切入ってこなくなってしまっている。
真っ暗だ。
「なんとかして上がってみます。どの程度落ちたか分からないけど」
「はい、頑張って!」
「ふん……」
片腕一本でなんとか上がろうとする。
しかし、現実は非情で無情だったさ。
拠り所にしていた突起がポロっと外れてしまうんだからね。
「くっ……」
「きゃぁああああああっ!」
俺達は、闇の中の更に闇の方へ、落下して行った。
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「……ってて、大丈夫ですか?」
「なんとか。ちょっとお尻にアザが出来ちゃったかもですけど」
「そりゃ見なきゃいけませんねー」
「ハハハ、こんな真っ暗じゃ何も見えませんよー」
どちらからともなく、ため息が出てしまう。
どれだけ落ちたのだろう。
外の様子どころか、上の様子まで全く分からない。
「せめてオーガ戦がどうなったかだけでもなぁ」
「あ、それは大丈夫です。落ちる瞬間カー君との視覚の共有が発動したんですが、なんとか倒せたみたいです」
「それは良かった」
さて、ここから出なきゃなぁ。
どうしたもんか。
「ポート、ポート!」
「あの、ポートさんとの連絡が取れないんですか?」
「そうなんだよ」
「私もカー君と連絡が取れないんですよ。相当深いですね、ココ」
というか、地下になるとポートとの連絡が取れなくなるというシステムそのものが初耳だ。
そういえばこの世界に来てから、こんな地下に来た事なんて無かったな。
ほんと、どうしたものか。
「……何か臭いません?」
「おれ? おかしいなぁ、昨日ちゃんと風呂入ったんだけど」
「そうじゃなくて、生臭いというか……」
……本当だ。
よく考えると、今お尻の下に敷いている何かから物凄い生臭さを感じる。
それと、ぐにょっとした感触が。
「これは……生ごみ?」
「ゴブリンたちのご飯の残り物でしょうか」
「うえぇ、最悪」
「でも、コレがクッションになってくれたお陰で私たちなんとか助かったんじゃないでしょうか」
「まぁ、確かに」
しっかしどうするかなぁ。
いくらチート持ちとはいえ、精霊魔法だけでここを突破出来る気がしない。
これは本格的に困った。
「とりあえず、しばらく待ちましょうか」
「そうだな、誰かが助けてくれるかもしれないし」
しかし、2時間待っても4時間待っても、救出の気配すらなかった。
俺らの思っている以上に洞窟の崩壊は大きく、迂闊に手を出せない状態にまでなっていた。




