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17.決戦前夜のような何か


「うおー、すげー景色だなぁ」

「羊さんがいっぱいですね!」


 ブラウ家にやってきた。

 この家は3階建てで、一番上には家主の部屋があった。

 バルコニーもあり、外に出ると非常に見晴しが良い。

 マーシュの南側が遠くまで見晴らせた。


 外では大量の羊がいた。

 恐らくあいつもモンスターの一種なんだろうが、

 美味そうに草を貪っている。


「あれは羊じゃなくて牛なんだよ。あいつらから俺たちの命の水、牛乳が採れるのさ」

「へー」

「ほー」


 俺とリアに解説してくれたのは、ブラウ家の使用人だ。

 一応戦闘の腕もあるようだが、あまり期待はしていない。

 名前は確かユングさんだったっけな。

 使用人だが、一応この街に昔から住んでいるそうだ。


「あれ、いっぱい女の人が街から出て来た」

「皆松明もってますね」

「アレは、牛たちを移動させる為さ。大侵攻の戦いの影響を受けないよう、街の北側に移動させるのさ」

「へー」

「ほー」


 この羊……じゃなくて牛たちはこの街の生命線になっているようだ。

 こいつらは小さい頃から川の水を一切飲ませないように育てられていて、草もなるべく川の影響の少ないフマウン方面のものを食べさせているらしい。

 マーシュへ来た時は全然気づかなかったなぁ。

 まぁ深夜で真っ暗だったからな。


「この子たちは今二代目でね、生まれた頃から人間が育てたし、爪や角も落としてあるから安全さ。だが、こいつらが育つまでは大変だったよ」

「それまではどうしてたんですか?」

「この子たちの親から乳を分けてもらったんだけど、野生のモンスターだから荒くて荒くて。もしくは往復10キロ以上歩いて水運びさ」


 その二代目の牛が育ち切ったのは2年前。

 それまでは本当に苦行だったんだろうなぁ。


 外に見えるのは牛たちだけではない。

 街から廃材を持ち出し、バリケードを作っている者がかなりの数いる。

 戦えないけど何かの役に立とうと、働いてくれているのだろう。


 この屋敷の近くには、多くのベッドが設置されている。

 戦闘中に負傷した者の為の救護スペースだ。

 街の数少ない医者や女性たちがコレを支援する。

 エレフトラは大きな戦力として、ここで働くだろう。

 モンスターが真っ先になだれ込んで来る位置に置くのもどうかと思うが、ここまでモンスターの侵攻を許したら、恐らくどの道もう駄目だろう。


 さて、今の状況で非常に異質なものが二つある。

 まず、何故か大量の紙が部屋にあった。

 コレをどうしろと。


「どうやら主人が、作戦で紙が必要だと聞いたようで」

「なるほど……伝言ゲームしちゃった訳だ」


 陰毛を包む紙と勘違いしたらしい。

 正直すげー邪魔だが、エレフトラの屋敷まで持って行く余裕はない。


 もう1つは、トロープさんだ。

 この部屋に来た時既に部屋にいた。

 そして、この屋敷の家主のベッドで寝ていたのだ。

 それはもうぐっすりと。声をかけても起きる気配がない。

 一応部屋にはロントがいたから、見知らぬ男に襲われるなんてことはないだろうが。


《あー……なるほど》

(何か知っているのか? 雷電!)

《これはカー君の……いやモンスター使いのスキルでしょうか?》

(何かやってるのか? 寝ているだけにしか見えないけど)

《カー君を使って偵察してますね。視覚と聴覚を共有してるみたいです》


 さっきからカー君を見かけないと思ったが、どうやら発生したモンスターを見に行ったらしい。

 それで、トロープさんはその光景をカー君視点で見ていると。

 あれ? それって凄くね?





 やがて、ライトベルと助手たちがマイと一緒に来た。

 ユリンちゃん1人で屋敷にいてもいいのかとは思ったが、そういや今まで半年ぐらい1人暮らしだった訳だし問題ないか。


 トロープさんが起きたのは、眠りに入ってから2時間後ぐらいだっただろうか。

 お陰で敵の種類、数、大体の到達時間等が分かった。

 ユングさんが部下を1人走らせ、酒場へと情報を流しに行く。


「中々厄介なタイプのモンスターですね」

「タイマンだと非常に厳しいな」

「リーチが長い槍や、飛び道具なんかで戦いたいところですね」

「カー君の情報によると、一匹辺り相当な大きさのようだからなぁ」


 あれやこれやと意見を出す。

 この街では冒険者の絶対数は少ない。

 しかし、何故か武器は豊富だった。

 普段では当然ありえないが、この緊急事態だ。

 望めば弓や槍が支給された。

 俺達は必要ないが、使用人の人たちはその槍をすぐに取り出せる位置に置いていた。


 ポートに聞くと、理由は非常にシンプルだったが。

 近くに製鉄所がある。

 製鉄所があるという事は、鉄を求める人が来る。

 要するに、この街には結構な数の武器商人がいたようだ。


 ライバルに、買い出しに来ていたり屋敷を構えてるなんて事を知られると不都合が生じる。

 その為、自分の正体を隠してる者も結構いるようだ。

 まぁ、富豪たちの間では大体知られている事だったようだが。




 そんなこんなで、大体の戦力が判明した。

 カー君情報によると、全体の4分の1程度がこちらに来るという。

 ただしモンスターの数はそれでも多い。巨大なモンスターが600程度。

 油断は禁物だ。

 決戦は夜明け。当日は忙しくなるだろうな。






 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~





「ユーハさん、ユーハさん。起きてください、そろそろ時間です」

「あぁ、もうそんな時間か……」


 もしかしたら街ごと壊滅するかもしれないという状況だが、意外にぐっすりと眠れた。

 修羅場に慣れたからだろうか。

 町民の中には眠れぬ夜を過ごした者も多くいるだろう。

 エレフトラも夜遅くまで寝付けず、酒の力で眠ったようだし。


 しかしそれでも敵は来る。

 森に遮られて目には見えないが、山の麓にまで来ているだろう。


「そろそろですね」

「そうだな……」


 仲間たちも続々と目を覚ましている。

 俺も昨晩散々やったナイフの再点検を行う。


 空で飛んでいたカー君が、大きく円を描いた。

 そろそろ敵が襲来してくるという合図だ。

 街の外れにある櫓にいる担当の者が、それを見て鐘を鳴らした。


 町中に緊張が走る。

 槍や弓、長剣や刀を持ったゴロツキどもがゾロゾロと出てくる。

 こいつら、意外とちゃんと朝早く起きるんだな。

 いや、生活習慣がちゃんとしてないからこの時間まで起きてただけかもしれない。


 ライトベルたちが、準備していた魔法陣を起動させる。

 かつて俺が見た、雲を利用して魔法陣を広範囲に拡散させるものだ。

 以前より、起動に大幅な短縮が見られる。

 気候を操る魔法が上達したのか、それとも魔法陣が進歩したのか。

 それを見たマーシュ陣営の士気が大幅に上がる。

 確かに、コレかっこいいよな。

 ちょっと早いけど、300の味方に対して精霊魔法もかける。

 これによって更に士気が上昇する。

 彼らは、この精霊魔法が美少女によるものだと信じて疑っていないからな。


 やがて森から黒い何かが大量に出てくる。

 黒光りした殻。

 独特の大きく膨らんだお尻。

 8本の足に鋭い顎。


 彼らは集団行動に優れ、また非常に多くの仲間を持つ。

 日本では白い奴が家を攻撃したりしてたが、基本的に凶暴な類ではない。

 たまに台所とか風呂場で発生してパニックになるけど。


 だが、ファンタジー世界でもモンスターとしてよく登場する。

 雑魚敵としてもよく出てくるが、作品によっては非常に強敵になったりする。

 某地球を防衛したりする奴とかな。

 そう、あのモンスターは……。


《ちょっと待ってください、ユーハさん》

(何だよ)

《シリアスなシーンなのは重々承知です。しかし、絶対にやらなければならない事がワタクシにはあるんです!》

(モンスターを聞いた時から、そんな気はしてたけどさ……せっかくだし俺も言うか)

《お、乗り気ですね》

(いいか? せーので行くぞ?)

《はい!》

(せーのっ)

《アリだー!》「アリだ―!」

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