16.過去話のような何か
ブラウ家の人にすぐ同行しても良かったが、せっかくご飯が出来たばかりなので先に済ませる事に。
幸いブラウ家の人が教えてくれた住所はエレフトラが分かる位置だった。
まぁ、南西にあるのは分かってる訳だが。
食事前に簡単に互いに自己紹介をする事に。
とりあえず先生となるライトベルから。
「……ライトベル、よろしく」
「エレフトラだよ、回復は任せな。こっちが妹のユリン」
「どうも……」
こんな感じでテンポ良く紹介してゆく。
最後に助っ人の2人だ。
「…呪術師、メルビ。お手伝いに来ました」
「同じくお手伝いのレナです! 炎系の魔法が専門です!」
二人とも魔法使いとしての腕は見習いだが、魔法陣の知識がある事、旅の経験がある事、他の魔術師の助手の経験があった事から選ばれたようだ。
魔法使い、いいなー。1人パーティーに欲しいもんだ。
お昼はシチューだった。
水がそうそう手に入らないこの地域では、果物と牛乳が主力になる。
特に、牛乳は非常に手に入るそうだ。
何故かは分からないが。
そういう訳で、乳製品を使った料理がマーシュでは重要になる。
とはいえ牛乳の入手が楽になったのはここ数年の事だそうだ。
だから乳製品の特産品や郷土料理がある訳ではない。
リアはユリンちゃんから教えてもらったと言っていたが、ユリンちゃん自体も最近ようやくチーズを上手に作れるようになったとか。
「ところでユーハ、ちょっといいかい?」
「何だ?」
「あとでちょっと部屋に来て欲しいのさ」
「おう、分かった」
エレフトラからお誘いがあった。
こいつの事だから、まずエッチいお誘いではないとは思うが。
エレフトラは基本的に小食な為、食べるのが早い。
恐らく、貧困生活とシスター生活のどちらでも細い食の方が都合が良かったのだろう。
さっさと食べて妹を一通り可愛がった後、一番に部屋に戻った。
俺もそそくさと食べ終え、後を追う。
リアから若干黒い視線が送られて来たが、気にしないでおこう。
《ライトベルさん、安心してください! 何かあった時はご報告します!》
「……分かった」
何お前ら結託してるんだよ。
その組み合わせは怖いからやめてくれ、プライバシーあってないようなもんじゃないか。
エレフトラの部屋をノックすると、どうぞーという声が聞こえて来た。
ガチャリと開ける。物のない質素な部屋だなー。
まぁ、ここに来るまでは何もなかった部屋だから仕方ないか。
「それで、何だ用事って」
「ふん、ちょっと服を脱いでおくれよ」
「なっ、お前はそういう事言わない奴って信じてたのに!」
「馬鹿! 違うわ! お前さんの傷の経過を見たいんだよ!」
あぁ、背中と手の怪我ね。
忙しかったから忘れてた。
「んーカサブタになってるねぇ。戦いは大丈夫だと思うよ」
「まぁ俺も忘れてたぐらいだし、痛みもないな」
「でも無理はいけないよ?」
「分かってるって」
俺は前線で戦う立場ではない。
精霊魔法を皆にかけつつ、全体の補佐をする立場だからな。
「それより、何か話でもあるんじゃねぇのか?」
「ん? どうしてそう思うんだい?」
「うーん、勘?」
何か言いたげなオーラを纏っていたというべきか。
そんな気がしたとしか言いようがない。
こいつ、そういうの表情に出さない方だし。
「ハッ、あんたもなんだかんだで女の気持ちが分かる男だねぇ」
「伊達に女連れ回してないからな」
「そりゃそーか」
俺の言葉を笑い飛ばす姿も何だか元気がない。
何か言いたいようで、それでいて何かを遠慮しているような。
前世の俺の家では、一匹の犬を飼っていた。
俺の生まれる前からいた馬鹿犬だったが、人間の表情を読む犬でもあった。
お気に入りの玩具壊してしまったとか、自分のお皿を無くしてしまったとか。
そういう言い出し辛い事を切り出そうとする時は大体こんな顔だった。
「……パーティーを、抜けようと思うんだ」
「そうか……それは、家の事か? 妹の事か?」
「ユリンさ……」
エレフトラは、ポツリポツリと話し始めた。
自分と妹のことを。
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エレフトラの両親は、物心ついた時には既に亡くなっていたそうだ。
幸い2人には土地と家が残された。
しかし、収入も無ければ大きな財産があったわけでもない。
結果、気が付けば盗みを働いたりして食いつなぐのがやっとだったそうだ。
やがて、彼女に1つの才能が発覚した。
回復魔法の才だ。
それを見出したゴルヌ卿によってある程度の仕事も与えてもらった。
結構でかい額の中抜きが行われたらしいが、それでもその日の食事に困る程では無くなっていた。
医者のいないこの街では、回復魔法が使えるという人間が1人いるだけで生存率がまるで違った。
やがてちゃんとした回復魔法や医学の教本も手に入り、知識を付けて行った。
彼女はこの町で医者として過ごす予定だった。
しかし、彼女に転機が訪れる。
妹のユリンの事だ。
彼女は難病に侵されていた。
「この街の医学に精通する者に見せても、どんな医学書を読んでも、治す方法は分からなかったさ」
やがて彼女は回復魔法を深く学ぶ事で、何とかして打開しようとした。
それが半年前、彼女がシスターになったきっかけだ。
方法が分からないなら、自分が回復魔法を極めて作ればいい。
もしくは、もっと詳しい医学を学べばいい。
自分には素質が無くても、病気の治療に明るい聖職者とコネを作ればいい。
もし仮にそれら全ての方法で解決策が見つからなかったとしても、蘇生魔法を覚えればあるいは……。
しかし残ったのは絶望だった。
医学でも明確な原因は分からない。
病気に詳しい聖職者に尋ねても、病気がハッキリと分からないのに、治療できる程魔法は便利ではないと言われた。
そして、病死したものは蘇生魔法が効かないという事実も知った。
彼女は焦った。
とりあえずお金を集め、王都の医者に見せようか。
いや、王都の人間がどんな人間か分からない自分ではない。
そんな時、1人の人物を見つけた。
俺だった。
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「あの時、そりゃあもうびっくりしたさ。教会の天井にまで到達するかというぐらいの大きな神の力。神そのものが座っていたのかと思ったぐらいさ」
「その割には、会ってすぐに窃盗だったけどな……」
「ハハハ、ありゃあ癖だよ癖」
「癖ってお前なー」
「隙だらけな方が悪いのさ!」
楽しそうに笑うエレフトラ。
しかし、その笑いも少しずつ元気が無くなっていった。
「はー。ユリン、半年前に比べてかなり悪くなってたさ」
「そうなのか?」
「あぁ、医者が首を捻るレベルから、首を横に振るレベルにまでね」
分かりやすいのか分かりづらいのかよく分からない例えだが、目に見えて悪化するというのは病気としては相当マズい。
今朝も俺らの気づかない所で吐血をしていたそうだ。
「ユリンが助からないのなら、せめて近くに居てやりたい。そう思ってしまってさ」
「そうか、分かった。ただし」
「ただし?」
「この戦いが終わった後に考える。それでも遅くないはずだろ?」
《あ、今死亡フラグ建てましたね》
(うるせぇ、今真剣なシーンなんだよ!)
エレフトラはこくりと頷いた。
(いやー、それにしても思った以上にエレフトラはいい奴だな)
《だから最初に言ったじゃないですかー、エレフトラさんはおススメ物件で良い人だって》
(あれ、お前妹の事とか全部知ってたの?)
《えぇ、そりゃもう天才ですから》
このことを知っていれば、もう少しエレフトラに対しての接し方を変えられた気がするんだけどなぁ。
まぁ、本人が優しくするとかそういうのは望んでいないような感じだしまぁいいか。
「そういえば、もうそろそろブラウ家に向かった方が良い時間じゃないか?」
「そうだねぇ、そろそろ着替えるとしようか」
エレフトラがそう言ってクローゼットの扉を開いた。
中にマイがいた。
「ぅえええぇぇぇぇ、いい話ですねえぇぇー……」
「お前はいつのまにそこにいたんだよ!」
「とりあえず鼻をかみなさいな」
「ありがどおございまずうううぅぅー……」
ヂーンと鼻をかむマイ。
ちなみに、俺とエレフトラが二人きりになるのが心配になって、ついストーカー魂に火がついただけらしい。
何と迷惑なプロ根性だ。




