13.商談のような何か
「ここが例の金持ちの?」
「あぁ、そうさ」
「……おっきい建物」
「お前の自宅も似たようなもんだろ」
俺達は朝食後すぐにとある富豪の家へ向かった。
この街には前述の通り金持ちが結構いるが、基本的には我関せずだ。
しかしこの富豪は街にある程度の出資をしていて、街を取り仕切る一角みたいな存在らしい。
エレフトラと面識があり、ついでに彼女の妹のユリンが勝手に借金した先もここだそうだ。
借金についての話しもしたいだろうが、ここに来た目的は大侵攻について訴えかける事だ。
富豪の屋敷に近づくと、すぐに中から1人の男が出て来た。
やや白髪の混じった初老の男性だ。
執事っぽい服を着ているが、恐らく日本流に言うと黒服の男って奴だろう。
薄らと殺気が感じられる。
「これはこれはエレフトラ嬢、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだねぇ」
「ふむ、色々とご立派になったようで」
「こっちも帰ってきたらビックリしたさ。自宅がご立派になったんだからねぇ」
男がやや鋭い目つきになった。
借金について怒鳴り込みをかけに来たと思ったのだろうか。
「まぁ、今回は別の用件で来たさ」
「別の用件、ですと?」
「あぁ、情報を売りに……いや流しに来た。その件で旦那と会わせてはくれないかい?」
「ふぅむ、分かりました。少々お待ちを」
そそくさと中へ入って行く男性。
やがて、許可が出たという事で中に入る事に。
中にいたのは、よく言えば体格の良い中年男性。
それと執事が4人程。
メイドじゃないところを見るとそっち系の趣味……ではないので全員護衛だろう。背中に入れ墨とか入ってるんじゃないだろうな。
日本でこんなのに囲まれたら、間違いなく土下座してチビるところだ。
しかし、エレフトラは全く気後れする様子はない。
こういうところで育ったからこそ、根性座った性格になったんだろうか。
「お久しぶりです、ゴルヌ卿」
「どうも。おっきくなったねぇ、エレちゃん」
下から舐め回すように眺めるゴルヌ卿と呼ばれる人物。
そのやり取り二度目だぞ、セクハラ親父どもめ。
「それで、情報ってぇーのは何だよ」
「その前に、この情報はあんたがこの街で最初に知る情報だ。その意味を考えて欲しいねぇ」
「けっ、なんだよ勿体ぶって」
「大侵攻……って言葉知ってるかい?」
ゴルヌとか言う富豪がピクッと動く。
護衛の男たちの無表情も崩れた。
「大侵攻だぁ? ほんとかよそりゃ」
「本当だよ。フマウンじゃ今や大騒ぎで迎撃の準備をしているところさ」
「フマウン? じゃあ対象はフマウンじゃねぇのか?」
その言葉を聞いたエレフトラが、俺にくいくいっと指示を出した。
俺は持っていた地図をサッと机の上に広げる。
というか、俺への指示が「地図持って黙って立ってろ」としか言われてないんだが。
ドキドキが止まらない。
多分コレは恋ではないだろう。
「……この印のところが出現位置って訳か」
「あぁ、そうさ」
「情報は確かなんだろうな?」
「確かどころか、もう既に出現が始まっちまってるよ。早ければ今日の午後には来るかもしれないねぇ」
「うぅむ……」
「ま、その為に手練れの魔法使いを連れて来た訳さ」
男たちがこちらを見る。
いやぁ、恥ずかしいなぁ。手練れとか照れちゃうなぁ。
だからそんな殺気立った目でこっちを見ないでほしいなぁ。
出現ポイントは山の中だ。
地形だけ見ると、一見フマウンへ雪崩れ込みそうな地形をしている。
だが、地元民では有名な大きな抜け道があり、そこを通ればマーシュへモンスターが一斉にやってくる可能性もある。
ポートによると、既にモンスターが出現し始めているそうだ。
そして、モンスターの一部がこちらへ来るような動作を始めているらしい。
「さて、ここで1つ折り入っての相談があるのさ」
「……なんだよ」
「こちらには2枚のカードがある。1つは情報を売る権利。1つは、連れて来た魔法使いたちを私兵と言っていい権利さ」
私兵と言っていい権利? なんじゃそりゃ。
まぁ、とりあえず口は出さないでおこう。
というか、ピリピリしたムードなので口が出せない。
「後ろの2人は、そんなに強力な魔法使いなのか?」
「精霊使いと呪術使いさ」
「は? そんなチンケな奴ら連れて来たのか?」
「いーや、こいつらは惚れこむ程の実力者さ。回りの護衛を跪かせるぐらい簡単だよ?」
そう言うと、エレフトラは握り拳を作った。
そして、ピッと親指を上に立てた。
あぁ俺か。
精霊魔法で力を強化する魔法を、全力で護衛の全員にかける。
護衛が突然漲る力に困惑の表情を浮かべる。
エレフトラは、ニッと笑うとそのままグイッと親指を下に振った。
その瞬間、俺は精霊魔法を止めた。同時にライトベルが呪術をかける。
強化と弱体化で無理矢理大きな落差を作る。何度もやったコンビネーションだ。
護衛の男たちは、たまらず膝をついた。
キッと睨む目がいいね。
「まっ、ご覧の通りさ。2人はこれをザッと5000の対象に出来る実力者さ」
「ご、五千か……」
「それに剣士、槍士、弓に魔法使いもいるさ」
あれ、魔法使いいたっけ。
もしかしたらライトベルの応援の2人がそうなのかな。
どうやら客車で追い越してしまったようで、まだこの街には到着してないみたいだったけど。
「さて、どうするかい?」
「……要求は、言うまでもないな。5で、いや8でどうだ?」
「10に決まってるだろうに、利子も込みで頼むよ」
「はいはい分かった分かった、ダメ元で言ってみたいって性格なんでね」
「んじゃ、酒場の連中に話してくるさ」
「あぁ、頑張れよ」
……お、おう。会話が終了したのか。
全然内容が分からなかった。
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外に出てどっと疲れが出て来た。
だって中の空気があまりにピリピリしてるんだもん。
ちょっと深呼吸しよう。
「すまなかったねぇ。情報を勝手に金づるにしちゃって」
「いや、それは良いんだけど結局どうなったんだ?」
「……怖かった」
「あぁ、順を追って説明するさ」
ライトベルがそっと俺の腕に絡みついてきた。
こいつの場合、どさくさで抱きついてるのか、本当に怖がってるのか分かりづらい。
とりあえず今の会話の前提条件があったそうだ。
地図を見た時点で、マーシュからフマウンへ逃げる事は困難だ。
そりゃそうだ。フマウンへ大侵攻が行ってるんだからな。
一部がこっち来るってだけでも大騒ぎな訳だが。
それで、金持ち連中は私兵を繰り出して応戦!
街の皆で一致団結して守ろう!
とはならないらしい。まぁこの街にあんまり思い入れないって事なんだろう。
では彼らはどうするか。製鉄所の方へ逃げるそうだ。
製鉄所はマーシュから更に東南へ行った方角であり、一応ある程度の設備はある。
そうなると、金持ち連中はそっちへ逃げたい。しかし、そんな急な事なので十分な護衛なんていない。
そこで今回、ゴルヌ卿へ売った2つのカードが鍵となる。
まず、ゴルヌ卿は金持ち連中に情報を売る。
そしてこう切り出すのだ。
「私たちの私兵には優秀な魔法使いが複数いる。彼らが製鉄所への道を、大侵攻から守ってくれる」
だから金を俺達へ出せ。
そうすれば、製鉄所までの命は保障してやる。
金を出さずに製鉄所へ向かおうとすると、もしお前の客車にモンスターが向かったとしても守らねーぞと。
だから改めて言う。金を出せ。
こう言う事だったらしい。
「このカードを金持ち連中へ切れば、我が家に貸した借金の数倍の利益が出るはずさ」
「なるほど……」
「金持ち共のネットワークは早いからねぇ。午後には街中に情報が行きわたるさ」
まぁ、それまでにモンスターたちが来なければいいけどな。
「さて、これから酒場に行くよ」
「酒場?」
「この町は水が無い分酒はある。この街一番の酒場こそ、力持ちの集まりなのさ」
「水が無いなら酒も造れないんじゃ……まぁいいか」
「だが、治安が悪いから言う事聞くか怪しいんだよねぇ」
え、この街の中で更に治安が悪いの?
というか、こんな朝っぱらから酒飲みなんかいるんだろうか。
ゴルヌ卿が言っていた「頑張れ」という言葉が凄い気になる。




