7.はじめてのお宅訪問
その後、リアと食事を行った。
一杯だけ食べてから「実はクエストで悲惨なものを見たから、あまり食欲が湧いてない」と言ったら解放してくれた。
まぁ、事実だしね。生首だもんね。
それとドアの前で立って待たれてると怖いので、俺がいなくても部屋に入ってもいいよと言っておいた。
どうせ部屋の鍵は宿屋のマスターキーなんかがあるだろうし、正直部屋の前で待たれるより互いの精神衛生上いいだろう。
《完全に通い妻ですね!》
(ハーレムのチートも、個人差があるのか? ロントはなんかアッサリしてたし。まぁ全員が全員こうなるチートだったらやってられないが)
《そこまで強いチートでもないんですけどね。せいぜい大幅に好感度が上がるだけですよ》
まぁ好かれる事は嬉しくないわけない。
彼女も色々不器用なところがあるのだろう。
《かなり考え方が太っ腹ですね》
(まぁ、命に関わる事されなければ大丈夫さ)
《そう……ですね》
(おい、されてるのか? もう俺は命に関わるような事されてるのか!?》
ハーレムが増えたおかげで状態異常耐性を上昇させる魔法も強くなったから大丈夫です!
とよく分からない慰めを受けた。
さっきの食事にも、やっぱり何か入ってたんだな?
翌朝もいつもの通り水浴びをしに川へ向かうと、途中で耳に何かが聞こえた。
砂嵐に近いか? ザワザワと聞こえる。
耳障りではないが、ちょっと気になるな。
《この声が精霊さんの声です! 今はまだザワザワとしか聞こえないです》
(あぁ、なるほど。ハーレムが増えるとこれがちゃんと聞こえるようになるのか)
《そのとーりです! ここは自然に囲まれているので、精霊の声が強いんですね》
(そのうち町中でも聞こえたり見えたりするのか?)
《はい! ハーレムを増やす事でも聞こえるようになりますが、ユーハさんが精霊魔法を上達させるとそれでも聞こえるようになります》
というか、そっちが普通なんだよな。
精霊とやらと話せたり見えたりする日が来るのだろうか。
楽しみにしておこう。
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ギルドに到着すると、ロントがいた。
困ったようにクエストを眺めている。どうしたんだろう。
「ロントさん……じゃなくてロント。おはよう」
「あぁ、ユーハか。ちょっと困った事になってな」
「どうしたんだ?」
「パトロール禁止令が出た」
「へ?」
どうやらロントはそのマフィア的な組織に相変わらず目を付けられているらしい。
そんな中パトロールを、特に1人でやるのは危険。
しばらくは大人しくモンスター狩りをしていろ。ということらしい。
ごもっともな意見だ。
「モンスター退治も苦手ではないんだが、どれが良いか分からなくてな」
「なるほど……」
普段はずっと人を斬りたいからパトロールやってるんだろうしな。
正直俺も今のところパトロールしかやったことないし。
(ということで良いクエストないか?)
《うーん、妥当にゴブリン退治とかどうでしょう》
(人に形が近いしな。ゴブリンを殺せば悦に入れるならそれに越した事はないし)
と言う事で提案してみたら受け入れられた。
いざゴブリン退治へ。
ちなみにクエストを申し込むときに、昨日のマフィア討伐の功績として結構な額を貰えた。
これで女将さんにお金を返してもある程度手持ちが残る。
最近は下着とか旅に必要なものも結構そろってきたし、いい感じだ。
ゴブリン退治のクエストは、西の山の麓でよく見かけられる報告があるのでその周辺で探索を行う。
というか、モンスターと言ってもほとんど出てこないんだな。
この前ワイルドベアーと戦ったけど、それ以外モンスターらしいモンスターは見た記憶がない。
まだまだモンスターと言えどもただの野生動物とさほど変わりないのか。
ちょっと倒すのが可哀想な気もするが。
《あ! そこの道を進んで右にぐーっといってばーっとやると洞窟があるので、そこにゴブリンが4体いますね》
(全然言いたい事が分からんが分かった。行ってみよう)
「ロント、こっちだ」
「相手の場所が分かるのか?」
「ちょっと妖精の声を聞いたからな」
《優秀な! とかつけてくださいよ》
(はいはい、今度な)
というか妖精扱いはいいのか。
まぁいいか。
なんとなくポートの指示通りに従って歩いてみたら、本当にゴブリンが暮らしていた洞窟を見つけた。
あんな大雑把な説明なのによく分かったな。
《ワタクシが優秀なんですね!》
(俺の勘がいいだけかもしれんぞ)
《ぶー》
ちなみにゴブリンの討伐自体は凄いあっけないものだった。
ロントに気配を消す魔法を使い、俺が目立つようナイフを投げて牽制。
ほぼ危なげなく倒す事が出来た。
というか気配消す魔法が強すぎる。
ロントが強いというのもあるけどな。
これだけで魔王倒せるんじゃないか?
《そうでもないですよ。魔力が強いモンスターは効きが悪くなりますし、こういう魔法に強いモンスターもいます》
(へぇ、逆に言えばそれ以外のモンスターとかは十分通用するのか)
《だからと言ってこれで慢心してはいけませんね。いつ何が起きるか分かりませんし》
(まぁ、色々と修行しないとな)
ちなみにロント曰くゴブリンを斬ってもしっくり来なかったらしい。
うーん、残念。
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ゴブリンの討伐は、あの後周囲にモンスターがいないのがポートによって確認されたので切り上げた。
報酬はパトロールのボーナスなしより毛が生えた程度の額だった。
うーん、往復で結構歩いたの考えるとさほど美味しくないな。
ただし目的地にバーっと行ってサッと倒してバーっと帰ってきた為早い。
ロントがこんなに早くていいのか? と首を捻っていたが、まぁポートがこれ以上無駄だという事をやる気は俺は無い。
さて、これからどうしようか。
《あ、ユーハさん! ハーレム要員候補の女の子見つかりましたよ!》
(おぉ、どんな奴だ?)
《えっと、非常に強力な魔力を保有してる子ですね。年齢的は14歳です》
(……お前が紹介してくれるってからには、デメリットがありそうだな)
《そうですね、まず引きこもりです》
(引きこもりか、それぐらいは良いな)
《良いんですか? 旅をする上では微妙じゃないですか?》
(何だろう、俺もかつて似た生活してたからあんまり抵抗感ない)
《でも、旅をする上では邪魔な要素じゃないですか?》
(ぶっちゃけ殺人癖よりはマシだろ。で、まだあるのか?)
《はい。呪術師です》
(よし、会おう)
《早っ。何でそこで即決なんですか》
(呪いを使う奴に悪い奴はいねぇんだよ!)
《呪いを使ってる時点で悪い気がするんですが、まぁ乗り気なのは良い事ですね》
ちなみにこの世界での呪術師は、俺と真逆。つまり相手を弱体化させる魔法が得意なんだそうだ。
相性としては悪くないし、お近づきになっておいても損はないだろう。
何より、俺も前世は呪いを扱うチートを持っていた。
今はその力は無いが、ちょっと同志に会えると思うと胸が高まる。
(ちなみにその子の名前は?)
《ライトベルちゃんですね》
(ライトベルか。呪術を使うのに、妙に明るい名前だな)
何だろう、この世界に来て一番ワクワクしている。
俺、こんなに呪術師フェチだったんだろうか。
ライトベルとやらの家は、非常に大きな屋敷だった。
古びた洋館と言ったところだろうか。
建物の周囲は草が生え放題。
壁にヒビが入っているが放置。
いいね、この堕落感が引きこもりっぽい。
そして驚くべきことに、何とインターホンがある。
正確には魔力を使った別の装置なのだが、使い方はインターホンだろう。
カメラが無いが、十分すぎる。
ポチッと押すと、ピーと甲高い音が鳴った。
『……はい』
「あ、ライトベルさんですか? 魔法使いの見習いの者なんですが、少しお話をお聞かせ願えないかと思いまして……」
『……何の魔法使えるの?』
「精霊魔法です」
『……呪術との関係は水と油じゃない』
そうだったのか。
まぁ、確かに精霊魔法教えて欲しいって呪術師に言うのはおかしな話だな。
やっぱり無策じゃ厳しかったか。
《出直した方がいいですかね?》
(そうだな、だが何度も通いつめればワンチャンあるかもしれないし)
もう少し粘ってダメだったら出直そう。
なぁに、いつかは想いが伝わるさ。
『……やっぱり、入っていい』
「へ?」
『鍵は開けたから……』
あれ? なんだ? 急に素直になったな。
まぁいいや、とにかく中に入ろう。
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中もTHE・洋館と言ったところだった。
入口に巨大なエントランスホールがある。
部屋も大量にあるが、ほとんどドアが閉まっている。
(ライトベルはどこにいるんだ?)
《えっと、そこの階段を下りた所の部屋にいますよ』
(おぉ、こんなところに階段が。分かった)
地下室があるのか。
思ったより豪華なんだな、この屋敷も。
石で出来た階段を下り、ドアをノックする。
「あの、失礼しまーす」
「……ようこそ」
中には大量の器具や薬品等が所狭しと置かれていた。
実験道具だろうか。
そして、頭ボサボサにした魔女っ子が1人。
この世界に来て初めて見たな。俺と同じ黒髪は。
この子がライトベルだろう。
ライトベルは俺の事をじーっと見ていた。
足の先から頭のてっぺんまで。
何だろう、凄い恥ずかしい。
そして、一通り観察が終えると何故かうなづいていた。
「……ふーん」
「あ、あの」
「なんだか、呪いの匂いがする……」
「へ?」
「……これは空間が違う? 時代、いやもっと根本的な……」
「あ、あのー」
俺を放置して何かブツブツと言っている。
だが、何故だろう。全てを見透かされているような感覚だ。
「……時間が切られている? 4日から先……何か大きな力が……」
「あの、ライトベルさん?」
「……呼び捨てでいいよ、ユーハ。……いや、呪い仲間ならユハ?」
「ユハ?」
何故ユーハではなくユハ?
いやいや待て待て。ユハ、湯羽。
まさか、前世の名前か!?
「ユハ、貴方凄い面白い……」
「えーっと」
「女の子を籠絡する力……しかも女の子の数に比例して強くなる……まさに大いなる力」
チートの事まで分かるのか。
こいつ、何なんだ? どう考えても只者じゃないだろ。
(おい、ポート。これってどうなってるんだ?)
《さぁ、ワタクシにもさっぱり……》
(どう考えても強い魔法使いって次元じゃないだろう……)
ダメだ、頭が追いつかない。
とにかく、俺たちは何かやばいものと対峙していると考えよう。
「ここに来た理由……まぁ私か。籠絡して力の増強……確かに妥当」
「……何もかもお見通しなのか?」
「私に見通せるのはごくわずか……」
「何が極僅かだよ。何で前世の名前まで分かるんだよ」
「……さぁ、前世ってのは今知ったし」
くそっ墓穴掘ったか。
ダメだ、このままでは何が起きるか分からない。
「あー……一度帰る」
「そう……いつでも来ていいよ。ハーレムとやらに入ってもいいし」
「怖いっつーの。こっちから願い下げだ」
「……そう? 何でもあげるのに。私のファーストキスも……処女も」
「悪いな、重い女は間に合ってるんだ」
(帰るぞ、こんなところにいられるか)
《それにしても不思議な子ですねぇ。ワタクシもここまでとは知りませんでした》
(あんな痴女ちっくな引きこもりがいてたまるか)
《まぁ、あの子可愛いと思うんですけどね》
俺とポートが脳内で会話をしながら立ち去ろうとする。
その背後で、ライトベルは口を開いた。
「……可愛いって言ってくれて嬉しいよ」
「は? 俺はそんな事一言も……」
「……いや、言ってくれた。アナタが」
そう言いながら俺の顔をじっと見るライトベル。
いや、見ているのは俺の顔じゃない。頭?
《……ワタクシの事ですか?》
「そう、貴女の事……」
背筋がゾッとした。